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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外169 宴も終わって

 宴会に音楽は付き物ということで、広場の一角に舞台を用意してアルバートが舞台装置の魔道具を設置する。
 出来上がった簡易の舞台でイルムヒルトとシーラ、それに足りないパートを埋めるようにゴーレム楽団が演奏。セラフィナが演奏に合わせ、空を舞うように踊れば、イルムヒルトが楽しそうな歌声を響かせる。
 魔道具の効果でセラフィナの飛んだ後に光の粒や泡が追従したりすれば、里の鬼達はその光景に目を丸くして聞き入り、曲の合間に惜しみない喝采を送っていた。

 陽気というかノリが良いというか。自分達も触発されて踊ったりと、随分と楽しんでくれているようだ。イルムヒルト達もそれを見て、踊りやすいノリのいい音楽に切り替えたりと、状況に合わせくれる。
 俺としてもこう反応が良いとサービスの一つもしたくなる。鬼達の周りにも光の粒と泡を飛ばしたりと、演出を舞台外に広げると鬼達は楽しそうに笑って盛り上がっていた。
 状況を楽しんでいるのは鬼達だけではない。鎌鼬達や雷獣も音楽に合わせて踊ったりしている。

 レイメイはそんな鬼達の様子に機嫌が良さそうに苦笑していたが、御前とオリエは少しうずうずしているようにも見えた。軽くリズムを取っていたりしていたが、一緒に踊るのは自重した様子だ。

 やがて酒樽も一つ二つと空になり……酔い潰れる者、まだ足りないと里の酒を持ち出して更に酒杯を重ねる者と色々いたが、子供鬼達は家々に帰って少し落ち着いた雰囲気になる。

「いや、楽しませてもらった。この料理も舞台もそうだが……こうも色々と見せてもらうと、ヴェルドガル王国が気になってくるな」

 と、オリエが言う。御前とレイメイも、一緒に温め直したカレーを食べてご満悦、といった印象だ。

「転移魔法で行き来できる、と言っていたか」
「そうですね。歓迎しますので状況が落ち着いたら遊びに来て下さい」

 御前の言葉にそう答えると、3人揃って頷く。

「いやあ、本当、この料理も絶品だな。儂としちゃ迷宮ってのが気になるがな。そこで獲ってきたものを売って、ヴェルドガル王国の料理や酒を買う事もできるのか?」

 レイメイがそんな風に訪ねてくる。随分料理も酒を気に入ってくれたようで。

「ギルドに申請する必要はありますが、可能ですよ」
「他国出身の私も修行の場として利用させてもらっておりますからな」
「コルリスも普通に一人で潜ることもあるものね」

 イングウェイが言うと、ステファニアもにっこり笑う。少し離れたところに座っていたコルリスが、こちらに手を振ってくる。

「……聞いている限り、里の鬼達にとっても中々おあつらえ向きな場所にも思えるが」
「ああ。鬼も迷宮に潜れるってんなら、そいつは渡りに船だ。鬼が好きに力を発散できる場ってのもそんなに多くはねえしな」

 と、オリエの言葉に同意するレイメイ。割合本気で鬼達にとっての迷宮活用を考えているところもあるようで。
 里が平和なのは良いが力を持て余している、というところか。迷宮を利用したいというのなら、鬼達が迷宮を活用できるように協力もしていきたいところであるかな。

「だがまあ、今のところは迷宮より巻物の事を考えなきゃならんが……」

 レイメイがふと真剣な表情を浮かべる。そうだな。満月まで身動きが取れない事、上の立場にいるから気持ちを切り替えていたにせよ、レイメイにとっては仙人やその門弟達の安否は気になるところだろうし。今後についての話をしておこう

「これからについてですが……差し支えなければ転移魔法のための拠点を設置させてください。それとは別に通信機もお渡ししておきます。喫緊の事態がこちらで起こったら援軍に駆けつけますし、ヴェルドガル王国で何か起こった場合も同様にお知らせします」
「そりゃ助かる。その場合はこっちからも援軍に向かわせてもらうぜ」
「里まで糸を張っておく故、我にも知らせよ」
「ああ、分かった分かった。約束する」

 オリエの言葉に、レイメイは苦笑しながら首を縦に振る。

「いずれにしても巻物の片割れはそれまできっちり守らなきゃならんな。とりあえずは見回りや警戒態勢を強化しとこうとは考えてる」

 そうだな。どこからどういう手段で情報を得たのか分からないが、敵は巻物の片割れの所在を掴んでこの辺りまで来たのだろうし。
 その際……地理的に西側に黒霧谷があったというのは、オリエにとっては災難だったろうが。

「巻物を安全に保管しておく場所が必要なら、それについても協力できることがあるかな、と。結界や幻術、隠蔽魔法などの手段もありますから。いずれにしても、それらの下準備を早めに終えてからヒタカノクニの都に移動して、それから一旦ヴェルドガル王国に帰って準備を整えてくる、というつもりでいます」

 ユラやアカネ、タダクニやイチエモンにしても……鬼達の対話の折に力になれることがあるかもと、善意で協力を申し出てくれたわけだしな。

 実際ユラやタダクニは御前や鬼の里と、ヒタカの間での橋渡し役になってくれると言ってくれている。この土地に住む妖怪達とヴェルドガル王国との関係等々を鑑みれば……このあたり一帯は、中央があまり干渉しない、妖怪達にとっての独立性が強い土地になるのではないだろうかと予想される。

 まあいずれにせよ、助っ人として残ってくれたヒタカの面々は全員暇な身ではないが……多忙であるからこそ、鬼達との話し合いが上手いところに落ち着いた今回の宴会を楽しんでもらえれば嬉しいとも思う。
 逆に、用が済んだ以上はあまりこっちでの滞在や活動が長丁場になってしまっても、仕事が忙しくなってしまって大変ではあるだろうから、都への帰還も早めにしておきたいところではあるが。



 そうして明くる日――。
 レイメイの屋敷に泊めてもらい、昼頃から起きて活動を始めた。まずは昨晩の打ち合わせの通り、里でやるべきことをしておかなければならない。
 具体的にはクラウディアの術式により転移可能な座標を設けたり、巻物を守るために秘密の地下室を作ったりだ。

「畳の下に秘密の通路か……。こりゃ面白えな」

 と、地下に続く秘密の通路を見て、レイメイはにやりと笑う。
 レイメイの居室の真下に魔法建築で地下室を作った形だ。階段を下りると真っ直ぐ進む通路と、隠蔽魔法で隠された、脇道に向かう通路が続いている。

「契約魔法で――石壁のこのあたりにレイメイさんかシホさんが触れると、隠し通路が開く、という形ですね。外から直接掘削して侵入するのは構造強化と結界によって阻まれますし、仮に何かしらの術で巻物の位置を関知している場合、入り口を見つけて下りてきたとしても、真っ直ぐ進んだところで通路封鎖と眠りの雲の罠が作動し――お渡しした通信機が連動して警告を知らせてきます」

 正面通路奥の罠は非致死性で、閉じ込めてから睡眠ガスを散布するというものだ。
 仮に誤って閉じ込められてしまったとしても、一眠りして目を覚ませば契約魔法に名を連ねている者なら罠を解除して自力で外に出られるし、レイメイのところに通知も行くという寸法である。

 本当の巻物保管場所は――隠し通路から迂回して進み、隠し部屋から更に奥へと向かった先だ。

「というわけで、巻物を安置するならこの小部屋にお願いします」

 巻物を安置する小部屋への通路は普段は契約魔法で閉ざされている、という寸法だ。これに気付かないと、通路を堂々巡りして、やはり罠のポイントまで戻される。

「そこの、通路の途中にある更に下に降りる階段は?」
「ああ、それはですね。仮に里で戦闘が起こった場合――非戦闘員の避難所としても使えるようにした方が良いのかなと。入り口はやはり、ここの魔石に触れることで閉じて隠すことができます」

 と言いつつ、レイメイを避難所に案内する。

「簡易ではありますが、厠の他、怪我の治療、解毒、空気の浄化、水の生成、厨房設備として利用できる魔道具を配置し、いくつかの小部屋を用意してあります。腐敗しない非常食や防寒具などを運び込んでおくといいかも知れませんね」
「……至れり尽くせりだな、こりゃ。出てくる土人形が随分多いとは思ってたが」

 そう言ってレイメイはなかなか満足そうな様子で地下区画を見て回っていた。気に入ってもらえたようで何よりだ。実際に出番があるかどうかはともかく、巻物を守るための防御策として、やれることはやっておきたいからな。
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