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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外192 妖怪温泉

「こりゃ良い湯だ……」

 レイメイが湯船に浸かりながら上機嫌そうに言う。

「確かに。温泉の主の精霊が相当な力を持っているのだろう。普通の温泉以上に疲れが取れそうだな」
「ふむ。余らも儀式場側で温泉をよく利用しているが、以来すこぶる調子が良いな」

 ヨウキ帝の言葉にメルヴィン王が答えると、みんなで感心したように頷く。
 妖怪達も……湿気や水気が苦手な者を除いてみんなで温泉だ。付喪神達は若干温泉が不得手という者もいるようで。

「何というか……疲れが湯に溶ける……。皆の心が似た感じになって……余計に、心地が良い……」

 と、そんな風にジャグジー風呂の中で脱力気味なサトリである。豆腐小僧もジャグジー。一反木綿も肩までと言うのかは分からないが、湯船に浸かったりして。色々男湯は賑やかというかカオスな事になっている。

「おお。次はあれを試してみようではないか」
「蒸し風呂であったな」
「では行くとしよう、雷獣殿」

 と、打たせ湯から楽しそうに鎌鼬達と雷獣がサウナへと向かう。扉を開けると鬼達がサウナに入っている様子だ。入れ代わりに中からタダクニとイチエモンが出てきた。イチエモンは顔を隠す必要があるからか、タオルを覆面代わりに口元に巻きつけていたりする。

「流石に蒸し風呂で顔を隠しているのはつらい物があるでござるな」
「むう。少し涼まれた方がよかろう」

 と言った具合だ。うむ。中で腕組みをしていた鬼達もだが、無理はしないように気を付けてもらいたいところである。

 洗い場でサボナツリーの洗髪剤を使って泡だらけになっているのはケウケゲンである。何やら洗髪剤の使い心地に感動の声を漏らしているようだが。
 後、水に濡れるとケウケゲンも意外に細く感じるというのは新しい発見かも知れない。

 男湯のみんなはまあ、概ね温泉を満喫してくれているようで。

「これで熱燗でもありゃ最高なんだが」
「まあ、貸し切りの時なら大丈夫かと思いますよ」
「おお。話してみるもんだな。だがまあ、若い衆までそうなると収拾がつかなくなるから、里や宿以外じゃ控えとくがよ」

 レイメイがそう言うと、ジンが一礼する。ジンとしては若い鬼達の抑え役となっているからか、レイメイがこうして控えてくれるというのは立場上助かるのだろう。

「しかし、巻物の事が片付けば、頭領やシホ様だけで訪問という形もできるのでは」
「まあ、そうかもな」

 ジンの言葉に苦笑するレイメイである。

「巻物か。やはり、二つだけでは内容は掴めなかったのかな?」
「そうですね。最初の何行かは記述の形そのものを暗記していますが――」
「どうも最後の片割れが中央部のようなんだよね」
「レイメイさんの所有する巻物と合わせても繋がらない部分が多いようです」

 首を傾げるジョサイア王子に、俺とアルフレッドでそんな風に答え、魔力で空中に巻物の冒頭の記述を描いてみる。

「通常の術と違ってところどころの語句を暗喩やらに置き換えて……全体像が分からないと解読出来ないように作ってあるようだな」

 そう言ってレイメイは浴槽の外に置かれた手桶に視線を向ける。近くにいるみんなもその視線を追った。あの手桶に、風と水魔法のフィールドで覆われた巻物が入ってたりする。魔法を用いてあるのは湿気と水濡れを避けるためだ。

 レイメイは今回、タームウィルズを訪問するにあたり巻物を持ってきている。レイメイ自身が友人から預かったものである、というのもそうだが、転移で持ってきた方が襲撃等々想定した場合リスクも少ないだろう、という判断である。

 まあ、レイメイ、ジン、ツバキが不在とはいえ、鬼の里に残っている戦力も相当なものでレイメイ自身も信頼おける仲間に任せていると太鼓判を押している。鬼の里も人員の層が厚い、というか何というか。

 オリエの眷属である小蜘蛛達も糸のネットワークを張り巡らし、里周辺やマヨイガ周辺で警戒中。ハイダーも里に一体配置中ということで、異常があればすぐさま察知され、非戦闘員を避難させる手筈になっているし、通信機に連絡が入るという具合だ。

 そんなわけで巻物に関しては基本的には肌身離さず。湯船に浸かりながら常に視界に入る位置に置いてある形なので安心と言えよう。



 そうして男湯から上がり、休憩所へと向かう。

「ああ。テオ。今日は先に上がって待っていました」

 と、ほんのりと上気したグレイスが俺を見て相好を崩す。

「ん。お待たせ」

 そう答えるとみんなもにっこりと笑った。

「みなさんとお茶を飲みながら遊んでいたところなのです」

 アシュレイが言う。シホさんやツバキ、ろくろ首、二口女、付喪神らと一緒にカードやビリヤード、ダーツで盛り上がっていたらしい。

 カードはルールを教えて初心者同士の組み合わせで遊んでいたようだ。ろくろ首や二口女は劣勢を表情に出さないようにしているようだが、首の動きや後頭部のもう一つの口の動きに感情が出てしまうらしく、そこをツバキに見切られてしまったりしているようである。

 その近くではシーラがビリヤードの撞き方をオリエにレクチャーしていたりと……中々に謎な光景だ。オリエは真剣な表情でブレイクショットを決めて、何個かの玉がポケットに入るとにこにこと喜んでいた。

 ここにいない面々は――プールの方で遊んでいるようだ。人化の術を解いた御前がイルムヒルトと一緒に流れるプールを泳いでいたりと、楽しそうにしている。
 流れるプールに浮かぶコルリス。その背中に乗っているマルレーンとユラ。一緒にセラフィナとオボロ。
 プールサイドのステファニアとアカネがそれをにこにこと楽しそうに見守っているという構図である。ローズマリーも2人の近くで羽扇で口元を隠して見守っていたりするが。
 子供用のプールに氷を作って浮かべ、その上で寛いでいるのはラヴィーネとティールだ。今日は泳ぐよりのんびりしている様子である。

 コマチは――マヨイガの操作するティアーズを連れて水のカーテンや光のイルミネーションを作る魔道具を観察していたりと、充実した時間を過ごしている様子である。

 それから……オリエが連れてきた小蜘蛛達はまるでアメンボのように水面に浮かんで進む。多分糸を操作して水を弾いて浮かんでいるのかなという気がするが。三体一組で前の者に足をかけるようにして縦列を成してスライダーを滑ったりしている。

 まあ、小蜘蛛と言っても子犬ぐらいのサイズはあるが。ちょうどハエトリグモを巨大化させたような姿で、全身を覆う毛も多くてふさふさしているのが特徴だ。

 滑り降りたところで小蜘蛛達は顔を突き合わせ、万歳するように前足を上に掲げたりして……あれは喜んでくれている、ということでいいのだろうか。跳躍を繰り返しながらスライダーの上の方へ戻っていく小蜘蛛達である。

 まあ、総じて各々楽しんでいるようなので実に結構なことである。

「そう言えば、小蜘蛛達は人化の術は使えるのかしら?」
「後学のために使える者を連れてきている。まあ、妖怪達がそのままで受け入れられているので、使う必要もないと判断したのだろう」

 クラウディアの質問にそんな風に答えるオリエである。
 ふむ。後学のため、か。アルケニーのように半人型の蜘蛛の魔物がいるからか、或いは小蜘蛛達の中でも将来有望な実力者に社会見学をさせておくという目的か。いずれにせよ小蜘蛛達も結構優秀なようで。



 女性陣も火精温泉にはかなり満足してくれたようである。
 タームウィルズ自体も魔力が良好な環境であるし、火精温泉に入ったことで魔力が充実していると、御前やオリエも喜んでいた。

「ではな。余らはこれにて、一旦王城へと戻る」

 メルヴィン王とジョサイア王子はこれで王城に帰る形だ。ヨウキ帝や御前達に挨拶をした後、俺のところにもやってきて、そう言ってきた。

「はい、陛下。後の事はお任せ下さい」

 そう言って一礼する。
 アルフレッドは……工房の仕事も色々あるから、生活時間を時差分ずらし、このまま俺達と行動を共にする予定だ。

 さてさて。この後は植物園で高位精霊の面々を紹介したり、境界劇場で特別公演を鑑賞したり。フォレスタニアの案内もする予定なので色々と楽しんでもらえればと思う。
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