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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外190 帝と大妖怪

 タームウィルズ側の転移門を仕上げ、水晶板を設置。
 それから水晶板に対応するティアーズをマヨイガに預けた。新たに魔法生物を作るまでの臨時ではあるが、特殊な立ち位置のティアーズになるので少しだけ塗装を変えて他のティアーズとは区別がつくようにしている。
 シーカーやハイダーではないのは、機動力重視、というところだ。
 ともあれ、後は帝と御前達の到着時刻を合わせ、タームウィルズに来るのを迎えるだけだ。転移港の迎賓館で茶を飲みながらのんびりと待つ。

「――マヨイガの依り代はどんなものが良いか聞いてみたら、人型が良いって言っていたな。屋敷が旅館風だし、代理にするならそこから連想されるようなのがいいって」

 と、マヨイガの希望をみんなに伝えておく。マヨイガが操作するティアーズも一礼するような、或いは頷くような動作で軽く縦に動いていた。

「旅館から連想される代理というと、そこの主人か従業員ということになるのでしょうか?」
「と言いますと、女将さんや仲居さん風になるのですかね?」

 グレイスが首を傾げて、コマチが言う。

「んー。そうなるのかな。あっちの様式に合わせた方が良さそうだけど……マヨイガはどうかな?」

 尋ねてみるとあちら側に配置したハイダーの水晶板からマヨイガの声が聞こえてくる。ふむ。どうやらマヨイガも乗り気なようではあるかな。

「もう少し希望を聞かせてもらってもいいかな? 例えば――」

 人間型と言っても男性型、女性形、或いは機械型等で分かれてしまうが、そのあたりはどうなのだろうか。
 色々尋ねてみたが、マヨイガ自身は肉体がないのでそのへんの違いはぴんと来ないそうだ。時々迷い込んだ人間を持て成したこともあったが、機微についてはよく分からないのでその辺は俺達にお任せしてもいいだろうか、とのことである。
 ただ、あまり強そうだったり怖そうだったりでは持て成すのに困る、と言っていた。

「女性型というのは、今まで工房としてはあまり作っては来なかったわね。試しに作ってみるというのも悪くない気がするわ」

 と、ローズマリーが思案するように顎に手をやって言う。彼女としては新しい事に挑戦したい、というところだろうか。
 んー。まあ、マヨイガの希望にも合致はするかな。

「じゃあ今回は女性型で、かな」
「資材は揃えておくよ」
「いやあ、作業に取り掛かるのが楽しみですね」

 アルフレッドが笑みを浮かべ、コマチが期待感に目を輝かせていた。中々二人とも気合が入っている気がするが。
 ふむ。五感リンクができるように感覚的な回路は組み込みつつも、あくまでマヨイガの操作する依り代という形になるから、魔法生物というよりは魔法人形を作る、という形になる。
 今すぐに着手するというわけではないし、威圧感や恐怖感を与えない造形、使用する素材等々も含め、色々と案を練っておこう。

 そうして、マヨイガと話をしていると約束した時刻も近付いてくる。
 メルヴィン王やジョサイア王子を乗せた馬車も転移港にやってきて、来客を迎える準備は万端といったところだ。

「これはメルヴィン陛下、ジョサイア殿下」
「おお、テオドールか」

 早速挨拶に行くとメルヴィン王とジョサイア王子が相好を崩す。

「転移門はきちんと稼働しているようだね」
「そうですね。こちらは滞りなく。王城での歓待の後もお任せください」
「時差、か。苦労を掛けるな。そなたは疲れてはおらぬか?」
「ありがとうございます。僕は大丈夫ですよ。そろそろ身体を慣らしておかなければ、というところもあります」

 帝にしてもレイメイにしても、まだ仙人と巻物関係の一件が解決していないので、あまりこちらに長居はできないというところはあるが……それでも朝のヒタカから夜のタームウィルズに来て、王城での歓待を受け、そのまま宿泊したり帰る事になる、というのは些か物足りないだろう。
 王城での歓待が行われた後は、そのまま俺達が歓待を引き継ぎ、タームウィルズ、フォレスタニア等々を案内して回るという話になっている。

 俺達としても満月に備え、ヒタカの現地時間に合わせて活動できるよう、生活サイクルをずらし、身体を慣らしておいた方が良いというのもあるので一石二鳥だ。
 まあ、魔法で眠気を取ったり体力回復したりといった対策は必要ではあるが。後は体調を崩さないよう、循環錬気で整えておけば問題はあるまい。

「しばらくの間は王城からの連絡や使いも、境界公の生活時間に留意し、合わせて動くように通達しておいた」

 王城側でもきっちりバックアップしてくれるというわけだ。具体的には、王城からの使い等々がやってくるのなら、俺達がヒタカに向かった時のように夕方以降に合わせてくれる、ということになるだろうか。

「ああ、それはありがたいですね。ですが、何か火急の用であればお気になさらぬよう。眠気や疲労等は、魔法である程度融通が利きますから負担も少ないですので」
「了解した。だが、無理はしないようにね」

 と、ジョサイア王子が苦笑する。

 メルヴィン王達と挨拶をしていると、通信機に連絡が入った。都側の準備ができた、という記号での合図だ。
 帝達と御前達。タイミングを合わせられるように連絡を返して、来訪の時間が合うように調整するのは俺達の役割だ。御前達の状況を伺い――そうして問題がなさそうなので両者に決めておいた記号で返信すると、二つの転移門から続々とヒタカの面々が現れる。

 都側からはヨウキ帝、ユラとアカネ、タダクニ。それにイチエモンもいる。鎌鼬達と雷獣も一緒だ。イチエモンに関しては多忙ではあったが、前回のアヤツジ一派との戦いでも色々動いてくれたので、是非招待したい、というところがあった。なので歓待には顔を出してもらった形である。

 それから――もう一方の転移門から最初に御前、レイメイとシホ、オリエの四人が現れ、それに続くようにジンやろくろ首、小蜘蛛であるとか付喪神であるとか、次々と妖怪達が現れる。

「おお……。これは何というか……」

 バリエーション豊かな妖怪達のインパクトは結構大きいな。
 メルヴィン王やジョサイア王子はどこか楽しそうにしながらもかなり驚いている様子だし、ヨウキ帝もこれだけの数の妖怪達が結集しているのは初めてらしく、妖怪達を見て興味深そうに眼を見開きつつ頷いていた。

 一方の妖怪達は……どちらかと言うと転移港や王城セオレムが気になるらしい。
 ろくろ首がセオレムを見て首を長く伸ばしたり、ケウケゲンが体をのけ反らせて見上げたりしていた。

「これは……凄いのう」
「まさか、これほど巨大な城とはな……」
「何と見事な」

 と、御前達も興味深く王城セオレムを見上げている様子である。ユラやアカネ、タダクニにイチエモンも妖怪達とは接したことがあるからか、まず王城に目が行っている様子で。

 転移後の光景を見て各々驚きが大きいようではあるが、少し落ち着くタイミングを見計らって転移港から迎賓館前の広場まで移動してもらい、まずは初対面の顔ぶれを紹介することから始める。
 具体的にはメルヴィン王とヨウキ帝、御前達を引き合わせる形だ。

「お初にお目にかかる。私はヒタカノクニを預かる、ヨウキと申す」
「これは丁寧な自己紹介痛み入る。余はタームウィルズを預かる、メルヴィン=ヴェルドガルと言う」

 そう言って、メルヴィン王とヨウキ帝は笑顔で握手をし、これからの交流について期待すると言葉を交わしていた。握手についてはヒタカでは馴染みが薄いところがあるが、友好を示す挨拶と説明すると帝も気に入ってくれたらしい。

 それから御前達を紹介する。メルヴィン王は高位精霊とも接する経験が多いということもあり、割と心得たものという感じで御前達と笑顔で挨拶と握手を交わしていた。
 ヨウキ帝と御前達は――これが初対面ということになる。

「実は今日、会えることを楽しみにしていたのだ」

 と、ヨウキ帝が笑みを浮かべる。

「アヤツジ一派との戦いでの助力や、巻物の件での共闘の話には感謝しているし心強く思っている。人と妖怪と言う種族の違いは有れど、友誼を結び、絆を育てていく事ができるならば嬉しい話だ。これから先、どうか宜しく頼む」
「ふむ。妾はあまり大したことはしておらぬのだがな。だが、この者達とも友好を望むというのであれば、妾としては吝かではないな」

 御前は自身を慕う妖怪達を見回し、それから帝と握手を交わす。

「まあ……都の術者とは何度か立ち会った事もあるが、儂としては遺恨はねえな」
「文献や伝聞にてレイメイ殿の逸話はかねがね。殺生を好まず、義理人情に重きを置く、筋の通った鬼殿と聞いている」
「あー。そんな大層なもんじゃねえさ。好きか嫌いかで動いてただけだからな」

 レイメイは苦笑しながらも帝と握手を交わしていた。その光景をシホさんが朗らかに見守っていたりする。

「ふむ。人間の事情はよく分からぬが。テオドールの味方であるというのなら、我の味方とも言えよう」
「大蜘蛛のオリエ殿か。大妖怪が力を貸してくれるというのは心強い。今回の事を機に友好を深めていきたいものだ」

 そんな帝の言葉にオリエは機嫌を良くしたのか、御前達と同様に握手に応じていた。帝と御前達の顔合わせも無事にこなせた印象ではあるかな。
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