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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外151 御前と妖怪達

 「そうと決まれば付近に潜んでいる者達に通達と紹介せねばなるまいな」

 御前が言う。通達と紹介。平原を戦場として使わせてもらう事であるとか、今後に関する注意事項を伝えるであるとか。それに周辺の妖怪達に俺の顔を知らせておく、というのも必要なことか。

「そうなると……僕達は平原あたりで待機した方が良いでしょうか?」
「ふむ。話が早い。ならば行動も迅速なほうが良かろうな。河童よ。そなたに仕事を申し付ける」
「はい、御前様」
「妾の所領に住まう妖達に招集をかけよ。来れない者には彼の者達による捕り物がある故、数日の間人間達に接触しないように通達するのだ」
「わかりやした!」

 河童は頷くと、地底湖に飛び込んで姿を消した。河童の姿を見届けて、御前がこちらを向く。

「地上までの道は分かるかの? それとも妾と共に、平原へ向かうか?」
「では、平原まで同行させて頂ければと思います。そこに僕達の同行者も集まってもらう方がいいでしょう」
「よかろう」

 そう言って、社から出てくる御前。体長にして10メートル以上は軽くありそうだ。地底湖に入り、ゆらゆらと身体を揺らして泳いでいく御前に続く。
 水中にある洞窟の1つを選んで御前が進む。多分……この地下洞窟も御前が作ったのだろうという気がする。上下左右に折れ曲がり、空気がある部分や水没している部分があるのは地底湖に向かった時と同じだ。洞窟なのに濁っているでもなく……どこもかしこも非常に水が澄んでいる印象だな。

 やがて上に向かっていく構造に行き当たり、御前の尾を追って泳いでいくと明るい地上の光が見えてくる。水面に向かって浮上すると――そこは日当たりの良い平原だった。あちこちに花が咲いているのも見える。
 どうやら平原の一角にある池に出てきたようだ。平原を流れる小川も澄んでいて……長閑で綺麗なところだな。

 平原の陸地に上って、水魔法で衣服や髪についた水分を飛ばす。

「確かに……綺麗なところですね。こうして見てしまうと戦いの場にするのが躊躇われますが」
「いや。そなたの判断は正しいぞ。人里や街道で、余人を理不尽に戦いに巻き込む危険があるよりは良いのだ。妖魔の怨念以上に、強い力を持つ人の怨念は大きな穢れの源となるからのう。怨霊と結びついて大きな災いになったり、また別の凶悪な妖魔を生み出すことがある。これは人も妖魔もお構いなしに襲うような輩に成長したりする」
「つまり……人の恨みが妖魔にも害を成す事がある、と?」
「うむ。だから元々がそうした成り立ちの妖魔でなければ、無闇に人の命を脅かすようなこともせぬものなのだがな」

 ……ドラフデニアでは怨霊の塊を相手にしたが……あれも人為的な所があったとは言え、似たようなケースとは言えるな。ヒタカノクニは小さな精霊の性質からそうした作用が起きやすい国、と理解しておくのが良いのか。

 折角なのでみんなや周辺の妖魔が集まってくるのを待ちながら御前に話を聞いてみると……例えば怨霊が自ら敵討ちすることで昇華されたり、祀る事で祟りを防ぐ、という事例もあるらしい。

「――西方では陰の魔力で魔物が凶暴化する、ということはありますが……。恐らく精霊の性質の違いで作用も変わってくるのかなという気がしますね」
「興味深い話だ」

 色々話をしていると、水面から鎌首を出していた御前が身体を捻り、自分を見ながら言った。

「ふむ。そなたとの話は楽しいが、この姿で長々と人の言葉を操っているのは些か疲れるな」

 言うなり、御前の身体が光に包まれる。その中で大蛇の身体が縮んでいったかと思うと、人の形を取って光が収まっていく。

「ふむ。これでどうか」

 人化の術に類するものだろう。御前は小袖に打ち掛けという、貴人らしい出で立ちの美女となっていた。髪や瞳の色に関しては白髪に赤い瞳と変化前と同じ印象であるが……身に纏っている衣服は落ち着いた色合いながらも華やかな印象だ。
 日傘を差しているあたり、やはり白蛇なので陽光に当たるのは苦手なのかも知れない。


 そうこうしていると、シリウス号が平原に向かってゆっくりとした速度で飛んでくる。イチエモンの情報収集が終わって、船に戻って来たところでこちらに移動してきたわけだ。

「あれが僕達が西方から乗ってきた船です」

 光魔法で偽装しているシリウス号ではあるが、俺は偽装用の術式を知っているから、外から別の光魔法のレンズを作る事で偽装フィールドの中身を覗くことが可能だ。

「おお。このような巨大なものが空を飛ぶとはのう。白い船というのは……うむ。目の付け所が良い」

 御前はシリウス号の登場に少し驚いたようではあるが。シリウス号のデザインが気に入ったのか口元に手をやって軽く笑う。

「まずは、同行している面々を紹介させて頂きたく思います」
「うむ。妾を慕うもの達もぼちぼちと集まってくるであろう」



 というわけで皆を紹介していく。
 ヒタカの面々は些か緊張していたようではある。というのもミハヤノテルヒメは水神であり、川の神――転じて田畑を守る豊穣の神として、あちこちで祀られているという話だ。
 どうやら神体である大白蛇がこの地方にいる、というのは都側も掴んでいない情報だったそうで。

「水は高きより低きに向かって流れるものであるからな。この地から続く川や地下の水脈も、都へと至っているものもある。妾は水脈が繋がっているならばヒタカのどこにでも行けるが……まあ、空気の澄んでいるこの一帯が一番の好みでな」

 とのことである。なるほど、聞いてみれば高位精霊に近い気配を感じるわけだ。
 人に信仰されているということもあり、人里やその近隣に住むあちこちの妖怪に顔が利くとのことで……。
 そのせいか、この土地に住んでいるのは土着の者ばかりではなく、別の土地の妖怪が移住してきたという例もあるそうだ。あまり強い力を持たないとか人が好きだとか。そういう妖怪しかいないそうだが。

 しかし道理で目撃情報が多いはずだ。バリエーションが多い割に実害がないので人里付近に住み着いた化け狸、化け狐のせいでは、なんて都では分析されていたようではあるが……。
 それで鬼達の山や大蜘蛛のところにも人が恐れて近付かないのなら、住み分けができているからある意味では正解ではあるのか。

 そうして暫く待っていると色々な気配が集まってくる。妖怪は現れたり消えたりもできるそうで。いざ平原にやってきたところで実体化したり、というのもいるようだ。
 何やら猫とも犬とつかない動物が足元を動き回って身体を擦りつけていく。その感触にアシュレイやマルレーン、ユラ達が楽しそうに肩を震わせていた。これは……すねこすりだな。コルリスやティール、動物組もお構いなしに標的になり、揃って目を瞬かせたり首を傾げていたりする。

 全身を長い毛に覆われた何かよく分からないものも、草を掻き分けてのそのそと現れた。

「あれはケウケゲンという。けったいな姿ではあるが、とりあえず害はない。昔はもっと人の多い所にいたが、丁度姿を現した時期に病気が流行ってしまったのでな。気味悪がられたので調伏される前にこちらに引っ越しを決めたそうだ」

 なるほど……。妖怪側にも色々事情があるな……。全身を覆う毛が艶々して妙にキューティクルだ。

 それに平原をこちらに向かってゆっくりと進んで来る、遠目からは普通の人間のように見える一団も……多分妖怪だろう。来た方向が人里ではないからだ。鬼の住む山とはまた別方向の山から降りて来たようである。

「あれらの者も全て妖怪に相違ない。妾の住む淵の近く……山中に住み着いた者達だ」

 と、御前が教えてくれた。御前が住む淵というのは、河童が言っていた鏡淵、だろうか。多分、地底湖から繋がっているのだろう。猛烈な勢いで妖怪の知り合いが増えていくが……。

「このあたり一帯が、迷宮村みたいなものでしょうか」
「それは確かに……近いかも知れないわね」

 グレイスの言葉にステファニアが頷くと、御前は興味がそそられたのか尋ねてくる。

「ほう。西方にも似たような場所が?」
「はい。クラウディア様が人に友好的な魔物を保護するという事でお作りになられました」
「私だけでは人と上手く共存、というところまではいかなかったけれどね」

 と、クラウディアは苦笑するが御前は感心したように頷くのであった。
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