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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外185 東国の魔法建築

「この屋敷は伝統を踏襲しつつも比較的新しい様式を取り入れようという試みが用いられていてな」
「確かに……内裏や巫女寮、陰陽寮ともまた少し違いますね」

 帝の言葉に周囲を見回しながら頷く。
 屋敷の外観は都の街並みに馴染むよう、あまり差異が設けられていなかったが、中身は結構違う。広々とした敷地に、寝殿造の伝統的な様式とはまた異なる配置で建物や庭が作られている。

 母屋、使用人の寝泊まりする場所と、いくつかの建物に分かれているが、内装等々も含めて寝殿造の伝統からの派生であり――総じて例えるならレイメイの住んでいた武家屋敷に近い様式、という印象だ。

 目を引くのは庭園で、宿泊客の居室の、縁側の障子を開けて見てみれば、そこは水が引かれ、足場となる庭石が配置されて、濡れ縁のすぐ下が池になっている、という作りだ。

 池の辺に灯篭が配置されていたり鯉が泳いでいたり、見た目にも涼しげで風流な印象である。水の流れる音と、時折聞こえるししおどしの音。楓が植えられていたりして、秋口になればきっと綺麗なんだろうな、という気がする。

 ししおどしが珍しいのか。音の発生源を見つけるとシーラやマルレーン、ステファニア、セラフィナは、コルリスやティールと一緒に、ししおどしに注視していた。水が溜まって音が鳴るたびにセラフィナとコルリス、ティールが頷くように首を縦に動かすのは……風流というよりは中々にシュールな光景であるが。

 ユラはそんなコルリス達の様子に表情を綻ばせ、帝やアカネもそんなユラの様子を微笑ましく見守っている、という印象だ。

 まあともかく、コルリスやティールでも邸宅内に出入りし、寝泊まりできる程度には広々している。

「なんだか、小さな建物があるわね」
「あれは茶室ですな。母屋などに比べると手狭ではありますが、落ち着ける空間、余人が入り込めない席に客を招き、茶を立てて振る舞う、という目的で作られた場所になります。もっとも、この屋敷に主人はおりませんが」

 クラウディアの質問に、タダクニが答える。
 茶道にはあまり詳しくないが……客を持て成す目的だけでなく、人払いした上で内密の話をしたりするのにも便利、という印象がある。

 庭園や茶室。広々とした客間に客人が書き物をするための書斎、広々とした台所や湯殿等々……母屋はほとんど完成しているようで。

「しかし、あのあたりはまだ着手されておりません。離れを作る予定ではありましたが」

 タダクニの言葉に視線を向けてみれば……なるほど。庭園の一角にまだ空いたスペースがある。基礎部分はならされているし、建築資材も運び込まれているものの、工事はこれから、なのだろう。

「つまり、あのあたりに転移門を作れば、と」
「私はそう考えている。他の候補としては、蔵の建造を予定している場所や、母屋の地下部分等という手もある。しかし公的な門となると、蔵のように端に追いやるのもどうかと思うし、ある程度目立つ場所に見えていた方が良いのではないかと思ってな」
「それは……確かに」

 有事の際の避難所とは性質が少し違うからな。公的な国交を持つことを考えれば、堂々と施設として目につくところにあるべきだ。

「結構広い空間がありますね。色んな建築物を作れそうに見えます」

 空き地を見たアシュレイが言う。そうだな。離れを作る予定と言っていただけあり、結構大きめの建造物でも作れてしまう。
 寝殿造りが敷地全体にいくつもの棟が広がっていたのに対し、武家屋敷だと母屋に設備が密集しているから、スペースが結構あまるのだろう。

「転移門に関してはややこちらの想像が及ばぬところもある。意見を聞きたいとも思っておったのだ」
「なるほど……」

 転移門をそのまま置くか、門の機能を建物内のどこかに持たせ、何かしらの建築物で囲むか。いずれにしても母屋と調和を取れる形が望ましい。

「そうですね。では、幻影の光景ではありますが、転移港を見てもらって、情報を共有することから始めましょうか」

 転移港の様式を見てもらうことで、実際の転移門がどのようなものかに想像を巡らしてもらう、というわけだ。
 マルレーンからランタンを借りて、転移港を映し出す。

「ほう……。幻影で下見ができるとは」
「これはまた……素晴らしいですね」
「白くて綺麗です……」

 西方の建築様式が珍しいのか、帝やタダクニ、ユラやアカネも映し出される転移港の風景に見入っているようだ。コマチは――ランタンそのものにも興味津々といった様子であるが。

「これが実際の転移門ですね。ここを潜れば目的の場所に出る、と言ったような作りになっています」

 幻影の風景で実際に転移するところまでを見せてみる。

「しかし、転移門をこのままの形で持ってくるのは、このお屋敷の雰囲気には若干馴染まないのではないかと」

 と、実際に映し出してみる。

「本当……。少し唐突な感じになってしまうわね」

 イルムヒルトがその光景に苦笑する。

「確かに。最初から西方風の屋敷にしてしまえば、これでも調和が取れて良かったのかも知れぬが」
「異国情緒を感じられる滞在施設というのは、風情があって良いものですからね。僕はこのお屋敷の雰囲気は好きですよ」
「旅先に来ている雰囲気は素敵ですね」

 そう言うと、グレイス達も同意するように頷き、その反応に帝は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 というわけで、色々と案を考えていく。タームウィルズ側の転移門は今まで通りの様式で、ヒタカのイメージに沿った装飾を施せばいいとして……。
 まず転移門自体の装飾を和風のそれにしてしまう、という手があるだろう。
 強度を考えると石造りにしたいが、調和を持たせるなら木造が望ましい。石材自体の表面に木の質感を持たせる、なんて手もあるかな。ふむ。

「こういうのはどうでしょうか」

 幻影の風景を映し出し、帝達に説明していく。まず、屋敷に調和を取れる形で離れとなる建築物を作り、離れから直接隣接する形で転移施設を作る。
 二階建て、三階建て等にすることで外から見ても目立つようにし、一階部分はそのまま転移のための設備に。二階、三階部分に警備などを置けるようにする。
 一階部分。建物内の中心に踏み入れば、そのまま転移可能という寸法で……まあ、そうなると一階内部のスペースはあまり意味の無いものになってしまうが……そこは少し考えがある。

 入口となる扉を開いて中に入り、堂の中心へと続く扉がそのまま転移門だ。その向こう側、転移港やタームウィルズを模した風景を配置しておくことで、門を潜ればそのまま西方に入り込めるような感覚で転移できる、なんて演出はどうだろうか。

 そんな俺の説明に帝達は中々楽しそうに耳を傾けていた。

「なるほど。面白いな」
「後は、雰囲気を壊さず、ある程度目立つ建物を考えなければなりませんね」
「ふむ。例えば……多角の屋根を持った堂、などと言うのはどうかな?」

 多角の屋根――。例えば六角屋根のお堂、みたいな感じだろうか。離れの建物、屋根の色等は母屋に合わせる感じでオーソドックスに。そこからぴったりとくっつく形で建築様式を合わせつつ、二階建ての、六角のお堂を幻影の中で作って配置してみる。

「おお。良いのではないか。ヒタカの建築様式の雰囲気を掴むのが上手いものだな」
「ありがとうございます。他の建物を参考に、外観を真似ているだけではありますが」

 と、小さく笑って答える。まあなんだ。前世の記憶もあるからして。

「全体から見ても中々馴染むのではないかしら?」
「この形だと、防御的な結界を張るのにも丁度良い感じがするわね」

 ローズマリーとクラウディアが言う。
 建物がぴったり隣接しているので屋根の造形が若干複雑な形になったが……。転移門自体を守るための術式も構築しやすい形だし、外から見ても調和が取れているのに意味ありげな建物の形。しかしあまり派手にはなり過ぎず、そこまで大きくもないので母屋を食ってもいない。

 では――幻影から土魔法の模型として作り上げてみよう。資材等々が足らなくとも、俺は最低限転移門部分だけ作っておけば、後はヒタカの職人が仕上げてくれる、という寸法だ。まあ、ここにある資材や土魔法、木魔法だけで建築が可能なら今この場で作り上げてしまうが、俺は残念ながらヒタカの建築様式について学んだわけではないからな。この模型も、縮尺などを見るためだけのものに過ぎない。

 そういった考えを説明していくと、コマチが言う。

「建築様式の細かい部分でしたら、何のためにあって、どういう構造になっているのか、助言もできるかと。木材の強度を高めるための組み方等々、色々参考になる部分が多かったので勉強しました」

 それはまた素晴らしい。

「何でも自分の仕事に応用してしまうのだな。向上心、向学心というべきか。その姿勢は見習いたいものだ」
「ありがとうございます、ツバキさん」

 ツバキの言葉にコマチは嬉しそうに笑った。

「それじゃあ、いくつか質問をさせてください。屋根の下のこの部分についてですが――」
「そこはですね――」

 と、コマチに色々とヒタカの建築様式を学び、模型に色々と反映させていく。建物の素材。作り方。色々多岐に渡るまで情報を仕入れ、細かな部分を修正。建築資材が足りるかどうか計算をしていくと――うん。大丈夫そうだ。では、早速魔法建築に取り掛かって、転移設備を作ってしまうとしよう。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!

書籍版6巻の主要登場人物ラフイラストを活動報告にて公開しております。
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