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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外219 義理と矜持

「他に何か、意見のある者は?」

 軍師が居並ぶ家臣一同を見回して問う。視線を向けられた将軍が答えた。

「これ以上は……我らからは何もありませぬ。ただ――」
「ただ?」
「いえ、判断すべきこととは関係がなく、術に関しては専門外でもあるので的外れかも知れませんが……あれほどの妙技。尋常ならざる研鑽があっての物でしょう。その一点に関しては武に携わる者として、尊敬と畏敬の念を禁じえません」

 将軍の言葉に武官達も目を閉じて居住まいを正す。主張すべきことはした、とばかりにそのまま彼らは口を閉じ、ホウシンの言葉を待つことにしたらしい。
 余所者である俺達をどこまで信用できるのかという方向でロジックを展開してくることも予想していたが……。

 元々同盟を説いていた文官達も自分達の意見は既に述べているということだろう。静かに頷いて彼らの君主に視線を送る。
 ホウシンは目を閉じたまま、口を開く。

「私は……この同盟を最初、断るつもりでいた。義理というものがある。私は、亡き恵帝陛下に助けられた大恩ある身。不遜なる簒奪者を我が剣にて裁かねばならない。そして今日まで私を支えてきてくれた家臣達に報いるために武功を与える責務があろう。私の成すべきことはそれだと。そう信じた」

 恵帝、というのはカイ王子達の祖父の、死後の尊称――贈り名だ。贈り名というのは……生前の行いや人柄に対応してつけられることが多いらしい。
 具体的に恵帝とホウシンの間でどんなことがあったのかは分からないが、恵みを意味する文字が贈り名となるのなら、カイ王子達の祖父にあたる皇帝の誠実さも窺える、というものだろう。
 ホウシンはそこまで言葉を続けると、顔を上げて目を開く。

「だが、それは適わぬ、か。ショウエンらには我らだけでは力が及ばぬというのが事実であるとするならば、私は……我らは、これまでとは考え方を変えねばなるまい」
「ホウシン様……」

 武官達も文官達も、主君の気持ちを慮ってか瞑目する。ホウシンは立ち上がると拳と掌を合わせ、決然とした表情で言った。

「同盟の話、お受けする。成さねばならないことを見失うつもりもない。我らには力届かぬ、逆賊を誅する策があるというのならば、喜んで協力させてもらう。皆の者も、それで良いな?」

 そう言ってホウシンは居並ぶ顔を見回す。家臣達に意見を求める形ではある。しかし主君として有無を言わせぬといった物言いであった。

「はっ、仰せのままに!」

 軍師、武官、文官が揃って跪いて答える。
 そうして今後についての事が決まってしまえば即座に対応して動き出す、とばかりにホウシンからの命令を受け、軍師、将軍とリトウを除いた武官と文官達が立ち上がり、部屋を出て行った。他の家臣達への通達をしに行く、とのことである。
 亡き皇帝への恩義と、忠節を尽くしてくれた家臣達への恩賞か。それは確かに……可能であるなら独力で事を成したい、と思う事、なのかも知れない。
 俺とて新米ではあるが領主だ。ホウシンの考え方や義理の通し方というのは、軽んじてはならない部分だろう。

「……こういう形で協力していただいたからには、必ずやショウエンの打倒を果たすために全力を尽くすと、約束致します」

 そう言うとホウシンは少し目を細めて小さく笑った。

「私こそ。こうして明言したからには二言はない」

 と、ホウシンが言う。矜持や義理を重視するというのなら、裏切りもないとそう言えるのかも知れない。
 ここから具体的に立案した作戦を伝えたりといった話になるのだろうが、その前に伝えておかなければならないことがある。

「ホウシン殿に、合わせたい人物がおってな。繊細な問題故、伝えるのが遅れたことは申し訳なく思っておるが」

 と、ゲンライが言う。変装したカイ王子が一歩前に出て、特殊メイクを剥がし、薬液のついた布で拭う。
 そうして変装を解いた姿を見て、ホウシンの目が見開かれる。カイ王子とホウシンは面識がない、という話であったが。
 そうでなくても年数が経過していて、カイ王子も成長しているわけだし。

「まさか……カイ殿下であらせられるか! 生き延びておいでと風聞としては聞いておりましたが、本当の事だったとは!」

 と、その反応に軍師達も驚き、名乗る前に言い当てられたカイ王子も些か戸惑った様子を見せる。

「ホウシン殿と顔を合わせるのは初めてのはずですが」

 カイ王子が目を瞬かせると、ホウシンは笑う。

「恵帝陛下の面影を残しておられる。他の者ならいざ知らず、この私が見間違えるはずがありましょうか。いやしかし、その変装を見破れなかったのは不覚ではありましたが」
「変装を施した者は特徴を消す技法だと」
「なるほど……。素晴らしい人材が近くにいらっしゃるようですな」

 というホウシンの評価に、イチエモンは名乗り出ないまでも静かに目を閉じていた。

「私は……父と共に、ショウエンから亡き者にされそうになり、そこを妹と共にゲンライ師父に救っていただいたのです。以来、妹と共に師父の下に身を寄せ修行をしながら各地を巡り、ショウエンを倒す策を練っていたのです」
「そう、そうだったのですか。あの逆賊め。簒奪ばかりでなく、恐れ多くも暗殺まで実行していたとは……!」

 ホウシンは表情を歪めて言った。それから気を取り直すようにかぶりを振る。

「祖父との間に、一体何があったのです?」
「ずっと昔……私が幼子の頃の話になりますが、この地方で大雨による洪水の被害が起き、その後に熱病が流行った折……恵帝陛下が視察にお出で下さったのです。恵帝陛下は洪水の惨禍に対し国庫より出費を行い、当面の税の免除もして下さった。宝物庫から貴重な秘宝を持ち出し、それを用いて私や土地の子供らの病魔を退けて下さったのですよ」

 秘宝であるが貴重、か。病気の治療に使えるが消耗される品でもある、ということだろう。

「あの熱病は子供に時に致命的になるからと、大人達や軽症の者にまでは使えないまでも、症状の重くなった我らのために使って下さった。本来それは天子のために使われるべき秘宝とされていた品でしてな。持ち出した事を秘密にするようにと、笑いながら念を押されたものです。それさえなければ、声高に恩義を口にし、もっと早い段階で殿下にも頼っていただけた……やも知れませんな。私は武闘派として通しておりましたから、慎重に対応なされた殿下のお気持ちも分かりますが」

 と、苦笑するホウシン。ホウシンは自他共に認める武闘派、というだけあって、領民には慕われるが敵と見做した相手に対しては苛烈という人物評だ。例えば、山賊の類は徹底して山狩りを行ったりだとか、治安維持に余念がない。
 しかしなるほど……。カイ王子の祖父が命の恩人だったと。

「ですが、そういう事であれば、尚の事。恵帝陛下への恩を返すため、そして暗殺された陛下達の無念を晴らすために、いかなる協力も惜しみますまい。ゲンライ殿にも改めて礼を申し上げます」

 ホウシンの言葉に、静かに頷くゲンライ。

「中々……難しいものじゃな。こんなことならば裏を読まずに腹を割って話ができればもっと手っ取り早かった、とも思うのじゃが」
「この情勢でカイ殿下とリン殿下が存命となれば、様々な危険が予想されましょう。確実な味方となるまで明かせない、というのは、私が同じ立場だったとしても同じようにしたかと。ましてや、相手方が邪仙となれば……口で威勢の良いことを言っていても怖気づいてしまう可能性とてありますからな。交渉にはさぞやご苦労なされたのではありませんか?」

 ホウシンが言うと、今度はゲンライが苦笑する。
 確かに、な。蓋を開けてみるまで分からないという部分があるから、どうしても交渉事に臨むのなら手札を伏せ、慎重に話を進めていかなければならないところがある。
 いずれにしても、味方になった各勢力とは上手く連携して作戦を進めていきたいところだな。
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