挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
975/1152

番外224 二人の将軍

 会談の場所に顔を出すと、そこには既に君主であるガクスイと、配下の重鎮達がやってきていた。
 オウハクとキショウ。共に将軍格の武官でありながら、それぞれ意見の割れている重鎮達だ。

 風格と威厳のあるオウハクに対して、キショウは冷静そうな印象を受ける人物である。叩き上げとエリートという構図そのままに当てはまるようなイメージがあるが。さて。
 それに、重鎮の文官としてもう一人。
 この人物は……オウハクの話からするとガクスイの陣営では宰相のような役回りで、開戦すべきか停戦すべきかには中立的な立場から助言ができるよう努めているという話であった。物資の備蓄量を始めとした国内の状況に精通しているそうだ。自分の意見が偏らないように意識しつつ助言してくれるというスタンスを持った人物というのは、中々貴重な人材とも言えよう。

 動物組も同行ということで、ガクスイとオウハク以外の面々は若干面食らったようだが、すぐに気を取り直していた。まあ、あまり動揺しているようでは戦や政は務まらないとは言えるか。

「貴君がゲンライ殿とレイメイ大王の友人の助っ人か。お初にお目にかかる。キショウという」

 キショウはあまり表情を動かさずに一礼してくる。こちらも拳と掌を合わせて礼を返した。このへんは性格故にあまり感情を表に出さない人物、という印象だろうか。まあ、対立する意見を持っているわけだから、愛想良く振る舞う理由もないのかも知れないが。

 意見が対立している立場の相手への第一印象というのは……往々にして良くならないものだ。しかしそれは立場故のものであって、説得することで相手への印象等は変わったりするから、思考があまり物騒だったりしない限り問題はないはずだ。
 余程でない限り取り立ててすぐに知らせなくても良い、とはサトリには言ってあるから、まだキショウの内心はよく分からない。
 いずれにしても……説明は丁寧に行うべきだな。

「では、始めるとしようか」

 みんなが席についてお茶が用意される。そうしてガクスイのそんな言葉で会合が始まったのであった。

「まず、ホウシン殿との同盟の話は成立した。いかなる手段を用いても逆賊であるショウエンを誅せねばならない。そのためならば協力や作戦への呼応を惜しまないと、そのようにホウシン殿からの書状には記してある」

 その言葉に少し驚きの反応を見せたのはキショウだ。

「何と……。兵達等の動きや、伝え聞く将兵達の性格から考えれば、ホウシン殿やその家臣達は独力で事に当たろうとしているように私には見受けられたのですが。同盟の話を受けるとは、少し……いや、完全に予想外でした。何と申しますか。私の想像していた以上にホウシン殿は忠義の士、という事なのですかな。いや、しかし……書状の文面からすると、何か独力では打倒を成し得ないと判断するような、新しい情報を得た、という可能性がありますが――」

 ……なるほど。ホウシンやその陣営に対する見立ては正確なようだ。
 事実としてホウシンはショウエンを逆賊と位置付けて反発していたが、それは建前としての大義名分ではなく、本音の部分でそう言っていたところがある。
 独力で事にあたって討伐する事が前王朝に対する忠義の表し方であり、けじめだと思っていたのだろう。
 配下に武功を立てさせようとしていたのも、状況に応じて当然成すべきことを遂行しようとしていたに他ならない。

 そんなホウシンの心変わりを訝しみ、書状の文面から心変わりの理由を判断する。噂に聞いていた通り、優秀な人物であるのは間違いないようだが。

「確か、そなたは一旦ショウエンには大人しく従う姿勢を見せておき、ホウシンと潰し合わせて疲弊したところで改めてショウエンに当たればいい、とそう言っておったな」
「左様です。ショウエンがホウシンの陣営に攻撃を行えと言うのならば、言い訳が立つ程度に適当に小競り合いでも見せてやれば良い。かく言うオウハク殿は、見せかけでもショウエンに従う事は道理にそぐわず、停戦を受け入れればどんな無理難題を言われるか分からない、とそのように言っておいででしたな。同盟がならずとも呼応して我らも動けばショウエンからは二正面だとも」
「うむ」
「それはそれで正しいのでしょうが……我らが本格的に参戦することで、どちらにショウエンの主力が向くか分からない。私の主張した疲弊したところを攻撃するという作戦を、ホウシンの陣営が採用する可能性もありますからな。それは同盟が成っても同じこと、というのをお忘れなく」

 漁夫の利、という奴か。それはそれで確かに理に適っているのだろうが……しかし、オウハクの主張もまた道理だと思う。ショウエンを敵と見做しているのに面従腹背で手先として動き、後で裏切るというのは、些か外聞が悪い。
 何より、ショウエンは邪仙なのだから。停戦を受け入れたその後で、逆らえないように仙術を使った工作をしてくる、という可能性は非常に高い。

 とはいえ同盟が成ったからにはショウエンとの停戦という線は立ち消えだろう。キショウの物言いでも、後は同盟をどれだけ信用できるかという話にシフトしているように見える。
 ではホウシンはどうだろうかと考えた場合――少なくとも同盟を結んだからには義理を通す性格だと思う。カイ王子への即位への進言こそが信用に足る。自分が皇帝になろうとしているのであれば、あんな発言は出てこないからだ。

「ホウシン殿は同盟をと言ったからには尽力してくれる人物に見受けられましたが」

 と、そこでカイ王子が言った。一応、変装しているがゲンライ門下の高弟という扱いであったりする。

「ホウシン殿とは以前話をしたことがあるが、実直な人物だった。そこは同意見だ」

 それまで家臣達の意見に耳を傾けていたガクスイが言う。

「ホウシン殿の人柄については承知しました。しかし、私が今述べたような懸念もある、ということだけ記憶に留めておいていただければ幸いです。そのような兆候が見えた場合は、我らも消耗を少なくすることを考えるべきかと」
「……留意しておこう。しかしな。レイメイ殿やテオドール殿との援軍によって、色々と状況も変わってきているのだ」
「……と仰いますと?」
「そう。先程そなたが言った、ホウシン殿の考えが変化した理由に当たる部分であるかも知れぬな」

 そう言って、ガクスイはこちらに視線を向けてくる。そうだな。ここからショウエンの実際やこちらの保有している戦力について、色々と説明していこう。ホウシンのところでそうしたように、できるだけ丁寧に。



 というわけでショウエンが邪仙であること。空を飛んで宝貝を操る仙人相手には地上兵力を繰り出しても無駄な事等々を説明していく。
 ところが、だ。ショウエンが仙人であると聞かせて、戦力差等の話をしていると……サトリの付け毛の中に紛れ込ませていたカドケウスが自身の通信機に文字を入力して五感リンクで知らせてきてくれた。
 サトリが少し離れると聞き取れないぐらいの小声で呟く事で……カドケウスに色々と教えているのだ。それを、カドケウスが通信機に入力。俺が五感リンクで読み取るという寸法である。

 しかし、イレギュラーな事態だ。余程の目に余る思考を読み取ったということなのだろう。

『ショウエンがそのような仙人であるなら、あちらの陣営に付くが得策ではなかろうか?』
『そうだ。ゲンライとて逃げ帰ったのであれば、相当なのだろう。ゲンライの手で倒せるのなら諸侯に渡り等つけずに自分でやればいいのに、それができていないのだからな』
『ならば……こちらの軍備や作戦等々を知らせて信用を得れば良いのだ』
『ショウエンに上手く取り入れば……この私も仙人のように永遠不滅の秘術の恩恵に与ることもできよう』
『くく……。ゲンライでは逸話を聞くに、堅物すぎて話にならんだろうからな』

 といったキショウの思考の内容の数々……。サトリがこの場で注意を促してくるのも納得で、表情に出さないようにするのに少し苦労した。

 先程からキショウは義理や道理を脇に置いて、合理性を重視する傾向の話が多かったが……それは将軍や参謀としての冷静な見解からの注意喚起だった、と言えたかも知れない。しかしこれは一線を越えている。
 思うに、あれらの意見はキショウの性格をそのまま反映したものだ。対外的に義理や大義名分も大事だと言える処世術はあるようだが……内心ではそれらを何とも思っていない。
 合理的だとか向上心だとか言えば聞こえはいいのだろうが……自分のために周りを踏み台にすることや裏切りをも厭わない、というわけだ。

 なまじ頭が切れるばかりに、仲間にしておくのも厄介な手合いと言えるが……。さて、この男、どうしてくれようか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ