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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外221 王たる者は

「ん。内陸部が広いから海の幸は少ないかと思ってたけど、ここのところ充実していて嬉しい」

 と言うのはシーラの弁である。
 ホウシンとの会食で食卓に上る料理は、やはり湾岸部ということで魚介類が多めのようだ。いやまあ、香鶴楼で出された料理に関して言うなら交換品としてこちらが出した食材ではあるのだが。
 蒸した蟹や海老の入ったスープ、魚や貝をふんだんに使った料理の数々。米もあるので俺としては馴染みやすい部類の料理ではある。

 さてさて。ホウシンに呼ばれた会食の席であるが。動物組も同行して食事中だ。やはり家臣達からの注目を集めているようである。
 ホウシンの家臣達に挨拶をしたりしているが……何というのか、コルリスに関しては見様見真似で掌に拳を合わせるような仕草で頭を下げ、こちらの方式のお辞儀を早速披露していたりして。ティールもフリッパーでそれを真似して、家臣達を驚かせていた。つられて同じように挨拶を返すホウシンの家臣達である。

「ふうむ。随分と賢いのだな。西方の魔物というのはこうも人懐っこいものなのか?」

 と、ホウシンがその光景に苦笑する。
 作戦やシリウス号については会食の席では話題の中心に据えられないというもあり、自然と動物組に言及することになっているところもあるようだが。

「種族や個体によりけりだと思いますよ。やはり凶暴な魔物もいますからね。それに使い魔となった魔物は主人の影響を受けたり、人の社会を学習する機会も多いですから」
「なるほどな。使い魔、か。やや特別、ということなら納得もできるか」

 ホウシンはそう言って頷く。
 家臣達は……まあ、内心では同盟締結に関してそれまでとは方針が変わったから、意見がない、というわけでもないのだろうが、少なくともそれをこういう席で表に見せないぐらいには理性的であるようで。
 ゲンライやレイメイに昔話について質問したり、西方の魔術師に関して聞いてきたりと、割とこちらに対する理解を深めようとしたり、親睦を図ろうとしている部分はあるようだ。
 動物組に紛れてサトリも一緒にいるが、特に問題がある人物がいる、というような合図は送ってはこないしな。

「西方における道士や仙人が魔術師という位置付け、ですか。テオドール殿もやはり、秘境に篭って修行なさったりしたのですかな?」
「最初は、力が必要という思いに駆られて独学から始まったところがありますが……。ヴェルドガル王国にある迷宮を利用して修行した、という部分もありますね」

 と、無難な答えを返しておく。俺が魔法を身に付けた本当の経緯については、色々説明できない部分が多すぎる。
 本当の意味での最初……というのなら、並行世界での出来事になってしまうか。
 やはり独学で魔法の勉強を始めて、その後にシルヴァトリアにて本格的に修行をした、という形……である。
 そう。並行世界の記憶も流れ込んできたので「向こう側」の事も覚えているのだが。

 向こうでは母さんの残した遺産を探して、シルヴァトリアからジルボルト侯爵の手の者がやってきて……そうして実子である俺が目を付けられ、シルヴァトリアに連れ去られた、というわけだ。
 そうしてシルヴァトリアの王太子であったザディアスに、エリオットと同じように精神操作の宝石を付けられ、魔力循環の復古であるとか数々の戦闘用の術式の習得、各種の魔力操作法からなる現象の検証と新たな術の開発であるとかに従事したわけだが……魔力循環を復活させた事で精神操作の魔道具が無効化できてしまった、というのは、ザディアスにとっては大誤算だっただろう。

 俺はそうして正気に戻ったわけだが、まあ……冷静になって周囲を見てみれば魔法を学ぶ環境としては最高だ。そのまま精神操作されている振りをしつつ、まんまと環境を利用して魔法の修行をさせてもらう事で力を蓄え――その裏でエリオットの精神操作を解除して一緒に操られている振りをしたり、呪いを受けていたテフラを開放、ジルボルト侯爵らも仲間に引き込んだりして、足場固めをしていった。

 後でエリオットやジルボルト侯爵と共に、その事を教えてやった時のザディアスの愕然とした表情は……まあ、今の俺が思い出しても中々笑えるものではあったが。

 とはいえ、そんな本当の経緯は当然、余人に話せるものではない。いずれにしても独学から始まり、迷宮で更に修行を積んだ、というのも嘘というわけではない、ということで。



 そうして会食が終わったところで……ホウシンは少し内密に話したいことがある、と家臣達の人払いを行った。
 ホウシンが話をしたかった相手、というのはカイ王子のようだ。改めてイチエモンの特殊メイクで見た目を変えているカイ王子に、ホウシンが言う。

「作戦の程は承知しましたが……カイ殿下とはもう少し話をしておきたかったのです」
「何でしょうか?」
「まだ些か気が早いのでしょうが、この戦いが終わってから、のことです。カイ殿下は何も仰らないし、表舞台に立たずに動こうとなさっている御様子。殿下には再び王朝を復興なさるおつもりはないのですか?」
「それは……」

 ホウシンの問いに、カイ王子は少し表情を曇らせる。少しの沈黙の後に、カイ王子が言った。

「そもそも……ショウエンの跳梁を許してしまったのは前王朝です。であれば誰もが皇帝を名乗る正当性を失ってしまっている。そんな中で帝位を得るべきは……民を慈しむ仁徳を備え、強く賢き者であるべきだと思うのです。そうでなければ徒に混乱は長引くばかりで……誰からも正当なる皇帝や王であるとは認めらないのではないでしょうか? 私は……私自身がそのような人物であるとは思っておりませんよ」

 そんな風にカイ王子は口にする。ホウシンはその言葉を受け、どこか嬉しそうに口元に穏やかな笑みを浮かべ、そして言った。

「殿下は王たる者に対する理想、というのが高くていらっしゃる。文武には確かに求められる最低限の水準というものはありましょうが……必ずしもが王がそれらに関して誰よりも優れていなければならない、とは私は思いませんぞ。周りの者が力を貸したいと思う、そんな人徳を備え、道を違えぬ志を胸に秘めている事こそが、王としての才覚でありましょう」

 ホウシンの言葉に、ゲンライが同意するように目を閉じる。カイ王子は、その言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けている様子だった。リン王女もそんな兄の様子に真剣な表情を向けて話を聞いている。
 王は……確かに、な。家臣が専門の分野で支えてやれば文武は補えるし、その家臣達に間違いがあった時に自身の考えや良心に従って軌道修正する、ぐらいの役割でも良いはずだ。そのために必要なのはホウシンの言うように人徳……つまり家臣や領民から慕われている事、だろうか。
 ホウシンは、カイ王子の傷だらけの手に一瞬視線を落とし、それから言葉を続ける。

「今日に至るまで、私心なくショウエンを打倒するための道筋を築いてきたのでしょう。殿下の行いは、沢山の人々の力を集め、今こうして実を結ばんとしている。それこそが王たる者の振る舞いではないかと、私はそう思うのですよ。他の諸侯の見解は分かりませんし、今すぐに結論を出さねばならぬことでもありませんが、混乱を一日でも早く治めたいと、そう殿下がお考えになるならば……殿下にしか選べない道もあるのではないでしょうか?」

 そうだな。ゲンライと共に修行をし、あちこちに赴いて説得をして。
 こうして俺達が作戦の補強や後押しできるのもカイ王子とゲンライがそれまでやってきた事を受けてのものだ。
 ゲンライは、カイ王子を協力者だと言った。師としてカイ王子への修行をつけてはいるが、ショウエン打倒の為の策は、カイ王子の発案や説得によるところも色々とあるそうで、師弟関係を除けば二人は対等なのだ。

 だから……この国の混乱を治めるためにリーダーと仰ぐ人物が必要であるとして、みんなが納得できる者がいるのだとしたら、それは道理的にも実際の行いから見ても、カイ王子以外にはいないのではないだろうか。

 カイ王子は、ホウシンの言葉を受けて暫く思案していたようだが、やがて一礼して答える。

「ホウシン殿程の方からそこまで言っていただけるのは光栄です。もう少し……今仰られた事について、深く考えてみようと思います」
「ふむ。差し出がましい事を口にしました」

 そう言ってホウシンも相好を崩し、一礼するのであった。
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