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番外200 再び東の国へ

 工房での準備と訓練に比重を置きつつも、日々の執務や今までの仕事、みんなとの時間を過ごしながら一日一日が過ぎていく。

 オボロ、ティール。ツバキや小蜘蛛達の諸々の仕上がりも順調だ。オボロはかなり魔道具操作に慣れてきたようだし、ティールは闘気と氷の術の同時使用も形になってきた印象だ。


 小蜘蛛達とシオン達は一緒に訓練を行っていたせいか、空中に弾性の強い糸を足場として作りだし、小蜘蛛達は勿論シオンやマルセスカがそれを利用して加速して跳んだり、インクの獣達に紛れて突撃したりと、連係まで編み出したりしていた。


 ヒタカノクニへ向かう準備も同時に進めている。シリウス号に食料品や備品を積み込んで、いつでも出発できるように、また不測の事態が起こっても対応できるように、工房から造船所へと仕事と訓練の場所を移して、準備を進めていくわけだ。


「予備の魔道具はこれぐらいで足りるかな?」

「大丈夫じゃないかな。魔石に術式が刻んであるなら交換するだけでも応急処置はできるわけだし」


 アルフレッドやみんなと共に手分けして、目録と船倉に実際積み込まれた物資の量を確認していく。


「巻物の一件はヒタカにとっても大事です。私も同行しますので、簡単な修繕等々はお任せ下さい。魔石の扱いに関しては……まだまだ自信があるとは言えませんが」


 と、コマチが言う。

 コマチは細工であるとか修繕であるとか、そういった技術を得意としているという事もあり、巻物はヒタカにも絡む事案のため、今回はシリウス号に同乗してメンテナンス役を担う予定だ。


 一方で、西方の魔法技師としての技術やローズマリーの魔法人形のノウハウ等も勉強中なコマチである。

 コマチの現時点での状況に関して言うなら、アルフレッドのように術式の細かな機微の調整まではまだ難しいようだが……西国方式でも簡易な魔道具であれば作れるようになってきた、という段階だ。


 こちらもヒタカノクニの絡繰り技術を、夜桜横丁で鹵獲したサンプルなどを元に解説してもらったり、変形機構について色々教えて貰って習作を作ったりと、技術交流も進めていたりする。


 そうしてある程度互いの技術について理解が進んだところで、合作を作ってみようという話も持ち上がっているのだ。どうなるかは未知数ではあるが、先々が楽しみではあるな。


 と、目録を手に確認作業を進めていると、造船所に荷馬車でアウリアが姿を現した。


「あ、アウリアちゃんだ」

「え、アウリアちゃん、来たの?」

「こんばんは」

「こんばんはー」

「うむうむ」


 マルセスカの言葉を受けて、訓練中だった小蜘蛛達が手を止めて、アウリアに挨拶をする。にっこりと笑みを浮かべて応じるアウリアである。なんだか……小蜘蛛達からもアウリアちゃんで呼び方が定着している感じはするが……。まあ、シオン達共々仲は良好なようなので良しとしておこう。


「差し入れを持ってきたのじゃが、どうかの」


 アウリアが言って、後方の荷車を見やる。焼き菓子の良い香りがここまで漂ってくる。


「ああ、良いですね。ありがとうございます。それじゃあ少し休憩して、みんなでお茶にしましょうか」


 というわけで、造船所の施設にみんなで向かい、そこでお茶の用意を進めていく。


「準備は順調かのう?」

「そうですね。今のところは滞りなく。予定通りに東国へ向かえそうですよ」


 と、お茶を淹れながらグレイスが微笑む。出発まであと少し。また北極圏を突っ切って最短距離を移動する予定である。


「ふむ。それは何より。ところで――」


 と、アウリアは窓から造船所の外の景色を覗いて、首を傾げる。


「あれは何かの?」


 アウリアが不思議がっているのは木製の骨格を持った四足の動物、といった形状の絡繰り人形だ。馬をモチーフにしているところがあり、手綱に鞍や鐙も装備しているが、まだ試作品ということもあり、あちこちの隙間から内部の機構も覗き見ることができる。


「ああ。あれはですね。ヒタカの絡繰り人形技術で作った習作、といったところです。設計図を書いてもらって、木魔法で骨組みを作ってですね」

「コマチから助言を貰いながら、色々試行錯誤している段階ね。将来的には骨格や装甲をミスリルにして、イグニスと連携できるようにと色々構想を練っているのだけれど……まあ、まだ先の話ではあるわね」


 ローズマリーが目を閉じてそんなふうに言う。


「あの状態でも背中に乗って移動したりできるんですよ」

「結構……楽しい」


 シオンとシグリッタの言葉に、アウリアが目を輝かせる。


「ほうほう。また面白そうな感じがするのう」

「良かったら乗ってみますか? まずは馬の動きを再現するというのを目的としているので、まだそれほど速度が出せたり、空を飛べたりするわけではないのですが」

「おお。それは役得じゃな」


 と、アウリアはにっこりと笑う。

 そうしてお茶と菓子を楽しんでから、アウリアは絡繰り馬に早速試乗してみることにしたらしい。


「現状では馬の基本的な歩法が可能です。制御の仕方は通常の馬術と同じでもありますし、口頭の命令でも伝わりますが……走る、というところまではまだ作り込んでいませんね」

「ほうほう」


 そう言いながら、アウリアはまず常歩(なみあし)と言われる通常の歩き方で歩かせてみる。


「おお。これは良いのう。本物の馬に乗っているようじゃ」


 そう言って楽しそうに笑う。アウリアはどうやら、乗馬経験があるようだ。

 絡繰り馬のコントロールの仕方も西方の馬術に準じる。現状では通常の歩法より少しだけ早く歩く、速歩(はやあし)までが再現できている状態であるが……気軽に乗って遊ぶだけならこれぐらいでいいのかも知れない。

 将来的には更に早く走る駆足、全速力の襲歩、とそれぞれの走らせ方の再現をとりあえずの目標にしている。


「試行錯誤と言っておったが、今の状態でも歩きに関しては相当な完成度ではないかのう」


 と、アウリアはにこにこと上機嫌だ。


「ありがとうございます。後は、そこに少しばかり機構を組み込もうなどと考えているところがありまして。単純な馬とはまた違う完成形を目指しているところがあります」

「ほう。それはまた、完成が楽しみじゃな」


 そうだな。西国式の魔法生物や魔法人形とはまた違って、ヒタカの技術を取り入れつつ、というのを目標としている。このあたりが上手くいくと良いのだが。




 さて……。そうして出発の準備も整い、満月前にずれ込んだイルムヒルト達の公演も無事に終わって。再びシリウス号でヒタカノクニへと向かう日がやってきた。

 巻物の片割れを持ってあちらへ出かけ、鬼の里に滞在して満月の日を迎える、ということになるだろう。儀式を経て巻物の位置を特定し、そして隣国へ。それからが本番だ。


「ヒタカの隣国は現在、分裂しておるそうだな。平穏の世とは違う。重々気を付けるのだぞ」

「はい、陛下」


 見送りに来てくれたメルヴィン王と言葉を交わす。

 目的は仙人の消息と巻物の保護。はっきりしている。

 情勢が分からない内は迂闊な戦闘や介入は避けるべきだろうし、基本的には隠密行動をとる方向だ。まあ……人命救助等、やむを得ない事態というのも考えられるけれど。

 いずれにしてもヒタカの隣国がどうなっているのかはイチエモンの情報収集と現地の様子を見てから、といったところだな。


 タームウィルズからヒタカへと、シリウス号に乗って同行するのはパーティーメンバーのみんなとイングウェイ。ティール、オボロ、ツバキにコマチ。そしてユラとアカネ、小蜘蛛達といった面々だ。転移港で先に現地で待っていてもらうという手もあったが、道中相談をしていきたいというのもある。


「気を付けてね、ステフ」

「ええ、向こうに到着したら、通信機で連絡を入れるわね」


 と、メルヴィン王達と共に造船所に見送りに来てくれたアドリアーナ姫とステファニアが言葉を交わす。俺達もアウリア達知り合いや、ゲオルグやセシリアを始めとした家臣団に見送られる形だ。結構な大人数が集まってくれたという印象がある。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「はい。御武運を」

「お気をつけて」


 ゲオルグとセシリアが一礼する。


「俺達の力が必要な事態であれば、すぐにでも戦えるように準備をしておく」


 テスディロスがそう言うと、オルディアやレギーナ、それにお祖父さんを始め、七家の長老達も真剣な面持ちで頷いていた。


「ん。その時は頼りにさせてもらう」


 そう言って笑みを向ける。イグナード王もそうだが、いざという時に助っ人になってくれるというのは心強い顔ぶれである。


 そうして俺達はシリウス号に乗り込み――みんなに手を振って見送られる形で、タームウィルズを出発するのであった。北極圏を通り、再びヒタカノクニへ。まずは都へ向かい、イチエモンの情報収集の結果を聞きにいくとしよう。

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