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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外168 隠れ里の大宴会

 大蜘蛛――オリエとの話も一段落したところで、宴会会場となる広場に戻る。

「待たせてごめん。準備の方はどんな感じ?」
「こちらで用意した料理の準備は一通り順調ですね。例の料理は――必要な材料を用意して切ったり、下味をつけたりというところまでは進めてありますよ」
「ん。ありがとう」

 グレイスにお礼を言って水魔法で手指を綺麗にしてから料理に移る。
 サーモンのマリネ。トマトとチーズ。ベーコンとキノコの炒め物。ウインナーやローストビーフ、貝の網焼き、から揚げ、フライドポテト、茶碗蒸し、塩を振った枝豆、オニオンスライスのサラダにポテトサラダ……と。
 基本的には各種酒に合いそうな料理を中心にしたレシピだ。前に妖怪達と宴会した時から大きく変わっていない。
 しかし酒はそこまで飲まないという者もいるわけだし、がっつり食事をしたい、という者もいるだろう。というわけで、別の料理も用意していたりする。

「これよね?」

 と、ローズマリーが魔法の鞄からガラス瓶を取り出す。

「そう。これを使わないと始まらない」

 迷宮核を利用して配合比を調べ、あちこちから集めた香草を焙煎し、細かく砕き、粉末状にしてから寝かせておいた、という品だ。

 つまるところ、カレー粉である。ようやく完成の目を見たわけだが……こういった席で使わず何時使うのかというところがあるので、ここでお披露目である。

「ほほう。それは?」
「ええと。沢山の香草を焙煎して、粉末状にして混ぜ合わせた、という代物です。実は、前々から考えていたのですが、これが出来上がったので、初めて他人に振る舞う料理、ということになりますね」
「面白そうだな」
「興味深い」

 御前達は興味津々といった様子だ。
 というわけで、早速カレー作りを始める。
 色々細かなテクはあるが……あまり奇をてらわず、鳥肉、タマネギ、ニンジンを基本食材として作っていくというのがいいだろう。宴会が長丁場になるのも想定している。じゃがいもはやや足が早くなってしまうので今回は使わない。

 食材を切ったり下味をつけたりの用意はしてもらっているが、鬼の里全体に行き渡るようにという感じなので、とにかく食材の量が多い。しっかり料理していこう。
 鍋に油を引き、タマネギをしっかりと炒めて飴色にしていく。鳥肉を焼き、色を付けたところで一緒の鍋に投入。ニンジンも入れて更に炒めていく。

 十分に炒まったら水を入れて弱火から中火で煮込んでいくわけだ。ゴーレムにアク取りの作業を任せつつ、並行作業で別鍋にカレールウを作っていく。
 大鍋で食材を煮込んでいるのでカレールウもそれに合わせて多めに作る必要がある。ラードで小麦粉を炒め、きつね色になったところで粗熱を取り、いよいよカレー粉を投入である。煮汁と混ぜ合わせて程よいとろみになるよう伸ばしていく。

 そうして出来上がったカレールウを鍋に投入し、弱火にして焦げないように混ぜ合わせていくと……すぐにカレー独特のスパイシーな香りが辺りに漂い出した。

「ああ、これは……。良い香りですね」
「本当ね。食欲がそそられるわ」

 漂うカレーの香りに、アシュレイとステファニアがにっこり笑う。隣でシーラとマルレーンがふんふんと首を縦に振って、それを見たイルムヒルトとクラウディアが微笑ましいものを見るように相好を崩す。
 鬼達も興味深そうに鍋の方に視線を送り、鼻孔をひくつかせたりと、香りを楽しみながらも出来上がりを心待ちにしている様子だ。

 とろみの塩梅を見ながら焦げないように混ぜ合わせつつ、味を見て整えてやれば出来上がりだ。
 辛さは控えめで初心者にも馴染みやすく……香りを重視する、という方向なので今回はチキンカレーにしてみた。

 米もしっかり大量に炊き上がって、他の料理も出来上がり……いよいよ宴会の開始である。期待している鬼達だけでなく、動物組も行儀良く横並びになって、食事が出来上がるのを今か今かと待っているようだしな。それではお待ちかねといこう。



 広場で宴会、食事ということで、あちこちに簡易のベンチやテーブルを用意した。盛り付けや配膳はゴーレムに任せる。
 そうして準備が整ったところで、里を代表してレイメイから一言、という流れになる。

「こういうのはあまり性分じゃねえんだがな。まあ、なんだ。上手い酒や料理を前に、長々と話をするような気もねえ。今回は遠方からはるばるやってきた客人であるテオドール達――新しい仲間との絆を深めるための席だ。同じ釜の飯を食って、酒を飲んで歌いもすれば、昨日までの他人や喧嘩相手とだって仲良くもなるってもんだろう。だから存分に今宵の席を楽しもうじゃねえか」

 レイメイが言うと、鬼達から歓声が上がった。レイメイが酒杯を掲げると、居並ぶ者達も皆酒杯を掲げる。

「我らの友誼に!」
「我らの友誼に!!」

 レイメイの音頭に合わせて皆が復唱する。

「乾杯!」

 という言葉と共に、あちこちで楽しげな声が上がった。動物組も乾杯の声と一緒にそれぞれ肉や魚、鉱石にありついてご満悦といったところだ。
 さてさて。固めの杯なので、俺もみんなも、最初の一杯はしっかりといただく。杯を空にすると、御前が声をかけてきた。

「なかなか良い飲みっぷりではないか」
「いや、深酒はしませんよ。固めの杯なので特別です」

 御前の言葉に苦笑する。

「ふむ。お前さんとの酒盛りはまたお前さんが成長してから、か」
「先々の楽しみが増えたな、鬼よ?」
「はっ。お前もその気だろうが」

 と、軽口を叩きながらレイメイ達は楽しそうに並んでいる酒樽の方へ向かう。まずは色んな酒を試飲してみることにしたらしい。

「んっ」

 と、スプーンでチキンカレーを口に運んだシーラが目を見開き、短い言葉で反応する。耳と尻尾が一旦ピーンとなってからスプーンが次々カレーライスを口に運んで行く。

「ふふ、気に入ったみたい」

 イルムヒルトがシーラの反応に微笑みながらカレーを口にする。かく言うイルムヒルトも一口目で少し驚きを見せ、それからカレーを次々口に運んでいた。

「ああ……。これは美味しいですね」
「辛い料理と聞いていましたが……これは好きかも知れません」
「確かに……辛みもあるけど、まろやかで複雑な風味が……」

 と、カレーを口にしてにっこり微笑むグレイスとアシュレイ。目を閉じて味覚に集中しているローズマリーである。

「手間暇かかっているものね」
「それに見合うだけの美味しさよね」

 クラウディアもカレーを口にして表情を緩める。ステファニアとマルレーンもカレーの味が気に入ったのか、顔を見合わせてにこにこと頷いていた。
 好評なようでなによりだ。俺もカレーを口にしてみるが、迷宮核に配合比やらの計算を任せたというのもあり、俺にとっては実に馴染みやすい味わいの――懐かしさを感じるカレーの味だった。

 そんなわけでカレーは概ね好評だ。鬼の里は人間の形質が大きく出た者もいるので、全員が全員大酒飲みというわけではないようで。特に子供達はみんなしてカレーの味に笑顔になっている。そうだな。子供にカレーは鉄板と言っていい。鬼でもそれは同じだ。

 酒とカレーは若干合わないと、事前に言ってある。しかし時間経過で味が染みて美味くなる、とも伝えてあるので、酒をメインで楽しみたい者達は、締めにカレーを持ってくることに決めて、色んな酒やツマミを楽しむことにしたらしい。

「むう。これは……!」
「それは葡萄酒であるな。そっちの発泡しているのは麦だそうだ」
「葡萄……。複雑で上品な香りと味わいだな。我は気に入ったぞ」
「儂はこっちの麦酒も気に入った」

 と、早速酒を飲み比べているレイメイとオリエである。御前は一度それらの酒を一通り飲んでいるから、自分も酒を楽しみつつ二人に解説をすることにしたらしい。

「ほれ。その酒はこの料理、そっちの酒はこっちの料理と合う」
「おお……。これは何という……」
「珍しい酒にはまっちまうと後々大変なんだが……こいつは素晴らしいな」

 そんな風にして酒盛りしている3人の話を聞いて、鬼達もそれに倣う。

「こりゃ美味え。なんだって言ったっけか、これは」
「ちーず、だったかな。牛や山羊の乳を固めて発酵させるとかなんとか」
「御前様が言うにはこっちの赤いの……とまととやらと一緒に食うのがいいとか」
「なるほどのう。おお、こりゃ美味いのう」

 と、そんな風に盛り上がっている。
 レイメイ達や鬼達の様子を見てシホさんは微笑み……そして近くにいた俺も鬼達の様子を見ていたことに気付くと一礼してくる。

「なんだか昔の事を思い出して、懐かしい気持ちになりますねえ。周りの妖怪や眷属はともかく、あの3人は喧嘩をしていた時も何というか、そこまで殺伐とはしていなかったかなと」
「ああ。なんとなく分かるような気がします」

 喧嘩の時も同じようなノリか。

「里の皆も……昔から、酒盛りの時はこんな風に賑やかでしたよ」
「古参のお話を聞くと、奥方様のお陰で暮らしぶりは大分変わったということですが……酒盛りでは変わらないかも知れませんね」
 と、ツバキが鬼達の盛り上がりぶりに苦笑して答える。ツバキの言葉に、シホさんは朗らかな表情で頷いていた。

 聞いてみると、洞窟暮らしよりも日の光の当たる場所で暮らした方が人であるシホさんには良いだろうと最初にレイメイが言い……そうして里の完成図を夫婦で相談しながら思い描いたらしい。
 そうして計画を立て、鬼達の力で開墾し、地形を変え、里を作り上げた。

 農作業に裁縫。家の建て方。色々な仕事もシホさんが鬼達に教えたりしたそうで。今でもレイメイを慕って集まってきた古参の鬼達からシホさんは尊敬を集めているそうだ。
 その後里で生まれた鬼達も、シホさんが寝かしつけたり読み書きを教えたりした事もあるとのことで……里全体からかなり慕われている、と、ジンとツバキが教えてくれた。

 ちなみにジンもツバキも客人の身の回りの安全に気を配る役割、ということで酒は控えめにしているらしく、並んでカレーを口に運んでいる。損な役回りで済まないというと、カレーも絶品、と2人揃って太鼓判を押してくれた。

「鬼の里のお話は、クラウディア様の昔を思い出すところがありますね」

 と、ヘルヴォルテが言う。

「ああ。それは確かに」
「どう、かしらね。それにしても里作り、ね。環境を作っても維持をするのは思わぬ問題が色々出てきて、結構大変だったわね」

 クラウディアが目を閉じて言う。話題の種として、迷宮村の成り立ちやら色々な苦労話やらをしてくれた。

「そういう苦労は……分かります。この里でもですね――」

 と、鬼の里でも色々あったらしくて、シホさんも昔を振り返りながら色々話してくれた。

「なんだか、懐かしい話をしてるな」

 そこに酒を一通り味わったレイメイ達が並んだ酒樽の前から戻ってくる。

「ふむ。鬼が嫁を娶ったという話を聞かされた時は腑抜けたかと思ったものだが。シホは昔から肝の据わった娘でな。顔を会わせて話をして、納得もしたものだ」
「人にしておくのはもったいない等ともそなたは言っておったな」

 そんな風な話からレイメイ達は互いに喧嘩をしていた頃の、思い出話に興じるのであった。
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