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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外178 獣王の帰還と境界都市案内

「では、参りましょうか」

 というわけで……みんなで馬車に乗ってあちこち移動である。
 まずは北区へ向かう。イグナード王を転移門設備から見送っていく必要があるからだ。
 馬車で進んでいくわけだが……。コルリスやティールは馬車に乗り込めないので後から空を飛ぶなりしてついてくる必要がある。
 ティールにも一応、空を飛べるようにと調整した魔道具を渡してあるので問題なくついてこれる形ではある。

 タームウィルズの住民も慣れたもので、馬車の後ろから空中を腹ばいになって滑っていくティールに一瞬ぎょっとするも、俺達やコルリスが一緒という事ですぐに納得顔を浮かべていた。というか、ティールの姿を面白がっているようにも見える。
 ティールもティールで割と愛想が良く、フリッパーを振って挨拶などしながら進んでいく。互いの様子を見た感じでは、街の住民達とも割とすんなり馴染んでくれるのではないだろうか。 
 リンドブルムとコルリスは、ティールが車列を見失って迷子にならないか気にかけてくれているようではあるし、車外の心配はいらなさそうではある。そんなわけで街の設備、特色を紹介しながら進んでいく。

「僕達が最初に降りた造船所と接続しているのが西区となります。港や孤児院がある他にも知り合いが拠点にしていますが、この区画は若干治安が良くないのが特徴ではありますね。一人の時はあまり近づかないようにした方が良いかと思います」

 と、ツバキやコマチ、オボロに既に通過してきた造船所と西区についての補足を入れながら、各方角の特色、設備等々の説明をざっとしていく。
 今から向かうのは北区。色々な店が立ち並ぶ区画で、転移門設備もここにある。

「となると、私と関わってきそうなのは東区や南区、ということになるでしょうか?」

 コマチが明るい笑顔で尋ねてくる。

「そうですね。東区はブライトウェルト工房がありますし、南区は鍛冶師や職人も多いので。技術交流もできると思いますよ」
「いやあ、楽しみですねえ」

 と、コマチは期待に胸を膨らませているという感じでかなり上機嫌な様子だ。

「ふむ。となると私も、工房を中心に行動するという事になるか。一度くらいは迷宮にも潜ってみたいと思っているのだが」

 ツバキが顎に手をやって言う。ツバキは他の鬼達より冷静な印象があるが、やはり迷宮には興味が向いているようで。

「イングウェイ殿や、エインフェウスの武官であるレギーナ嬢、それにコルリスも迷宮に潜っていますし、問題ないと思いますよ。迷宮に組んで潜れる顔ぶれが信頼できる面々で充実すると、僕としても安心ではありますね」
「それは楽しみだな。だが、巻物の一件が片付くまでは怪我を避ける意味でも、本腰を入れるのは止めておこう。少々残念ではあるが。まあ、温泉があるというのも嬉しい。そちらも楽しみだ」
「ふうむ。火精温泉か。あれは良い。疲れも取れるしのんびり浸かった後は身体のキレも良くなる」

 ツバキの言葉にイグナード王がそんな風に答える。コマチも温泉好きなのか、おお……という声を漏らして目を輝かせていた。
 ふむ。ヒタカの住人は、やはり風呂好き温泉好きだったりするのだろうか。

 そんな話をしているうちに、馬車は転移港に到着した。
 みんなで連れ立って馬車を下り、イグナード王の見送りである。通信機で連絡を回しておいたので、オルディアとレギーナも先に転移港で待っていたようだ。

「おお、オルディア、レギーナ。見送りに来てくれたのか」
「はい。ご無事で何よりです」
「陛下の凱旋をお待ちしておりました」
「何、今回の儂は凱旋と言うほどの事はしておらんよ。そなたたちの出迎えと見送りは嬉しくはあるがな」

 と、イグナード王と苦笑しながらもオルディア達との再会を喜んでいる。
 そんなわけでツバキ達とオルディア達を紹介していく。オルディアについてはそうそう軽々しく事情を触れ回るわけにもいかないので、イグナード王の養女であることと、エインフェウスからの親善大使であることを伝えておく。そうして互いに丁寧に自己紹介を交わしていた。
 再会と紹介と。一通り言葉を交わし、別れを惜しんだ後でイグナード王は俺に向き直る。

「儂は一旦国に帰るが……巻物の一件はこれからが本番。いつでも動けるよう態勢を整えておく故、助太刀が必要とあらば声をかけるのだぞ」
「分かりました。また再会できる日を楽しみにしております」
「うむ」
「では私は引き続き、テオドール様の仕事を手伝うとしましょう。いやはや、迷宮も素晴らしいですが、テオドール様の近くにいると修行になりますな」
「くっくっく……。であろうな」

 イングウェイの言葉に、イグナード王は楽しそうに肩を震わせる。

「ではな。また会おう」
「はい」

 そうしてイグナード王はエインフェウスへと続く転移門を潜り、光を残して国元へと帰っていったのであった。

「いやはや。陛下らしいと言いますか」

 レギーナの言葉にオルディアも苦笑する。あまり湿っぽくない帰り方は確かにイグナード王らしい。

「この後はやはり、ヒタカノクニの皆様の歓待ですか?」

 と、オルディアが訪ねてくる。

「そうですね。街を回って、それからフォレスタニアも案内して、というところでしょうか。王城で歓待が行われるので、それまで色々見て回れば楽しんでもらえるのではないかなと」

 火精温泉や幻影劇場等々、滞在の合間を見て追々楽しんでいってもらえれば、というところだ。まだ巻物の一件が片付いていないし、立場的には工房の仕事を優先しなければ代表としてこっちに来た顔が立たないというのもあるだろうし。



 東区の工房や、俺の別邸の位置等々を確認しつつ、みんなと挨拶して回り、それから神殿前広場へ向かった。

「おお。帰ってきたのじゃな!」

 と、馬車から降りたところで冒険者ギルドから出てきたアウリアが声をかけてきた。
 ギルドオフィスの窓際の席に、俺達が到着する時までアウリアが食べていたかき氷の器が置いてあるのが見えていたりするが……うん。初対面の顔触れもいることだし、敢えて言及はすまい。

「こんにちは。先程戻って参りました」
「無事だと連絡は受けていたが、そなたらが揃っているのを見ると安心するのう」
「ありがとうございます。アウリアさんもお元気そうで」
「うむうむ」

 というわけで、タームウィルズ冒険者ギルド長のアウリアであるとヒタカの面々に紹介する。冒険者やギルドに関しては、ある程度事前知識として説明済みだ。

「うむ。よろしく頼むぞ」

 と、気軽に握手を求めるアウリアである。

「流石は一団の長というべきか。器が大きなことだ。こちらこそよろしく頼む」

 アウリアが気さくなのでツバキとしては若干戸惑っているようだったが、それでも好印象ではあるようだ。

 ツバキとしては鬼のイメージは外では怖がられるもの、と古参の話で思っていたようだからな。ヒタカ国内ではそれでも間違いではない面もあるのだろうが、西方――特にタームウィルズではそんなイメージもないからな。

 ツバキ、コマチ、ティールはそれぞれアウリアと握手を交わし、オボロもアウリアに抱き上げられていた。
 アウリアは仕事が一段落しているらしく、このままフォレスタニアの案内についてくるということになった。

 みんなで連れ立って神殿へ向かい、そこで巫女頭のペネロープとも挨拶をする。
 マルレーンが嬉しそうにペネロープのところに駆けていき、笑顔で手を取り合ったりと、中々微笑ましい光景だ。ステファニアやクラウディアもそれを見て表情を緩ませていた。ローズマリーは羽扇で表情を隠していたが。

 そうして迷宮に関する話を色々としながら、迷宮入口に続く螺旋階段を降りる。

「つまり、フォレスタニアは迷宮内部にある都市というわけですか?」
「どんな都市か、想像もつかないな」
「そうなります。では――行きましょうか」

 コマチとツバキに答えながら石碑に触れて――フォレスタニアに飛んだ。光に包まれて、それが収まると、景色が一変する。

「おおお……。これは――!」
「何という……」

 2人の驚きの声に、ティールの鳴き声が重なる。アウリアに抱かれているオボロも普段閉じている目を見開いてフォレスタニアの光景に見入っていた。
 うん。気に入ってもらえて何よりだ。
 ティールは泳ぎたさそうにフリッパーをパタパタさせているが。とりあえず居城に案内してからだな。ティールに関しては、グランティオスからやってきている面々にも話を通しておくのが良いだろう。
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