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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外162 鬼達の棲む山へ

 御前側で把握している事情は聞いた。後はそれを念頭に置いて岩見ヶ岳を目指して移動していくだけだ。
 一先ずは穏便に行きたいのでシリウス号にはそれなりに後方に控えていてもらう形になるだろうが、まともに森を歩いて登山というのは些か面倒だ。空を飛んで移動させてもらい、目的の場所を目指していく、ということになる。

 シリウス号から降りて移動するのはパーティーメンバー。イグナード王とイングウェイも探索班である。御前、アカネと鎌鼬、タダクニとイチエモン。協力したいという雷獣とサトリも一緒だ。 
 穢れに対する防御は後方からでもできるということで、ユラは船の中から支援という形になる。フォルセトやシオン達、長老達も後方支援だ。

 シーカーとハイダーを連れていくことで、艦橋と双方向でのやり取りができる状況を整えているし、会話や連係等々に支障はない。
 そんなわけで御前と共に平原の端まで来ていた。ここからは山に向かって森が広がっているようだな。

「……平原から先は少し雰囲気が違いますね」

 と、グレイスが呟くように言う。

「んー。魔力の質が違ってるんだな、これは」
「妾の支配域からは外れるからな。しかしこの森一帯については、誰のものでもないままにしておこうということになっている」
「お互いの支配域がぴったり隣接していては、また小競り合いも起こるでしょうからね」

 ローズマリーが森を見回しながら言うと、御前は静かに頷く。

「そうさな。だから支配域を厳密にどうこうと言わずとも済むというわけだ。妖怪同士の諍いや争いも、ここでは禁じられておるよ」

 なるほど。では、まだこのへんでは妖怪達に襲われる可能性も低いだろうな。というより、御前が同行している以上は、ちょっかいを出してくる妖怪もいないと思う。もっとも、鬼達の領地に入ってからは御前としても中立の立場を保っていなければならないだろうが。
 そんなわけで、みんなで森の少し上空を飛んで進んでいく。

 足元に広がる森の木陰からは、動物ではない存在の反応も垣間見えるが……どれもこれも興味はあるのに視線が合うと顔を引っ込めてしまう、というような感じだ。

「……何だか、警戒されているような」
「怖がられている、というのは少し違うであろうな。ふむ……。そう。畏れているのだろうよ。そなたは小さな者達にも慕われている故に、性質次第では対応に困るといったところか」
「あの光の柱……でしょうな」

 タダクニがしみじみと言うと、鎌鼬達、雷獣やサトリも目を閉じてこくこくと頷いていた。

「あれほどの術……魔力の波長も……伝わるだろう」

 と、サトリが言う。
 あー……。スターライトノヴァか。あれは確かに、鬼や蜘蛛の住処からも見えたかも知れないな。警戒度を高めてしまったか、それともトラブル防止になっているのかは微妙なラインである。

 それに御前の言葉。妖怪は成り立ちが成り立ちだし……敵対的とまではいかなくとも、人を積極的に脅かしたり怖がらせたりするような存在からすると、面識がない俺がどう出るか分からないから対応の仕方も分からない、というわけだ。

 積極的に人を傷つけるわけではないなら、俺としては放置しておいても構わない、とは思うのだが。そもそも人からの畏怖を得て暮らしている存在でもあるだろうし。

 とりあえず向こうからは仕掛けてくる気もないようだし、このまま進ませて貰おう。

「襲ってはこないようだけど、警戒だけは怠らないように」
「ん。了解」

 と、シーラ。みんなも真剣な面持ちで頷く。レビテーションとエアブラストを用いて、隊列を組んだまま一定の高度と速度で進んでいく。
 やがて――岩見ヶ岳とそれに連なる連峰が近付いてくる。

「凄い山、ですね」

 艦橋から水晶板を覗き込んだユラが呟くように言う。

 そうだな。結構な高峰だ。今は霧がかかっているが、晴れている時には平原からもその特徴的な山体が見えていた。連峰の中で最も高く聳える特徴的な稜線の山が岩見ヶ岳である。
 山頂付近は一年を通して雪を被っているそうだ。森林限界を超える標高からは……岩場が目立つ。山の名前もそういうところから来ているのだろう。

 鬼達はやはり岩見ヶ岳を中心に住んでいるそうだ。だから、あの山の山頂を目指して進んでいく、ということになる。

 そうして……最初の山の麓まで差し掛かった時だ。また周囲の雰囲気が変わる。結界をくぐり抜けた時のような変化。緩衝地帯を抜けて、鬼達のテリトリーに入った、ということだろう。

「ここからか」
「妾は道案内はできるが、そなたらが鬼達や妖怪共と揉めた場合には、約定があるゆえ、助力は出来ぬと心得ておいて欲しい」
「そうですね。御前に迷惑はかけないようにしたいと思います」
「俺達は……御前の派閥ではないから、手を貸す……事に、問題は、ない」
「そうさな。我等もそうだ」
「うむ。手伝うぞ」

 サトリが言うと鎌鼬達が答え、雷獣が口の端をにやっと吊り上げる。

「ん。ありがとう。まあ、話し合いに来ているわけだから、なるべく穏便に行くつもりだけど」
「では俺も……指示されるまでは……勝手に鬼達の心を読むようなことは……控える。恐怖や不快に感じる者も多い、からな……」

 と、サトリ。どうやら恩人である俺達の心を読むのは遠慮しているようで。なるべく心を読まないように気を付けているらしい。まあ、妖怪らしい律義さというか、そのあたりは信用していいだろう。

 シリウス号は鬼達のテリトリーの手前に停泊させ、そのまま山の斜面に沿うような形で岩見ヶ岳山頂を目指して飛んでいく。

 そこで――シーラがぴくりと耳を動かして山の上の方を見上げた。

「何か、来る……!」

 風切り音と共に、人影が岩場の斜面に降ってきた。そう。降ってきたと形容するのがぴったりくる。実際はどこか高所から跳躍してここまで跳んできたのだろう。
 地響きを立てて着地する厳つい顔の巨躯の男と、音もなく降ってくる高下駄を履いた少女。

 鬼、というイメージから抱く姿とは少し遠い気がする。2人とも着物を着ていて、纏った気配や魔力の力強ささえなければ、ヒタカの住民と言われても納得できるような姿ではある。今は両方とも角がしっかりと生えているから間違えようもないが、人化の術のように角を隠したりもできるのだろうし。

「面影はともかく……知らぬ顔触れだな。鬼達は妾達のところまで降りてこないから昨今の事情はとんと分からぬ」

 御前がかぶりを振る。少なくとも頭領本人ではない、と。見張りか門番的な連中だろうか。
 見張りや門番、というのは……組織がまともなら信頼の置かれる腕利きが選ばれるものだ。ここまで跳んできた身体能力といい、纏っている魔力といい、軽く見て良い相手ではないだろう。

「鏡淵の御前まで一緒とは。お噂はかねがね」

 静かな声で御前に挨拶をする女鬼。その言葉を男鬼が引き継ぐように落ち着いた低い声で言う。

「しかしここから先は我等の暮らす里。如何に御前と言えど、目的次第では通すわけには行かない、ということもご理解頂きたい」
「人の子に……見知らぬ妖魔達まで。一体何用で参られた?」
「妾に関して言うなら道案内役ではあるな。ついでで久しぶりに昔の馴染みの顔を見に来た、というのもあるが……まあ、今回は添え物のようなものよ」

 そう言って御前が俺を見る。そうだな。御前はあくまで善意の道案内だ。
 必要なら信用の置ける相手だとか嘘は言っていないと口添えもしてくれるだろうけれど、約定もあることを考えれば、動けない部分もあるだろう。
 そもそも鬼達と話をするのは俺の役目だ。レビテーションを解除し、髪の色も元に戻し、地上に降りて鬼達と向かい合う。

「お初にお目にかかります。僕は遥か西方の国、ヴェルドガル王国から参りました。名はテオドール。姓はウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します。鬼の頭領殿が旧知の友人から預かっているかも知れない品について、聞きたいことや伝えておきたいことがあり、この土地を訪れました」

 そう言うと、鬼達は予想もしていなかった、とばかりに顔を見合わせた。
 事情が分からないから、巻物の事を頭領以外にべらべら話すというわけにもいかないが、こうやって腹を割って事情を明かして、普通に通してくれるかどうかだな。
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