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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外159 妖怪達と酒盛りと

 犯人達の梱包にしても封印術の一部を紋様魔法として変換したものを拘束具に刻んでやる事で術の維持ができるようになっていたりと、色々初期段階より改良が進んでいたりする。
 紋様魔法としては術の継続、維持を拘束された対象の魔力を流用して維持し続ける、という内容だ。拘束具側に刻まれた紋様単体では機能しないあたり、封印術を悪用されることもない、とセキュリティも万全である。

 梱包された者の取り扱い方、解放する際の注意点、タダクニとイチエモンに関して等の諸々をユラに手伝ってもらって書状に記した上で、アヤツジ一派とこちらから都に戻る面々をクラウディアの転移魔法で都に送ったのであった。

 さてさて。書状の用意やら転送やらをしている間に、みんなも平原とシリウス号を利用して宴会の準備を進めてくれている。平原に描いた転送円の後始末をしてから、シリウス号の向かい側に回り込めば、そこが宴会会場だ。
 机の一方をコルリスが持ってもう片方をケウケゲンが毛で持ち上げるようにして運んでいたり、豆腐小僧やラヴィーネが椅子を運んだりといった具合で、動物組と一緒に妖怪達も会場作りの準備を手伝ってくれていたりして。中々賑やかな様子だ。

「おお。そちらの仕事は終わったのか」

 御前は俺達の姿を認めると明るい表情でそう言ってきた。

「そうですね。必要な事は一通り、といったところでしょうか」
「では、祝勝の宴会であるな」

 と、御前は機嫌が良さそうな様子だ。

「何やら変わった食材が多いようですな」

 机の上に並んだ食材を見て、タダクニが目を瞬かせる。

「そうですね。こちらで友好の為の宴会を行うならヴェルドガル王国から持ち込んだ食材も喜んでもらえるかなと思いまして」

 迷宮産の食材やら色々な種類のパンやチーズ、ソーセージや燻製、魚介類、キノコ等々の食材も持ち込んで来ている。
 ヒタカの食文化はどうなのかと気になっていたが、迷宮産の食材であればとりあえず問題はなさそうだ。
 友好のためにこうした準備をしてきたわけだが……状況が色々動いて鬼達だけでなく御前や御前を慕う妖怪達との交流も行うことになるだろうと予想されたので、イグナード王や長老達を迎えに行った際に更に食材の類を確保してきた、というわけである。

「そうさな。妾としては……やはり酒が気になるところだな。西方の酒ともなれば興味が尽きぬ」

 と、御前の視線が並べられた樽に向かう。葡萄酒、果実酒、エールにハルバロニス産の清酒……と色々だ。
 鬼達と言えば酒好きという印象があったので樽単位で色んな酒を持ち込んだのだが……御前や妖怪達もそれは同じなようで。
 発酵物は精霊達も反応が良いからな。そのあたり妖怪達も同じなのだろう。神話やら昔話やらを見渡してみても、酒好きの神や魔物、妖怪というのは枚挙に暇がないしな。

「ふむ。この姿を取っていれば妾1人で飲み尽くしてしまうということもあるまい」

 御前はそんなことを呟いて頷いていた。ああ。本当の姿が蛇だけあって酒好きな上に強いのか……。イルムヒルトはあまり酒に強くないが、御前はイメージ通りなようである。

 俺やアシュレイ、マルレーン、それにクラウディア、シオン達にユラあたりは年齢的な所もあるし、子供に酒を飲ませるというのは肉体的な影響を考えても感心できない。
 鬼達の拠点が比較的近いという事もある。固めの杯と言われれば拒むわけにもいかないが、あまり酔っ払ってしまうわけにもいかない状況なので、とりあえずはアルコール度数の僅かな果実酒で乾杯する程度で押さえておこう。

 全て西方の料理で統一してしまうのも馴染みが無さ過ぎるとも思い、ゴーレムの料理人を操って東国風の料理も何品か仕込んでいる。川魚のあんかけ料理を作ってみたが、これの反応も気になるところだ。

 そんなわけで料理の準備ができたところで宴会の開始だ。乾杯の音頭を取って、和やかな雰囲気の中で宴会が幕を開けた。
 月から貰ってきたトマトも収穫できる状態だったので、これらとチーズを合わせて葡萄酒を御前達に勧めてみる。

「おお……これはまた……! 芳醇な香りと味わいが堪らぬではないか」

 と、一口食べた御前が舌鼓を打っている。チーズにはサーモンの燻製やらベーコンやらも合うので色々楽しんで貰いたいところである。

「うむむ。確かにこれは美味でござるな」
「これは……陛下にもご賞味いただきたい品ですな」
「では、都に戻ったら、ということで」
「おお、それは有り難い。感謝しますぞ」

 妖怪達だけでなく、イチエモンとタダクニにも好評なようだ。まあ、俺としては豆腐小僧の豆腐が気になるところなのだが。豆腐が作れる環境にありながら色々あって手付かずだったし、食べられるなら食べてみたい。

「ん。とろみが美味しい」
「ああ。これは……」

 と、あんかけ料理は魚料理なのでシーラに大いに受けている様子である。二口女は少しあんかけが熱かったのか、後頭部の口で冷ましながら正面の顔が幸せそうな表情を浮かべていた。

「ええと。豆腐に興味があるんだけど、食べられるのかな?」
「勿論。おいらの豆腐に興味があるって嬉しいなぁ」

 と、一つ目の豆腐小僧に尋ねるとにっこりと笑う。豆腐小僧の場合、普通に豆腐を作っているのではなく、能力で生成しているそうだ。木綿も絹も臭豆腐も自由自在ということで……。
 話を聞いてみると悪人に食わせる攻撃用豆腐なるものまであるらしい。攻撃用の豆腐というのは……あれだな。食うと身体からカビが生えるとかいう奴だ。
 木魔法、水魔法に類する能力なようだが……冷静に考えると変わった妖怪ではある。基本的には豆腐を勧めるだけの妖怪だし、魔力の波長がどこかフローリアに似ている部分もあるから植物の精霊としての側面があるのかも知れない。

 そんなわけで豆腐小僧から豆腐を受け取り醤油をかけて頂く。ああ、うん。久しぶりの味わいだ。
 その隣でアルバートは平原の池のほとりに腰かけて酒を飲んだり食事をしている河童一家と談笑していた。水繋がりでティールも一緒なようで、河童の子供に抱き着かれたりと、結構懐かれている印象だ。

「へえ。つまり魔法の盾や鎧で皿を覆って、守ったり乾いたりしないようにできるってことか」
「うんうん。水の中で暮らしているにしたって、陸上で活動しやすいならそれに越したことはないだろうし」
「魔道具作りの話?」
「うん。どうもあまり水辺から離れられないらしいからね」

 河童とて水を作り出したり操ったり程度はお手のものなのだろうが、問題は水辺から離れると皿の状態管理に気を遣っていなければならない、ということらしい。そこを自動でやってくれるなら河童としても大歓迎なのだろう。

「となると、魔力を消費する代わりに自動的に状態を維持して保護みたいな形になるかな」
「ああ、それは良さそうだね」
「それじゃ、後で術式を書いとく。明日は魔法生物の整備もする予定だし、丁度良いかもね」
「テオ君の手が入っていると色々行き届いたものになりそうだね」

 そう言ってアルバートが笑う。

「いやはや。そりゃ有り難い話だ。お前達もしっかりお礼を言っとくんだぞ」

 と、河童が言うと、河童の奥さんや子供達からお礼を言われた。
 アルバートだけでなく、七家の長老やイグナード王達も妖怪達と酒を酌み交わして盛り上がっている印象だ。イルムヒルトとろくろ首の東西の楽器を作ったセッションもあったりと、和やか且つ賑やかな雰囲気で宴会が進んでいく。

「いやはや。こんなに楽しいのは久しぶりよな。こう、色々と珍しい料理を味わってしまうとヴェルドガル王国やフォレスタニアという場所がどんなところか気になってくるのう」

 ほろ酔いで上機嫌な様子の御前が言う。

「諸々の状況が落ち着いたら一度遊びに来てみますか? 転移魔法の設備があれば結構気軽に行き来できますし」
「ほほう。それは面白そうな話よな」
「今は――そうですね。幻影を交えてお話することぐらいならできますが」

 というと、心得たもので、マルレーンがにこにこしながらランタンを貸してくれる。
 マルレーンに礼を言って、宴会会場の周りにタームウィルズの風景を映し出していく。王城セオレムが映ると、初めて見る面々は種族を問わず目を丸くしていた。

「これはまた――。凄い光景よな。あのような天を衝く程の城があるのか」
「迷宮の力を借りて作られた王城ですからね。かなり桁外れの規模だと思います」
「迷宮とな」
「ええ。迷宮というのは――」

 と、迷宮内部の光景を映し出したりと、幻影を交えてタームウィルズの特色やフォレスタニアについて、色々と説明をする。一通り説明してランタンの幻影を消すと、居並ぶ面々から喝采が巻き起こるのであった。宴会の席の余興としては中々見応えのあるものだったようで随分盛り上がっている。
 うん……。妖怪達のタームウィルズ訪問ツアーみたいなことになりそうな雰囲気である。
 タームウィルズの住民はかなりの耐性があるが、妖怪達が大挙してくるとやはり衝撃だと思うので事前に話を通しておく必要があるかも知れないな。
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