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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外172 東国の職人

「満月に間に合うように鬼の里に向かうということになるので、都にはそれよりも早く顔を出すことになると思います」
「――では、私達もその時合流できるよう準備を整えておきたいと思います」

 といった調子でユラ達と次の満月に合わせて色々と予定を立てておく。
 巻物に関しての話も纏まり昼食も一段落したところで、帝に色々と物品を見てもらう。
 御前達との宴会の折にタダクニと話していた通り、ヴェルドガルから持ち込んだ酒や食材やらを帝にも楽しんでもらおう、というわけだ。
 何せ、最初に都に来た時はアヤツジ兄妹の一件もあって、内裏で宴会というような話をしている場合ではなかったからな。
 まあ、魔道具や押印機はかなり喜んでもらえた印象だが。

「おお、西方の酒とは。これは何というか、楽しみが増えてしまったな」

 そう言って帝は嬉しそうに相好を崩す。帝はあまり深酒をしたり飲んで騒いだりという性質ではないらしく、夜にのんびり書物を読みながら一杯だとか、そういう酒の楽しみ方をするらしい。

 なので樽酒ではなく、ボトルに入った酒であるとかが需要に合う感じだ。
 ヒタカに持ち込んだ様々な酒にしても産地は色々であるが、葡萄酒等はグランティオスの海洋熟成酒を用意している。品質は良いので楽しんでもらえれば俺としても嬉しいのだが。

 酒の話と同様、カレーについても帝は興味があるらしいので、今日の夕食はこちらもカレーを作る、ということで話が纏まった。
 というわけで夕飯の調理をするということでその準備を進めておく傍らで、帝達に気になっている事を聞いてみることにした。

「あまり腰を落ち着けられる状況ではなかったので今まで切り出せなかったのですが、僕としてはヒタカノクニの色々なものに興味があるのですが」
「ほう、と言うと?」
「そうですね。例えば、薬草や食材、調味料であるとか、工芸品や服飾であるとか。そういった諸々全般です。歴史の話も良いですね」
「なるほどな。そうやってヒタカの様々な事に興味を持ってもらえる、というのは……何となく嬉しいものだな」

 そう言って帝が言うと、ユラやアカネ、タダクニ、イチエモンも嬉しそうに表情を緩める。

「都の近くで手に入る薬草に関しては、やはり国元で栽培をお考えなのですか?」

 ユラが訪ねてくる。

「そうですね。代わりにこちらも作物の種をお渡しできますよ」
「それは素晴らしい。どうかな、イチエモン。そなたらに任せておけば出立までに色々と集めることもできるのではないか?」
「おお。それは良いお考えでござる。御意に」

 イチエモンはそう言って、女官に声をかけて部下達を集め指令を出していた。

「栽培の仕方は陰陽寮の者に纏めてさせておきましょう。こちらの文字は――そうですな。ツバキ殿がいれば伝達に問題ないでしょうか?」
「問題はありませんよ」

 タダクニの問いかけにツバキが静かに頷く。

「ではこちらも、栽培の仕方を纏めておきます」
「でしたらそちらの内容の纏めのお手伝いは私が」
「はい。よろしくお願いします」

 ユラが翻訳というか栽培法のまとめを手伝ってくれるらしい。夕食まではまだまだ時間があるし、書き物をしたり互いの国の歴史の話をしたりと、のんびりと会話しながら過ごすというのも悪くはあるまい。



 そうして、良い頃合いになるまで持ってきた作物の栽培法等を紙に書きつけたりと、纏め作業を行ったり、帝達と色々話をしたりした。
 歴史に絡んで幻影劇の事であるとか、武術、魔法等々の技術体系関連の話であるとか。
 魔道具作りに関しての話も出た。これは東西で色々技術が違うのでアルバートとしても興味があるようだ。

 都にも魔法技師に相当する職人がいるわけだが、どうもその中の1人がヴェルドガル王国への訪問と技術交流を熱望しているのだとか。
 俺としてもアルバートとしても、信用のおける人物であれば技術交流は歓迎である。帝達の件の人物への評価は……満場一致で有能だが変わっている。職人肌だが信用は置ける、という評価であった。夕食の席で紹介してくれるそうだ。

 そうしてカレーを作っていると、後は弱火で煮込むだけ、というタイミングで件の人物がやってきたと連絡があった。

 挨拶がてら中庭に向かうと、そこで随分と興味深いものを見ることになった。

 木の骨組みで作られた――大小のプロペラを持った乗り物が、ゆっくりと降下してくるところだった。レトロ感というか手作り感のある乗り物で、歯車やら何やらの内部機構が外から見える。
 乗り物の下部には人が乗れる座席のようなものがついていて、そこでペダルのようなものを漕いでいる人影が一つ。

「これは……また面白いね」
「ほう。これは……」

 それを目にしたアルバートやお祖父さん達が目を丸くする。

「空飛ぶ乗り物――シリウス号とは随分方式が異なるみたいだけれど」

 と、ローズマリーやみんなも興味深そうにそれを眺めている。

「ええと……。人力で漕いで魔力を補っている……いや、動力を魔力に変換しているのかな?」

 片眼鏡で見るとかなり不思議な魔力の動きをしている。操縦者からは魔力を送らず、ペダルを漕ぐ動作で魔力を生成し……それを浮遊の力やプロペラ回転の補助として用いているらしい。そういう魔道具の装置、なのだろう。手回し充電器みたいなものと理解すればいいのか。
 これを件の人物が作ったとするなら……これは相当な発明家なのではないだろうか。

 俺達の見ている前で、ゆっくりと乗り物が中庭に着地し、座席からその人物が降りてくる。
見た目は……人に近いタイプの獣人のようだ。兎の耳が生えている。件の人物は俺達を見るなり、深々と一礼した。

「お初にお目にかかります。私、カガノ コマチと申します」

 と、操縦者の兎娘が名乗る背後で乗り物が独りでに変形していき、木の箱型に収まってしまう。大きなトランクケースぐらいのサイズになっていた。これは……絡繰り人形の技術だな。また……随分と浪漫溢れるというか、面白い代物だ。

「カガノ家は、代々職人の家でね。コマチ嬢は若いながらも天才職人と言われている。家督を継いで、色々作ったり発明したりしている」

 と、帝が教えてくれた。というわけで、こちらも自己紹介していく。

「――シリウス号とはまた違った系統の飛行装置というわけですね。いや、興味深い。空を飛ぶ原理もですが、見たところ魔石の類の使用を敢えて控えているのでは?」

 自己紹介が終わったところで感想を口にするとコマチは詰め寄ってきて嬉しそうに言う。

「おお、あれだけでご理解をいただけるとは! 私もあの空飛ぶ船を見て居ても立ってもいられなくなってしまいまして、急遽天子様にご無理を承知でお願いをしたのです……! ……っと、失礼。少々興奮してしまいました」

 と、コマチ嬢は詰め寄ったところで我に返ったのか、気恥ずかしそうに頭を掻く。なるほど。帝の人物評もなんとなくわかるような気がする。少なくとも悪い人間ではなさそうだ。

「この乗り物は、コマチさんがお作りになられたのですか?」

 グレイスが訪ねると、コマチは首を横に振る。

「私一人の仕事ではありません。カガノの家で研究をしていたもので……魔力に乏しい者や魔石資源が少ない状況でも空を飛ぶことはできないかと。内部の機関に手を加えたり、私が考案した機構も組み込まれていますが」
「ああ。それで足で漕ぐことで魔力を発生させ、そこから術式を用いていた、と」
「そうですそうです! 使用者の体力が問題になってきますが、都の内部を移動するだけなら、私程度の脚力と体力でも問題なく! 空を飛ぶ機構そのものは、竹とんぼという子供の玩具に着想を得たもの、と家では伝えられておりますよ!」

 プロペラか。テイルローターも付いているあたり、色々試行錯誤を繰り返したのだろうという気がするが。絡繰り人形の技術。独特の発想。何というか、ヒタカの技術力の本領という気がする。
 ここに来て……思わぬものを見せてもらったな。まあなんだ。みんなで夕食のカレーを食べながら、コマチとも色々話を聞いてみたいところだ。
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