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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外164 鬼の隠れ里へ

「そういえば、里と言いましたが普段はどうやって暮らしているのですか? 衣食住などは気になるところですが」
「ふむ。そうだな。確かに俺達の生活は外の者には気になるか。だが、まあ立ち話もなんだ。少し腰を落ち着けて話をするとしよう」

 ジンは手近な岩の上に腰を下ろす。
 ツバキが戻ってくるのもそれなりに時間がかかるということか。それなら、俺達も岩の上あたりに座らせてもらおう。
 俺達が座ったところで、ジンは言葉を続けた。

「昔の鬼達がどうかは知らんが……その辺に関して言うなら、人里の暮らしとそう変わらないのではないかと思うが。まあ、里の外にはあまり出ないから伝聞ではあるのだがな」
「つまり、作物を育てたり狩猟をしたりの自給自足ですか」
「うむ。山の斜面に田を作り、耕す。近隣の山々に分け入って山菜を採り、魚を釣り、獣を狩る。というより、この岩見ヶ岳にいる限りは、我らはそれほど腹も減らん」

 なるほど……。環境魔力が濃いところでは小食でも問題ない、というのは魔物と同じか。鬼達がこうして理性的であるのを見るに、この辺一帯の魔力は濃くても清浄ということになる。

「基本的には服も家も自分達で作る。たまに作ったものを里の外に行商に行って、その金で代わりに着物を手に入れてくることもある。服を作っている者達には良い刺激になっているようだが……俺には流行り廃りの違いはよく分からんな」

 聞いてみると里の外、というのは約定があるので、御前の領地への訪問は遠慮しているらしい。鬼達の身体能力なら迂回して大きな拠点に向かうのもそう難しいことでもないとは思うが、律儀なことだ。

「まあ、それぐらいの接点なら妾は大目に見ても構わんとは思うのだがな」
「約定は約定だ」

 というジンの返答は鬼達の性格を表しているとは思う。

「服の染色や作りは丁寧な気がしますね」
「織っている者達が技術を磨いている、というのは間違いないな」

 アシュレイの言葉にジンは静かに目を閉じて答える。
 里の暮らしぶりを聞いたり、逆に俺達の暮らしている場所はどうなのか等という話をしたり。そんな調子で世間話をしているとツバキも戻ってくる。

「お待たせした。頭領のところへ案内するようにと仰せつかっている」

 というわけで、ツバキに続いて山の斜面を進んでいく。鬼達の里まで一直線に向かうということで、軽快に斜面を跳躍する2人の鬼の少し後方をついていくように飛行して進む。
 暫く一緒に進んでいくと、今度は斜面の結構下の方に、平地になっている部分をうまく活用した、といった雰囲気の集落が見えてくる。

 ……いや、上から見ると、地形がやや人工的な印象もあるかな? 日当たりも良さそうだし、森林限界も超えていない。山々に囲まれて外からは目につきにくい場所だ。近くに棚田もあって、鬼達が自分達で整備をしたのかも知れない。
 岩見ヶ岳を外から見ただけでは見えない場所にあるし、標高の高い場所から流れてくる水も地形を利用し、上手く集めて人工池に溜めたり、棚田に水を送るための水門らしきものがあったりと、色々工夫されているのが見える。

「結構な技術と計算がされているようにも思えるわね」

 と、それを見たローズマリーが感心したように言う。

「頭領の指揮の下、長年かけて我らの力で作ってきたものだ。時折人里に向かうのも見聞を深め、新たな知恵や技術を得るという目的がある」
「ああ。だから衣服も外と変わらないものを、と?」
「それもあるな」

 あまり外と文化的に乖離してしまっては情報収集の際に目立ってしまうだろうからな。
 一方で、標高の高い場所では山体をくり抜いたような痕も見えるが……。

「あれは昔、住居として使っていた名残だな。今は見張りを置いたりといった用途で使っている」

 と、俺の視線の先に気付いたツバキが教えてくれた。

「では、二人ともそこから跳んできたと」
「そういうことだ」

 そんな会話を交わしながら斜面を下りていき、やがて俺達は里の広場に降り立った。住民である鬼達は俺達の訪問を知らされていたからか、興味津々といった様子だ。

「おお。あれが西方の客人か」
「あの少年。光の柱を打ち上げた術師であるのに、武術の腕も底知れぬとか」
「ふうむ。興味が尽きんな。頭領の客人でさえなければなあ」
「力試しの類は、ジン殿に勝てぬのであれば煩わせるだけという話だったぞ」
「むう。他にも強そうな者が何人かいるが……相手をしてくれんだろうか」
「ジン殿やツバキ殿の顔を立てるのだな」

 といった会話も聞こえてくる。ジンとツバキの案はしっかりと効果を発揮しているようではある。
 イグナード王やイングウェイにも興味が向いているからか、2人はやや苦笑しているようではあるが……こういった視線に慣れているようにも見えるな。エインフェウスの国風に近い部分はある、かも知れない。

 男鬼に女鬼。小さな子供鬼に至るまで。外からの客に物怖じしないのは鬼達が全体として強力な力を持っているからだろうが――。魔力反応はまちまちな印象があるな。
 外に出てこず、民家や物陰から覗いている者達は特に反応が小さい……どころか、角がないという者もいる。

「ふむ。角がない者や力が弱い者については……頭領とシホ様のなれ初めの話に憧れる者もそれなりにいてな。人里での情報収集やら技術習得に向かい、その折に伴侶を見つけてくる者も時折いる、ということだ。鬼の性質が薄れている者も、中にはいる」

 と、ジンが俺の疑問に答えてくれる。シホ、というのが頭領と結婚した人物か。
 そうして頭領夫婦に憧れた結果、人に伴侶を見出す者もいて……個体によって力がまちまちなのはその結果、ということだろう。

「それは何というか……良いお話です」
「ふふ、素敵な話よね」
「……そうね。私達としては他人事ではない気がするわ」

 グレイスが微笑んで言うとイルムヒルトが小さく肩を震わせ、クラウディアも目を閉じて頷く。確かに俺としても、他人事ではないというか。鬼の里の状況は応援したいところではあるな。
 そうして俺達は広場から連れだって少し進んで、大きな屋敷の前に到着する。
 都の屋敷は寝殿造だったが、頭領の屋敷は武家屋敷に近いイメージだ。そのまま案内されて母屋に通される。

 そうしてそこに、鬼の頭領はいた。羽織に袴。長い白髪を後ろで一つに束ねている。整えられた口髭、顎鬚も真っ白で、威厳のある老爺という雰囲気の人物だ。
 だが、鬼であるのは間違いない。角がしっかりと生えているし身のこなしにも隙がない。これが鬼の頭領、か。

「ほおう、こりゃまたすげえのが来たもんだ。色々納得いったし、蛇が気に入るわけも分かった気がするな」

 と、頭領は俺を見るなりそう言って、御前と視線を合わせるとにやっと笑ってみせた。

「うむうむ。そうであろう。久しいな、鬼よ」
「おう、久しぶりだな」

 御前と親しげに言葉を交わす。

「ま、立ち話もなんだ。適当にそのへんに座りな。茶ぐらいなら用意するぜ」
「ありがとうございます」

 というわけで一礼して用意されていた座布団に腰を下ろした。

「儂の名はレイメイという。古い友人にもらった名でな。人の世じゃ、レイメイ童子だのレイメイ大王だの、色々言われたこともあったが……」

 と、言いながら虚空に指で字を書く。文字の意味から漢字に変換するなら嶺鳴、といったところか。山に名を轟かせるとか、山を騒がせるとか……そういう意味合いからくる名付けだろうか?

「初めまして。名をテオドール。姓をウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

 ツバキとジンがお茶を淹れてくれたので、腰を落ち着けてみんなのことも紹介していく。一通り紹介が終わったところで、ここに来た用件を切り出す。

「早速ではありますが、ここに来た理由についてお話をしたいのですが」
「そうだな。心当たりもないわけじゃないが、話を聞かせてもらってから判断させてもらうとしよう」

 俺の言葉に頷いたレイメイが、少し身を乗り出す。どうやらレイメイも気になっているようだ。今回はイグナード王も一緒だしな。色々と順を追って説明していくとしよう。
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