挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

957/1237

番外206 城郭都市と楼閣と

 一緒に潜入した面々と共に、城郭都市の街並みを歩く。
 門や物見の楼閣等、建築様式や街の作りなど……ヒタカの都に近い部分もある。やや武骨な印象があるのはヒタカの都のように壮麗さを前面に出しているわけではなく、実戦を想定しているからだろう。
 民間の軒先や街の人間の服装、兵士の装備等々も相まって、様式に共通する部分もあるのに、最終的には随分と雰囲気が変わるものだ。

 夜であるためにあまり人通りは多くないが……腕っぷしに自信のありそうな者達が酒家で騒いでいたり、兵士達も目についたりと、荒事に向いていそうな者が多く目に付くあたり、この国が戦乱の時代というのが伺える。
 とはいえ、雰囲気はそう暗くもなく、普通の町人も歩いているようで、秩序は保たれているようだ。このあたりまでは戦火も及んでいない、ということだろうか。

「ふむ。武芸者風の格好をしてきて正解だったな」
「余所者でも、戦で名を上げようと思って流れてきた、と言えば誤魔化しやすいでござるからな」
「格好が小奇麗だと言われたら、使い古した道着では見栄えが悪いから仕官の口を求める前に新調した、とでも言っておきましょうか」
「ん、了解」

 状況を見て分析、みんなと適当に口裏を合わせるための話をしながら街を行く。試しに腕前を見せろ、と言われても全員対応できる顔触れだから、まあボロも出ないだろう。
 さて。目指すは光の交差地点だ。方角を見ながら進んでいくと――やがて大通りに出る。そこから更に少し歩いて、広場に出た。
 大通りを真っ直ぐ進めば太守のいるであろう城。俺達の目指している場所はそこではなく、広場に面した建物の中のようだ。

「あの建物、ですね」

 近くで見上げているといかにも目立ってしまうので広場の逆側に立ち、あまり視線を向けないようにして言う。

「香鶴楼……か」

 小規模ではあるが、立派な作りの楼閣と言った感じの建物だ。軒先に金字の看板が掲げられていて、それをレイメイが視界の端に引っ掛けるようにして読み上げてくれた。

「今は閉まっているようですが」

 遅い時間だからか一階の明かりは落とされていて、準備中のように見える。二階、三階の窓にぽつりぽつりと明かりは灯っているのは見えるが……今訪問するのは不審感を招いてしまうだろう。
 場所を確認したところで、不審にならないように街並みをゆったりとした足取りで移動する。

「あれはどういった店なのでござるか?」
「色んな料理の残り香はある」

 イチエモンの言葉にシーラが目を閉じて言う。

「この手の店は食事だけじゃなく、宿や酒場が混ざっている場合もあるな。ここは大通りに面してるし、格式も高い正統派の大店ってところか」

 と、レイメイが見解を述べる。

「宴会や会合が開けそうな場所でもありますね。状況から鑑みると……店が開いている時間帯に巻物が店内にあった、というのは間違いないのでは?」
「ふうむ……」

 俺がそう言うとレイメイは難しい顔をして腕組みをする。

「ここからの情報収集が肝要なのは間違いないでござろうな。状況が分からない以上、正面から乗り込んで話を聞いても藪蛇、ということも有り得るでござる」
「まあ。それはそれで状況を動かすには一つの手なのかも知れねえが……最初に取る手段ではねえな」
「ん。このお店が宿屋でもあるなら、巻物を持つ者が滞在している可能性もある。けど……それが敵か味方かも不明。強硬手段はまだ控えるべき」

 そうだな。政情等の他に、この店とその客に関する情報を集める必要がある。巻物を持っている者が敵か味方か分からない状態では、こちらの正体を明かしても危険を感じられたら逃げられてしまう可能性もあるわけだし。
 何か行動を起こすにしても、店から逃げる者などを察知できるよう、監視体制を万端整えてから動くというのが良いのだろうが、相手は相手の事情で動いている。仕込みに時間がかかって気がついた時には俺達の動きとは関係なく、巻物を持って別の場所に行かれてしまった、なんて事が起こったら本末転倒だ。
 そうなると最悪の場合、また次の満月まで手がかりがない、なんてことも有り得る。それを考えると、できるだけ迅速に行動する方が正しいのかも知れない。

「この近辺で宿を取って、店が開いたらあの店に食事にでも行きますか。カドケウスを潜入させて、間取りや出入りする人間を確認しておく、として」

 仙人の現在の容貌、名前がはっきりしないというのもネックだ。というのも、レイメイと件の人物は定期的な手紙でのやり取りはあったものの、仙人自身は修行のために秘境に篭ってしまったので、かなりの時間顔を合わせていない、というのがある。
 追われて逃げているのなら、偽名を使うだろうし。となると……。

「――仙人の名を出すより、レイメイさんの名を出して、それを知る者の興味をこちらに向ける方が良い、かも知れませんね。敵が鬼の里付近まで来た事を考えると、それもほんの少し慎重になる必要がありますが」
「いや……。そいつは悪くねえ手だな。あいつが知っている事なら、必ずしも俺の名を出さずとも良いわけだろう?」
「例えば、レイメイさんと仙人本人しか知りえないような話を吹聴する、といった手でござるか?」
「ん。それは妙案」
「そういうこった。それなら敵が聞いても角も立たないし、あいつがその話を耳にすりゃ食いついてくる」

 そう言って笑うレイメイ。そうだな。相手が潜伏や工作等々で慎重に行動しているなら、入ってくる情報には敏感になっているだろうし。
 敵を刺激しないので事態が悪い方向に転ぶことも無く、行動までの時間もかからない。
 シーラから見てもイチエモンから見ても穴が無いとなれば、現状で考え得る中では最良の手かも知れない。

 それと並行して通常の情報収集を丁寧且つ不審にならないように行う。……よし。これで状況から見ての方針は固まった、と言えるだろう。

「それじゃあ、近くで宿を取りますか。香鶴楼が見える場所が良いでしょう。そこで、どういった話をどういう形で切り出すか、といった相談でもしましょうか」

 と言いつつ、同行している面々に話しかけているようなふりをしながら、シーカーを通してシリウス号のみんなにも状況報告を行う。

「こちらは結界の展開等々、問題ありません」
「交代で見張りを残して仮眠を取る事になったわ」

 バロールに笑顔を向けてあちらの状況を教えてくれるアシュレイとステファニア、それからその隣でにこにこしているマルレーンの姿が見えた。うむ。
 巻物の片割れを直接持ち込むのもそれなりに危険が予想される。隠蔽結界で探知系の術からも遮断しつつ、防衛戦力と周辺の監視網の厚いシリウス号側に置いておく、というのが安心だろう。



 そうして街中で宿を取り、一晩が明ける。夜陰に乗じてカドケウスに動いてもらい、香鶴楼の周辺の地形、店の内部の間取り等々を少し調べさせたりと、調査を進めた。
 内部は結構な高級飯店という印象だ。一階がレストランで広い店内には中庭まであったり、会合や宴会などを行うスペースも十分にある作りに見えた。

 上階は……人の気配があった。直接侵入させるというのもそれなりにリスクがあるので、現状では慎重を期して侵入させてはいないが、裏付けも無しに宿の類と結論を出すのは早計だろう。店の主や従業員のための居住空間という可能性とて否定できない。誰かが寝泊まりしているということが分かっただけでよしとしておくべきだ。

 さて。では流れの武芸者としての立場を演じながら情報収集をしつつ、昼時になったらあの楼へ足を運んでみるとしよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ