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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外155 平原への誘因

 集まったサキョウやイスズ、そしてその一派は地図を見ながら打ち合わせをしていた。
 シーカーを察知されないぎりぎりまで近寄らせて……断片的に聞き取れたところを繋ぎ合わせて推測したところでは、大人数で動くと目立つので一旦何班かに分けて分散し、集落の手前でまた集まろうと考えているようだ。

 分散か……。各個撃破したいところではあるが、班ごとに別れ、ある程度間隔をあけて進むようだ。
 いざという時は仲間の加勢ができる余地を残しているらしい。
 縦に長く伸びているので横合いから突いた後に挟撃を仕掛ければ効果的に打撃は与えられる……とは思うが、こちらの目的としては一網打尽である。それに、まだ往来であることを考えると連中に仕掛けるのには適していない。
 通行人を巻き込んだり、それに乗じて逃げられる恐れがある。というか、そういう手を取ってくる可能性の方が高いだろう。連中にとってはヒタカという国自体が敵なのだから、民家や田畑に火を放って逃げる、ぐらいのことは平気でやりそうだ。その過程で人質を取られても面倒だしな。ここはアドリブよりも、予定通りに所定の場所まで誘い込んでそこを叩く、というのが正解だろう。

 敵の歩調の速度等々を観測、こちらに到着するおおよその時間を割り出す。これならば……村人の安全確保に関しても充分に間に合いそうだ。後は、作戦通りに手筈を進めていけばいい。戦いが近付いているということで、河童にも妖怪達へ連絡を回してもらうとしよう。

「こちらは準備できているでござるよ」

 と、艦橋に姿を現したイチエモンが言う。蓑を被り、腰に鉈、弓矢を装備して……と。その格好は年季の入った猟師のそれだ。どの小道具も使い込まれた風合いがあって、本職以外に見えない。
 忍者の変装第二弾である。中肉中背だったイチエモンが、肩幅の広いずんぐりとした印象に見えるのだから名人芸と言えよう。

 猟師であるならばここいら一帯の地理にも詳しい。山に出る鬼達について情報収集しようと思うのなら、うってつけの相手ではある。

 この姿で連中の前に姿を晒し、情報提供者となることでこちらの望む戦場に誘導しようというわけだ。言うまでもなく危険な任務ではあるが……ヒタカの事なのだから自分が危険な役回りを負うのは当然だとイチエモンは笑っていた。

「カドケウスを連れて行って下さい。もしもの時には鎧となって身を守ってくれますし、会話の内容を僕が聞き取ることもできるようになります」
「おお。これは心強いでござるな。確かに連係しやすくなるでござろう」

 蓑の中に潜ませておけば、同行させるのには問題あるまい。荷物の中にハイダーを忍ばせてみんなとも情報を共有する、というのも可能だろう。
 ともあれ、罠は仕掛けた。後は連中を上手く誘い込んで引っ掛けるだけだが……。

「連中の装備……気になるわね」

 ローズマリーがモニターを見ながら呟くように言う。
 ああ。そうだな。袖や袴で隠してはいるが、小手や脚甲は共通のものを装備しているのが垣間見える。

「やはり鬼対策、でしょうか。戦闘用の魔道具の類ではないかと思いますが」

 グレイスが眉根を寄せた。

「アヤツジ兄妹はヒタカの魔道具製作技術もあるからな。陰陽術と絡繰り人形の製作技術も持っているし、それらが装備品に反映されている可能性は高いと思う。単なる防具とは思わず、十分に気を付ける必要があるだろうな」

 そう言うと、みんなが真剣な表情で頷いた。映像から分かるところではこんなところか。
 暗器の類の隠し武器が仕込んであるとか、身体能力を強化するだとか、可能性は色々考えられるので、時間の許す限り予測を立てて、それらに応じた対策等も話し合っておく。
 それから――イグナード王にも連絡を取らねばなるまい。
 例えば大きな戦いの前など、自分の力が必要になるような日取りが分かったならば、可能ならば転移で援軍として加勢したい、と約束をしているのだ。元々巻物絡みの一件とは言え、律儀な事である。こうして連中の到着時間にも予想がついた以上は約束通りイグナード王を迎えに行くべきなのだろう。



 シリウス号や俺達の潜んでいる草むらにハルバロニス式の隠蔽魔法を施し、連中の到着を待つ。道沿いに配置されたシーカー、ハイダー達で敵団の正確な位置も把握しているが……連中は集落の近くにて再度結集しているという状態だ。

「――ふむ。敵の指揮官は中々に用心深い性格なようだな」

 状況を伝えると、合流したイグナード王は思案しながら言った。

「有能ではあるのでしょうが、公職にありながら人体実験を繰り返していたような人物ですからな」
「うむ。手心も容赦も、一切要らぬな」

 通信機での定時報告で西に状況報告をしていたということもあり、イグナード王はこちらに来て間もないというのに正確に状況把握をしているし、戦意も十分といった様子だ。イングウェイと共に気炎を上げている。

「――どうやら敵方は集落の様子を見るために少数の偵察を出すつもりのようですね」

 用心深い、というのはイグナード王の評価通り。俺達がヒタカへ到着していることと、鬼達へ接触を図ろうとしているという点まではサキョウも情報を掴んでいたから、ここで慎重になるというのは分からなくもない。

 そんなわけで笠を被り腰に刀を佩いた男達が2名選出され、先行して集落の様子を見に行くようだ。
 そうして道沿いに進んで、田畑の広がる一帯を進んでいくと――男達は猟師と農夫を目にすることとなった。
 猟師が道端に腰を降ろし、畑仕事をしている農夫と談笑している、という光景だ。

 猟師はイチエモン。畑仕事をしている農夫もヒタカから派遣されているイチエモンの部下である。部下の忍者は農村出身ということで、変装も畑仕事も堂に入ったものだ。

「あいつらに聞いてみるってのはどうだ?」
「いいんじゃないか? 片方は猟師だろう?」

 偵察の男達はそんな会話をしながらイチエモン達に近付いて行く。談笑していたイチエモン達も男達の接近に気付いた、というように視線を向けて、そこで少し驚いたような演技をして見せる。

「おや、こんな片田舎に客とは珍しいじゃねえか」
「そうだなあ。どこの御武家様かねえ」

 と、イチエモン達が言葉を交わし、立ち上がって男達に会釈する。そんな反応に偵察の2人組はお互いに少し目配せをすると小さく頷いた。まずは話を聞いてみよう、ということだろう。

「すまんが、そこの者。ここで会ったのも何かの縁。少し話を聞かせてもらっても良いだろうか?」
「ああ、そりゃ構わねえですが……こんな辺鄙なとこに御武家様がどんな御用なんです?」

 失礼にならない程度でありながら、やや不審に思っている、というような具合の質問であった。流れとしては自然な演技と言える。

「ふむ。公儀でな。鬼達が山に出るという話を聞いたから調査に参ったのだ」
「ああそりゃあ難儀なことですなぁ」

 偵察の言葉に、イチエモンの部下が目を丸くする。

「……言うに事欠いて公儀、か」

 武士に術師。装備品も整っているし控えている人数も多いということで、そういう嘘を最初から用意していたのだろう。鬼が相手なら大人数で武装した面々がやって来ても不思議はない、というわけだ。

「中々大胆な嘘を用意してきたようだけれど……来客が珍しいと言ったから、まだここに誰も来ていない、と判断したのかしら?」
「或いはそう言って探りを入れている可能性もありますね。危険を感じたら逃げれば良いわけですし」

 ステファニアとアシュレイが会話の内容を聞いてそんな風に言葉を交わす。そうだな。その見立ては正しいと思う。
 ハイダーからの会話はまだ続いている。

「しかし、山の鬼の調査とは。連中恐ろしい力を持っとりますが、普段は人里には降りてきませんでな。それより、鬼の近くに集まってる妖怪達のが厄介ですぞ」

 イチエモンが集落や妖怪達から集めた情報を色々と話して聞かせる。調査に向かうなら普通に有用な情報も混ざっているし、そこに嘘はない。本当のことしか言っていないので口裏を合わせる必要もなく、仮に第三者に聞かれても困らない、というわけだ。

「そなた……中々事情通のようだな。どうだろうか? 鬼の山に案内してもらうということは可能か?」
「そ、そいつはご勘弁を願いたい。鬼達の住む山なんて、生まれてこの方恐ろしくて入った事はありませんや。まあ……どこからどの山を目指せば良いか程度なら案内もできますがね。山にも通じてる、見晴らしのいい平原があるんでさあ」
「ほう? その平原は近いのか?」
「集落から出て、少し歩けば到着しますよ」

 そんなイチエモンの返答に、2人は顔を見合わせて頷き合う。
 ……食い付いたか。地元の猟師でも現地までの案内はできないが、どの山かは分かる、とすることで平原まで連中を連れ出すという作戦だ。
 偵察2人がここで本隊を呼んで来るか、それとも必要な情報だけ聞くだけ聞いたところで合流して動くかは、少々未知数ではあるが、どちらにせよあの平原は鬼の住む山までの通り道なのだ。

 連中があの山を目指すのであれば、向かわなければならない。後は……遅いか早いかの違いでしかないだろう。
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