挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
909/1117

番外158 御前との約束

 サキョウとイスズ、それに主だった者を倒してしまえば残った者も降参せざるを得ない――と思っていが……。イグナード王やイングウェイ、シオン達を押さえられる相手がいなかったというのもあり、そこに相手を下したグレイス達まで加わってはひとたまりも無かったようだ。全員が降伏する前に畳まれてしまったようで。

 穢れを生まないよう、死なない程度に加減されているどころか、ピエトロの分身達やインクの獣達が協力して包囲し、魔道具類を含めた武装解除まで開始している。
 では、みんなの怪我の状態を確認しつつ、武装解除した連中に封印術を叩き込んでいくとしよう。

「みんな、怪我は?」
「問題ありません」
「こちらも同じく。イグニスとジェイクに関しては多少手入れが必要かしらね」
「ん。余裕」
「私も大丈夫よ。セラフィナもね」

 と、グレイス、ローズマリー、シーラ、イルムヒルトからそれぞれ返答がある。マクスウェルも浮遊しながら核を明滅させている。大丈夫、ということか。

「テオドール様は大丈夫でしたか?」
「一瞬だけ環境魔力で結構な増幅強化をしたから、後から筋肉痛が来そうな気配があるかな……。まあ、今は大丈夫」

 そう答えるとアシュレイはにっこり笑って頷く。

「では、それは後程、ですね」
「そうね。ゆっくりできるようになってからのほうが良さそうだわ」

 ステファニアとマルレーンが微笑んで顔を見合わせる。グレイスやイルムヒルトがにこにこしながら小さく笑い、ローズマリーが羽扇で口元を隠してそっぽを向いた。シーラは……目を閉じて頷いているな。マルレーンがにこにこしたままこちらにやってくるクラウディアに手を振ったりして。
 うん……。後でマッサージとかそういう流れになりそうな気がするが……。

「こっちの被害は?」
「ヒタカの武家の方に軽傷が。怪我は治癒魔法で塞がっています」
「私も大丈夫です。そろそろ動けそうです」

 と、アカネも妖刀から解放された2体の妖怪と、そう言ってきた。アカネの肩や背中に掴まっていた鼬達がひょこひょこと顔を出し、そして声をかけて来る。

「お主にはアカネが世話になったのう」
「我等からも礼を言う」
「うむ。聞けばまだヒタカを訪れた目的は達成されていないという話」
「そういうわけで、我等に協力できることがあれば何でも言うが良い」

 ああ。一体化していた鎌鼬達か。戦闘が終わったからアカネから分離した、というところだろうか。

「ありがとうございます」
「いやいや。礼を言うのはこちらの方よ」

 うむ……。こうなると完勝、と言っていいだろう。封印術を叩き込んでステファニアとコルリスが梱包していく傍ら、バロールを飛ばして生命反応を探り、どさくさ紛れで逃げている者がいないかなど探らせておく。
 戦いが終わったからユラとティールもシリウス号の甲板に出てきたらしい。みんなが無事そうなのを確認して、ティールと抱き合って、嬉しそうに甲板の上をぴょんぴょんと跳ねて、それを見たアルバートが微笑ましいものを見るようににこにこと笑っている。

 ティールに関しては……何か手伝いたいと主張してきたので艦橋にいるユラを守ってほしいと言っておいたからな。任せろとフリッパーで自分の胸のあたりに触れていたが……あの感じだと艦橋で、ユラとティールは共に固唾を飲んで戦況を見守っていたのだろう。

「私から感じられる範囲での魔力は清浄だわ。どうやら穢れも大丈夫そうね」

 と、そこに結界を展開していたクラウディアと七家の長老達もやってくる。

「うむ。平原の破壊もほとんどないようだからね」
「派手に立ち回ったが、この結果なら御前も納得してくれるのではないかね?」
「そうですね。一応、大魔法も空に撃ちましたし、戦いの様子を見ていた感じでも大きな被害は出ていないとは思います」

 長老達の言葉に頷いて応じる。
 長老達もステファニアやコルリスと共に梱包の手伝いをしてくれているが……。何だか俺の拘束方法が色んなところに広まっているようで申し訳ないような気もする。

「妾としてはそなたの枷になってしまっていたのではないかと申し訳なく思っておるよ。まずは約束の完璧な遂行に礼を言おう」

 近場の池の中から御前と河童、イチエモンとカドケウスが姿を現す。イチエモンの姿は忍装束に戻っていたりする。
 そうしてアヤツジ一派の連中を全員拘束したところでユラにも実際に平原に降りてもらって、穢れ等が無いか確認してもらう。

「大丈夫、だと思います。サキョウがばら撒いた穢れも最後のテオドール様の光の柱で浄化されてしまったと言いますか……」
「こういうのは場の清浄な空気感というのも重要ですからな。その点で言うなら最後の術は――申し分ないでしょう。あのような術を個人が使えるとは驚きではあるのですが」

 あちこちを見回し、ユラが言うとタダクニもその言葉を肯定する。空気感か。思わぬ副次効果があったようで。

「しかしまあ、地を鎮めるような儀式はしてくれても良いのかも知れんな。その、何だ。そなた達の勇戦ぶりを見て、妖怪達も血沸き肉躍るというか、随分と盛り上がっているようだ。何せ、サキョウとやらの所業には我等としても業腹だったからな」

 御前が苦笑しながら冗談めかして言う。周辺の妖怪達も集まって来ていて、祝勝ムードというか何となく賑やかな雰囲気だ。七家の長老やイグナード王と和やかに挨拶を交わしている。
 梱包されている連中は意識を取り戻したは良いが……周囲の状況を見て慄然としているようだ。まあ、百鬼夜行状態だからな。

 肝心のサキョウに関しては――生命維持はともかくとして、魔力の流れが根本から枯渇してか細いものになってしまっているという印象だ。
 才能に任せて好き勝手したことへの因果応報か。ヒタカノクニらしい結末と言えばそうだろうな。
 梱包した連中を都側に引き渡さなければいけないが……これに関しては通信機で連絡を入れて転移魔法で送ってやれば良い。

「それでは、念のために儀式もしておきますか」

 と、御前の言葉を受けてユラが頷く。
 ふむ。後は今後の話か。俺達は鬼に用があるが、今から岩見ヶ岳の連峰に向かうというわけにもいかないし、先に済ませられる話をしておくというのがいいだろう。

「そう言えば、妖刀から解放された妖怪達は、今後どうする予定でしょうか」
「ふむ。雷獣とサトリか」

 御前が視線を向けると雷獣とサトリが顔を見合わせる。そうしてサトリがこちらに向き直って口を開いた。

「……人や妖怪が多い所は、騒がしくて苦手……だ。だから俺は……故郷の山に帰る。だが、鬼達や巻物のことで手伝いが必要なら、恩を返したい……と、思っている。俺も、こいつも……だ」
「雷獣はアカネや我らの事が気に入ったそうだがな」
「うむ。中々気の良い奴だ」

 鎌鼬達の言葉にこくこくと頷いている雷獣である。
 纏めると、サトリは俺達の仕事に絡んだ手伝いをしてくれると。雷獣は鎌鼬達と仲良くなったようだし……まあ、シズマの家やユラの周辺にいる、ということになるのかな。

「まあ、雷獣達もであるが、鬼達との話し合いには妾も協力するぞ。当然ながらな」
「ありがとうございます」
「何の。そなたらの信義は見せてもらったからな」

 御前も手伝ってくれると。鬼の頭領とも面識があるようだし、心強い話だ。

「タダクニさんやイチエモンさん達はどうなさいますか?」
「サキョウらは捕縛されましたし、陛下に報告はしなければなりませんが、私も鬼達との面会に立ち会いたいと思っておりますぞ。何かお力になれることがあるやも知れません」
「拙者もタダクニ殿と同意見でござる。もっとも、鬼達相手に諜報活動は勝手が違う故に難しいかも知れぬでござるが」

 なるほど。それでは鬼達の一件が終わるまではタダクニとイチエモンも同行してくれると。

「でしたら、報告に関しては私が行っておきましょう。タダクニ様のお考えもお伝えしておきます」

 タダクニの部下である陰陽術師が言う。そうだな。陰陽寮長官が長期間留守にしているのも問題があるだろうが、通信機でやり取りできる以上はすぐ戻ってきてほしいかどうかも問題なくやり取りできるはずだ。
 帝への書状を用意して、別の記号を使う形で帝の意向を確認すれば問題ないだろう。

「そういうことでしたら、通信機で意向の確認ができるようにしておきましょう。転移で連中を送る前に、陛下への書状を用意したいのですが。手伝って頂けますか?」
「でしたら、私が」

 ユラが笑顔で応じる。では、それらの仕事を済ませてしまうか。妖怪達も盛り上がっているようだし、その後は少し祝勝騒ぎになりそうな雰囲気ではあるが。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ