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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外209 仙人と鬼と

 俺達とレイメイがここに来た理由等々を話すにしても、巻物の事が切り離せない。
 レイメイが人払いをして話せる場所はないかと尋ねると、香鶴楼の上階にある客室に通され、そこで話の続きをすることになった。
 防音の魔法を部屋内に施してから話を進める。

「まずは――自己紹介でしょうか。僕の名はテオドールと申します。西方にあるヴェルドガル王国から参りました」

 シーラとイチエモンもそれに続いて、簡単に自己紹介をする。

「西方の王国に、ヒタカノクニの御仁か……。テオドール殿については、コウギョクから話を聞いて、儂はてっきりレイメイの曾孫あたりかと予想したのじゃがな。こう……仙気とも少しまた違う、研ぎ澄まされた魔力を纏っておるが……。うむむ。世界は広い」
「まあ、儂の眷属も同行してきてはいるがな」

 そう言って目を閉じ、腕組みして頷くゲンライと、驚いている親友を見るのが楽しいのか、機嫌が良さそうに肩を震わせるレイメイである。

「ヴェルドガル王国がこの一件に関わることになった経緯についても話して良いでしょうか?」

 そう言うとゲンライは頷く。
 というわけで、獣魔の森に隣接する獣人の国……エインフェウス王国と、ヴェルドガル王国との間で起こった事件について話をして聞かせる。
 イグナード王やその養女のオルディアの護衛としてエインフェウス王国への帰還に付き添い、仙術を操るベルクフリッツを倒したこと。
 ベルクフリッツが巻物を所有していたことや奴が巻物を所有していた経緯――。

「……食ろうて対象の力を得る、か。本来は正しいものを食したりと、生活と修行の全てを以って自らの体内にて丹を練るという、神仙を目指すための過程で生まれた術。分かりやすい力を得るための外法として応用した、ということであろうな。そして……あやつは帰らぬ、か。力を貸した親切心が仇になろうとはのう……」

 ゲンライにしてみれば、巻物の片割れを預けて西に向かわせた、弟子の訃報を意味する内容でもある。少し遠くを見るような目をしていたが、やがてかぶりを振って俺に視線を合わせる。

「弟子については……気の毒だったな」
「……心中、お察しします」
「……すまぬな。じゃが、今は話の続きを頼む。事が事であるからな」

 そうだな。巻物の話が絡んでくるとなれば、経緯を最後まで聞かなければならないのだろう。

「ともかくベルクフリッツから引き出した情報により、巻物に関してはエインフェウス王国の獣魔の森より、更なる東から齎された、という事が分かりました」

 そして俺達は、もう一方の片割れの所在が、ヒタカにある仙人の友人の手にある事も把握することになる。
 巻物がヴェルドガル王国やエインフェウス王国にあって、後々それを探しに暴君の手の者が来ないか。災いを招かないかと危惧を抱き、調査を行うことにした、というわけだ。

「そうして――まずはこの国ではなく、政情が落ち着いていそうなヒタカノクニを目指しました」

 今度はヒタカに到着してからのあれこれを話す。アヤツジ兄妹に絡んだ騒動と、妖怪達との出会い。……そうしてレイメイと出会い、巻物の片割れ二つを用いて探知の術を使い、ゲンライを探しに来た、というわけだ。

「なるほどな。心配をかけさせてしまった、というわけじゃな。儂の不手際であちこちに迷惑をかけてしまった」
「いえ。僕の事はお気になさらず。ベルクフリッツ自身も、仙術が無ければないで、別の方向から執念で頭角や野心を現していたと思いますし」

 それでもイグナード王やイングウェイには届かなかっただろうけれど。

「ま、俺はお前がそう簡単に捕まるとも思っちゃいなかったが。最初から事情を話してくれれば、いくらでも手伝ったんだがな」
「……言えんよ。伴侶と共に生きる事を選んだそなたには守るものも多かろう。儂は、そなたが神仙の道を選ばぬと知った時、確かに残念にも思ったが同時に尊敬の念も抱いた。仙人が長命を望むのは正しき道を選ぶ機会を増やすため。しかしレイメイ。そなたは既に自らの歩むべき正しき道を見つけて、迷いなくそこを進んでおる」
「そうかい」
「うむ」

 そう言って2人は静かに目を閉じていた。少しの間を置いてから真剣な表情で顔を上げるゲンライ。
 視線が合う。俺も頷いて話を続ける。

「僕が預かっている巻物の片割れに関しては、正式に預かったものではありません。返却をお望みであればそうしますし、複数を同じ所に集めておく危険があるのなら、こちらとしても現状維持のための協力は惜しみません。巻物の内容が危険なものであれば、西方としても他人事ではいられませんから」

 それに加え、都市の近くにヴェルドガル王国からの仲間や、ヒタカの妖怪達、レイメイの眷属を待たせおり、そこで巻物を守っている事も伝えておく。

「それは――。正直な話をするのならこちらとしてはそのまま預かってもらえるのは助かるが……。しかし、ここまで巻き込んでおいて、巻物に関わる懸念を払拭しない、というのも筋が通らぬじゃろうな。内容――正体について話さないというわけにもいかぬ、か」

 ゲンライは思案しているようだが、レイメイに視線を向ける。それを受け、レイメイは静かに頷いた。

「巻物の危険性やら無関係な相手を巻き込むやらで、色々お前は思うところはあるんだろうがな。儂の見立てを言わせてもらうなら、テオドール達は信用できると思うぞ。その、なんだ。最高位の精霊からも相当な信頼を寄せられているようだったしな」

 ティエーラ達の事を思い出したのかレイメイは曖昧に笑い、ゲンライは目を瞬かせる。

「ヒタカの都に情報が伝わる事を懸念しているのであれば、拙者は席を外すでござるよ。隣国の隠密が同席しては、些か問題もあるでござろう」
「……いや、ヒタカノクニの帝についてはある程度の噂や性質を聞いておるよ。かの帝ならば、この一件で野心を抱く、ということもないじゃろう。義によって助太刀に来てくれた者を疑うような真似もしたくない」

 イチエモンが立ち上がろうとするのを手で制し、ゲンライは静かに語る。

「あの巻物は――儂の師より受け継いだものでな。元よりこうした有事において分割できるように作られた代物なのじゃ。あれは――墓所の封印を行うための術式そのものでな」
「墓所――?」

 シーラが首を傾げる。

「遺跡と呼んでも良い。この国の神話からの話になってしまうのじゃがな」

 そう言ってゲンライは、神話にまつわる話を聞かせてくれた。

「かつてこの土地を統一し、治世を敷いた伝説の聖君がおる。その聖君と最後までしのぎを削った、また別の王がおってな。この者は特に武器や道具を作る事に長けておってな。今でも軍神と崇める者もおる。宝貝というものを知っておるかな? あれらはこの王の手による技術や、術式の流れを汲むものが多い。そして、それは伝説や神話などではない。全て事実に基づく」
「まさか、墓所というのは……」

 話の流れからすると、嫌なものを感じる。話の比重からして、聖君に関する代物ではあるまい。

「左様。墓所とは名ばかりでな。言ってしまえば始原の宝貝を封印した土地じゃよ。はっきり言えば、これが野心家の手に渡ればかつてない災厄を招こう」

 古代の魔道具……始原の宝貝か。

「巻物やその封印されている物品自体を破棄してしまうというのは……性質や維持や管理の面を考えると難しい、というところでござるか」
「現存しているということは……破棄は難しかったのでしょうね。封印そのものを強固なものとするために、解く手段を敢えて用意するという形式の術かも知れませんし……或いは内部にあるものの性質に合わせた専用の術式かも知れません」
「いずれも、当たっておる。術式を継承しなければやがて封印も破綻してしまうじゃろう」
「その宝貝を使って暴君に対抗しちまおうってのは……まあ、難しいか」
「流石にそれは危険すぎるのう」

 ゲンライがレイメイの過激な案に苦笑する。
 どんな代物が収められているのか知らないが、制御が難しいのか、及ぼす範囲が広すぎるのか。危険度が高い程ハイリスクハイリターンになってしまうような有様では、流石に運用するというのはな。引っ張り出さずに解決できるならその方が良い。
 或いはそういう直接的な代物ではないのか。いずれにしても秘匿して、世に出してはならない類の品であることは間違いないのだろうが。

「しかし問題は、その遺跡自体が発見されてしまったことでな。あの土地は今、敵の手に抑えられておる。その事態を受けて儂は巻物を分割して東西に散らし、あの暴君そのものをどうにかしようと、協力者と共にあちこち手を打っておった、というわけじゃな」
「……なるほど。そういうわけですか」

 封印の遺跡自体はそこにあるわけだから。野心家に見つけられてしまったのならそれは如何ともしがたい。封印が解かれないように次善の策を講じて、続いて野心家を打倒する策を練る、というわけだ。

「その者に巻物の事はまだ伝えてはおらぬのじゃが……。そなたたちに紹介したい人物がおる。巻物以外の現状等々もその時に話そう」
「先ほど仰っていた、協力者、ですか?」
「うむ。協力者というか、保護してからは直弟子ではあるのだがな。その者も、この香鶴楼に滞在しておるよ」

 直弟子にして協力者。香鶴楼に滞在して暗躍中となると――自ずとその候補も絞られてくる、か?
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