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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外196 今昔のドラフデニア王国

 それからは、みんなとの出会いであるとか、西方の文化や迷宮、冒険者についてであるとか、北方の魔法王国、海中の国、砂漠の国に獣人の国であるとか、更には月面の様子はどうだったとか、そういった内容の話になった。

 俺達の事情は話したわけだし、親睦や信頼を深めるのと同時に歓待という目的もあるので、あまり魔人や仕事とは関係のない部分での文化や旅行記的な話の方が楽しくて良いだろう。しんみりしてしまった空気を変える意味合いもある。
 というわけで、マルレーンのランタンを借りて風景を映し出しつつ、どんな料理が美味しかったとか、そんな風に気楽な話題を中心に展開していく。

「グランティオス王国……ですか。光る珊瑚の照明なんて、すごく素敵ですね」
「転移港がありますし同盟国でもありますから、グランティオスは海水へ対応する準備さえあれば訪問自体は難しくはないですよ。光る珊瑚に関してはフォレスタニアの湖底でも見れますね。グランティオスの方々が持ち込んでいますから」
「ああ。塔から見た湖底の光ですね」

 ユラはグランティオスが気に入ったようだ。湖底の滞在施設も時間があれば見に行ってみるのも良いだろう。エルドレーネ女王やグランティオスの民も歓迎してくれるだろうし。

「あの湖は確かに良いな。温泉と遊泳場のお陰で今も絶好調なんだが、あの湖で泳いでも心地よさそうだ」

 父河童が言うと、親子で頷き合っている。河童達の姿は温泉ではあまり目立たなかったが、流れるプールの底の方を思う存分泳ぎ回っていたらしい。一家揃って魔力が充実している感じだ。

「というか、ティエーラ殿の影響か、それともテオドールが領主だからか、フォレスタニアに満ちている魔力自体が相当に良質に感じるのう」
「この街も城も……相当な霊場と呼んで差支えなかろう」

 御前の言葉にオリエが答え、小蜘蛛達が3人揃ってこくりと頷いた。

「しかしまあ、月面は対照的に随分荒涼としているのだな……」
「通常では動植物が暮らせる環境ではありませんからね。けれど、今は前に僕達が訪れた時とは状況が変わって、休眠していた月の都も再建が進んでいるそうですよ。どうなるのか楽しみではありますね」

 ヨウキ帝の言葉に答える。
 レイメイやジン、ツバキはエインフェウスに興味があるようだったし、コマチはシルヴァトリアを魔法王国と聞いて色々期待感を高めている様子だ。
 全体として、砂漠や海中、月面等々、ヒタカノクニとは全く違う環境というのは人も妖怪も問わず、聞いている側としては受けが良いようで。
 サボナツリーの洗髪剤でツヤが増した印象のケウケゲンも身体を揺らして喜んでいた。

「それで――幻影劇場で上映されるのは先程の話に少しありました……冒険者の国、ドラフデニア王国を建国した王様のお話、となるわけです」
「おお……」

 俺の言葉に、一同興味をそそられたのか少し前のめりになる。
 これから幻影劇の上映があるから予備知識として冒険者の話をしたが、ドラフデニア王国やアンゼルフ王の話は敢えて端折っておいたのだ。色々旅行の話もしたからか、掴みは万全といった感じである。
 翻訳の魔道具については頭数が足りなかったりするのだが……まあ、そこは魔法を使える面々も多いのだし、魔道具ではなく実際に術をかけても良いだろう。

「これからそれを見に行くわけか」
「うむうむ。楽しみじゃのう」
「先程見せてもらった幻影も真に迫っておったからの」

 と、アカネの肩あたりからひょこひょこと顔を出した鎌鼬達が顔を見合わせ、そんな風に頷きあっていた。
 そんな鎌鼬達を見てそわそわしているシャルロッテである。封印の巫女としてユラとの接点も増えるというのは、その護衛であるアカネとの接点も増える、という事を意味している。このあたりはシャルロッテにしてみれば朗報かも知れない。

 そんなわけでフォレスタニアの居城でのお茶会を一旦切り上げ、みんなで幻影劇場へと向かう。座席に案内し、魔道具が足りないところは術をかけて回って準備万端というところだ。

「音や風景だけでなく、風を切る感覚等々もありますが、実際に空を飛んだりしているわけではないので、楽に構えて鑑賞していて下さい」

 と、鑑賞する前のお約束について話をしたところで、帝達と妖怪達が真剣な面持ちでうんうんと頷く。開演が待ち遠しい、といった様子だし、早速始めるとしよう。
 一礼して、俺もみんなのいる客席に座る。すると客席の照明が落とされ、幻影劇が開幕するのであった。
 空を飛ぶ鳥の視点から始まる流れは――幻影劇の掴みの部分でもあり、それがどういったものか理解してもらうためのものでもある。

 ――正面の舞台から客席に向かって草原の風景が広がったところで、その場にいるみんなが息を飲むのが分かった。
 良い反応だ。鳥の動きと共に、草原を進む馬車に視点がクローズアップされていく。そうして幻影が動き始め、客席の皆は劇の内容に没入していくのであった。



「いやあ、凄かったですねえ……」
「全くだ。とんでもない代物だな、こりゃ」

 第一部が終わったところで率直な感想を漏らすシホさんに、レイメイが顎鬚に手をやってうんうんと頷く。

「ああ――。人を楽しませるために洗練され、工夫された技術……。術師の英知の結晶……。なんて素晴らしい……!」

 と、コマチなどは目を閉じたまま拳を握り、余韻に浸っている様子だ。

「ゴブリン、でござるか。あれがあちこちから襲い掛かってくる場面は衝撃的でござった」
「西方の魔物ですな。見たところ個々はあまり強くないようではありますが……」
「繁殖力が高くて徒党を組んで人畜に被害を出す、か。厄介極まりないな」

 イチエモンとタダクニの感想に、ヨウキ帝は静かに頷いている。

「最後が、ヴェルドガル王国に来たところで終わるという演出がまた粋ではないか」

 と、御前が言うと、妖怪達もうんうんと頷く。

「歴史を感じるなあ。いや、おもしれえ!」

 河童が笑顔で自分の膝をぴしゃりと打った。みんなの反応は上々といったところだ。

「この上で、二部、三部とあるのですよね?」

 ろくろ首が少し離れた位置から、ずいっと期待に満ちた表情を向けてくる。

「そうですね。長丁場なので休憩を挟むか、それともこのまま二部を鑑賞するか、意見を聞いてからと思っていたのですが」
「我はこのまま流れを切らさずに二部が見たいところだな」
「同じく」

 オリエの言葉に、ヒタカの面々が同意する。では……このまま第二部上映といくか。



 結局そのままの流れで大盛り上がりになり、第二部、三部と続けて上映することになった。
 建国とその後のアンゼルフ王の治世から悪霊退治に至るまで。全ての上映が終わってみれば、みんな大満足したという印象だ。

「アンゼルフ王か。素晴らしい国父殿だな。私は直接的に政を行うわけではないが、志はかくありたいものだ」

 ヨウキ帝もアンゼルフ王に好印象、という感じである。

「飛竜も格好いいですが、グリフォンもまた素敵ですね」
「グリュークは賢くていい子でしたね」

 アカネの言葉に、ユラが答え、シャルロッテがうんうんと頷く。

「――実は、三部のアンゼルフ王の悪霊退治については、続報があったりする」

 シーラの言葉に余韻に浸っていた皆がぴくりと反応する。そんなみんなの様子に、マルレーンがにこにこと笑みを浮かべた。
 あー、うん。ドラフデニア王国に訪問した時のあれこれは、アンゼルフ王の話にも関わるから、確かにまだ話をしていなかったな。

 幻影劇の舞台となったドラフデニア王国に関する後日談ということで、これから食事の席で話題の種とする分には良いのかも知れない。アンゼルフ王と相棒のグリフォンの子孫と悪霊退治で共闘した話であるとか、中々に盛り上がるのではないだろうか。
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