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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外197 真夜中の昼食会

 フォレスタニア居城の談話室に、食欲をくすぐる香ばしい匂いが漂っている。焼き上がったピザの香りだ。

 ヒタカの面々にとっては、生活時間から考えれば、王城セオレムでの歓待でとった食事が朝食で、フォレスタニア居城での食事が少し遅めの昼食、というところだろうか。
 盛り上がりから三部作をしっかり鑑賞したということもあり、やや食事の時間帯がずれこんだという印象だ。

 今回は――みんなで賑やかな食事をと考え、ピザとスパゲッティを用意した。
 パン生地やらチーズやら……ヒタカノクニにはないものなので、喜んで貰えればいいのだが。
 更にヒタカからトマトが入手できたというのもあるので、栽培に使うもの以外に現物を更に追加で購入し、それをケチャップ等に加工したのでピザ等々も試してみたかった、というわけである。

 ピザに関しては様々な具材を用意して、相性の良さそうな食材同士をトッピングして焼き、後はそれを切り分けて好きなようにバイキングする形だ。
 スパゲッティに関してはソースを各種用意しておき、各人の好みに合わせて頂く、というわけだ。

「何だか、こうやって色々あってみんなも一緒だと、楽しい雰囲気でわくわくしますね」

 と、アシュレイがにっこり笑い、マルレーンがうんうんと頷く。そんなアシュレイやマルレーンの反応に、グレイスやクラウディア、ステファニア達が微笑ましそうに相好を崩す。ローズマリーは羽扇で表情を見せないようにしているが。
 今回の食事は昼食の準備を進めてくれていた、迷宮村のみんなも一緒だ。ヒタカの面々とも交流を深めてもらえれば、と思う。

 さてさて。ピザは焼きたてが美味しいと思うので、行き渡ったところで早速食事を始めるとしよう。ドラフデニア王国の話はもう少し食事の席が進んで落ち着いてきたら、ということで。

「では……昼食と言って良いのかは分かりませんが、食事にしましょうか」

 俺の言葉に合わせてヒタカの面々――妖怪達がいただきますと、挨拶をしてから食事の席が始まった。

「ううむ。香ばしい匂いじゃのう。ふむ……。む、これは……!」

 御前はピザを口に運び、味わった後に表情を緩める。それに続いてあちこちから良い反応の声が聞こえる。
 各種チーズにベーコンやソーセージ、ニンニクやキノコ、バジル、アスパラ、シーフード等々、トッピングや組み合わせも色々だ。
 焦げ目の香ばしさと、とろけるようなチーズ。トッピングの味わいが何とも言えない。
 ボロネーゼこと、ミートソースもいい出来だ。

「ん。美味」

 と、シーラは満足そうだ。ピザもスパゲッティも基本的にシーフードで固めているのがシーラらしい。そんなシーラの隣でドミニクやユスティア、シリルと一緒ににこにことしているイルムヒルトである。

「美味しいですね、アカネ」
「風味や味わいがまた何とも」
「西方の麺料理か。……蕎麦やうどんとはまた違った食感で素晴らしいな」

 と、ユラやアカネ、ヨウキ帝も楽しんでくれている様子だ。
 ああ。蕎麦とうどんか。うどんは用意するのも難しくはないし、蕎麦も種子を貰ってきているから、折を見て楽しみたいところではあるな。

「トマトの使い方が実に上手い。これは絶品ですな」
「確かに。これは美味でござる」

 口元の邪魔にならない覆面を装着しながらも食事を楽しんでいるイチエモンである。

「美味しい……」
「お代わりもらえるのかな?」
「違うのも試したい」

 と、小蜘蛛達。気に入ってもらえたようで何よりだ。小蜘蛛達は合わせ、揃ってイカスミを選択したので唇のあたりが若干黒くなっていたりするが。

「うむ。これは気に入った。良い味だ」

 そう言いながらも、小蜘蛛達がお代わりに行く前に口元を拭いてやったりしているオリエである。眷属達への面倒見は良いようで。

 動物組もそれぞれ食事をとって満足、と言った印象だ。近くに陣取って時々手ずから魚や肉、鉱石を与えているシャルロッテもご満悦である。

 そんな調子で和やか且つ賑やかに食事の席は進んでいき――みんなの空腹が大体満たされ、お茶を楽しみ始めたという頃合いで、ドラフデニア王国での話の続きをしていく事にした。

「――食後の余興というわけではありませんが、先程の幻影劇の、その後のドラフデニア王国のお話、ということで。僕達が旅行に行ったときのお話など如何でしょうか」

 と言うと、みんなも期待感のある表情で拍手をしたり、その話を待っていたという反応をしてくれた。
 というわけで、ドラフデニア王国に行った時の話を色々と進めていく。
 魔人絡みの一連の事件が解決し、爵位と領地を得て。結婚して、新婚旅行ということでドラフデニアに出かけた。談話室で先刻した話からは時系列的には直接繋がる話でもある。

 普通の話ではやはり物足りない部分もあるだろう。マルレーンのランタンを借りて、色々と光景を映し出していく。

 幻影劇場の構想もあって、観光と現地取材も兼ねた旅行だった。
 アンゼルフ王の子孫であるレアンドル王に暖かく迎えられたこと。グリュークの子孫であるゼファードにも出会った事。その旅行の中で、観光と採集目的で妖精の森に出かけた時に、妖精の女王ロベリアの案内で、不穏な遺跡内部を調査することになった事……。

「そこで見つけたのが、かつてドラフデニア王国の一帯を支配していたアケイレス王国の最後の悪王とその腹心の魔術師が遺した負の遺産だったわけです」

 邪法によって生み出された悪霊の封印……というよりは、封印の体裁をとった時限式の罠というべきか。

「恨み辛みを蓄積させて、忘れられた後の世で大きな災いを成す、か。何とも性質の悪い」

 ヨウキ帝がかぶりを振る。そうだな。ヒタカでもこういったことが起こらないように気を付けているようではあるし、ヨウキ帝にとっては他人事ではないだろう。

「そうですね。封印をそのままにしておくのでは問題の先延ばしでしかありません。そのまま協力して、いっそ態勢を整えた上で悪霊を封印から解放して、迎え撃ってしまおうという話になりました」
「ああ、そりゃいい。テオドールの作戦の傾向は儂の考え方とも気が合うな」

 レイメイがにやりと笑い、シホさん、ツバキ、ジンが揃って苦笑する。

「シーラ様が続報と仰っていましたが……この流れですと……。わくわくしてきますね……!」

 コマチが表情を明るくして、ティールが同意するように声を上げていた。コルリスがその予想は当たっている、というように、うんうんと頷く。
 そうしてレアンドル王達と共同戦線を張って、悪霊の封印に武技を叩き込んで解放。戦場への誘導と、そこからの戦い、と。

 ううむ。この流れは……期待されているようだし、戦闘の様子もしっかりと語らないと、がっかりさせてしまうか。

 戦闘の様子も、幻影と共に色々と話をしていく。悪霊の姿や性質等々。
 あの時は蜘蛛の高位魔物もいたのでオリエの反応が気になるところではあったが、話をする前に移動途中で事前に聞いてみたところ、いわゆる魔に堕ちた個体は妖怪達の間でも鼻つまみ者扱いらしい。

「ああいう話の通じない手合いは扱いに困る。同族というだけで縄張りに入ってきた不遜な輩とも立ち会って、きっちり排除したこともあるぞ。ましてや互い命を懸けた対等な戦いであるというのなら、それは筋道が通っている。不快になどなるはずもない」

 とのことで。小蜘蛛達も腕組みしながらうんうんと頷いていたのが印象に残った。何というか、オリエや小蜘蛛達は戦士的な思考をする印象がある。
 寧ろ西方の蜘蛛の使う術を見たいので詳しく頼む、とリクエストまでされてしまう始末だ。

 というわけで、悪霊との戦いに関しては……語り口としては実況、ではないな。戦いを振り返っての分析や解説に近い。その戦闘の光景に、みんなは目を奪われ、固唾を飲んで見守っているという印象だった。

 そうして――幻影の中で戦いの決着がつくと、みんなから拍手喝采が巻き起こる。

「いやはや。悪霊の続報と聞いて心配していたが、蓋を開けてみれば胸がすくような結果だな!」
「これは巻物の一件に関しても士気が上がりますな」

 ヨウキ帝やタダクニはそんな風に言いながら上機嫌な様子であった。

「ふふん。西方の蜘蛛も中々やるものだが、理性を持たずに操られてしまうようでは修行が足りんということだな」

 と、自信ありげに笑うオリエである。

「ふむ。あの泥を使った術は面白いな、ジン」
「確かに。学べる事は多いな」

 ツバキとジンはグレンデルの術が気になったようで。そんな風に2人で話をしていた。
 食後の余興として楽しんでもらえたのは何よりだ。フォレスタニア滞在はそれほど長くはないが、のんびりしていってもらえたらと思う。
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