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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外193 精霊と妖怪

 植物園に向かったところで花妖精、ノーブルリーフ達が待っていた。

 そうして――到着した俺達を迎えるように次々とティエーラ達高位精霊が顕現する。
 それを目にした瞬間に固まったのが御前達を初めとした妖怪達だ。ヨウキ帝やユラもそこまで劇的な反応ではないが目を見開いていた。

 一方、高位精霊達と既に面識のあるコマチは植物園の構造自体に興味が行っているようで。その横で温室のガラスや内部構造を食い入るように見ていたりするのが印象的である。同じように先行してティエーラ達に会っているツバキは、そんなコマチを見て苦笑を浮かべていたが。
 御前達もコマチの様子を見て再起動したようで、気を取り直すように大きく深呼吸したりかぶりを振ったりしていた。

「これは……何という」
「いやはや。テオドールやこの土地から強い力を感じちゃいたが」
「……当人達だけでも驚きだというのに、のう」
「まさかこれほどの精霊が揃い踏みとは――」

 と、ヨウキ帝や御前達は……流石にティエーラは想像以上だったのか、やや緊張しているようにも見える。

「ティエーラと言います。これから先、皆共々、よろしくお願いしますね」
「ルスキニアって言うの! よろしくね!」

 ティエーラはそう言って、穏やかに挨拶をする。そこにルスキニアが元気よく自己紹介をして、それでヒタカの面々も緊張がほぐれたらしい。

 そうして高位精霊達とヒタカの面々もお互いに自己紹介を済ませる。
 やはりというか、水の神性を持つ御前はマールとも相性が良いようで。すぐに打ち解けている印象だ。温泉に力を与えているテフラも、妖怪達からお礼を言われたりして、笑顔で応じていた。
 最初の衝撃が過ぎ去ってしまえば、寧ろ高位精霊達が近くにいるのはプラスに働くらしく、妖怪達も個々の力が内側から増しているのが見える。それに応じて若干浮かれたようにテンションが上がっている様子だ。

 というわけで、そのまま温室内を案内して回る。ユラは花妖精達にも好かれているようで。周りに集まってきた妖精達と指先で握手を交わしたりと、嬉しそうに応じていた。
 鉢植えのまま浮遊するノーブルリーフ達は葉っぱの先端で握手を求め、オボロやケウケゲンが尻尾や毛先でそれに応じていたりと、中々に賑やかな光景だ。


「南国の植物とは……また珍しいな」
「鑑賞用というのもありますが、大部分は食用と薬草ですね」
「薬草の類も栽培しているのでござるか。ほとんど知らないものばかりでござるが」
「これは……区画によって湿度や温度が違うのですね……! 素晴らしい仕組みです!」

 温室内の様子に興味津々なのは、ヨウキ帝やタダクニ、イチエモンにコマチ、といった面々である。仕組みや作物、実地試験中のノーブルリーフ農法等々、軽く説明を交えながら植物園を色々見て回る。

「ヒタカノクニからも作物や、薬草を頂いていますからね。栽培の環境が整えられれば、こちらからも何か種子をお送りしたいところですね。従来の環境に影響を与えないよう、やはり温室のような隔離された環境での栽培が望ましいと思いますが」
「ふむ。温室にもノーブルリーフ農法にも興味が尽きないな」

 俺の言葉に、帝が顎に手をやって感心したように頷く。

「環境に影響、と申しますと?」
「例えばですが、別の場所に持ち込んだらその植物を餌に特定の昆虫が爆発的に増えて食害を起こしたりだとか、でしょうか。ノーブルリーフはそういった食害する虫も間引いてはくれますが、まずは小規模なところで実験したりと、多少慎重になるところではありますね」

 シルン伯爵領の水田も、実地試験を開始する段階ではあるが、そういったところも見ていく必要があるだろう。
 というわけで、その流れで地下水田も見学していく。稲作はヒタカでも行われている。屋内で自然光に近い環境を整えるという技術的な部分に興味がいったり、遥か西でも稲作が行われている事に興味を持たれたりと言った具合だ。

「遥か昔に東から、別の王国を経由して伝わったわけですね。裏付けがあるので間違いないようですよ」
「ほう。そうなるとこの稲達はヒタカノクニから来たものと? それは何というか、不思議な縁を感じるな」

 月の王家とヒタカの面々もいずれ面識ができるだろうとは思うので、そのあたりの事情もさらっと説明しておく。

「月の民……とな?」
「――つまり、私達月の民が、かつて地上から作物の種子を集めた、というわけね」
「それはつまり……クラウディア殿は……」

 タダクニの言葉を受け、クラウディアは俺に視線を向けて頷く。

「クラウディアは月の民の王族で、元迷宮の管理者であり、西方で広く信仰されている、月女神シュアス本人でもあります」
「な……」

 と、ヨウキ帝達が絶句する。

「西方の……すごく偉い巫女様かなと思っていました」

 というのはユラの感想だ。祝福等々で何かしら感じ取っていたようではあるが。

「まあ……神性を持っている様子から只者じゃないとは思っていたがな」
「夫であるテオドールが輪をかけてとんでもないからのう」
「うむ。我らとしては納得できる話ではあるかな」

 衝撃を受けている帝達と、驚いてはいるが寧ろ納得しているといった印象の妖怪達という構図だ。種族や探知能力の違いによって色々なものへの反応の違いが顕著で、興味深いところではあるが。



 そうして色々な面々に衝撃を与えつつも植物園の見学を終え、高位精霊達も合流したところで、みんなで馬車に乗って境界劇場へと向かった。
 貸し切りの境界劇場で特別公演を鑑賞。その後迷宮入口に案内し、そこからフォレスタニアに案内するという流れだ。

「それじゃあ、行ってくるわね」
「ん。また後で」

 と、到着してすぐにイルムヒルトとシーラが連れ立って楽屋へ向かう。ヒタカの面々を席に案内する間に舞台に立つ準備を整えようというわけである。

「シーラ様やイルムヒルト様が演奏するのですね」
「そうですね。それから友人達も何人か一緒ですよ」

 アカネの質問に答えつつ、劇場の中に案内する。開演まで少し時間があるので、劇場の売店やトイレ、非常口など、各種設備の案内や鑑賞時の諸注意等をしつつ席に案内する。
 売店について今回は歓待なので全品タダだ。王城で食事をしたばかりなので軽食よりもかき氷や炭酸飲料が人気のようではある。

 そうして全員が席に落ち着いたところで――照明が落とされ、開幕となる。
 客席や舞台にスポットライトが当てられ、光の中にイルムヒルト、ユスティア、ドミニクと、シーラ、ケンタウロスのシリルの5人が現れる。みんな舞台用のドレスに身を包んで、イルムヒルトもシーラも先程までとはまたがらっと変わった印象だ。

 ユスティアとドミニクが客席の上空を舞いながら澄んだ歌声を響かせ、イルムヒルト達が静かな旋律を奏で始めた。
 一瞬で劇場全体を音楽の世界に引き込む……その表現力。圧倒的な音域と聞き惚れるような美しい歌声と神秘的な音色は、言葉や文化、種族の違いを飛び越えて訴えかけてくるものがある。それを引き立てる光と泡の演出。
 客席上空を舞っていた5人全員が舞台に降り立ち、一曲目の演奏を終えて一礼すると、客席から歓声と拍手が巻き起こった。

 見れば、人も妖怪も例外なく笑顔。驚きと称賛の表情で惜しみのない拍手をしてくれていた。
 掴みは上々といったところだ。それが収まるのを待って、一旦イルムヒルトとユスティア、ドミニクが舞台袖に引っ込む。続いてシーラのドラム演奏とシリルのタップダンスのパフォーマンスへと移行していく。リズミカルで正確な力強いドラムの音と、それに合わせて踊るシリルの楽しそうな表情。
 舞台袖から着飾ったゴーレム楽団が登場する。シリルの後ろでバックダンサーとして列を成して踊るゴーレム達。

 思わず踊り出したくなるような雰囲気に当てられたのか、妖怪達もリズムに合わせて体を揺らしている。ろくろ首の頭部もリズムに合わせている感じがある。
 妖怪達は宴会や行列もそうだが、お祭り好きという印象があるな。こういう演奏会は相性がいいかも知れない。勿論ヨウキ帝達も楽しんでくれているようだ。

 舞台袖にゴーレムが戻り、代わりにイルムヒルト達が戻ってくる。引き込み、温めた空気を更に盛り上げるように、楽しそうな音色と歌声が劇場に広がっていくのであった。
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