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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外195 西方の歴史と未来を

 小蜘蛛らはオリエ同様決まった名前はない、とのことで。
 オリエもそうだがヒタカの蜘蛛達はあまり名前には拘っていないようだ。まあ、人化の術を使わないと小蜘蛛達は喋れないようだしな。

「しかし皆名前もあるようですし」
「ええ。これから先、人に紛れて行動することも増えると予想されますから」
「不便と感じるようであれば、我らも名前を考えたいと思います」

 小蜘蛛達はそんな風に言って俺に一礼するとオリエと共に部屋に案内されていった。
 オリエによると実力が十分ある小蜘蛛が行動を共にしていると、色々とできることが増えるとのことで。オリエにとってはサポート役として優秀な人材、ということなのだろう。

 小蜘蛛達の名前がどうなるのかは気になるところだが……一足先に迎賓館のサロンに向かう。

 そこにはシャルロッテやフォルセト、シオン達も待っていた。シャルロッテの隣には月光神殿のガーディアンである翼を持つ蛇――カルディアもいたりして。

 俺の姿を認めると、ぺこりとお辞儀をしてくるカルディアである。
 月光神殿の封印を守るカルディアとしては、ベリスティオの慰霊に関わるシャルロッテや封印を構築している精霊王達は同僚のようなもの、と感じているらしい。俺は助けてくれた恩人扱いであるとか。
 カルディアは……ヴァルロスに敗れてから小さな姿になっていたが、段々体も大きくなってきているな。戦闘形態まで再生するのもいずれ、といったところか。

 みんなと共にそこで待っていると、宿泊する部屋への案内が終わったヒタカの面々が続々と集まってくる。

「談話室、だったか。確かに居心地が良さそうだ」

 と、サロンを見た帝が笑みを浮かべる。

「ここでのんびりとお茶や菓子でも楽しみながらお話を、と考えています」

 フォレスタニア居城のサロンは、東区の別邸にある遊戯室を踏襲しているところがある。広々とした空間にソファーとテーブルが置かれており、好きなように利用できるというわけだ。
 カウンターがありそこに厨房設備の他、炭酸飲料等々の魔道具を備え付けてある。サロンの隣は遊戯室となっていて、そこにビリヤードやらダーツも設置してあるが、みんなの興味は過去の話の方に向いているように見えた。

 というわけでみんなにお茶が行き渡ったら、初対面であるカルディアを紹介し、ぼちぼちと話を進めていくことにしよう。



「――魔人、か。生きながら怨霊となったようなもの、という理解でいいのかな?」

 と、ヨウキ帝が真剣な表情で訪ねてくる。

「近い、かも知れませんね。他者の負の感情を糧とし、超常の力を操る不老長寿の種族――。しかし、彼らはその性質故に、長く魔人として生きる者は大きな歪みと付き合っていかなければならない。それは……呪いに近いものだったかも知れません」
「呪法というのは、確かに同時に自分をも蝕むものですからな」

 タダクニは何か思うところがあるのか、目を閉じてそう言った。
 どこから話をしたものかと色々考えたところはあるが、西方の歴史は、魔人との戦いに絡んだ歴史でもある。
 ヒタカでは魔人が活動していなかったことを考えれば、これらに関する事柄も予備知識として前提になってくるところがある。
 恨み辛みから凶悪な怨霊や妖魔が生じるという概念はヒタカにもあったので、説明して理解してもらう事そのものはそう難しくはなかった。

 だから負の力を振るう者に対する脅威、というのも実感として理解しやすい話ではあったようだ。

 生まれ故郷が魔人から襲撃を受けて大きな被害を被ったこと。その時に何もできなかった無力さ故に大きな力を望んだ事。
 そうして紆余曲折を経て……グレイスと共にタームウィルズに向かってからの話を色々としていく。みんなとの出会い。誘拐事件の背後にいた魔人との戦いを契機に、ヴァルロス一派と戦うことになったこと。ヴァルロスらの目的――ベリスティオに関する話。魔人との戦いを中心に据えて、色々と話を進めていく。

「――ヒタカノクニでも、ユラさんが予知した大きな地震がありましたが、あれはヴァルロスを裏切った一人の高位魔人が、大規模な破壊を引き起こそうとしたものなのです。ヴァルロスとベリスティオは、その事態を受けて……解決のために、最期に力を貸してくれました」

 掌を見やって、それから目を閉じる。
 ヴァルロスから術を受け継いだ時の事。ラストガーディアンに向かって飛び込んでいくベリスティオの姿が、脳裏に浮かび上がるように思い出される。

「ヴァルロスもベリスティオも……考え方や方法は僕達とは相容れませんが、魔人達の現状を変えるために戦っていました。そして彼らが生きる世界を守ろうとした。だから彼らのその思いだけは、引き継ぎたいと考えています。僕なりの方法ではありますが、幾人かの魔人もそれに賛同して力を貸してくれると……そう言ってくれました」

 そこまで話をすれば、西方で起こった一連の事件に関する話は終わりだ。

「だから……フォレスタニアに慰霊のための神殿を設けていたのですね」
「そうですね。忘れていい事ではないと思いますので」

 ユラの言葉に、静かに頷いて答える。

「ヒタカに力を貸してくれるのも、その延長、というところかな?」
「ああ。それもありますね。エインフェウス王国で巻物を見つけたのも、前もって脅威を把握して対応できるようにと考えた部分もあってのことです。魔人達の暗躍も、気づいた時にはかなり後手に回って解決するのに、相当な労力が必要でしたからね」

 エインフェウス王国の場合は、もっと直接的に、魔人に絡んだ話ではあるのだが、オルディアに関しては当人の許可なく気軽に話せることでもない。こういった言い回しにはなってしまうが……まあ早めの対処と把握が重要だと思っているのも事実だ。
 東国と魔人に関する状況等も把握しておきたいところではあったしな。

「私も、あの時の地震を解決してくれたお礼を言いたくて、テオドールと知り合ったのです」

 と、ティエーラが言う。そうだな。ここまでの話ではテフラやフローリア、四大精霊王との知己を得る話もあったが、ティエーラに関しては触れていなかったから。そういった言い回しで、大体ティエーラがどういう存在なのか理解してもらえればとも思う。
 帝も妖怪達も神妙な面持ちで頷いていた。ほんの少し、しんみりとした空気ではあるが。

「そう言えば……劇の題材を探していると言っていたが、それらの事件は劇にはならないのかな?」

 ふと、ヨウキ帝がそんなことを訪ねてくる。
 あー。お土産としてヒタカの歴史に関する話や資料等々も聞いたからな。その流れで幻影劇の題材を探しているという話もしたけれど……。

「いやそれは……何と言いますか、自分の事ではどうしても客観的にはなれないものですからね。そういった劇を作られるとしても僕はあまり関わらない方向でと思っています」

 そう苦笑して、冗談めかしつつ答えるとみんなからも笑顔が漏れていた。少しだけ感傷的になった空気もそれで些か和らいだような気がする。

「ふむ。確かにそう、かも知れないな。些かもったいない気もするが」
「……吟遊詩人達が扱う題材も、今はテオドールの話の受けが随分と良いらしくて……酒場では毎回盛り上がっているそうよ」
「境界公に失礼があってはいけないからと、冒険者ギルドで色々裏付け取材もしている者もいる、らしいわね」
「そうなると……その内アンゼルフ王のように、お話としての骨子も出来上がってくるのではないかしら」

 ステファニアの言葉にローズマリーが答え、クラウディアが苦笑する。まあ……俺としてはそのあたりにはノータッチで通したいところではある。取材をしているというのなら、そう荒唐無稽なものにはならないだろうしな。うん。
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