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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外147 都からの出撃

 予知で敵の方針が分かったとは言っても、だからと言って都の守りを疎かにすることはできない。国外脱出の可能性も考えれば、隣国に面する海岸線の警備増強も必須になってくるだろう。
 そういった考えを説明すると帝も思案しながら首肯する。

「そう、だな。都には宝物庫もある。仮にあれが暴かれて、様々な宝物がアヤツジ兄妹の手に渡っては後々までの禍根となろう」

 なるほど。ヒタカの呪物や魔道具の類も宝物庫にあるとすれば、それは確かにアヤツジ兄妹に渡すわけにはいかない物品だ。
 いずれにしても都と海岸線の守りというのは、俺達よりもヒタカの兵達の力を借りないと出来ない案件である。

「アヤツジを追撃するにしても待ち伏せするにしても、重要なのは速度かと」
「同意見です。彼らが鬼達に接触して敵対的な行動をされた場合、その後に話をしようとしてもこじれてしまう可能性もあります」
「確かに、な。迅速に行動するとなると兵を沢山連れて行くよりは、少数精鋭でこれを叩く、という形になるか」

 俺とステファニアの言葉に、帝がそう答える。

「その条件を満たすには僕達の船による行動が最善かと」
「となれば……都に今いる精鋭を連れて行くというのがよいと思う。ユラとアカネは同行するのであったな。後は……」
「微力ながら力を尽くしましょう。元はと言えば奴は陰陽寮の汚点。落とし前は付けさせねばなりますまい」

 陰陽頭のタダクニが一礼する。陰陽術の専門家だ。確かにこれ以上はない人材だろうな。
 他に、陰陽術師と武士、忍者から信頼の置かれている精鋭が選出、という形で同行する、ということで話が纏まった。都から陰陽寮長官と巫女寮長官が出撃。精鋭も連れて行く、となると流石にこれ以上の都の戦力低下は避けたいところだな。

「都の守りに関して言うならば、私が陣頭に立とう。要は穢れをこの身に受けなければ良いだけの話」

 にやりと笑って魔力を漲らせる、そんな帝の言葉に大臣達は中々戦々恐々としているが……。
 まあ、アヤツジ兄妹がとんぼ返りをしてくるというのは、予想されうる中では一番低い可能性なので大丈夫だろうとは思う。
 絡繰り人形対策にしても、招集等をしている内に術式を書きつけておいたので、早速アルバートが簡易の魔道具とその予備まで用意してくれたしな。

 それから……シリウス号でヒタカ国内を移動する以上は、こちらの保有する戦力も知らせておいた方が色々な意味で安心だろうということで、シリウス号やそれに乗っていた面々を内裏に通して紹介する。
 フォルセトとシオン達3人。ヘルヴォルテはまあ、普通に紹介し、挨拶をして終わったが。
 ベリウスやジェイクといった強面連中はどうしても目立つというか、紹介すると目を丸くされた。  

 ベリウス達とヴィンクルに関しては……ユラ達を乗せた折にもちょっと挨拶をした程度で、怖がらせないようにと船の奥からあまり顔を出さないようにしていたようだからな。

「多頭の猛犬に巨大土竜、空飛ぶ蜥蜴……ですか。いやはや」
「……南瓜の戦士、とはまた珍妙な」
「ジェイクに関しては小カボチャの仲間を呼んで使役したりできますからね。頭数での不利を補える戦力だったりします」
「ほうほう。これで、式神の類とはな」

 といった調子で感心している様子である。
 ……コルリスにベリウス、ジェイクが注目を集めている傍らで、リンドブルムやアルファの隣で素知らぬ顔をしているヴィンクルである。片眼鏡を通してみると魔力を極力抑えているあたりに努力が見えるな……。

 まあ、ヴィンクルは現時点での見た目だけで言うなら割と愛嬌があるし、飛竜の幼体と言われても違和感がないから、あまりこの面々では注目を集めないか。
 もっとも、ヒタカには龍はいても飛竜も竜も存在そのものを知られていないようなので、ヴィンクルに関してはやはりそこまでは目立たないだろう。

 帝やユラはと言えば、奇異な見た目のヒタカの精霊達にも慣れているからか、ベリウスやジェイクを間近に見てもそれほど動じていない様子だ。
 ユラに関して言うならベリウスが賢くて大人しいと分かると首のあたりに抱き着いたりと、楽しそうにしていた。
 帝はそんなユラの様子に軽く微笑むとこちらに向き直り、そして言った。

「ふむ。シリウス号、であったか。国内における飛行に関しては私が全面的に許可しよう。書状を用意しておくので、何か不都合が生じた折にはそれを見せてやると良い。まあ……タダクニも同行するのなら、話を通す上で問題は起こるまいが」
「ありがとうございます。とは言え……アヤツジ兄妹に気付かれないよう、姿を消して移動しようと考えておりますが」
「承知した」

 各地で目撃されて無用な混乱を起こすつもりもないしな。
 そうして俺達に同行するヒタカ側の戦力も揃い、それぞれ自己紹介する。皆相当腕が立ちそうな雰囲気ではあるが……俺としてはどうしてもあの忍者が気になるな……。

「拙者はタツミ イチエモンと申す者でござる。素顔は――見せておいた方がよいのでござろうか?」

 イチエモンが口元を覆う長いマフラーに手をかけて尋ねてくる。帝はそれを受けて、俺達に言った。

「イチエモンは公儀隠密……つまり密偵でな。衆目の前で素顔を見せると、任務に差し支えが出る可能性がある。信頼が置ける者であることと、充分な実力がある事は私が請け負うが、どうだろうか?」
「そういうことでしたら、勿論そのままで問題ありません」
「これはかたじけのうござる」

 と、イチエモンは丁寧に一礼した。
 帝の話によると、イチエモンは実動部隊――中忍の筆頭に位置する立場との事だ。
 組織の中にはその上の立場もいることはいるが、作戦立案や指揮を執る立場であり、実質的に朝廷の保有する諜報部隊では最高の実力を持つ人物との事である。

 公儀隠密の中忍……。中々に興味深い。陰陽頭のタダクニもそうだが、イチエモンとも色々船の中で話をして、技術交流等をしたいところではあるな。

 時刻は既に深夜を回っているが……アヤツジ兄妹に先んじる意味でも、このまま準備を整えたらシリウス号に乗り込んで出発、という形になるだろう。内裏の前の大路にシリウス号を停泊させ、増えた人員分の水や食料、旅支度をシリウス号に積み込んで、と準備を進めていく。

 都から北東の方向へ向かって――深山地帯にかけてが鬼達の支配域、ということだ。アヤツジ兄妹に察知されないよう、一旦南側の海に向かうなどして、迂回して進んだ方が良いかも知れない。遠回りする分は、シリウス号の速度で補うというわけだ。

「鬼達は朝廷や武家に対して殊更敵対的でもないが、だからと言って従う気もない。朝廷の威光もそこまでは届かぬという点に留意して欲しい」
「分かりました。ですが敵対的ではないのなら、それで十分です。あくまで巻物に関する話をしに行くわけであって、戦いが目的なわけではありませんから」

 元異界大使。そして現フォレスタニア境界公としては……まあ、異種族だからと言って尻込みしていても始まらない。
 それに、アルバートが転移でこっちに来て貰った時に、色々そのための用意もしてもらっているのだ。まあ……それでも鬼達の周りに集まっている妖魔も含めて色々厄介な場所なようではある。

 その地方の平原付近に人里もあり、そこは他の地域に比べても色々な妖怪が高頻度で出没するそうだ。とはいえ……人里近くに現れるのは友好的な妖怪が多いとの事で、割と共存はできている、という話である。
 ……妖怪か。魔物に比べると精霊的な気質が大きいのかも知れないな。穢れが少なく、自然と共存している地域なら、友好的な妖怪も、増える、だとか。

 そんなことを考えながらシリウス号に乗り込む。そうして帝達に見守られる形で、俺達は都を出発するのであった。
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