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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外160 境界公と健康診断

 そうして妖怪達との宴会も終わり、みんなとのんびり船室で循環錬気をしながらのマッサージの時間を取る。

 マッサージを受ける側は俺と手を繋いで横になり、循環錬気を行いながら首から肩、背中に手足、腰に足裏等をみんなにマッサージしてもらう、という寸法だ。俺がマッサージをする側になっても基本的には触れながら行うので問題無く循環錬気を行える。

 今まで何度かこういうマッサージやらの時間を作ってきたというのもあり、明日は一日魔法生物の面倒を見たり魔道具を作ったりで時間もあるため、どうせやるなら本格的にということになった。
 どうやらクラウディアが教本を探してきたり、ローズマリーが疲労回復に効果のある香を焚きしめたり香油を作ってきたりで……随分今回のは本格的な事になっているようだ。

 明るい場所よりは暗めの場所の方がより効果が大きくなる、ということで魔法の明かりも間接照明としてぼんやりと浮かべるだけに留めている。……布を敷いてそこに水着に着替えて横になり、マッサージを受ける、というわけだが……こう何というか、焚きしめた香の匂いに、薄暗くした船室、更に水着という状況は、色々と怪しげな空気を醸し出している。

「ふむふむ。教本によると、ここの筋肉を適度な力で掴んだまま――油で滑らせることで、筋肉の流れに沿うように、動かしてほぐす、らしいわ」
「ん。了解」

 教本を開いたままでイルムヒルトが読み上げると、それを聞いたシーラもふくらはぎの辺りの筋肉を掴んで施術してくれる。そう。ここまで本格的になると揉みほぐしではなく施術と呼んで差し支えないだろう。実際効いているのがよく分かるというか。

「ああ。これは……いい、な……。大分疲れが取れそうだ」

 筋肉がほぐされ、新陳代謝が良くなっていくのが分かる。循環錬気を行いながらだから肉体と魔力の両面から身体の調子を整えているわけで……効くわけだ。

「戦いの後は……やっぱり疲れますからね」

 と、横になっているグレイスも目を閉じて、時折心地良さげに声にならない呼気を漏らす。んん。疲労ということなら封印を解除しているグレイスも肉体的な反動もあるだろうしな。

「前衛の皆さんはやっぱり大変ですからね。私は後衛ですし、治癒術師としても整体もしっかりと身に付けておきたいです」

 グレイスの腕のあたりを揉みほぐしながらアシュレイが微笑む。後衛という意味ではマルレーンも同じなのか、ローズマリーの腰のあたりをマッサージしながらこくこくと頷いている。

「んん。これは教本や小道具を用意して正解ね……。前の状態には戻れないかも知れないわ」

 ローズマリーが息を漏らすとマルレーンは嬉しそうに施術を続けていく。

「まあ、そうよね。私もあまり前に出ないし、こういうところで役に立てるのは嬉しいわ」

 クラウディアのほっそりとした手が俺の背中の筋肉に沿って動いていく。

「そうね。それに、この教本も結構面白いわ。悪いところがあると結構痛いらしいけど、大丈夫かしら?」

 シーラ達のふくらはぎのマッサージが終わったところで、ステファニアが俺の足を自身の太腿の上に乗せて、そのまま足裏のツボを押してくれる。

「んー。痛くはない……かな」
「ふふ。それならテオドールは至って健康ということよね」

 と、嬉しそうなステファニアの声。
 しかしまあ……。これが終わったら俺もマッサージする側に回るわけだが。
 ……オイルでみんなの身体をマッサージすることになるのか……。とりあえず全員分の施術がしっかりと終わるまでは余計な事を考えないよう努力しよう。



 そうして、一夜が明ける。
 体調はすこぶる快調で軽く感じるほどだ。魔力循環の反動による筋肉疲労等もしっかりケアされている。あの空気感や香油等は色々精神に来るものはあるが、教本の効果は確かなものというのに間違いはない。今後も機会があれば活用していきたいところだな。うん。

 さてさて。体調が万全になったところで、今日はのんびりと魔法生物達のケアや魔道具作りをする予定だ。
 机と椅子を甲板に出して、そこに腰を落ち着け、河童用の術式を考えながら魔法生物達の具合を見ていく、というわけである。

 魔法生物の面々を初めとして、ティアーズや小カボチャの様子を診て、問題があれば適宜修復していくわけだ。具体的には魔法生物達には甲板に一列に並んでもらって、順繰りにチェックしていくという流れになる。

 俺としては……健康診断を思い浮かべる光景ではあるな。青空の下で健康診断。爽やかで結構なことだ。並んでいるのは全員魔法生物ではあるが。
 ユラやアカネ達、御前や妖怪達も興味津々といった様子で見守っている。

「次は――戦闘に出てたティアーズか。何か自覚症状は?」

 と、尋ねると、ティアーズはマニピュレーターを動かして、脇の部分を指差す。

「装甲に罅か。内部や術式にダメージはあるかな?」

 と、ティアーズの装甲に入った罅を光の球体に溶かすようにして成型し直し、続いて内部構造を魔力ソナーで点検。ここで問題があれば修復。最後に制御術式をウロボロスとオリハルコンを使ってスキャンといった具合だ。
 修復と点検が終わったティアーズ達がふよふよと飛行しながら艦橋へと戻っていく。ティアーズ達、小カボチャ達は総じて作りが共通している部分が多いので、こちらとしても続けて作業がしやすい。どんどんと点検し、その際、消耗が大きければ魔力も補給していくという感じだ。

 同時進行で……隣の机では、河童用の防御魔道具の術式をゴーレムに筆記させている。術式が組み上がったらチェックして、動作上で問題が無さそうならアルバートに渡すという形になるだろう。
 後は――イグニス、ベリウス、マクスウェルやジェイク、それにカドケウスやエクレールといった面々だ。作りが複雑な分、後に回すことでしっかり時間を使ってチェックしていきたい。それらが終わったら……そうだな。折角だし動物組も魔力ソナーと循環錬気で健康状態のチェックをしていこう。アルファ共々シリウス号の点検も控えているわけだが、まあ……時間はあるしのんびりとやって行けば良い。

「ジェイクは結構頭に傷があるわね」

 ローズマリーがカボチャ頭を軽く撫でて言う。

「派手に肉弾戦をしてたからな……。カボチャの傷は自己修復するけど……木魔法で傷を埋めておくか」

 ジェイクの頭の傷を修復し、ゴーレム技術で作った筋肉部分などにダメージが無いか。魔石はどうかなど、諸々チェックしていく。

「マクスウェルは?」
「とりあえず我には自覚症状はないな」
「分かった。構造や金属部分に疲労や破損が無いかを見たら、次は術式の方を見ていこう」
「うむ。よろしく頼むぞ主殿」

 マクスウェルを手に取り、石突きから柄、柄から刃の部分と、魔力ソナーで金属疲労や見えない部分の亀裂が無いか確かめる。核の部分もしっかりと確認し、内部に刻まれた術式も点検する。

「うむ。心地が良い」

 と、マクスウェルは核を明滅させていた。問題が無いことを確認し、魔力補給もしっかりと行う。
 健康診断が終わったマクスウェルは結構な速度でシリウス号の周りを飛び回っていた。
 イグニスは装甲を外して骨格と装甲の疲労からチェックだ。装甲の傷、目に見えないレベルの小さな亀裂等々を魔力ソナーで見つけ出し、しっかりと修復し、術式を点検する。

「西方の絡繰り――いや、魔法生物ですか。緻密なものですな」

 と、イグニスのメンテナンス風景を見たタダクニが感動したように言う。
 そうしてベリウスの五感が問題無く機能しているかだとか、カドケウスやバロールへの魔力補給をしたり、ウロボロスとオリハルコンの状態を見たりして……。魔法生物組が終われば、続いては動物組だ。
 体内魔力の流れを確認して……受け答えもできるから自覚症状が無いか問診すれば問題はあるまい。

「リンドブルムは? ここ最近の体調はどう?」

 と、鼻先に触れて尋ねるとにやっと笑う。問題無いということらしい。後は循環錬気で異常が無いか確認していくという流れだ。
 ラヴィーネ、コルリス、ティールに関してはそれぞれ寒冷地、地下、寒い地方の海と、本来なら局地的なところで生きている魔物だ。魔道具でそれぞれにとって快適な環境を整えてはいるが、しっかりと問診による聞き取りと魔力の流れを見ていきたい。

 暑かったり寒すぎたりしないか。身体の調子でどこか気になるところはないか、等々色々聞いてみるが、尻尾をぱたぱたと嬉しそうに振っているラヴィーネである。アシュレイも五感リンクで確かめてみるが、至って健康であるらしい。
 コルリスは――体調を診てみるが質問には問題無い、とサムズアップで応じてきた。ステファニアから五感リンクで見てみても大丈夫だそうだ。うむ……。

 ティールはどうかな。まだ日が浅いし使い魔でもないので、今の環境は快適か。寂しくないかなど、精神面でも問題無いか色々聞いてみる。
 するとティールは声を上げてフリッパーを動かし、調子もいいしみんながいるから寂しくない、と主張していた。うん。それなら良いのだが。

「私も!」

 と、セラフィナ。

「ん。体調は?」
「自分じゃわからないけど、テオドールと一緒だと昔よりずっと調子が良いよ」

 なるほどな。妖精や精霊の健康診断ができるかどうかの自信はないが、魔力の状態は正常だ。

「これなら、大丈夫かな」
「うんっ」

 元気よく微笑むセラフィナである。

「何か気になることがあれば遠慮なく言うようにね。これは誰に限った話じゃないけど。ちょっとした痛みだとか違和感が、病気や怪我の兆候だったりするから」

 と、みんなに言うと魔法生物組と動物組、揃ってこくこくと頷く。

「さて。それじゃ次はアルファか。まずは動力室で点検かな」
「では、伝声管やら水晶板の点検は儂らがやっておこう」

 お祖父さんが笑みを浮かべて言う。長老達もそれに同意するように頷いていた。

「ああ、ありがとうございます。それじゃアルファ。少し付き合ってくれ」

 にやりと笑うアルファと共に、シリウス号の動力室へと向かう。流石に見物人は連れていけないのでみんなには甲板でのんびりしていてもらうとしよう。
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