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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外174 北方航路での帰路

「――では、帰ったらまた通信機に連絡を入れます」
「うむ。転移門の設置場所の選定などを考えておこう」
「道中、お気をつけて」
「またお会いしましょう」

 都の端――シリウス号を停泊させたところまで、見送りに来てくれた帝やユラ、アカネ、タダクニやイチエモンと言葉を交わす。
 都に帰って1晩、2晩が過ぎ、今日はヒタカノクニから一旦ヴェルドガル王国へ帰る予定となっている。
 ヒタカの調味料、衣服やら装飾品、書物に武器防具やらと……お土産を色々もらってしまった。イチエモンも先日約束した通り、結構な量の薬草であるとか作物の苗、種を集めてきており、それらも有難く受け取っている。

 ヒタカの薬草、作物も嬉しいし、みりんや鰹節を貰えたというのが中々大きい。これでまた色々と料理の幅が増えるというものだ。

「ありがとうございます。この短い期間でこんなに集めてきていただけるとは」
「拙者ではなく部下達の仕事でござるよ」
「では、みなさんにはこんなに沢山ありがとうございますと、お伝えください」
「確かに承ったでござる」

 と、頭巾とマフラーの間から覗くイチエモンの目元が穏やかに細められる。

「それから、イチエモンさんも調査の際は、お気をつけて」
「はは。まあ、無茶はしたくても時間的にできないでござるからな。しかし、お心遣いには感謝するでござる」

 時間的に海を渡って隣国へ潜入しての情報収集とまではいかないので、ヒタカ国内で隣国寄りの地域までいって噂話を集めてくる、という形になるそうだ。

「どちらかというと、隣国に渡ってからの情報収集の下地になれば、と私は考えている」

 と、帝が言う。なるほどな。

「噂だけでも集めておけば現地に行った折に聞き込みで話題に出したりと、色々円滑に進む、というわけですね」
「そうなってくれればと期待しているところはあるな」
「まあ、敵が巻物の一件で暗躍しているとしても、現時点ではヒタカそのものとは事を構えようとは考えてはいないでしょう。国内で不穏な動きをしていると承知したからには、こちらとしても相応に対応をしようと考えておりますが」

 タダクニが言う。隣国と行き来する貿易船の乗組員に注意を払うだとか、海岸線の警備強化等々を考えているらしい。名目上は犯罪者――つまりアヤツジ一派の残党が隣国に逃げる可能性があるのでと、連中の騒動を今度は口実に使わせてもらうそうだ。

 ヒタカノクニとしても巻物の内容には注視している段階だ。巻物の行先と内容次第では、隣国からヒタカにまで累が及ぶ可能性もある以上は、国内で好き勝手させるわけにはいかないだろう。
 現時点で後手に回っているのは確かだが、隣国への出入りに対して監視の目が厳しくなる、ということは鬼の里への潜入や攻撃を抑止することにも繋がるからな。
 こうしてヒタカ国内の対応がきっちりしてくれば、満月までの準備期間も安心して過ごせるというわけだ。

「鬼の里の巻物の片割れを探し当ててきたということは……テオドール様の方に敵が現れる可能性もあります。十分にお気をつけて」
「そうですね。僕の方もしっかりと警戒しておきます」

 ユラの言葉に頷く。フォレスタニアに来るというのならその時は盛大に歓迎してやろうと思う。
 とはいえ、誰に渡したか所在のはっきりしているレイメイの巻物と、ベルクフリッツ経由で俺の所にある巻物では、探し当てるにしても方法が違ってくるだろう。
 レイメイが2つなければもう1つの在り処の探知も難しいと言った通りなら、こちらの術を用いても俺のところにある巻物を術で探知するのは難しい話なのではないだろうか。

 その他、細かな諸々確認を終えて、別れの挨拶をしてからシリウス号に乗り込んでいく。

「それでは、ユラ様。次にお会いできる時を楽しみにしていますね」
「はい。またお会いしましょう、アシュレイ様、マルレーン様」

 アシュレイやマルレーンはユラとも歳が近いからか、手を取り合って別れを惜しんでいる様子だ。
 またすぐに会えるが一時の別れということで、動物組と鎌鼬達、雷獣も挨拶を交わしていた。うむ。鎌鼬達や雷獣とは、また共闘することになるからな。こうして仲良くなっておくのも重要だろうと思う。

 そうしてみんなで甲板に乗って。手を振るコルリスに帝達は相好を崩し、ユラも応じるように大きく手を振って。シリウス号はゆっくりと高度を上げていくのであった。



「おおお……。これは何と素晴らしい……」

 と、艦橋を見たコマチは感動の声を上げてあちこち視線を巡らせていた。

「もう少し高度を上げたら、徐々に速度を上げて進んでいきますので。安定飛行に入るまでは座席に着いて、帯を締めておいて下さい」
「了解しました……!」

 と、いそいそと椅子に座って楽しそうにシートベルトを締めるコマチである。シートベルト装着でさえ楽しくて仕方がない、という印象だ。

 ヴェルドガル王国への最短ルートを地図と星球儀から割り出し、航路を設定。それに従ってシリウス号が徐々に高度と速度を上げながら進んでいく。
 十分な高高度に到達したところで風魔法のフィールドを纏い、火魔法を点火。それによる加速でシートに軽く押しつけられるような感覚があった。
 十分に加速したところで更に魔力光推進を用いて、爆発的な加速を見せながらヴェルドガル王国までの最短距離を進む。猛烈な勢いでシリウス号が雲の間を突っ切っていく。あっという間に視界内の雲が後方へと流れていくような光景。

「何という……なんて素晴らしいのでしょうか!」
「これは……すごいな」

 コマチとツバキがその光景に声を上げ、ティールも楽しそうに鳴き声を上げた。その反応に、アルファがにやりと笑う。航路。速度。船の状態。共に問題なしだ。

「おや。そういえば西方に向かう、というのに、航路は北に向かっているのですね」

 と、コマチがそこで方角に気付いて首を傾げる。時刻と太陽の位置から向かっている方角が北であることに気付いたらしい。

「そうですね。この大地……ルーンガルドは――実際は巨大な球形をしているのです。ヒタカの位置からなら北を突っ切ることで西方への最短距離を移動できる、というわけですね」
「な、なるほど……。直線を移動できる空路ならでは、ということですか」

 コマチは目を見開き、ふんふんと首を縦に振りながらそう言った。そうだな。障害物がない空路だからこその航路と言えよう。
 操船席の傍らの星球儀を見ながら現在位置を確認していく。

「もう少ししたら、一旦高度と速度を落として、地上の様子を見ていこうと思います」
「何かあるのですか?」
「ティールの故郷は氷に閉ざされた寒冷地のようですが――僕としては恐らく南方だろうと見積もっていまして。それでも一応、北側の寒冷地帯も見てもらって、故郷かどうか確認してもらおうかな、と」

 言うなれば北極見学、ということになるか。俺の言葉にティールが嬉しそうに声を上げる。翻訳の魔道具によると、ありがとう、と礼を言われているようだ。

「ティールには、待たせて悪いと思ってるよ。本当なら早めに南極まで仲間の探索に行ってやりたいところなんだけどね」

 そう言うと、ティールは首を横に振った。フリッパーをパタパタさせながら、皆がいる今の状況は寂しくなくて楽しいし、気遣ってくれるのは嬉しいからと、そんな風に伝えてくる。
 今やることがあるのならそっちを頑張って、と逆に応援までされてしまう始末だ。
 まあ、ティールとも約束しているからな。南極探索については危険性の高い巻物の一件が片付いてから、しっかりとこなしていきたいと思う。
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