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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外177 空中遊覧

 飛行装置は乗りたそうにしている者が多いのに、立場のある者が多すぎる、と言うのが難点だ。
 友好の席、お披露目の場で墜落して怪我などしては目も当てられない。コマチとしても楽しんでもらうのは吝かではないが、万一の安全を疎かにはできない、というところのようだ。
 そこで少し話し合い、まず俺が操縦感覚を確かめてから、誰かが乗る時に俺が飛行して付き添えば安全なのではないかという結論になった。

 というわけで飛行希望者と共に、コマチから操縦法のレクチャーを受ける。

「基本的には魔力を発生させるために足で漕ぎ続けてもらう必要があります。この、前方部分にある天秤のようなものと宝石ですが……傾き方で力の消費と蓄積の均衡がどうなっているか、宝石は輝き方で残りの魔力量がどうなっているかを教えてくれます。つまり、宝石が暗くなったり明滅し始めたら強い力で漕いであげて下さい。上昇、下降はこの部分を前後に動かすことで制御可能です」

 操縦席前方の天秤と宝石は計器というわけだ。脇に小さなレバーがくっついていて、こちらは奥に倒せば上昇、手前に倒せば下降する、とのことだ。真ん中に持ってくることで高度を維持するということらしい。

「前方と左右に動かすにはこの部分を握りまして、傾ければその方向へ傾いて進みます。しかし、後ろに引いても後退はありません。触れない時と同様その場に留まるように動きます。後ろに引きながら左右に倒すことでその場での回転を行います」

 前進、左右移動。ホバリング、旋回の制御は操縦桿に連動という形だな。後ろに引くことでより素早く前進する勢いを落とせる、ということらしい。

「性質上、この乗り物は進む方向へ傾きます。しかし無理な操作や突風でも、絡繰り人形は危険な姿勢にならないよう、また、胴体部分がおかしな方向に回転しないよう制御しています。地上に降りる時も同様で、絡繰り人形が補助をしてくれます。漕ぐ速度を弱めたり止めたりした場合は、内部に蓄えられた魔力を用いて着陸まで安全な速度で降りていくわけです。操縦桿での下降操作等々と重複した場合も、下降速度を緩やかなものにし、接地する際まで絡繰り人形が補助を行います」

 組み込まれた絡繰り人形の要素は変形機構及び安全装置、というわけだ。仮にローターの回転が止まってしまっても機体と操縦者をゆっくり浮遊させたまま降ろす魔力は残している、とのことで。

 飛行機の自動操縦とはまた違うが、予想されうる事故原因を潰しているわけだな。
 空の遊覧、移動、輸送等々は考えられていても、基本的には戦闘目的を想定していない平和的な乗り物と言えよう。

「加速するには?」
「それはもう、操縦桿を気持ち強めに倒して思い切り足で漕げば、余剰の魔力を加速のために使ってくれますよ。かなり思い切り漕いでも、座席側からの機体への反動やふらつきは術式が相殺してくれます。こういうのは自分で加速させている感覚が大事かな、と……!」

 と、コマチは良く聞いてくれた、とばかりに力説してくれた。そういうところは自転車っぽいな。どちらにせよ加速するには魔力を多めに消費するわけだから、思い切り漕いで余剰魔力を発生させてやる必要があるのだろう。
 思い切り漕いで一直線に飛行させれば結構な速度も出るらしい。操縦に慣れれば小回りも効くので、応用的な動きもできるらしいが……まあ、壊したりしては事なので進んで無茶はすまい。

 というわけで、安全な飛び立ち方、降り方をしっかり習っておく。

「では、少々試させてもらいますね」
「はい。お気をつけて」

 そう言ってコマチは離れ、レクチャーを聞いていた皆を安全圏まで下がらせる。みんながローターの圏外まで十分離れたのを確認してから、座席に座り、体を固定する帯を締めてペダルを漕ぎ出す。シリウス号のシートとはまた違うが、背もたれもあってしっかり体が安定する仕様だ。
 どの程度の力で漕げば消費と蓄積のバランスが良くなるのかは常に視界に入る位置の宝石が教えてくれる。

 自転車よりもペダルが前についていて、座席に体を安定させたまま足の曲げ伸ばしの力をダイレクトにペダルに伝えて漕げる。思い切り漕ぐにしても立ち漕ぎするような必要はなさそうである。

 発生させた魔力が絡繰り人形を通してメインローターとテイルローターに伝わって回転させる。そのままゆっくりと出力レバーを前に押し込んでいくと機体が安定感を持ったまま空中に浮かびあがった。

 おお。これは……今までの飛行方法のどれともまた違って、面白い感覚かも知れない。
 みんなに視線を向けると、こちらに手を振ってきたりと中々楽しそうに見守ってくれている様子だ。

 しっかりと高度を上げてから、操縦桿を倒していけば思った方向へと動く。これは……思った以上に快適で安定した飛行感覚だな。速度を落としたりホバリングしてやれば高所からの眺めを楽しむ余裕も十分にある。王城セオレムの眺めを楽しみながら練兵場の上空をぐるりと回る。

 これをヴェルドガル王国で運用するのなら、飛竜が近くにいる場合の影響はどうか、というのも試しておきたいところだ。

「リンドブルム。ちょっといいかな。回転する羽に絶対当たらない位置取りで一緒に少し飛んでもらっていいかな? 影響を見ておきたい。」

 そう言うとリンドブルムは頷き、飛び立って――一定の距離を取りつつ横方向斜め下の位置につく。
 そうして一緒に飛行してもらったが、これは接近し過ぎなければ大丈夫だろう。羽ばたきによる風や翼の動きも距離を取っているので影響がない。何よりリンドブルムは操縦桿を傾けた方向を見て、しっかり対応してくれている。他の飛竜も訓練すればこの手の飛行装置の動く方向を事前に予測可能だろう。

 練兵場周りを何周か飛んで回り、試しに少しばかり速度を上げてみたり。そうして元の場所に戻ってきてからホバリング状態にし、ペダルを漕ぎつつも出力を丁寧に下げて下降していけば……実にすんなりとした感覚で着陸することができた。

「ありがとう、リンドブルム。参考になった」

 そう言うとリンドブルムはにやっと笑って頷いた。
 位置取りに関してはリンドブルムが模範解答を出してくれた感じだな。飛竜側から一定の距離を取りつつ視界に入れておけば色々な状況に対応できる。
 高さを合わせない。上や後ろは飛ばない。これでローターに接触するようなことは防げるだろう。一緒に飛ぶときの位置取りはああいった感じが良さそうだ。
 或いは激突防止にローター圏外に全方位シールドを展開しておく、とか。その場合は別途魔石が必要になるか。

「どうでしょうか?」
「いいですね。挙動が安定していますし、乱暴に扱わなければかなり安全そうに感じます。漕ぐのもそれほど力は必要ではありませんし、少し身体を動かしつつ、のんびりと空中遊覧ができそうな印象ですね」

「ありがとうございます! しかし、西方では飛竜もいるので、安全策を考えておく必要はありそうですね」

 そう答えるとコマチは嬉しそうな表情を浮かべながらも思案している様子だった。研究熱心なのはいいことだ。
 というわけで……続いて乗る順番も俺が飛んでいる間に決めていたらしい。最初はマルレーンからということである。
 座席の位置やベルトを調整し、マルレーンが座席に座る。

「手順は覚えてる?」

 マルレーンはこくんと頷いて、操作する順番通りに指差していく。うん。大丈夫そうだ。

「それじゃ、俺は羽の当たらない位置にいるから、好きに飛んでもらって構わないよ。何か分からないことがあったら、手で合図してくれたら助言する」

 俺の言葉にマルレーンはにこにことした笑みをこちらに向け、俺が離れたのを確認してからペダルを軽く漕いで出力を上げていく。ふわりと浮かぶ飛行装置。
 回転するローターの当たらない位置取りということで、リンドブルムと同様に真横左下という位置を取り、付かず離れずの一定の間隔で飛ぶ。

 そうして一緒に空中を飛んで、危なげなく着陸する。
 マルレーンは嬉しそうにしながら飛行装置から降りて、俺に向き直るとスカートの裾を摘まんで丁寧な挨拶、というかお礼をしていく。

「それじゃあ、よろしくね。ふふ、少し楽しみにしてたの」
「うん。丁寧に動かせば大丈夫だと思う」

 続いて、ステファニアである。王城にいたアドリアーナ姫も様子を見に来て、楽しそうに空を飛んで、互いに手を振ったりと中々満喫している様子だ。
 そうしてみんなで順番に飛行装置に乗っていき、ヒタカの技術力を見るという名目の元、相談の後の息抜きで空中遊覧を楽しませてもらった。

「何というか、のんびり飛べる感じでしょうか」
「速度を控えめにすれば均衡を考えなくても大丈夫ですね」

 と、乗り終わったグレイスとアシュレイが顔を見合わせて微笑み合う。

「ん。これは楽しい」
「もっと複雑なのかと思ったけれど案外簡単で操作しやすいわね」
「確かに……。フォレスタニアの湖の上を飛べたら、楽しいのではないかしら」

 シーラとイルムヒルト、クラウディアの感想だ。クラウディアと一緒に飛んで、セラフィナも随分楽しそうにしていた。

 操作が平素で容易というのが分かってくると、メルヴィン王やジョサイア王子、アドリアーナ姫も試してみたいとのことで。

 メルヴィン王は宰相のハワードが目を白黒させているからと、少し飛んでから苦笑しながらも早めに降りてきてしまったが。そんな調子でその場に居合わせたほとんどの面々が飛行装置に乗ったのであった。
 最後はローズマリーだった。飛行の挙動もそうだが、最後の変形を近くで見たい、と言う理由かららしい。
 空中の機動一つ一つを確かめてから降りてくる。

「本当、安定しているわね。ところで、これを箱型に変形させるところも試してみて構わないかしら?」
「勿論です。この部分の蓋を開けて……触れてから離れると変形が始まりますよ」
「ここね」

 ローズマリーはコマチの言葉通りに操作する。ぱたぱたと羽が閉じられ、先程の展開の逆回しを見るような感覚で箱型に収まっていく。
 そうしてきっちり箱型になったところで、改めて拍手が起こった。

「いやはや。何とも素晴らしいではないか」
「全くです。工房の仕事も手伝ってくれるわけですから、頼もしい限りですね」

 メルヴィン王の言葉に、アルバートが楽しそうに笑みを浮かべる。
 そうだな。飛行装置の調整もそうだし、変形機構やら、魔力発生装置やら、色々見るべきところは多い。
 ともあれ、空中遊覧も一区切りだ。夜には王城でツバキ達の歓待を行うそうなので、それまでにイグナード王を送っていったり、タームウィルズやフォレスタニアの街を見に行ったり、あちこち帰ってきた旨で顔を出したりと、軽く案内と挨拶回りを進めていく事にしよう。
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