挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
902/1057

番外154 兄妹と同行者

 交流も一段落し、そうして妖怪達のほとんどは各々の住処に帰っていった。
 残ったのは御前と、連絡役の河童。それからすねこすりである。河童は連絡を回せるように平原の池に潜んで待機中だ。残ったすねこすりに関してはシーラに抱え上げられた個体で、何となくそのまま懐いてしまった印象があるが……。

「まあ、そなた達が気に入ったということなのだろうな。すねこすり単体だけならそう邪魔にもなるまいが」
「んー。そうですね。シリウス号に乗っていれば安全だとは思います」

 そんな会話をしながら、甲板から艦橋へ場所を移して監視の続行を行う。

 接してみて確認できたが……やはり妖怪達は精霊に近いように思う。大半は姿を消せるというのもあり、普段は不可視となって自分の落ち着く場所に潜んでいるのだそうだ。
 まあ、河童のように姿までは消せないという者もいるが、そういった妖怪については精霊よりも生物寄りな印象があるかな。

「妖怪達は普段姿を隠しているが、自分の領域内に入って来た者がいた場合、興が乗ると出てくるという性質があってな」

 と、御前が教えてくれる。

「興、ですか」
「うむ。相手が自身の好みや性質に合致していたり、そもそもの成り立ちに因果関係があったりすれば、ということだな」

 べとべとさんは夜道を1人で歩いている、といった出現条件のようなものがあるしな。
 成り立ちに因果関係というのは……例えば核になっている部分が元々は人間で、恨み辛みを源泉として成立した、というような妖怪の場合は、その力は加害者への復讐に向かったりするわけだ。ヒタカでは怨霊と妖怪の境目も中々曖昧ではあるな。

「例えば……復讐を目的としていた妖怪が本懐を果たした後はどうなるんですか?」
「その場合はまあ、未練や執着が無くなって現世から消えるか、或いはそれまでに人の噂となって強く顕現してしまっていれば、現世に留まることにはなるかであろうか。基本的には目的を果たしているから性質や性格も穏やかになる傾向ではあるが、自身の成り立ちに近い状況を見せられたら、思わず情で動くというのはあり得るな」

 ああ。自分の復讐を果たした後でも似たような状況を見せられたら黙ってはいられない、か。
 そういう心情は……何となく分かるような気もする。妖怪達は精霊よりも感覚、感情的なところで人間に近いように思えるし、そういう意味でも打ち解けられそうな雰囲気もあるが……いずれにせよ、今後とも友好的な妖怪達であれば良好な関係を維持していきたいところだ。

「御前がいらっしゃることや、一帯に住む妖怪達が温厚なことを考えると、この土地は今後特別な意味合いを持ってきそうですな」
「ふむ。朝廷や武家がこの土地を重んじてくれるというのならば、それは妾としても歓迎できる話ではあるが」
「そうですな。確約はできませんが、帝は喜ばれると思いますぞ」

 そんなタダクニの言葉に御前が笑みを浮かべる。
 御前と御前を慕う妖怪達の住まう土地……。確かに余計な事をして現状の平穏や安定を崩すのは、朝廷は望まないだろう。俺との友好関係が出来上がったということは、この土地との関係もヴェルドガルとの友好に関わってくる部分でもあるし。
 いずれにせよそれに関してはアヤツジ兄妹や鬼達との話し合いが終わった後のこと、になるだろうか。そういった話を進めていくためにもまずは俺達の仕事をしっかりとこなしていきたいところだ。

「後は――村人の安全確保でしょうかね」

 俺の言葉にタダクニが頷く。

「確かに、連中がまだこの地を訪れていないと分かった以上は、集落の住民に危険が及ばないよう手を打つべきでしょうな」

 アヤツジ兄妹はユラの予知に引っかかるのを避けるため、派手な活動を自重しているようではあるから隠れて行動している間は無茶な行動はしないとは思うが……だからと言ってそれは、集落の確実な安全を保証するというものではない。
 調査と妖怪達の協力を取り付けたのなら、村人に関しても体制を盤石にしておく必要があるだろう。

「……ふむ。そういう事なら、話を通す前に妾が村人たちの夢枕に立とうではないか。その上でタダクニ殿が話をしに行けば、一も二も無く協力してくれるのではないかな?」

 と、御前がにやりと笑う。ああ。クラウディアが月神殿の巫女達に神託をするようなものだろうか。それなら確かに話も早いし効果覿面だ。

「おお。それは助かります。では明日。村人達に話を通してきましょう」

 そう言ってタダクニは相好を崩すのであった。そうだな。村人達との交渉は御前とタダクニに任せておいた方が良いだろう。後は……アヤツジ兄妹に怪しまれないように上手く体裁を整えてやれば良いのだから。



 そうして――監視を始めて2日、3日と経った。
 御前の協力もあり、村人達との話し合いも問題無く完了している。集落の戸数、総人口はそう多くはない。避難できる体制を整えるのもそう難しい話でもなく、後顧の憂いが無くなった状態で監視が可能になったと言えるだろう。

 シーカーやハイダー達による監視を行っているが、土地の妖怪達の目もある。御前を慕う者達と鬼達の膝元にいる妖怪達は、人間に対する態度にこそ違いはあれど、妖怪同士ではそこまでいがみ合っているというわけでもない。よって、この土地に余所者が入り込めば街道や拠点に立ち寄らなかったとしてもすぐに噂という形で連絡が回ってくるという状態を構築できた。土地の妖怪達に話を付けることで、結果的に盤石な監視体制を得られた、というわけである。

 そうして人里周辺の監視の目が厚くなった分、余裕が出来た。シーカー達は街道沿いに大きな町の方へと進ませ、監視範囲を広げる方向で動いている。

 しかし……今日までのところ、特に変わった動きは無かった。術者ならばもう少し迅速に移動する手段があると見積もっていたが……さて。そうなるとアヤツジ兄妹の動きについて、いくつかの可能性が予想されてくる。

「――もう一回予知ができれば、安心なのですが」

 と、ユラが少し不安そうに言う。

「確かに。しかし予知は負担が大きいので、敵がいつ来るか分からないという状況では、用いるか用いないかの判断は難しいところですね。都の状況も通信機で把握できていますし、もう少し監視を続けてみましょう」
「はい」

 俺の言葉にユラは真剣な面持ちで頷く。予知で消耗したところに来られてしまった、という状況になってしまっては裏目だからな。

 そのあたりは通信機でのやり取りが補ってくれている。通信機は西方の文字でしかやり取りできないので、細かな状況の報告は難しいが……問題が無ければAの文字を送信。アヤツジ関係で問題が起こった場合Bの文字を送信、という感じで手順を簡略化してやれば最低限必要な情報も得られるという寸法だ。そんなわけで、現状では都側も問題がないという事は分かっている。

「監視の為に待機という状況で気が急くという気持ちは分かるござるよ。しかしこういった任務は根気と冷静な判断力が肝要でござる」

 イチエモンが明るい口調で言う。イチエモンの場合、そういった職務に従事する事の多い、いわば専門家だからな。そういう言葉は結構心強い。

 というわけで引き続き、動きがあるまで待機という形になるのだが……。
 モニターの1つを監視していた小カボチャが、顔の中の炎を明滅させて腕を振ったのはそんな折だった。俄かに艦橋の緊張感が増す。どうやら、何か監視網に引っかかったようだ。

 小カボチャが担当していたのは、比較的遠方まで移動させていたシーカーのモニターである。それをみんなで覗き込んでみれば――。そこには予知の中で見た顔が並んでいた。

 烏帽子を被った細面の男と、壺笠を被って寄り添うように立つ女――。間違いない。アヤツジ兄妹……サキョウとイスズだ。
 気になるのは、他に同行者らしき者達がいることだ。帯刀していたり術師風だったりと、どう見ても堅気ではなさそうな連中だ。

「やはり、と言いますか。鬼の山に潜入する準備をしたり、仲間に召集をかけていた――のでしょうね」

 調査対象が山の鬼であるというのなら、万全を期すに越したことはない。
 アカネを襲撃した刺客もそうだが、アヤツジ兄妹に仲間がいるというのは分かっていたことではある。
 予知の範囲外の動向が分からなかったから、準備を整えられてしまうというのはある程度想定の範囲内ではある。仲間がいることを予想してこちらも戦力を増強しているところはあるのだが……予想が当たってくると少々面倒が増したな。

「この者の面相、手配書で見たことがありますぞ」
「……この者も関所破りでござるな。腕の立つ犯罪者を自分の仲間として引き込んでいたのでござろう」

 タダクニとイチエモンが教えてくれる。公的機関の面々だから、犯罪者の面相書きも回ってくるというわけだ。シーカーは気付かれないように距離を取っているので音までは拾えていないが、アヤツジ兄妹が指示を出して、他の連中が従っているというようにも見える。

「この際です。大掃除して一網打尽と行きましょうか」

 アヤツジ兄妹とその一派を放置しておいても良い事は何一つない。ユラの予知が無ければもっと大胆に行動して、国家転覆まで目論んでいた、なんて可能性は充分にあり得るのだから。
 俺の言葉に、みんなも決然とした表情で頷くのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ