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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外204 満月の夜に

 変装用の衣服はサイズ合わせ等もあるので、実際に着て貰わないと裾上げ等々もできない。というわけで隣国への同行者には衣服を試着してもらう必要がある。

「懐かしいな、この手の服は。あっちに行った時には着ていた事もあったがな」

 レイメイが好むのはやはり動きやすいもののようで、道着の類を選んだようだ。レイメイ自身の隙のなさや風格と相まって、達人の老師といった風情ではある。

「まだあの頃の服は取ってありますよ」
「物持ちが良いな……。しかし、流石にあの頃の服は、色やらが今の儂には合わんだろうしな」

 にこやかに言うシホさんの言葉に、レイメイは後頭部を軽く掻いて笑う。
 その隣でジンは、大型の明光鎧を装備しているが……まあ、こちらも随分と似合うな。
 御前はと言えば伝統的な服を選んで着ているようだし、オリエは対照的にチャイナドレスを纏っていた。

「あちらの服も中々悪くないのう。しかし蜘蛛よ。些か体の線を出し過ぎではないか?」
「ふうむ。そういう感覚はよく分からんな」

 腕組みして首を傾げて目を閉じるオリエである。堂々としているのが寧ろオリエの場合は風格に繋がっている気がするが。

「まだ少し時間はありますし、私達は針仕事をしますね」
「そうですねえ。手分けしてやってしまいましょう」
「お手伝いしますね」
「いえいえ。グレイスさん達はゆっくり休んでいて下さいな」
「そうそう。戦いなどが苦手な分、こういうところで支援しておかないと」

 ろくろ首や二口女が裁縫道具を手にして笑みを浮かべる。グレイス達もそれを手伝おうと腰を浮かしかけたが、ろくろ首達は首を横に振ってそれを押しとどめ、早速針仕事を始めていた。
 みんなのサイズで少し合わない部分を針で留めてどんどん縫っていくろくろ首達である。

「んー、服の方は大丈夫そうだね」
「儀式の準備は済んでるな。後は……時間が許す限りは作戦会議ってところか?」

 と、レイメイ。そうだな。そのあたりはやっておいて無駄になるということもあるまい。
 一同頷いて腰を落ち着け、茶と菓子を頂きながら話し合いを始める。
 隣国の地図を広げ、イチエモンから得た情報等を元に、想定されうる事態についての話をしていく。

「あいつが拠点にしていたのは北方だな」

 畳の上に広げられた地図を指で示しながらレイメイがいう。

「つまり……今、暴君が支配している地域ということですね」

 と、アシュレイが眉を潜める。
 そして政情不安で雲行きが怪しくなってきたので、何かしらの危険性があるものを事前に分割して国外に……というわけだ。
 紆余曲折を経て、その巻物の片割れがここに揃った、と。

「探知した最後の片割れの位置が北方を差した場合、巻物は敵の手にある可能性が高いということね」
「違う地方であれば、仙人がそこに潜伏している可能性の方が高くなる、と」
「とはいえ、別の地域を統治している人物が、野心的ではない、ということにはならないでしょうから、あくまでも傾向の話よね」

 ローズマリーとクラウディア、ステファニアが意見を出し合う。
 どの土地にあるかで想定される可能性、危険性が変わる、といったところか。

「そうなると、まずはその地方を統治する者の、人となりについて情報を集めるのが安全策」

 シーラの言葉に一同頷く。

「そうだな。その土地で仙人についての人探しをするにしても、統治者の性格等々を把握していた方が上手く立ち回れるだろうし」

 と言った調子で意見を交わしていく。統治者がこう出るならこういう対応をする等々、俺達は作戦会議を進めていくのであった。



 そうして一日をマヨイガで滞在して過ごした。
 みんなと一緒にのんびり循環錬気を行い、ヒタカの生活時間に合わせ、暗くなってから眠り、明るくなってから起き出すといった感じだ。
 生活リズムだけは元々こちらに合わせていたので時差による影響は軽微だ。この分なら魔道具を使わずとも、大丈夫そうに思えた。

 やがて――夜がやってくる。
 満月の夜だ。ヒタカの天候は都も北東部も晴れ。儀式の条件は整っている。これで雨や曇りであれば、シリウス号の甲板上に儀式場を作って無理矢理にでも月の見える高度まで浮上して儀式を行うところであったが、その必要もなさそうだ。

 儀式は満月の夜。行える時間帯が決まっているそうで。
 条件はややシビアではあるが転移門を使って行き来すれば、離れた位置での二点間の儀式も成立する。

 マヨイガの中庭に祭壇を作り、巻物の片割れをそれぞれ持ち寄って祭壇に配置。準備が整ったところに、レイメイがやってくる。

「それじゃあ、儀式を始める。2回やらなきゃならんからな。手早く行くとしよう」

 レイメイは自身を道士とは自称していないが、仙術、道術への造形は深い。それらを行うための道具も持ち合わせているそうだ。八角形の板の中央に鏡を配置した物品。貨幣の穴に紐を通して剣の形にした物品もそうだ。
 それぞれ八卦鏡と銭剣、と言えば良いのか。それらの道具を両手に携えて祭壇の前に立つレイメイであったが巻物の間に鏡を配置し、銭剣を手に印を結び、呪文を唱える。

 魔力の高まりと共に、降り注ぐ月光が収束するようにレイメイの掲げる銭剣に集まっていく。青白い光を放つ銭剣で二度、三度虚空を切ったかと思うと、レイメイはその切っ先を鏡へと向けた。

 くるくると独楽のように回転する八卦鏡。銭剣の切っ先から集めた月光が鏡面に吸い込まれ――そして鏡が動きを止める。注がれた月光が鏡から放たれ、一条の光線となって真っ直ぐ一方向を指し示した。

 方位磁石と星球儀で確認。現在位置から光が示した方向、角度を正確に記録しておく。

「こちらの記録は大丈夫です」
「よし。それじゃ、時間が惜しい。すぐに次の儀式だ」

 巻物と鏡を回収。銭剣を持って転移門に向かう。転移門を潜ったらすぐに都へ続く転移門へ。
 都の転移施設の六角堂から出て中庭に行けば、そこにもマヨイガの中庭にあるのと全く同じ祭壇が用意してあった。

 ヨウキ帝とタダクニもいるが、時間が限られているというのもあり、挨拶もそこそこにもう一度同じ手順で儀式を執り行う。鏡から放たれる光の方向をこちらでも正確に記録する。

「どうだ? 上手くいきそうか?」
「そうですね。マヨイガで儀式を行った時とは光の向かう方向が違う角度になっています」

 そして光の進む方向を延長していき――星球儀上で交差する座標こそが最後の巻物のある場所だ。

「……北部、ではありませんね、これは」
「……くっく。言ったろう。あいつはそう簡単に捕まるようなタマじゃねえってな。ま、油断は禁物だが」

 レイメイが愉快そうに笑い、儀式を見守っていたみんなの間にも少し明るい空気が広がった。そうだな。これで仙人と巻物が無事である公算が高くなった、と言える。

「儀式の首尾は上々なようだな」
「これで現地へ向かう道筋が立ちましたな」

 状況を見守っていたヨウキ帝とタダクニが笑みを浮かべた。

「そうですね。これからまた北東部へ戻り、シリウス号で現地に向かって出発する予定です」
「うむ。私は都にて皆の無事と武運を祈らせてもらおう。ユラやアカネ達の事もどうか頼むぞ」
「どうか、ご武運を」

 と、ヨウキ帝とタダクニが言う。
 ヨウキ帝の祈りか。ヒタカの帝は穢れを遠ざけるだけに、プラス方向での儀式は強力に働きそうではあるな。心強い話だ。

「ありがとうございます。では、行ってきます」

 帝達と挨拶を交わし、巻物と道具を回収して再び転移門を潜る。そうして俺達はマヨイガに戻ってきた。
 さて……。隣国へ向かう人員の点呼と最終確認を済ませたらすぐにシリウス号で出発ということになるだろう。リアルタイムで最新の位置情報を得られたわけだから、移動に時間を費やせば費やすほど、情報の鮮度が下がってしまうということになるしな。
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