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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外183 修行開始

 仙術対策の魔道具作りに関しては……みんなでどんな形の物が良いか相談した上で、ツバキがその知識から術式を紙に書きつけ、それをコマチが魔石に刻み付け、エルハーム姫が装備品として仕上げる、という方法を取って作っていく。
 つまりは魔道具の核となる部分はヒタカ式。魔石に属性を持たせたりといった補助は、ヴァレンティナが。魔石を組み込む装備品、その装飾等もいつも通り。それらをブライトウェルト工房の設備、資材で作っていくというわけだ。

 魔石等々に関しては迷宮魔物産。潤沢に資材を使えるというのは職人にとってはありがたい話ということで、コマチは割と楽しそうに作業していた。

 その一方でアルフレッドとビオラは、ツバキに合わせた空中戦装備や、ティールに関する装備を作っていく。ティールにしてもオボロにしても、訓練であれば一緒に進めていった方が効率的だからな。

 ティールには、まずは空中戦装備、プロテクション、ディフェンスフィールドを用意することにした。マジックシールドの魔道具は水中でも有効だ。通常の泳ぎに加え、シールドを足場にしての急激な動きの変化や脚力を使っての加速であるとか、後方からの攻撃に対しての防御も行えるし、陸地が遠くとも水上高くに離脱すれば場所を選ばず安全圏に逃げ出すことも可能と、色々使い勝手が良い。

 これらの装備品を使ったままで消耗を計算しながら動けるようになることが大事だ。その他にも闘気の使い方であるとか氷を使った戦法を色々とレクチャーしていくのが良いだろう。幸い、ティールに相性のいい戦い方を身に着けている面々は結構多い。アシュレイとラヴィーネもそうだし、コルリスの水晶鎧やそれを利用した身代わりの技等々もそうだ。

 それに加え、オボロも体捌きの訓練に参加するわけだが――。訓練の計画を練っていると、自分も戦いの役に立てないかと、そんな風にオボロから質問を受けた。

「そうだな。オボロの場合は、やっぱり動きの俊敏さで幻惑していくのが主だけど……」

 一つ問題がある。触れて相手の動きを阻害するのはいい。そこから電撃の魔道具などを使えば攻撃を仕掛けるのも可能だろう。
 しかし回避能力は高くても、攻撃面、耐久力で優れているわけではないから、最前線で相手の動きを阻害するという方向での妨害は、どうしても危険が伴ってしまう、というわけだ。

「んー。遠隔から……相手の動きを阻害していくっていうのがいいのかな」
「何かいい案が浮かんだみたいだね」

 俺の反応に、アルフレッドが何かしらを察したのか楽しそうに訪ねてくる。

「そうだね。幻影の分身を遠距離に飛ばして、そこを起点に妖精の幻惑術で、相手の感覚に訴えていくのが良いんじゃないかと思う。オボロ自身の身のこなしがそのまま通用する形の魔道具を作って、本体は安全圏に留まったまま、行動を阻害する役になる、と」

 オボロ用の魔道具として想定しているのは、幻影劇場で使っている技術だ。
 元はと言えばセラフィナの音を操る術であるとか、ドラフデニア王国の妖精の女王、ロベリア達の使っている、五感に訴える幻惑の術であるが……。

「ロベリア……妖精の女王は……例えば歌を聞かせたり、光の玉を飛ばして、それを聴かせたり見せたりする事で幻惑の術に引き込むそうなんだ。基本的には術中に落ちた相手に、視覚や方向感覚を迷わせて、森から外に追い出すっていう使い方をしてるんだけどね」

 仕組みと構想をアルフレッドとオボロに説明していく。
 何かしらの現象を見せたり聞かせたりすることで幻惑の術の引き金とする。
 そうして幻惑の術を受けた者に何かしらの感覚を誘引する。ロベリア達の幻惑の術はそういう代物だ。セイレーンやハーピーも呪歌、呪曲で似たような事が可能ではある。

 つまりはその応用系でオボロの放ったミラージュボディを視界で捉えることをトリガーとし、幻惑の術ですねこすりに触れられる感覚を誘引する、という寸法だ。

「つまり、相手から触れられる幻影になるっていうことかな」
「触れられた感覚だけがある幻影……が正確なところかな。実体はそこにはないからね。後は魔道具を連動させて……幻影の存在している位置にゴーレムを生成するとか、そういった仕組みを作ってやれば、もう本物のできることと遜色のないことを、遠隔から仕掛ける事ができる」

 例えば、要所要所でゴーレムを発生させて躓かせるとか。
 相手の体幹、重心の位置を見極めて動きの邪魔をするのがすねこすりの本領だからな。
 加えて言うなら、幻惑の術を相手に看破されてもオボロ本体は防御陣地にいるので、リスクが生じない、という点が挙げられる。

 幻惑の術を見破ったところで、ミラージュボディは光の分身を飛ばしているわけだからいずれにしても視覚的に見えてしまうし、その位置に実体を作る事も可能となれば、完全無視を決め込むこともできない。集団戦闘の最中で横からこうした術を仕掛けられるのは……思った以上に阻害効果は大きいと言えよう。

 但し、ミラージュボディを遠隔に飛ばし、あたかもそこにいるかのように動かすのには、それなりの訓練と習熟が必要だ。

 そういった構想と注意点をオボロに伝えて、こういった装備はどうかと尋ねてみると、オボロはやる気満々といった感じでにやりと口の端を歪ませて頷いた。

「それじゃあ、決まりかな。術式を書きつけておくよ」

 ミラージュボディはある程度複雑な制御ができるようにしておいた方がいい。そうなると、光の属性を魔石に付与しておく必要があるか。これはヴァレンティナに頼む必要があるだろう。

「ん。それが出来たら後はこっちでやっておくよ」

 アルフレッドが頷いた。後は……そうだな。ヒタカの帝から連絡が来たら転移門の設置と建造作業に移ることになるだろう。七家の長老達が手伝ってくれるので、工房の仕事をしている人員はそのまま仕事を継続できる形だ。
 それまではみんなと共に魔道具作りや訓練を進めていくとしよう。



「そう、ですね。体の内側にある生命力の流れを感じて、それを集中させる、と言えばいいのでしょうか? 戦意であるとか、そういう激しい感情も闘気を高める手助けになるはずです」
「闘気を使うのは、最初は難しい。感覚が分かるようになれば、後は修行していくだけ」

 と言った調子で、グレイスとシーラのアドバイスを受けながらティールは闘気を扱う練習をしていた。氷を使う術は身に着けているので、魔力操作は問題ない。魔道具が出来上がってこない内に闘気を扱う練習だ。
 ティールはフリッパーに力を集中させようと目を閉じて、力を込めたりと中々に頑張っている様子であった。

 その傍らでオボロはツバキがアクアゴーレムと空中での戦闘訓練している中をすり抜ける練習である。
 仲間の動きを見ながら空中を駆け、戦闘しているアクアゴーレムにぶつからないようにすり抜ける。仮に激突してもアクアゴーレムなら怪我をしないので安心といったところだ。

 ツバキに関しては――反応速度と身体能力に優れているし、仙術で空を飛ぶ事もできる。そのため、シールドを蹴っての空中機動の習得が課題だったが、これに関してはもう早速使いこなしているという印象があった。右に左にシールドを蹴って跳んで、アクアゴーレムの放つ水弾を回避して踏み込み、闘気を纏った手刀でアクアゴーレムの首をはねる。シールドがなくても相当な技量であることが伺える。

 そうしてツバキの動きに合わせてアクアゴーレムが動き、空中を駆けるオボロも走り回る、という感じだ。

 みんなも順繰りにゴーレム相手の訓練を行い、休憩して、という感じで進めていく。

「いやはや。すさまじい動きをしてくるものだな、テオドール殿の操る式……いや、ゴーレムだったか。当たっても問題にならない。これは確かに訓練になる」

 と、訓練を終えたツバキはそんな風に呟いていた。

 ティールは闘気の習得にやや手こずっている印象だ。他者の闘気の使い方が参考になったりもするのでツバキの技を見たり、グレイスやシーラに実演してもらっているが、中々に大変そうである。
 種族的にあまり好戦的な性格ではないし、戦いらしい戦いを経験しているわけではないようだからな。
 ティールの話を聞いた感じでは機転も利くし度胸もあるから、戦い方を覚えるだけで色々と有望な気はしているのだが……ふむ。

「少し手伝おうか」

 と、ティールの背中に触れ、循環錬気を行う。

「少し肩の力を抜いて。そう。体内の力の流れが分かるかな?」

 魔力ではなく、生命力の流れを強調するようにティールに伝えていく。

「戦いのための意思、って言ったけど……仲間を守ろうと、巨大烏賊に立ち向かった時の気持ちを思い出すと良い」

 その意思を言葉で表すなら勇気、というのだろう。それもまた、闘気に力を与える意思に違いない。
 ティールの生命力が揺らぎ、高まるのを感じる。そうして力を集中させていけば――フリッパーが闘気の輝きを宿していた。

「そしてそれを、標的めがけて解き放つ――!」

 言いながら、ターゲットとなるアクアゴーレムを作り出す。人間サイズの烏賊の姿をさせている。ティールは標的めがけて地面を蹴って跳びあがると、斜め上からフリッパーを叩きつけるようにしてアクアゴーレムに一撃を見舞った。

 アクアゴーレムの上半分が消し飛ぶように叩き潰される。勢い余った闘気の勢いが地面を叩いて砕くほどの威力。
 身体能力からして、闘気を使えれば相当なものになる、と予想していたが……これは中々に凄いな。単純なフリッパーによる殴打でさえこれなのだから。
 驚いているのはそれを行ったティール本人であった。破壊痕を見て目を瞬かせている。

 マルレーンやクラウディアが笑みを浮かべて拍手をすると、周りのみんなもそれに続く。ようやく実感が湧いてきたのか、ティールが嬉しそうな声を上げた。コルリスが何やらうんうんと頷いていたりするが。

「いいね。後はこれを高速移動や防御にも用いたり、魔道具や術と一緒に扱えるように修行していくと良い」

 そう言うとティールは鳴き声を上げながら、俺にお辞儀をするように首を大きく縦に動かすのであった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

11月25日発売の書籍版境界迷宮と異界の魔術師6巻に関しまして、特典情報が公開となりました!
詳細は活動報告に書きましたので参考にしていただければと思います。

今後ともウェブ版、書籍版共に頑張っていく所存ですのでよろしくお願い致します。
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