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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外148 北東への船旅

 まずはアヤツジ兄妹に察知されないような航路を決定。
 その後はかなり遅い時間に出発したということもあり、艦橋や船室にヒタカの面々を通してから操船の管理回りはアルファに任せるという事になった。

「僕はもう暫く起きて、艦橋にいることにするよ。向こうじゃまだ眠るには早い時間だったんだけど、こっちに来たら随分夜更けで少し戸惑ってるところでね」
「ああ、時差か……。転移でいきなり来ると結構大変かも知れない」

 いきなりだったからアルバートには準備不足で申し訳なかったとは思う。

「まあ、早めに眠るつもりだし、僕は大丈夫」

 と、アルバート。

「そうですね。今のテオは少しお疲れのようですから」
「予知でアヤツジ兄妹がやらかした事柄も色々見たでしょうからね」

 と、グレイスとローズマリーが言うと、みんなも思うところがあるのか同意するように頷いていた。

「あー……。そうかも知れない。悪いね、アルバート」
「いや、いいさ。艦橋には魔法生物達も沢山いるから話し相手にも困らないし」
「うむ。我で良ければいくらでも付き合おう」
「ありがとう、マクスウェル」

 アルバートがにっこり笑い、マクスウェルが核を明滅させる。そんな様子に苦笑した。
 そう、だな。できるだけ現地に急いで移動しつつも、コンディションは万全にしておきたいというのはある。

 予知の補助を行う為に消費した魔力に関しては、しっかり休息をとって回復させておきたい。船の航行速度も休息時間をたっぷりとることを考えて予定を組んでいるが。

 ……人形の処理もあったから、終わってみれば精神的に疲れたという部分は確かにある。俺としてはそのせいで気分がささくれ立っていて、あまり眠気は感じないのだが……まあ、それも一時的なものだろう。そのあたりのところを……みんなはしっかり見てくれて心配してくれていた、というわけだ。

 俺と同様にユラも予知で色々見ているが、彼女はどうだろうか? 気丈に振る舞っている印象だが、視線を送ると、傍らにいたアカネと共に、俺を見て静かに頷いてくる。

「私については心配せずとも大丈夫です。予知で色々見慣れていますし……それに、テオドール様のお陰で皆の力になれたのが、嬉しいのです」

 なるほど。ユラからして見ればアヤツジに関しての大仕事をこなしたという、やり遂げた感も大きいのだろう。どちらかと言うと吹っ切れたような印象がある。

「分かりました。後の事は任せて貰えればと思います」
「はい。どうかよろしくお願いします」

 そう言ってユラは屈託のない笑みを浮かべるのであった。


 というわけで就寝の準備を進めていくとしよう。船室に移動して、風呂の準備もしていく。

「疲れを残さないようにするなら、循環錬気も必須かな。まあ……アヤツジ兄妹のこともあって、気分としては、あんまり眠くはないんだけどね」
「ああ。確かに、そうなりそうよね。でも、そういうことなら……」

 クラウディアがみんなに視線を送ると、示し合わせていたかのようににっこり笑って頷く。

「ええ。私達みんな、テオドールの支えになりたいと思っているのよ」
「ふふっ。そうね。テオドール君の癒しになれれば嬉しいな」
「というわけで……何でも仰って下さい」
「ん。何でもする。揉み解しでも、耳掃除でも良い」

 ステファニアとイルムヒルトが言うと、アシュレイとマルレーンがにっこりと笑みを向けて来て、シーラが両手の指を軽く動かす。話の流れが流れだからか、ローズマリーは羽扇で顔を隠していたりする。
 ああ、うん。精神的な疲れをみんなに癒してもらう、というのは……うん。頭がくらくらしてくるような提案ではあるな。

「テオがいつも頑張っているのは見ていますから。その分私達はテオが気を抜ける居場所でいられたら、嬉しいな、と」

 グレイスはそんなふうに言って穏やかに微笑んだ。
 うん。そうだな。度が過ぎて自堕落になってはという危機感というか自制心も、あることはあるのだが――。

「ん。みんなの言葉に甘えさせてもらおうかな。時間的な余裕もあるし」
「では、こちらへ。そうですね。まずは……入浴からでしょうか」

 と、グレイス。引き寄せられ、そっと抱き締められて。みんなの体温や柔らかな感触、ふわりとした匂いの心地良さに身を任せ、目を閉じるのであった。



 そうして一夜が明けて――昼頃になって目を覚ました。みんなとの時間を過ごし、循環錬気も睡眠時間もたっぷり取って……お陰で目覚めてみれば調子はすこぶる良い。
 ややささくれ立っていた気分も晴れて肉体的にも精神的にもベストコンディションと言える状態だ。
 まあそれはそれとして……アヤツジ兄妹のやらかしたことについては、きっちりと落とし前をつけさせてもらうが。

 みんなと共に身支度を済ませて艦橋に向かうと、フォルセトとシオン達。それにユラやアカネ。ヒタカの面々や動物組、魔法生物組が挨拶をしてくる。

「おはようございます……というには、少し遅すぎましたね。申し訳ない」
「いえ。私達も、割と遅くに起きましたので」
「僕もついさっき起きたところだよ」

 と、アカネが相好を崩し、アルバートも同意するように頷いた。

「昼食の用意もしてありますよ」
「お米と、味噌汁と。それから卵焼きに、それから――」
「そんなに難しい料理はないけど……私達で、色々作った……。セラフィナも……手伝ってくれた」
「――そっか。うん。ありがとう」
「どういたしまして」

 礼を言うとシオン達とセラフィナがにっこりと笑う。
 それじゃあ、現在位置の確認だけ最初に済ませたら、腹ごしらえをしてから色々行っていくとしよう。



 星球儀で確認すれば……問題無く予定通りの場所を飛行している事がわかった。
 となると、もう暫くすれば陸地が見えてくる予定だ。そこからは行動を多少慎重にする必要があるが……まあ、時間的にはまだ大丈夫だろうと見積もっている。
 食後は――茶や炭酸飲料を飲みながら、今後の方針、行動、兄妹の用いるであろう術への対策等々を話し合う。

「これがアヤツジ兄妹の人相書き、でござるか。随分と写実的でござるな」
「現地での聞き込みも容易になりそうですな」

 ヒタカの忍者――イチエモンがシグリッタの描いた似顔絵を見て、感心したように唸る。イングウェイがにやりと笑うと、イチエモンも頭巾の下で肩を震わせる。
 予知の映像で見た兄妹の顔を土魔法で再現。それをシグリッタが人相書きとして再現。
 現地の人里での聞き込みに役に立つだろう。先回りできているかどうかがこれで分かる、という寸法だ。

「拙者にこれを預けて頂ければ、変装して現地に潜入し、目立たぬように聞き込みを行ってくるでござるよ」

 と、イチエモンが言う。何せ公儀隠密だからな。ヒタカ国内での情報収集に関してはプロフェッショナルと言える。

「では、それについてはお願いします。しかし、変装ですか」

 素顔を見せないのに変装して目立たず聞き込みというのは……。
 俺の言いたい事を察したのか、イチエモンは頷くと自分の喉のあたりに手をやる。小さく咳払いをしたかと思うと――。

「――ん、んん。こういった具合でござる。声だけでなく、面相も特殊な薬品と化粧で変えるでござるよ。今回の場合は……旅の薬売りあたりが妥当なところでござろうか」

 と、声質ががらりと変わっていた。若さを感じる男の声から、しわがれた老人の声に。心無しか肩を狭め、猫背になって雰囲気ごと老いを感じるそれになっている。
 ……なるほど。後は特殊メイクで顔を変えていく、というわけだ。

「ん。興味深い」
「そうね。元の体格や骨格という制限はあるのでしょうけれど、それも所作で印象を変えていく、というわけね」

 シーラとローズマリーが言う。シーラは斥候として。ローズマリーは使い魔がドッペルゲンガーだからというのはあるだろう。特殊な薬品という部分も、かな?

「陰陽術もそうですが……ヒタカノクニの技術には興味が尽きませんね。僕としては、技術交流ができれば嬉しいのですが」
「おお、それは面白そうですな。西方の武芸や魔法には、私も興味があります」
「確かに。願っても無い事でござる。拙者達は使えるものは何でも使うのが信条故」

 言ってみるものだな。タダクニもイチエモンもかなり乗り気だし、アカネや同行してきた武士達も身を乗り出している。
 そうだな。アヤツジ兄妹の使いそうな術を聞いて、対策になりそうな術をお披露目したり、武器や武技、魔道具の話をしたりと色々話すことは尽きない。
 親睦を深めて信頼関係を築いておくという意味でも積極的に情報交換をしていきたいところだ。
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