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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外144 紛れ込む悪意

 早速書状をしたため、内裏へ向かう段取りをつける。
 帝からの反応はすぐだ。これから時間を作るので来て欲しいという旨の使者からの返事があった。
 というわけで一先ず動物組は屋敷の防衛に回り、巫女寮に滞在している面々、ユラ、アカネと共に内裏へと向かったのであった。
 内裏に到着するとすぐに奥の正殿へと通される。そこには帝と側近達と思われる面々が待機しているところだった。

「良くぞ参られた、テオドール殿」
「夜分にこのような急を要する話となり、申し訳ありません」
「いや、そなた達の話を受け、私が招集をかけたのだ。かの兄妹が事件に絡んでいるとなれば、これを捨て置くわけにもいくまい」

 と、帝と言葉を交わす。居並ぶ面々の視線がこちらへ集まっていて、側近達にも一礼を返すと相好を崩して挨拶をしてきた。

「この方々が巫女殿の予言なさった貴き客人、テオドール殿ですか。お初にお目にかかります。私は陰陽寮長官を務めているアリサカ タダクニと申します」

 陰陽寮長官と、内裏の警備方を担当する人物。それに武家から出向してきている調整役、大臣の肩書きを持つ執務を行う面々。いずれもお偉方と呼んで差し支えない顔触れであるが……俺達に関して言うなら帝から何か言及があったのか、概ね好意的な印象だ。
 髪の色を元に戻して簡単に自己紹介する。集まった面々は割と驚いている様子で、帝はその反応を楽しんでいるような印象であった。その内側近の大臣にたしなめられて、小さく咳払いをして、真剣な表情を浮かべる。
 では、報告と相談という形になるのかな。視線を向けられたので、頷いて話を進める。

「――こちらからの報告はユラ様からの書状にあった通りとなります。アヤツジ以外の名はこちらでは情報がなかったので、陛下にお知らせしておこうと思った次第です」

 そう言うと帝は頷き、こちらで把握していなかった人物について話をし出す。

「陰陽寮の下部組織にて、術を用いて暴力沙汰を起こし、破門された男の名がまず1つ。この者は既にテオドール殿が捕縛しており、人相書きから当人に間違いないことの確認も終わっている」

 アカネを襲ってきた刺客連中だな。武家からの情報では、あの前衛2人と斥候に関しても、術者と同様、似たり寄ったりの脛に傷を持った連中というのが伺えた。
 いずれも自業自得の不祥事で職席を追われた連中といったところか。
 食い詰めて非合法な活動に手を染めていたか。それとも朝廷や武家に不満を持っているところを見込まれ、アヤツジから仲間に誘われたか。

 まあ、そういった連中を狙って集めた、という背景には簡単に想像が及ぶ。

「問題は、この雇い主、か。中央の官庁にも出入りのある人物だ。これがアヤツジに通じているとなると、奴に情報が流れている可能性がある」
「真面目な人物という評判を聞いていたのですが……残念ですな」
「まずは話を聞き、その上で不審な点が認められたら身柄を押さえるべきだろう。適当な理由をつけて内裏に呼び寄せ、そこでアヤツジについて問い質す。上手く行けば兄妹の潜伏先を掴めるかも知れん」

 帝が腕組みをしながら言った。これから呼び寄せて不意打ちで事情を聞く、と。

「この人物にも魔法審問を行う事は可能かな?」
「そうですね。基本的には取り押さえてしまえば問題無く」

 迅速な対応で潜伏先を割り出して攻撃を仕掛ける、といったところか。兄妹は重罪人であり官庁に務める者達にとっての同僚の仇でもある。速攻でケリをつけられれば楽なんだがな。さて……。
 そうこうしている内に、件の人物が到着したと連絡が入った。南の中庭に兵を配置し、距離を置いて対峙し、抵抗も逃走もできないようにしてからお偉方で問い詰める、という流れになるようだ。

 中々のプレッシャーのかけ方ではあるな。正常な判断力を奪って口を滑らせるのを狙う、と。
 そこに俺も目立たないよう同席という形になるらしい。髪の色を改めて術式で黒に戻し、帝達と共に中庭に面した渡り廊下のある棟へと向かう。

 その途中で、ユラがおずおずと俺と帝に言ってくる。

「予知、というほど強いものではないのですが……。少しだけ……良くない予感がします。勘違いでないとしたら回避できる程度の小さなものではあると思うのですが、充分にお気を付けください」

 そんな、ユラの言葉に帝と共に俺も揃って頷くと、ユラは少し安堵したように息を吐いた。やがて、中庭が建物の向こうに見えてくる。

「だ、内裏で話とは……一体私めに何の用なのです?」
「いくつかの確認事項があるだけだ。すぐに済む」

 その男は――両脇に武官が付き添うような形で、中庭に所在無さげに立ち尽くしていた。態度は狼狽しているようにも見え、体つきは鍛えている人間のそれではない。人の良さそうな顔をこちらに向けると、帝や大臣方の登場に目を見開く。
 しかし……俺の目を引いたのはそういう点ではなく――。

「――陛下。あの者の魔力反応……」
「……む。確かに……何か違和感を覚えるな」

 帝も魔力をある程度肌で感じられるらしいが、片眼鏡で見ればそれは更に一目瞭然だ。
 纏う魔力にムラがある。心臓のあたりに強い魔力反応があって……そこから全身へ魔力が巡っている。傍から見れば何の変哲もない男なのに、魔力反応だけが異常で……。まるで魔力で身体を動かしているような――。

 そんな俺と帝の困惑を余所に、大臣が口を開いた。

「はっきり言おう。そなたが大罪人、アヤツジサキョウと通じているのではないかと見積もっているのだ」

 そう告げた途端。男の動きと表情が固まった。次の瞬間、男の首がぐりんと、梟のように回転した。

「なっ!?」

 両脇を固める武官が腰の刀に手を伸ばすよりも早く――。大きく開かれた口から帝へ向かって。
 猛烈な勢いで何かが射出される。割って入って、マジックシールドを展開してそれを受け止める。衝撃と共に槍の穂先のようなものが弾かれる。

「絡繰り人形か!」
「おのれ面妖な!」

 人形に向かって武官の刀が振り切られる。人形が垂直に飛び上がって避けるのと、帝が男の正体を叫ぶのがほぼ同時だった。
 空中に呪符を展開し、それを足場にするようにして真っ直ぐに俺と帝、そしてその脇にいるユラのところへ突っ込んでくる。両腕がすっぽ抜けて、肘から先に刀が飛び出して――。

「――吹き飛べ」

 だが、そこまでだ。風魔法レゾナンスマインで迎撃すれば、音響衝撃波が炸裂する座標に自ら飛び込んできた人形が、大音響と共に内側から爆ぜる。歯車やら鋼の線やらを撒き散らしながら後方上空に吹き飛び、中庭に部品がばらばらと飛散して落ちてきた。人形は――もう動かない。動力源である心臓部をきっちり破壊したからだ。
 だが、あたりは静寂に包まれている。誰もが言葉を失っていた。
 魔力の異常を除けば、寸前まで普通の人間のように振る舞っていたからだ。間違いなく、それを俺達は目にしている。

「こ、こんなことが――……」

 大臣が信じられないというようにかぶりを振る。

「……本人が望んで協力しているのでなければ……人形の元となった人物は殺されている、と見るべきでしょうね」
「だろうな。アカネを襲撃してきたのは、人形と入れ替えるため、か? 予知を避けるために命を奪うまではせずとも、本物に自由に動かれては都合が悪かろう」

 俺の言葉に帝は眉根を寄せて答える。ユラとアカネが、慄然とした表情を浮かべる。
 ともあれ、俺達がピンポイントで目を付けたから特定までの道筋も整い、奴が暴れるのは確実な未来となった。だから、ユラにも小さな不安となって感じられたわけだ。
 そして、サキョウとの関係を問い質され……決められた通りに人形が動いた。逆に言うなら、何事もなければ情報収集役か何かとして、今後も紛れ込んで過ごすつもりだったのだろう。
 大物でもなく、中枢部からも今1つ遠い役回りの男。帝の近くにおいて注目されてしまうと、魔力反応の異常さから察知されてしまうから、か。

 そして分かったことがもう1つ。敵は、ユラに察知されないように動いているという点だ。
 ユラが……災厄を退ける予言の巫女として有名になったからか? これを脅威として認識し、例えば大規模な計画を実行に移す前にユラを排除しようとしたか。

「警備方や役人、要職を集めて、人形が紛れていないか確認するべきでしょうね」

 先にこちらの足元を固めないと、反撃も覚束ない。疑心暗鬼の芽は真っ先に潰しておくべきだが……そうすると、こっちの動きは察知されてしまうだろうな。どうやってアヤツジ兄妹を追うかが焦点になってくる。

「テオドール殿は……見た瞬間に人形と気付かれたようですな」

 陰陽寮長官が尋ねてくる。

「そうですね。魔力的な流れを目にすれば分かります。敵の手札の1つが絡繰り人形であるというのなら、今後の対策も講じられます」

 改めて人形を送り込んでくるような手への回答は単純明快だ。
 つまり、質問等して見分けようとするより前に、問答無用でヴェノムフォースを叩き込んで検査してやればいい。あれは通常の生命体には何ら影響を与えず、魔法生物の制御術式を阻害するというものだ。
 俺が不在であっても魔道具として刻んでやれば問題は解決する。いくら見た目が精巧な人形であろうと簡単に見分けがつく。
 そういった方法を説明すると暗鬱な表情をしていた大臣達が明るい表情になり、帝が真剣な面持ちで俺に言ってくる。

「済まぬが、頼りにさせてもらえるだろうか? 我等の手札では、どうしてもこの状況の打開に犠牲者が出てしまう」
「勿論です」
「この状況にあって……心強いことだ。礼を言う」
「他の暗闇が見えなくなるほどの希望の光、ですか。確かに……」

 そんな風に言って、帝とアカネは相好を崩すのであった。
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