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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外222 王子の悩み

 そうして俺達はシリウス号を知るホウシンと、その側近達に見送られる形で湾岸部の都市を後にした。

「戦いが終わってからどうするか、か」

 カイ王子はホウシンに言われたことを気にしているのか、艦橋に戻ってからも思案を続けているようだ。
 この場合、単純な勲功を考えてもカイ王子の果たした役割は大きいと言えるだろう。各勢力との折衝も行った調整役であるのだから。混乱を治めるという意味では確かに、カイ王子が王朝を復興させるというのが一番の近道ではある。

 リン王女はやや心配そうな表情をゲンライに向ける。ゲンライはリン王女の言いたいことを分かっているというように、静かな微笑みを王女に向けてからカイ王子に言った。

「悩みや迷いがあるのなら何時でも相談に乗るぞ」
「ありがとうございます。……何と言いますか。為政者の負う重責というのは重いのだな、と、改めて考えて思っていたところです。私が皇帝として認められるのなら、という前提の話ではありますが」

 王や領主故の悩み。自分の行動が沢山のところに跳ね返ってくるからこそ、考えれば考える程責任は重い、か。俺としても他人事ではないが……俺の場合は、各国の王や貴族家の当主から問題が起こったら相談に乗ってくれる、なんて言ってくれたからな。そのあたりで、支えられている部分がある、ように思う。

「難しい問題じゃな。理想を追い過ぎれば現実の諸問題との乖離に頭を悩ませる。舵取りする者の気苦労は民衆に知られることも無い」

 ゲンライは渋面を作り、一旦言葉を切る。しかし、と、言葉を続ける。

「儂も長く生きとるから様々な者を見とるがな。お主は大丈夫ではないかな。お主は儂や仲間を信用し、問題があればその都度話し合ってここまで来たではないか。心の内に志を持ち、それと同じことを続けていけば……そうそう悪い方向には転ばぬよ」

 ああ、ゲンライの言葉には納得できる部分がある。

「丁度、ゲンライ殿が仰ったことと同じような内容を、僕自身に当てはめて考えていました」

 そう言うと、カイ王子の視線がこちらに向く。

「僕の場合は、領主になるまでに知り合った様々な人達が、問題が起こったら相談に乗る、と……そう言ってくれました。それで安心できたところはありますし、色んな立場の人達から意見を聞いて比較検討できる、と言うのは……最高ではなくてもその時々で最善の選択を選びやすくなるかなと思います。カイ殿下にもそういった方々がいるのでは?」

 俺がそう言うと、カイ王子は少し思案して頷いていた。

「ああ。私にも、あちこちを巡る間に、支えてくれた人達がいる。確かに、一人で悩んで思い詰めていては、ロクな結果にならない、か。何事もそうかも知れないな」

 そう言って小さく笑うカイ王子。

「まあ、確かにな。やってみりゃ何とかなるもんだ。儂のとこは村一つだったから単純な比較はできねえだろうが、話を聞ける仲間はいたからな。暴れ者の鬼にもできたって考えりゃ、気が楽にならねえか?」

 レイメイがにやりと笑う。ああ。レイメイも鬼の里のリーダーとして色々経験を積んできたわけだしな。

「私の村の問題も、村の住人や、ヘルヴォルテ、それにテオドール達と相談をして解決してきたわね」

 クラウディアが目を閉じて言った。
 俺達と出会う前の、村の運営における問題は、住民達とヘルヴォルテの間で相談して解決してきて……内部からではどうにもならない村自体の構造的な問題は俺達と出会って話をしてから解決した、ということになるわけだな。

「側近や部下にしても、色んな才能を持った人材を集めることは重要よね」
「できることが画一的だと、出せる答えも幅が狭くなってしまう、とはゲオルグも言っていたわねぇ」

 と、ローズマリーの言葉を受けてステファニアがしみじみと頷く。アシュレイも他人事ではないからか、真剣な表情でその言葉に頷いて口を開く。

「私もみんなと一緒に執務ができるので、そこまで思い悩まずに仕事を進められるところはあります。私一人だったら、というのはあまり考えたくないですね」
「いや。本当に参考になるな……」

 そんな風にカイ王子は目を瞬かせている。リン王女がそんな兄の様子ににっこりと微笑む。そうしてマルレーンやユラ、セラフィナとも、笑みを向けあっていた。

「後は適度に美味しい物を食べたり、訓練で体を動かしたり。綺麗な歌を聴いたりしてから、ぐっすり眠れば……心も深刻になり過ぎたりしない」

 と、グレイスの焼き菓子を摘まみながら、シーラが言う。そんなシーラの言葉に、グレイスとイルムヒルトがにっこりと微笑む。

「後はまあ……西の各国国王陛下とも知己がありますし、何か諸問題が起こればそれらの方々から意見も聞けるかなと」
「それはまた……心強い話だ。ありがとう」

 そう言うカイ王子の表情は、何となく吹っ切れたような、晴れやかなものになっていた。皇帝の座についた後の事を考えて、閉塞的で陰鬱なイメージが浮かんでしまうというのは、多分ショウエンが宮廷で色々と暗躍していたからだろうな。

 実際は……王や領主となっても日々は変わらず過ぎていくわけで。
 王であろうと領主であろうと肩の力を抜けるところは抜いて、当たり前の人としての生活を当たり前に過ごせるようにしておく、というのは、実は大事な事だと思う。
 つまりは、シーラの言った事は結構本質を突いている、というわけだ。まあ、権力を持っているだけに適度に自制する心構えは必須だとは思うけれど。

 いずれにしても……まずはショウエンの事を片付けてからの話ではあるが、ここでの会話がカイ王子にとっての息抜きであるとか……悩みを解決できるような何かになったのであれば良いのだが。



 艦橋で話をしながらも、シリウス号は西へと進み……やがてガクスイの治める中央部に戻ってくる。中央部ではあるが、今度は君主であるガクスイ直轄の都市だ。
 ホウシンとの同盟成立の旨を知らせ、したためてもらった書状をガクスイに渡さなければならない。
 その後、ガクスイは家臣らを集め、ホウシンとの同盟が成った事を周知する、という流れになるはずだ。

 停戦に応じるべきと言っていた陣営については、ショウエンに独力であたるには戦力不足という論拠を崩された形になるが……ここからどう出るか、というところだな。
 戦さになるのを極力避けるというのは確かに正しいのだが、それがショウエンを利するためであったり、ただの保身に大義名分をつけただけだったりすると正論を言っているだけに厄介だ。

「どうやら我は……誰かの使い魔という、ふりをすれば……問題なさそう、だ」

 と、サトリが言う。サトリとしては動物組に紛れるつもり満々らしい。まあ、確かに。
 ホウシンの所で動物組を紹介した時は他に目立つ面々がいたからな。コルリスやティールはいかにもインパクトが大きかっただろうし、リンドブルムやヴィンクルも、飛竜がいないこの国では十分に人目を引く。白い毛並みに冷気を纏っているラヴィーネや、ぼんやりとオーラを立ち上らせているアルファの精神体もこれまた目立つ。まあ……流石にベリウスは騒ぎになってしまいそうだが。

 ともあれ、ゲンライ自身がタクヒという霊鳥を連れているということもあり、俺達が動物組の同行をさせていても大きな問題はなさそうに思える。

「この国ではサトリ殿はその性質を知られていないようでござるからな。念のために特徴的な部分を技術で誤魔化せないか、試してみるでござるよ」

 イチエモンがそんな風に言った。どうやらサトリに特殊メイクを施すことにより、念のために他の魔物に見せかける、という策を考え着いたらしい。
 なるほど。それなら仮にサトリという妖怪を伝え聞いたことのある者がいたとしても色々と安心ではあるな。

 では、例によって都市部の近くにシリウス号を停泊させておけるような場所を探しつつ、報告に行く準備をするとしよう。
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