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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外176 飛行装置実演

「通信機での連絡では、ツバキさん、コマチさん、すねこすりと陛下も是非会ってみたいとのことです」

 造船所に向かいながらそう言うと、ツバキは少し驚いたような顔をするもすぐに静かに頷く。

「鬼だというのに……こうも簡単に招き入れられてしまうと、戸惑ってしまうな。里の古株からは、人からはもっと恐れられるものと聞いていたが」

 ヒタカの都でもそうだったし、タームウィルズでも、と言うところか。

「んー、レイメイ殿とシホさんの人徳ではないでしょうか」

 ヒタカの様々なところからレイメイを慕う鬼達が里に集まって今の形になったわけだし。別の場所で暴れていた鬼の首領もレイメイとの決闘に敗れて子分になった者がいるとかなんとか。その頃の鬼達の集団としての性質と、今の鬼の里の性質はまるで違うだろうし。

「テオドール殿の信用でもあるな」

 ツバキはそんな風に言って苦笑した。

「むう……私は緊張します……」

 と、コマチ。

「きっとあの飛行装置を見せれば喜んでくれると思いますよ。気さくな方ですから」
「そうだと良いのですが」

 コマチは傍らの木箱と、翻訳の魔道具に触れる。ヒタカからこちらを訪れるにあたっては、翻訳の魔道具はツバキやコマチ達に装備してもらった方が良い。
 一方のすねこすりはと言えば割と平気そうにしている。帝に会いに行くときもそうだったな。まあ、独特の価値観を持っているようだし。精霊が世俗の事をあまり気にしないのと同じかも知れない。
 報告に行くのは俺ではあるが、みんなも顔を出して無事であることを知らせてくるというわけで、王城へ同行する。

「ふむ。儂も挨拶をしてから国元へ帰るとするか」

 イグナード王も王城に顔を出してから帰るそうだ。
 そんなわけで造船所にシリウス号を停泊させる。近くから見るとセオレムの大きさもよく分かる。ツバキもコマチも、それにティールもすねこすりも、初めて近くから見るセオレムに驚いている様子であった。
 そうして王城からやってきた迎えの馬車に乗って王城へと向かう。
 王城に到着すると練兵場前の広場にて、メルヴィン王とジョサイア王子が俺達を待っていた。

「おお。みな無事なようで何よりだ」
「怪我がなさそうでよかった」

 メルヴィン王とジョサイア王子はそう言って相好を崩した。

「ただ今戻りました。東国――ヒタカノクニより、客人をお連れしました。イグナード陛下もお怪我等はなく……悪人相手に大立ち回りでしたよ」
「くっく。大立ち回りを演じたのはどちらかと言えばテオドールの方ではあるがな」

 と、イグナード王は愉快そうに肩を震わせ、メルヴィン王達も笑う。

「みんなも無事で良かった。顔を見て安心したよ」
「ふふ、父上や兄上もお元気そうで」

 ステファニアやマルレーンも父や兄と顔を合わせて笑顔になっている。ローズマリーはいつも通り、と言う感じではあったが、それでも再会の挨拶の輪には加わっていたりして。

 というわけで、迎賓館の一室に向かう。まずは腰を落ち着け、それから初対面であるツバキ、コマチ、すねこすり、それにティールも紹介してから色々と改めて報告していくとしよう。

 鬼、職人、妖怪、と。改めてみると中々謎な組み合わせではあるが。コマチは都側の代表として来ている部分もある。緊張しながらも丁寧に挨拶をしていた。ツバキは丁寧に挨拶をしながらも、割と落ち着いている。

「通信機でテオドールから話は聞いている。共に困難を乗り越えた後にも、末永く良好な関係を築いていきたいものだな」
「もったいないお言葉です。こちらこそ、どうかよろしくお願い致します」

 ツバキとコマチがメルヴィン王に深々と一礼する。
 さて。すねこすりについてはこちらから紹介する必要があるだろう。

「それから――妖怪のすねこすりにも同行してもらいました。妖怪は……ヒタカノクニの魔物と言うべき存在ですが、半分精霊に近い部分もあるようですね」

 すねこすりを紹介する。当人は一旦顔を上げてお辞儀をするように首を動かしていた。

「魔物、と言うからには、他にも色々な種族がいる、という理解でいいのかな?」
「そうですね。人の姿、動物に似た姿。器物を元にした姿……様々な妖怪がいましたよ。差し支えなければ、彼らもこちらに招待したいと考えております。ヒタカノクニでは色々助力を頂きましたから」
「ふむ。賑やかな事になりそうではあるな。無論、友好的であるならば余としては歓迎しよう」

 ジョサイア王子の言葉に答えると、メルヴィン王が苦笑する。

「しかし、すねこすりというのは変わった名だね」
「個人名ではなく、種族名ですね。妖怪の場合は種の名が性質をあらわしている事も多いようです。このすねこすりの名は――どうでしょうか」

 喋らないし鳴かないので個人名があるのかどうかは謎だ。すねこすりは尻尾に魔力の光を灯して空中に何やら光の軌跡で文字を書いた。

「オボロ、と読めますね」

 ツバキが補足してくれた。
 朧ね。ぼんやりと霞んでいてはっきりしない、というような意味だ。字の意味するところはすねこすりには合っているかも知れない。尻尾を動かして更に空中に文字を書いていく。

「本来自分達に決まった名はないが、故郷を出て修行の旅に出るにあたり、一族の代表として相応しい名を考えるように言われていた、と」

 なるほど……。それで決まったから改めて名乗ったというわけだ。続いてティールも紹介する。

「それから、通信機で報告しておりましたが、海鳥の魔物、ティールです。ヒタカノクニへ向かう際の航路開発の折、群れからはぐれてしまったということなので行動を共にしております」

 俺の紹介に合わせてティールが一声上げてお辞儀する。

「ふむ。はぐれたのは不運であったが、テオドールと出会ったのは幸運であったな」

 メルヴィン王が笑みを見せると、ティールは嬉しそうな鳴き声を上げて答えていた。
 さて。後は報告ではあるが……通信機でこちらの状況は知らせていたが、細部やニュアンスついてまでは報告が行き届いていない部分もあるかも知れない。改めて口頭で伝えていくとしよう。



「……巻物については満月以後、か。件の国の内情については気になるところだが」
「しかしヒタカノクニとは、友好的な妖怪達も含めて良好な関係を築いていけそうですね」
「うむ。確かにな。そこは現時点でも手放しで喜べるところよな」

 報告を聞いたメルヴィン王はジョサイア王子と言葉を交わして静かに頷いていた。
 続いて改めて満月に合わせて東国へ向かう準備ということで、物資、食料品の手配の他、転移門の設置や魔道具開発といった話を進めていくという感じだ。
 魔道具開発に関しては……ツバキやコマチの意見や技術を参考に、傾向と対策を練る、といったところか。オリエが相手をしたキョンシー相手なら、行動不能にする、といったような対策用魔道具開発が間に合うかも知れない。

「うむ。魔道具開発か。協力できることがあれば、言ってくれれば手配しよう」
「我らも開発に尽力する所存でおりますぞ」

 と、七家の長老達。
 魔道具開発の話が出たところで、コマチの飛行装置についての話題も飛び出す。

「ああ。それについても通信機で聞いておる。ヒタカノクニの優れた技術者と聞くが」
「きょ、恐縮です。お目汚しではあるかと思いますが、このようなものを用意してまいりました」

 と、コマチは飛行装置が変形した箱を前に出す。

「練兵場で試してみるのも面白いかも知れませんね。室内では流石に展開できないかと思いますので」
「おお。それは良いな。是非見てみたい」

 俺の提案にメルヴィン王も乗り気な様子だ。というわけで、早速実演ということになった。
 迎賓館の前に出て、コマチが箱の留め具を外すと、独りでに箱が前後左右に開くようにして、中から歯車やらを組み込んだ複雑な機構が姿を現した。
 傘のような部品が上と横方向に伸びて、そこからプロペラの羽が広がり、座席や操縦桿、ペダルと思しきパーツが姿を見せて、あるべき場所へと展開していく。

「おお……これは面白いではないか」
「すごいな、これは」

 というメルヴィン王とジョサイア王子の言葉。
 そうして、あっという間に箱が飛行用の乗り物となっていた。
 箱から変形するところを見せてもらうのは初めてだが……良くできたパズルを見ているような感覚だ。この変形機構の技術だけでも価値があるな、これは。

「後はここに跨って足で漕ぐことで、ここと、この部分が回転して空に浮く、という仕組みになっています。羽に当たって怪我をなさらないように距離を取って見ていて下さい」

 そう言ってみんなが少し遠巻きになる中で、コマチが座席に跨ってペダルを漕ぐ。プロペラが回転して飛行装置が宙に浮かぶと、メルヴィン王とジョサイア王子は揃って笑顔を浮かべて拍手を送る。
 そのままコマチは飛行装置を操り、スムーズに練兵場広場を一周してきてから同じところへ着陸する。地上に降りたコマチが一礼すると、その場にいた皆や、何事かと見守っていた騎士達、女官達からも大きな拍手と喝采が巻き起こるのであった。
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