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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外191 境界都市と妖怪と

 妖怪達は見た目がバリエーションに富んでいるというのもあるが、狭い馬車に乗り込むには不向き、という者もいる。
 というわけでオープンタイプの馬車等に乗り込んだりしながら、車列を成して騎士団の護衛の下に王城へと向かうわけだ。

 どうしても人目を引いてしまう光景ではあるが……帝達はこれからの親善のために訪問しているのでタームウィルズの住人達に挨拶をしていくのは吝かではないそうだし、妖怪達もその性質上、注目を集めるのは悪い気はしないそうで。
 こうして大勢で共に進むのは個々人で活動するのとはまた違って、何となく浮かれてくる、とのことである。妖怪達にしてみると……百鬼夜行みたいなものだろうか。マヨイガもティアーズを通してではあるが、かなり嬉しそうにしている。

 タームウィルズの住人には、東にある国から要人と友好的な魔物達がタームウィルズを訪問する、ということで通達がいっている。ヴェルドガル王国や近隣の国よりも地理的に遠いので、文化、言語に違いがあるとか、魔物や精霊の姿も西国とは違う、といったような説明がなされている、とのことだ。

 だからというべきか、夜だというのに王城への沿道には住民達が集まっていたりする。

「ああ。あれが数日前から言われてた……?」
「東国の王様達と魔物――いや、妖怪だったっけ?」
「何だかすごいな……。いや、沢山の魔物や精霊をいっぺんに見たら、こんなもん、なのか?」

 沿道の声から情報収集してみれば、そんな噂話が聞こえてくる。見物人は特に妖怪達を見て流石に驚いている様子ではあるが。事前の通達があったからか混乱は少ない様子だ。
 沿道の警備に当たっている騎士や兵士も、周知する役を担っているので見物人から聞かれると澱みなく答える。

「先頭の車列にメルヴィン陛下。同乗なさっておられるのがヒタカノクニのヨウキ陛下と……それに続いてジョサイア殿下と、境界公御一家。そしてヒタカノクニの重鎮の方々であらせられる」
「特に大きな力を持つ高位の妖怪殿も前の車列に同乗しておいでだ。何でも、高位精霊に比肩するとか」

 と、そんな説明を受けて盛り上がる見物人達。手を振って歓声を上げる人々に、ヨウキ帝も相好を崩して手を振りかえしていた。
 ユラやアカネはこういう場に慣れていないのか、少し気恥ずかしそうにしていたが。

 ふむ。沿道に来ている冒険者達も妖怪達を東の国の魔物や精霊という事で説明を受けているからか興味津々といった様子だ。

「境界公と知己があって友好的って話だが……また随分と変わった姿をしてるのが多いな」
「この前の大きな鳥も相当変わってたけど、あれとは別口なんだろ?」
「あの鳥なら、ほら。ステファニア様やアシュレイ様の使い魔と一緒だ」
「ほんとだ」

 と、ティールも新顔だから話題に出ていた。コルリスやラヴィーネに関してはすっかり馴染んでいる印象だが。

「何というか、妖怪達に関しては初めてという気がしないのだけれど」
「それは……ああ。分かった。迷宮の新区画に出る魔物の雰囲気と似てるんだ。ほら。服装とかさ」
「それじゃ、もしかしてあの新区画は東国と共通点があるってことかしら?」

 冒険者達の中には妖怪達の服装等から夜桜横丁との共通点を見出す者もいるようだ。流石に冒険者達の観察眼は優れているという印象だな。
 ともあれ、ヒタカの面々は概ね好意的に受け止められているようで。

 そうしてみんなを乗せた車列は王城に到着する。
 そこでメルヴィン王からヒタカノクニとの正式な交流やこれからの友好、親善の宣言、ヨウキ帝から返礼としてヴェルドガルとの良好な関係構築を願う演説が行われ、王城での歓待は幕を開けたのであった。



 迷宮産の食材を使った料理。騎士団と魔術師隊の航空ショー。西方の楽器を奏でる宮廷楽士達。どれもヒタカの面々には珍しい物ではあるだろう。東国に飛竜がいないというのもある。

 それを受け、どうやらメルヴィン王達の間では若い飛竜か地竜の番をヒタカに贈ってはどうか、という話が持ち上がっているようだ。番の上に転移門で気軽に行き来できるとあれば竜達も寂しがらないし、子が生まれたら更に交流が深められる、と将来を見据えているところもあるようで。

 今後の国交の話であるとかは、仙人と巻物の一件が片付いてから腰を据えて、ということになる。

 そんなこともあって、俺もリンドブルムの主人であるから、どんな性格なのかとか、どんなものをどれぐらい食べるのかとか、色々と質問をされた。

 人の言葉をかなり理解する知性の高さ、社会性、運動能力の高さ等から、かなり人に慣れる。訓練すれば高度な内容の編隊飛行等々ができるのは、騎士団達が実演した通りだ。

 タームウィルズの騎士が乗るのは飛竜、地竜で統一されているが、ドラフデニアやシルヴァトリアはグリフォンやヒポグリフ等、他の飛行型幻獣に乗る、ということもあるが。

 飛竜、地竜達の食費等はそれなりに、というところだ。広義では魔物に分類されるが、体内の魔石成分はやや少なめなので、その分は通常の食事で補わなければならない。
 食生は肉食寄りの雑食性で個体によって好みの差が大きい。肉はほぼ例外なく喜ぶが、個体によっては魚や野菜なども割と嬉しそうに食べたりする。

 亜竜種だけあって、身体は丈夫。寄生虫に注意してやる必要はあるが、魚だけでもきちんと育つという情報もある。魚好きの個体であれば、港町が近いヒタカの都でも食糧の確保をしやすいと言えよう。

「――といったこともあって、ある程度の所領を持つ貴族は竜駕籠を運用できる程度であるならば問題なく、といった程度の経済的な負担でしょうか。騎士団に関して言うならば、タームウィルズは迷宮の存在のお陰で、あれだけの数を抱えていても維持できるというところはあります。ですので、タームウィルズは近隣諸国や他の都市に比べても竜騎士団の規模が大きい、という部分はありますね」
「なるほどな……。参考になる」
「個体の好みを考えて選定した方がヒタカノクニでも飼いやすいかも知れぬな。条件に合致するものがいれば良いのだが」

 と、そんな風にメルヴィン王が言って、相好を崩すのであった。



 そうして王城での歓待も終わり……皆で火精温泉へ向かった。
 温泉でゆっくり温まってから植物園を見たり、境界劇場でイルムヒルト達の特別公演を見たり、という流れになる。温泉も劇場も、通常の一般開放の時間が終わって貸し切りである。
 メルヴィン王達は温泉に入ったら、王城に帰って就寝。後の事は俺達が引き継ぐ、というわけだ。

「こんな立派な温泉に入れるなんて思いませんでした」
「ふふ、役得だわ」

 上機嫌な豆腐小僧とろくろ首であるが……妖怪達はみんな、温泉と聞いてテンションを上げている様子だ。

「この温泉……随分と強い力を感じるな」
「これは良いな。実に良い。入るのが楽しみだ」

 レイメイやオリエも例外ではない様子である。元々温泉好きであることに加え、精霊の力を強く感じる部分も後押ししている……というところだろうか。
 まあ、楽しんでもらえれば俺としても嬉しい。

「では後程、休憩所で」
「はい。後程お会いしましょう」
「温泉、楽しみですね」

 喜んでいるのは妖怪達だけではなく、ユラやアカネ、帝達も、と言った様子だ。

「ふむ。もしかすると妾は温泉から上がっても外の遊泳場で泳いでいるかも知れぬがな。いやはや、どうにも浮ついてしまっていかんな」

 と、御前が笑う。ああ。御前は水の神性を持っているし、泳ぐのも好きなわけだ。まあ、朝から訪問しているわけだし歓待の時間はたっぷりあるからな。のんびりと湯に浸かって満喫していってもらいたいものである。
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