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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外165 名の無い鬼と隣国の道士

「そうして、ベルクフリッツから得た証言を元に、仙術の繋がりを追ってここまできた、というわけです。隣国は政情不安という情報を得ていましたし、仮に巻物を悪用しようという者が現れるという状況になったとすれば、遠方の西よりは近場の東側に接触を図るかな、と」
「ふむ」

 レイメイは俺の話に横槍は入れず、内容を吟味するように時折相槌を打ったりしながら聞いていた。

「それから、先日の光の柱ですが……あれはヒタカノクニの都に情報収集に行った際に――」

 と、アヤツジ兄妹のやらかしたことや、それを知る事になった経緯。巫女の予知によって兄妹もまた巻物――と知らなかったようではあるが――を狙うようになったこと等々の話をする。
 この土地で御前と知り合った事。捕縛のために平原を戦いの場として貸してもらった事まで話をすると、横で話を聞いていた御前が言った。

「テオドールの言っておる事は、本当の事であるな。少なくともこの土地に来てから妾の見聞きしたものと一貫しておる」
「俺も雷獣も……アヤツジの作った妖刀に囚われていたが……テオドール達に……助けられた」

 御前の言葉を受けて、サトリが言う。隣の雷獣がこくこくと頷いて同意する。

「アカネもな。テオドール殿に救われておる」
「そうですね。怪我をしていた私の治療までして下さいました」
「都で起こったことも全てテオドール殿のお話した通りです」

 鎌鼬が言うと、アカネが脇腹に手を当てて頷く。他の鎌鼬も左様、と同意し、タダクニも俺の言葉の信憑性について保証しようと口添えしてくれた。イチエモンも目を閉じてうんうんと頷く。
 そんなみんなの様子を見て、レイメイは愉快そうに肩を震わせた。

「まあ、そうだな。嘘を言っているかそうでないかぐらいはわかる。話の内容は信じるぜ」

 そんな答えにみんなの空気が弛緩するも、レイメイはふと真剣な表情を浮かべた。

「しかし、仙人――あいつの巻物か。確かに、そいつを儂は受け取っている。その内顔を見にそっちに行くから、それまで暫く預かっていて欲しいってな。書状と共に妖魔の遣いが持ってきたんだ」

 やはりというか、レイメイが仙人の友人で間違いなかったようだ。しかし……。

「妖魔の遣い、ですか。仙人の弟子ではなく?」
「時々連絡を寄越す時はいつもそうしていた。仮に弟子が同行していたとしたら――多分、儂に質問をさせないようにしたのだろうが……」

 と、レイメイは若干……いや、かなり不満そうな表情だ。

「事情を知れば隣国まで助けに行くと踏んでたんだろうな。全く……」

 それに、地方だから隣国の情報までは入ってこない。そんな風に仙人が計算した部分もあったかも知れない。

「善後策を練るためにも、色々とお聞きしても良いですか? その仙人に関してのことであるとか。巻物の内容については……部外者に話せないことであるなら無理には聞きませんが」

 そう言うと、レイメイは少し思案してから答える。

「……色々話はしておくべきかも知れねえな。神仙を目指すのを端から考えてない儂じゃ、大がかりな術までは手に負えんかも知れん。だが、巻物の内容まではよく分からんってのが正直なところだ。期待させちまってたのなら、すまねえな」
「いえ。巻物自体が分割されているようですからね。仮に、何かしらの術式の記述そのものであったなら、どうしようもないかと」

 だとしたら片割れだけでは解読の試み自体が意味をなさない。

「ひとまず……巻物の事はさておき、ご友人についてお聞きしても良いでしょうか。振り返っているうちに、もしかしたら何か巻物に繋がる事を思い当たったりするかも知れませんし」
「確かにそれはあるかも知れねえな……。ふむ。あいつに出会ったのは、儂が山の妖魔に敗れて、武者修行の旅をしていた時だ」

 その頃のレイメイは、まだ名前もない、一匹の鬼だったそうである。
 強くなって山に戻り、妖魔を倒すために、あちこち巡って気に入らない妖怪であるとか強そうな武芸者等に喧嘩を売ったりしていたらしい。

「あれは海沿いの町だったか。突然の嵐が起こってな。どこぞの隣国から帰る船が沖に出ちまってて、大丈夫なのかとか港町で結構な噂になってた。まあ、海まで見に行ったのは興味本位だな。嵐を起こしてるのが土地の妖魔の仕業ってのが臭いで分かったから、どんなのがいるのかと様子を見に行ったわけだ。空を飛ぶための妖術は、他の妖怪に教えてもらっていたからな」

 そこで――件の人物に出会ったらしい。船に乗り合わせた仙術使いの道士と妖怪の戦いは道士の優勢であったが、劣勢とみた妖怪が船から一人を波で攫ってきて、道士に対して人質に取ったそうだ。

「それで道士は手傷を負った。儂はそのやり口が気に入らなかったから、横から割って入って妖怪をぶちのめした、ってぇわけだ。結局船は沈んじまったが、乗ってる奴は道士が助けた。というか手伝わされた。ここで勝手にいなくなるのは中途半端で寝覚めが悪いだろうとか言いやがってな」

 と、レイメイは肩を震わせる。いやはや。武者修行の旅と言い、破天荒なことだ。
 ともかく、それが切っ掛けで道士との交友が始まった、というわけだ。

「で、儂の事情を知ると、恩返しを兼ねて協力したいとか言い出してな。妖怪に恩返しなんざ、あいつもよくよく物好きなもんだが」

 ……多分それは、レイメイが好戦的ではあっても邪悪ではないと。そんな風に道士が思ったからではないだろうか。

「儂も山の妖魔に勝つには、奴の得意としてる妖術でも何でもいいんだが、しっかりと術を身に着けないと対抗できねえって思っていた時期だったからな……。暫くあいつの修行や仕事に付き合うって形で隣国に渡ってだな。武者修行を兼ねて、妖怪退治やら何やら、あっちで色々やってきたってわけだ」
「レイメイ、というお名前もその方が?」
「そうだな。儂はその時は名前なんざ気にしちゃいなかったが、ないのは不便だからってよ。だから、こっちの国の名前より、あっちの名前に近いんだろうな。あいつはこっちの名前に近くなるようにって、色々頭を捻ってたみたいだが」

 レイメイは目を閉じてどこか懐かしそうに笑う。
 嶺鳴か。鬼の事情を知った上で目的が達成できるようにと。そんな応援の意味合いを込めた名前なのだろう。
 そうしてレイメイは仙術を身に着け、山に戻り、妖魔を倒すことになった、と。
 ジンが体術を用いていたのも、隣国の武芸をレイメイが身に着けているから、という可能性は高いな。

「そうして暫くして、こっちに戻ってからも……まだ修行だな。あちこち巡って妖術に熟達している妖怪相手に自分の力を確かめたりしてた。あっちの国じゃレイメイ大王、こっちの国じゃレイメイ童子の名前で呼ばれたのもこの頃だ」

 あー。大王や童子という肩書きも確かにそれぞれの国での文化的背景を反映した感じだな。
 仙術を使う鬼の記録が都で残ったのもこの頃の事のようだ。多数の妖怪を率いる大妖怪相手に大暴れした、というような記述が残っていたから、相当派手な大立ち回りをしたのは想像に難くない。

「で、自分の成長も実感できてな。岩見ヶ岳に戻ってきて、山の妖魔を倒した。その後の事は――んん。まあ、蛇に聞いてるか」

 ここに来てレイメイの歯切れが悪くなる。奥さん云々の話になっていくからそのあたりの経緯はあまり詳しく話をしたくないのかも知れない。

「約定の話ですね」

 だからこちらも知っている、ということでお茶を濁しておく。

「そうだな。で、儂は所帯を持ってから色々思うところがあってな。神仙云々の道はすっぱり切り捨てたわけだ。まあ、元からそんなに魅力を感じちゃいなかったがな。儂一人が老いず朽ちず、ただ生きていて何となるとな。あいつも……儂が老いた事を知ってるから、助けを求めてきたりはしなかったんだろうが、な」
「頭領……その話は」

 ツバキが少し心配そうな視線を送るが、レイメイは寧ろ愉快そうに笑う。

「悪人に知られるなら問題だが、こいつらはそうじゃねえだろう。特に、テオドールは……小さな者らに好かれているようだしな」
「そう、かも知れませんな、確かに」

 ジンが目を閉じて言った。そうしてレイメイは少し思案して言葉を選んでいたようだが、やがて面倒になった、というようにぶっきらぼうに言った。

「あー。つまりだな。家内は元気にしとる。シホが肺の死病で倒れた時にな――。儂が仙術の儀式を応用して寿命――命を分けた。ま、元々儂らと人とじゃ寿命が違い過ぎたから、これで良かったのかも知れん。難しく考えるのも性分じゃねえしな」

 ……なるほど。だからレイメイは神仙を目指していない、と。
 仙人が修行を通して目指すところは、つまるところ真理へ到達して、大自然、宇宙と同一化し、高次の存在へと至ることだからだ。だから、自ら寿命を短くするような術は、神仙の修行が目指すものとは正反対ではある。

 それと……頭領が老いた、いや、老いやすくなったという事実は、ジンやツバキ――鬼達にしてみればあまり外に触れ回って欲しいことではないだろう。
 頭領に客だからと、部外者を案内するのを躊躇った理由も、なんとなくわかるような気がする。

「ここで知りえた秘密は、誰にも漏らしません。巻物には関係のないことですし」

 俺の言葉に、アカネやタダクニ、イチエモンといったヒタカの面々も真剣な表情で頷く。

「そうかい」

 レイメイはそう言って、どこか楽しげに笑うのであった。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

11月25日発売予定の書籍版6巻について、書影が公開となりました!
特典SS、書き下ろしも完了しております。
詳細については活動報告にて告知しておりますのでそちらを見て頂ければと思います。

皆様の応援のおかげでこうして刊行を続けられる事を嬉しく思っております。
今後もウェブ版共々頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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