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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外189 迷宮屋敷

「これは……どうなっているのかしら」
「少しばかり中の構造を見てみたいところではあるわね」

 廊下が伸びている様子を見たローズマリーが驚いたような表情になり、ステファニアやコマチが期待に目を輝かせる。

「私としては迷宮を彷彿とさせられるところがあるわね」

 そんな風にクラウディアが言うと、ローズマリーとステファニアは確かに、と頷く。
 廊下にちらちらとした燐光が舞い、小さな音が響くように鳴る。
 グラスハープのような、不思議な音だが……ああ。これは言霊の魔道具で翻訳が可能なようだ。家と同化したことで音でのコミュニケーションも可能になったわけか。

「危険はない、と言っておるな。迷ってもここに戻してくれるそうだ」

 御前がそんな風にマヨイガの言葉を翻訳してくれる。

「音でなら何となく意思も通じるようです。そういう事なら、少し中を見て回ってみますか」
「面白そう!」

 セラフィナが明るい笑顔で言うと、マルレーンとステファニアが揃ってこくこくと頷いた。
 では、少しばかり屋敷の中を探検してみるとしよう。自分で作った屋敷を探検というのも妙な話だが。

 廊下を進み、適当なところで障子を開けて部屋の中を見てみる。欄間の装飾等々を見てみれば俺が作った覚えもあるが、部屋の広さが一回り程違っていたりする。
 隣の部屋も覗いてみれば、作った覚えのない装飾等が見受けられたりして。

「なんだか、僕が作っていないものもありますね」
「聞いた話ではマヨイガは取りついた家の中に特殊な領域を作るらしくてな。今まで取りついてきた家々の記憶を触れられるような形で再現できるそうだ」

 と、御前が教えてくれた。

「それはまた。となると、記憶から色々変化をつけてくれているわけですか」
「そうなるかの」

 となると、俺の知らないものはマヨイガの記憶の再現、ということになるのかな。畳の数が増殖するように敷き詰められていったのもそれだろうか。
 足元の畳に触れてみるが、触れた質感等々は本物と変わらない。試しに魔力を通してみると、水面が揺らぐように表面に波紋が広がる。

 一応見分ける方法はあるな。この反応から、この畳は再現物だというのが分かるが……。

「まあ、あまり本物かどうかをつぶさに見ていくのも無粋かな」

 マヨイガは、家人や客への持て成しとしてこうやって家を広げて見せてくれているのだろうし。そんな俺の言葉にマヨイガが音で答えてくれる。何となく礼を言われたような気がした。

「テオ、これを」

 と、グレイスが声をかけてくる。グレイスは押し入れや床の間の横の天袋や地袋など、収納の中がどうなっているのか見ていたようだ。押し入れには布団や枕などの寝具が入っていたようだが……何かあったのだろうか。
 グレイスの見せようとしている天袋や地袋の中を覗いてみれば、その向こうにまた広い部屋が広がっていたりして。

「本当に迷宮みたいですね」
「ん。面白い」

 それを見たアシュレイが苦笑し、シーラが耳と尻尾を反応させる。
 流石にコルリスやティールは天袋や地袋を潜っていくのは窮屈そうだからこちらに進むのは止めておくとして……。
 何はともあれ、侵入者がいたとしても、目的の場所に真っ当な手段でたどり着くことはできないだろう、というのは予想できる。というか、探索を断念するレベルだな。
 試しにエッシャーのだまし絵みたいなものを知識として教えたりしたらどうなるのかなど、興味は尽きない。

 んー。しかしそうなると……逆にマヨイガが味方なら、俺の想像しているような事もできるのかな。

「大広間に行きたいんだけど、良いかな?」

 と、マヨイガに呼びかけてから反応があるのを待って、まだ開かれていない障子を開くと、そこは確かに俺が作った大広間だった。しっかりと縁側と庭園も見える形だ。

「ああ。これは便利ね」

 そう言ってイルムヒルトが相好を崩す。

「そう言えば……隠し通路や地下の避難部屋はどうなっているのだろうか?」

 ツバキが言う。

「ああ、それは確かに気になりますね」

 床の間のどんでん返しを開いて覗いてみれば、地下に続く階段の脇に作った覚えのない扉がついていた。
 ああ。ここから他の場所に出ることも可能になったわけだ。非常時用の避難通路としての役割が増している感じがする。



 地下区画も見てみたが、見知らぬ扉が増えていた。
 そこを潜ればいきなり外に避難したり、3階の部屋に出たり、風呂にも繋いでもらったりといったことも可能なようだ。
 基本的には敷地内であればどこからどこにでも繋げる事が可能なようで。

「これは曲がり角で繋いでいけば、無限に続く廊下なんてものも形成可能なんだろうな」

 俺の言葉にマヨイガが可能だ、と音で答えてくれた。
 一方でマヨイガが一時的に干渉しないようにして宿泊客のプライバシーに配慮、といったこともできるらしく、ある程度普通の屋敷として利用することも可能だそうである。
 食材があれば料理も作って振る舞えるし、風呂の用意から掃除までやってくれるとのことで。至れり尽くせりだな。

 御前の話では、家の中にいる客を持て成し、客が喜んでくれればそういった感情を糧に力を得ることができるらしい。サービス精神が旺盛なのもそれが理由なのだろう。

 そうして大広間に戻ってきて腰を落ち着け、そこで話を続ける。

「これならまあ、集まって騒ぐ分には不都合はねえな」
「というよりも、その方がマヨイガにとっても喜ばしいのだろう」
「では、折を見て宴会を開くというのが良いかも知れんのう」

 そんな言葉に妖怪達が湧く。御前、レイメイ、オリエの勢力から1人ずつ、つまり3人が常駐する形の当番制でマヨイガの警備役を担う、ということで話が纏まっていく。元より、付喪神達もここにいるので、人員は十分といったところだ。

 しかし、マヨイガ自身はここから動けない、か。ここ以外の場所で何かする時にマヨイガは動けないというのも、些か気になってしまうな。

「……家の中にある備品を動かしたり操ったりといったことは可能なのでしょうか?」
「それは問題ないと思うが、何か思いついたのかな?」

 御前が首を傾げる。

「そうですね。シーカーやハイダーのように遠隔の物を見聞きできて、移動も可能な魔法生物や魔道具を備品として用意して……それらの情報を得ながら操れるような形を取る、というのはどうでしょうか?」
「ほう。そうなると……マヨイガが家に憑いたままでも外で活動できるということかな?」

 御前が興味深そうに尋ねてくる。マヨイガも反応しているのか燐光が舞い、グラスハープのような音が響く。何となく嬉しそうというか、期待している感じがあるな。

「そうなります。水晶板を設置すれば、付喪神達もここにいながら映像を見ることができますし。五感リンクを可能にするとか、会話を可能にしておくとか、そういった案も浮かびますね。転移門をこれから預かってもらうのに、何も返せないというのも何なので」
「それは……面白そうですね……! 是非お手伝いさせて下さい!」

 コマチはやる気満々といった様子だ。まあ、それも巻物の後で、ということになるかな。きっちりしたものを作るまでは、一先ず改造したティアーズかシーカーに出張しておいてもらい、双方向で通信可能にしておく、というのが良さそうだ。

 ともあれ、ヒタカとの間の転移門の設置と起動、その周囲の設備も完成した。後は転移港側の門の意匠を整えてやれば今日予定していたヒタカでの仕事は完了である。
 夜にタームウィルズにやってくる帝達と御前達を迎えることになるだろう。妖怪達がタームウィルズを訪問する事も周知してもらっている。それまでに転移門を行き来して、水晶板モニターを設置したりティアーズを預かっておいてもらうとするか。
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