挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

939/1325

番外188 家具行列

 さて。御前の所領である平原は、あちこちに地下水脈が通り、それが地上に池として見えていたりもする場所だ。
 屋敷を作る場所は平原から外れる元緩衝地帯ではあるが、平原の性質を念頭に置くと、屋敷を建てる場所は多少慎重に選定するか、土台部分の改良から行う必要がある。
 地盤沈下等々も考慮しなければならないからだ。

「ああ、コルリスが見つけたみたい」

 ステファニアがそう言って視線を送る。そちらを見ると、緩衝地帯の森の上に飛び出して、軽く魔力を発光させながらもこちらに向かって手を振るコルリスの姿があった。

「あのあたりか」

 というわけで、皆と連れ立ってコルリスが合図を送ってきた一角へ移動する。
 地盤のしっかりしているところに家を建てたい、ということでコルリスに地下の様子を探ってもらっていたのだ。

 森の中と言っても大して奥までは進まない場所だ。木々の間で待っていたコルリスであるが。さてさて。ウロボロスとオリハルコンを介して魔力を地面に送り込み、地下の様子がどうなっているのか見てみれば――ああ、これは確かに良い。土の層の下に大きな岩盤があって、かなりしっかりとした場所のようだ。

「流石。これならかなりの建造物を作ってもビクともしないと思う」

 俺の言葉に、近くにぺたんと座っていたコルリスはふんふんと頷き、ステファニアに撫でられていた。
 というわけで木魔法を用いて、まずは森の木々を歩かせて移動。屋敷を建てられるだけの十分なスペースとそこに向かうための小道を作っていく。

「おお、これはまた面白いのう」
「また……これだけの木を一斉に動かすとはな」

 そんな光景に面白がっている御前や顎に手をやって感心しているレイメイを始め、妖怪達も盛り上がっている様子だ。必要なスペースを確保して下準備ができたところで、早速着手していく。

 畳に襖等々の内装用の家財道具は用意してくれる、とのことなので、後は用意された資材を使って家屋部分を作っていけば大丈夫だ。
 用意された資材の量や魔法から作れる屋敷の大きさを見定め、それに応じて話し合いを進めて屋敷の構造、間取りを決定していく、というのが良いだろう。

「さて。転移門を1階のどこかに設置するとして……」
「共同管理ならあちこちから妖怪が集まる事になりそうですね」

 と、グレイスが言う。

「そうなると……大人数が泊まれるお部屋が必要でしょうか?」
「厨房や浴場も大きめのものが求められるでしょうね」

 というのが、アシュレイとローズマリーの意見である。ふむ。それは確かに。

「後は……親睦を深めるなら宴会場とか遊戯室とか?」
「それは良いわね。演奏を聴かせる事もできるし」

 シーラが首を傾げてそう言うとイルムヒルトが相好を崩し、マルレーンも嬉しそうにこくこくと頷く。

「それは良いな。我は賛成だ」

 オリエが真剣な表情で言うと、妖怪達もうんうんと首を縦に振って同意していた。この前の宴会も気に入ってもらえた、ということだろう。
 何となく……方向性が定まってきた気がしないでもない。旅館をイメージして作っていく、というのが良さそうだ。

「人の来訪はあまり想定していないけれど、都の知り合いぐらいは来ることも、可能性としてはあるわね」
「それなら乗り物を停めておいたり、馬を繋いでおいたりする場所も必要かしら?」

 これはクラウディアとステファニアの意見である。

「それじゃあ、こんな感じかな」

 みんなの意見を反映して、土魔法の模型を作っていく。
 まず塀で土地を囲み、平原、鬼の里、黒霧谷のそれぞれの方向に対応した門を設ける。
 まあ、三方向だけでは中途半端なので、結局塀の四方に門を作るという方が収まりも良いか。

 一階に縁側を置き、障子を解放すれば庭園を見る事のできる大広間を配置する。利便性を考えるなら大広間の近くに厨房、大浴場、トイレを設置していくというのが良いだろう。
 大広間は宴会も可能だが会議、会合といった目的で使う事もできるし、押し入れのような収納も作っておけば布団もすぐ用意できるというわけで、寝泊まりも当然可能だ。
 中央を襖で仕切れる形にして、目的と規模に応じて使い分けられる。

「こりゃいいな。日当たりも良さそうだし、こっちの方角なら縁側から月見酒もできるか」

 そう言ってレイメイが笑う。

「庭園と縁側、大広間の配置はこれで良さそうですね。床の間の壁をどんでん返しにして、有事の際は別の場所に抜けられるように、避難用の地下通路を作っておきましょうか」

 人が集まる場所に隠し通路と避難部屋を作る。まあ、念のためというかお約束としてだ。
 部屋から見える光景等々を考えつつ、客室や必要と思われる各種設備を模型上に配置していく。
 客室の大きさも用途によって様々だ。大人数で泊まれる大部屋もあれば、数人で泊まる事を想定している部屋もある。

 一階玄関から入って二階へ続く階段。三階へ続く階段。二階、三階部分の客室と各種設備。それに外観。基本的には純和風のお屋敷、という感じである。
 そうして必要なものを配置していき……玄関から真っ直ぐ廊下を奥に進んだところに石造りの間を配置する。ここが転移門を設置する場所になる。
 しかし石造りの間に向かうためには正面玄関から廊下を真っ直ぐに進んだ突き当りの部屋に入り……更に二、三度と襖を開けて奥へ奥へと進む必要がある構造にした。

 要するに襖で何度か仕切られた、全体でみれば縦長の大きな部屋の一番奥に転移門、というわけだ。

「この構造は?」
「転移門を管理するに当たり、見張りなり門番なりが常駐して守れる部屋が必要かなと。襖で仕切ってそれぞれに監視用の魔道具を配置することにより、侵入者の存在を監視できるという寸法です」

 最重要設備はここだ。必ず通らなければならない場所を設ける事で、人の出入りの把握やコントロールが容易になる。マヨイガは家の構造を変えられる、と言っていたが……基本コンセプトを示しておけばそれに合わせてくれる部分もあるだろう。

「なるほどな。襖で何度も仕切られていれば、その度に伏兵や待ち伏せ、罠を警戒しなきゃならねえからな。奥まで一気に踏み込むようなことはできねえってわけだ」
「よく考えられておるのう」
「そういう事です。転移門の間が石造りなのは……まあ、強度の確保の他、靴を脱いだり履いたりも容易になるように考えてと言いますか。転移港という外から、屋敷の中に転移してくる形になってしまいますので」

 都の屋敷は転移門を設置した場所が離れであったから、靴を履いたままでの出入りが可能だが、こっちは少し違うからな。

 庭園のデザイン等々、色々話し合い、そうして出来上がった模型を元に実際の魔法建築を進めていく。

 まず転移門の間を作るために、魔法陣を描き、クラウディアに起動してもらってから土台、基礎となる部分を作り上げていく。
 石柱を立てて、魔石を埋め込めば一先ず転移門の設置は完了だ。マヨイガが到着してから契約魔法を結ぶので、まだ起動させてはいないが。

「転移先を分かりやすくするために、毎回門に意匠を刻んでいるのですが、どうしましょうか」

 と、御前達に相談してみる。

「それなら我らの宴会風景を描いた形で良いのではないか?」

 オリエが言う。

「ふむ。象徴や意義を考えるならそれもありだろう」
「あー……。人と鬼の部分は、儂やシホとは違う姿にしてくれるなら構わんがな」

 レイメイとしてはモチーフとしてストレート過ぎるのも気恥ずかしい、というわけだ。
 ふむ。しかしそうなると……人、鬼、蛇、蜘蛛を交えた宴会、ということになるだろうか。あまり賑やかすぎる印象になっても門の意匠として落ち着きがないから……そうだな。

「こんな感じではどうでしょうか」

 楓の葉のデザインを門の上の方や全体にあしらい、それを見上げながら、みんなで酒杯を掲げたり煽ったり演奏したりと、紅葉を愛でながら宴会をしているというような風景を描いたものを模型として作ってみる。

 楓はあまり季節にそぐわないが、これから先も親睦が深まっていく事を願って、という形だ。都が桜だったのでこっちはまた別の植物を、という部分もある。

 そういった内容や考えを説明すると御前が相好を崩した。

「おお。敢えて楓を主軸にしているあたり何とも風流よな」
「これから先の事を描いたっていうのも悪くねえな」
「では、紅葉の季節にまた宴会を行うとしよう」

 と、当人達の反応は中々良いものだったので、転移門のデザインも決定だな。
 では……構造から何から纏まったところで、実際に作っていくとしよう。



 転移門の設置。意匠も仕上げたら、屋敷作りに入る。地下区画の避難場所を作り、基礎、土台を作り――木魔法を用いて柱を立て、梁を通して仕上げていく。
 順番待ちのウッドゴーレムが変形して柱になり、梁になり……或いは床や天井に変形していく。

「見た目にも飽きが来ぬのう。テオドールの建築は」

 と御前は上機嫌である。妖怪達も拍手や喝采を送ってくれるので俺としても割と楽しく作業が進められる。今回は森での作業ということで、前回の平原では立地的に不参加を余儀なくされた釣瓶火などの妖怪も見物に加わっている。
 ろくろ首がイルムヒルトと一緒に演奏を始めたりして。賑やかな空気の中で屋敷を仕上げていく。
 壁や塀は漆喰。屋根は瓦屋根。畳や襖、障子は勿論家具等もまだ入っていないのでまだ中はがらんとしていて些か寂しいが……色々揃って来ればかなり立派なお屋敷になるのではないだろうか。
 水回りは導水管を敷設して地下水脈から供給させてもらう感じだ。庭園は相談した上で実際の水を使わず枯山水ということで、岩を配置し、砂に波紋を描く形で池を表現していく。

 後は庭木などを植えれば、かなりそれらしい仕上がりになるだろう
 そうして作業を続けていき、俺の作業は概ね終わったという頃合いで――それは来た。

「おお。来たようじゃな。あの先頭におるのがマヨイガよ」

 庭園での作業を止めて御前の言葉に視線を向けると――鏡淵のある方向から大きな光球がこちらに向かって浮遊してくるところだった。
 家の付喪神、と言っていたが……かなり強い精霊に近い存在のようだ。
 特筆すべきは、障子に襖や畳や箪笥、屏風に釜に薬缶、布団……と、様々な家具類が光球に続くように行列を成して飛んできていることだろうか。

「ん。面白い」

 シーラが言ってマルレーンがにこにこしながら頷く。

「マヨイガだけではなくて……宴会の時に見た付喪神もいますね」

 付喪神ではない……魔力反応を感じない普通の家具も一緒に飛んできているようだが。障子の格子一つ一つに両目がついていたりするのは……目目連という妖怪だったか。まあ、障子の付喪神と言えばそうだろう。

「うむ。マヨイガの同居人というべきか。普通の家具も多いぞ。取りつく家が変わるから、前の所から色々持ってきたのだろう」

 なるほど……。いずれにせよ、マヨイガ本体に実体はないようだが。

「こんばんは!」

 セラフィナが手を振ると、マヨイガの本体が光量を上げたり下げたりして挨拶を返してくる。マクスウェルを彷彿とさせる返事の仕方である。俺も一礼して挨拶をしておこう。
 マヨイガだけでなく、目目連やら独りでに開閉する箪笥やらが挨拶を返してくれた。コルリスやティール達、動物組も手を振りかえす。

「どうかな、マヨイガ。この屋敷は」

 一行が近くまで来たところで御前が尋ねると、マヨイガはやはり明滅や浮遊の仕方で返してくる。明滅しながらぴょんぴょんと弾んで……何となく嬉しそうにも見えるが。
 そうして、マヨイガとそれに率いられた家具達、付喪神達が玄関から家の中にぞろぞろと入っていく。家具の大名行列といった印象だ。

「まずは説明を」

 というわけで、転移門の事や契約魔法回りの話をマヨイガも交えて行う。大丈夫そうか聞いてみるとマヨイガはあたりを伺って、壁や柱に触れたりしていたが、何度か明滅し、最後に光球全体で縦に浮き沈みするような仕草を見せた。
 頷いた、と見て間違いない。大丈夫、ということだろう。

「では、契約魔法を結んでから、転移門を起動させるわ」

 クラウディアが御前、レイメイ、オリエ、マヨイガを交えて契約魔法を結ぶ。それから転移門を起動させた。
 ここまでは予定通り。マヨイガが家の中心部の床に触れると――その変化が起きた。

 家具達が予め場所を決めていたとばかりに猛烈な勢いで配置されていく。畳が一枚。一枚が二枚に増殖するように、あっという間に敷き詰められていった。先程までは色あせた畳だったというのに、新品同様の色合いとイグサの良い香りが広がっている。

 家の中全体にきらきらと燐光が待って、格調高い絵襖やら、貼り直されたばかりの真っ白な障子やら、風格のある箪笥やらが並んでいく。
 作ったばかりでがらんとしていた屋敷が――あっという間に家具類から内装まで揃ってしまった。これがマヨイガの力、というわけだ。
 廊下の奥の転移門はどうかと覗いてみると、閉ざされていた襖が奥の奥まで順々に開いて、転移門の間までを見せてくれる。

 いや……。これはすごいな。マヨイガがやっているのだろうが。しかも俺が作った時より明らかに転移門の間までの距離が長くなっている。
 というか、外から見た時と、中の広さが一致していない。既にこの屋敷はマヨイガで、内部は異空間に近くなっている、というわけだ。
 マヨイガは漢字表記で迷い家、だったか。家の中を迷宮化させるぐらいはできそうだな。

「マヨイガは……随分とこの家が気に入ったようだぞ。家の作りがしっかりしているし、素材に良質な魔力が篭っているから、今までの家とは比べ物にならない程に力が発揮できるそうだ」
「なら良いのですが」

 構造強化やら耐火やらも色々やったから、だろうか。
 廊下の脇に配置された目目連なども、目を細めて上機嫌そうな様子だ。まあ……マヨイガや付喪神達が気に入ってくれたのなら良しとしておこう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ