挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

914/1239

番外163 鬼との対峙

 西方から来たとだけ言って誤解があってもいけないので、海を挟んでの隣国よりも更にずっと西から来た事、用件自体は隣国が絡んでいる事をしっかりと説明しておく。
 用件を詳しく話せないことについては鬼達の事情を知らないから、頭領以外に触れ回っていいのか判断がつかないから、という事もしっかりと伝える。

「……西方の人の子が頭領に用とは。いや、しかし……」
「話の内容に心当たりもないではないが……さて。どうしたものか」

 と、鬼達は顔を見合わせて悩んでいる印象に見えた。……鬼達にも何か事情があるのかも知れない。
 それに女鬼の言葉。どこまで事情を知っているかはわからないが、隣国と頭領の間の繋がりに、何かしらの心当たりがあるようだ。どうやら、仙人の友人は鬼の頭領に間違いないようだ。

「詳しく話をする前に名乗っておこう。私の名はツバキという」
「俺はジンだ」

 鬼達の事情は分からないが、俺達が頭領に用があるという以上は話を進めないというわけにもいかないのだろう。こちらに向き直るとまずは名前を名乗ることにしたようだ。

 女鬼がツバキで巨躯の男鬼がジンか。こちらの面々も紹介しておこう。



 そうして――その場にいる全員を紹介し終える。

「――少なくとも只者でない、というのはよく分かった。いや、先日の光の柱の一件から分かっていたと言うべきか」

 と、ツバキが言う。心構えが出来ているからか、こちらの肩書を聞いてもそこまで動じた様子がない、のは流石なのかも知れない。
 鬼達全員がこうなのか。それともこの2人が見張りに選ばれるだけあって特別なのか。2人はグレイスにも視線を向けたが、あまり根掘り葉掘り聞くようなことはしなかった。話があるのは俺だから、という事だろう。
 しかし、光の柱ね。あれについてはどう思われているのだろうか。

「あれが警戒を抱かせるようなことになってしまいましたか?」
「それもないわけではないが……案内を迷っているのは俺達の事情による部分も大きい。ここではまだ話せない」
「だが、頭領に用があるというのであれば、いずれにしても話を通して、その上で判断を仰ぐというのが筋だろうな。そこに否やはない。しかし――だな」

 ツバキとジンの纏う気配が変わる。何とも言えない圧力めいた魔力と気配。殺気とも闘志とも違う。種族としての本性を敢えて見せているというのが一番近いだろうか。

「脅かすわけではないが……忠告というか確認をしておきたい」
「用向き次第では話が穏便に終わらない可能性もある。だからと言って頭領は客人として迎えた者に危害を加えるような御方ではないが――悪意があるならばその限りではない」
「問題はありません。話をしに来ただけですから」

 それに対しては即答できる。憚る事や後ろめたい事など何一つない。ツバキとジンを見てそう言うと、2人は静かに頷いた。
 人に似た姿をしていても根本的に種族が違うだとか、鬼達が全体を通して好戦的であるというのも承知の上だ。俺だけでなく、この程度で怖気づく面々はいない。それを確認したのか、ツバキが口を開く。

「頭領との話がうまく纏まったとしても、別の問題が起こる可能性についても話しておきたい」
「というと?」
「里には血気盛んな者が多い。ましてや先日の光の柱をなした術者ともなれば、力試しを申し込んでくる馬鹿者が出てこないとも限らない」
「あの術を目にして、それでもというのか?」

 ツバキの言葉に御前が目を丸くするとジンが苦笑した。

「術を使われる前に取り押さえてしまえば自分の方が強いのでは、と考える者もいるでしょうな。テオドール殿を見る限り、それは全くの思い違いなのでしょうが」
「というよりも――それほどの洗練された佇まいでは、どうしても血が騒いでしまうでしょう。彼我の実力差を測れないような未熟者は論外としても、それでもなお己の力が、磨き抜かれた技に通じるか試してみたい……と思うのは、最早我らのサガかも知れません」
「相変わらず……困った連中よな」
「全くです。私達も苦労しておりますよ」

 御前の言葉に、ツバキは小さく嘆息してかぶりを振る。
 力試しに腕試し……ね。実戦でないなら別に構わない……とも思うが、来る者拒まずなんてスタンスでは、鬼達の性質を考えれば本当に順番待ちされたりなんてことも有り得る。里にいる間ずっと、なんて状況は流石に御免こうむるな。

「頭領から取り成してもらうこともできるだろうが、頭ごなしでは若い者の不満も溜まろうかというもの。そこで一つ提案がある」

 そんなふうにツバキが言う。

「ここで力を見せてもらうことで、厄介事のほとんどを私達で引き受けることができる。例えば――私達にも歯が立たないような輩が、客人に力試しを申し込むなどおこがましい、というような」

 なるほど。この場で最初に力試しを済ませてしまえば、後のことは自分達に任せてくれて構わないと。
ツバキ達は俺の技量を随分と買ってくれているようではあるが……だからと言って片っ端から相手をしていたら、色々問題があるだろうしな。
 それに力試しとは言っても試合は試合。絶対に事故が起こらないとは言えない。2人の立場としては色々と考え出してしまうと心配事も尽きないだろう。
それにその提案に乗っても、完全な保証がされるわけではない。血気盛んな者もいる、ともなれば里に連れて行って、万一の時に自分の身を守れるかどうかも重要だろうしな。

「わかりました。それでお二方の心配事が減るのであれば」

 そう言うと、二人はその返答が意外だったのか、虚を突かれたような表情を浮かべる。ツバキは気を取り直すように目を閉じて、それから言った。

「……いや、私達への気遣いは無用だ。――ジン」
「俺で良いのか?」
「私よりも客人の技量の程を理解させるには、お前のほうが適任だろう」

 そう言ってツバキが少し後ろに跳ぶ。

「先程言った……術者なら使う前に取り押さえればいい、というような前提を崩せるだけのものを示してもらえればそれで足りる。興が乗り過ぎても些かまずい」
「なるほど」

 本気で打ち合い、術を叩き込むような戦いをするよりはスマートだろう。

「では不詳ながら――お相手つかまつる」

 そう言ってジンが構える。右半身を引いて構えるその姿――。俺について技量云々言っていたが――やはりというか。ジンもまた相当な武芸を身に着けているようだな。

 ウロボロスを構えて、ジンと向かい合う。魔力循環で力を練り上げ、研ぎ澄ませていけば――余剰魔力が青い火花となって散る。

 一瞬の間をおいて。前触れもなくジンが爆発的な速度で音もなく踏み込んできた。
振り下ろされるのは牽制の手刀。加減されている、というよりは互いの実力の程が知れないからどういう展開になっても対応できるように、という動きに見えた。
こちらが反応できてもできなくても。反撃を受けることもなく、また手を止めることもできる。そんな小手調べの一撃だった。

 マジックシールドを展開して斜めにそらすように受けて、踏み込む。打ち込まれたウロボロスを、ジンは闘気を纏う膝で受けていた。闘気と魔力が火花を散らし――半歩後ろに引いて間合いを開けたジンは、その距離で留まり――コンパクトな動きから、爆ぜるような拳足を繰り出してくる。暴風かなにかのような矢継早の攻撃。

 ウロボロスとシールドを以って、それに対応する。そらし、弾き、ぶつけ合って。踏み込み、下がり。踊るように至近で打ち合う。すさまじい密度の攻防。
間合いを一歩下がるような動きを見せれば、ジンはそれを見逃さず、即座に踏み込んで拳を繰り出してくる。

 だが、下がる動きそのものがこちらのフェイントだ。シールドを足場に前に出て、互いに間合いを詰める形にしたことで、動きを崩していく。武術の重心の置き方、逃げ方のセオリーを逆手に取る。

 足元に展開した魔力の流れと、繰り出した魔力の掌底の勢いを連動させて、ジンの巨躯を空中に浮かせて身体ごと回転させるような流れを生み出す。体勢を崩すのは一瞬で事足りる。回避のままならない、不安定なところへ、本命となる一撃を叩き込む。
 前蹴りと同時に魔力を炸裂。衝撃波を発生させて、そのまま大きく吹き飛ばす。防御は可能でも、その場に押し留まる事はできない。

「なっ!?」
「これは――ッ!?」

 ジンとツバキの驚愕の声。
 ジンの巨体が後方に吹き飛ばされる。山の斜面に激突した瞬間にマジックサークルを2つ、3つと多重展開し、ソリッドハンマーを用いて大岩を作り出す。
 そこで――。ジンは俺の動きを制するように、掌を前に出してくる。

「よく、分かった。俺では貴殿が術を使うのを、止めることができない。というか、あの局面からいきなり崩されるとは思ってもいなかった。これ以上を求めると力試しでは済まなくなる」

 そう……だな。これ以上の力試しは無意味だ。ジンにダメージはないが、近接格闘で渡り合えるという事を示せば十分なのだから。
 こうなると後は鬼の身体の頑強さ、膂力、速度、反射神経――或いは神通力、仙術のような特殊技能を前面に出して、こちらの術をどうやって突破するかという展開になる。

 そうなってしまえば、後はもう実戦と変わらない。こちらも動きを止めるため、継戦能力を奪うために、より強力な技や術を用意する必要が出てきて――互いに当たれば大怪我等という状態に突っ込んで行ってしまう。それではもう、力試しとは呼べまい。

「魔力は文字通りの桁違い。立ち居振る舞いから近接戦闘でも相当の技量とは思っていたが……。まさか切り結びながらではなく、ジンを下がらせてから術を完成させる……とは――」

 ツバキも予想していた展開とは違ったらしく、呆けたような表情だ。しかし気を取り直すようにかぶりを振って居住まいを正すと、言った。

「十分だ。頭領に話を通してくる。申し訳ないがここで待っていてもらえるだろうか?」
「分かりました」

 その言葉に頷くと、ツバキは身を翻して山の斜面を登るように跳躍を繰り返し、あっという間に見えなくなった。

「話し相手になれればいいのだが。質問があるならば、答えられることなら答えよう」

 と、ジン。客扱いだから気を遣ってくれているらしい。頭領との話も終わっていないから、あまり突っ込んだ事を質問しても困らせてしまうだろうし。まあ、世間話の延長程度で色々鬼達の暮らしぶりなどを聞いてみるのもいいかな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ