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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外142 巫女寮での逗留

 巫女が打つ太鼓に合わせてユラがゆっくりと動く。くるくると回りながら手に持った鈴を細かく鳴らし、そこに笛の音が重なって幽玄な空間を作り出していく。
 ゆったりとした音の流れと、神聖な雰囲気。呪曲とはまた違う、独特の空気感だ。

 片眼鏡を通して見れば……音と舞に合わせて周囲の魔力が清められ、励起していく。雰囲気や空気等と表現したが、実際に周囲の魔力に影響を与えているのだから、魔法的な儀式の側面があるのがよく分かる。
 この巫女舞は五穀豊穣を祈るためのものであるらしいが、放たれる魔力が地に広がっていくにつれ降下しながら拡散し、染み渡っていくのが窺えた。……フローリアやノーブルリーフ達を連れて来て、反応を見てみたいところではあるな。

 やがて神楽も穏やかに終わりを迎え、ユラが一礼する。それに合わせて俺達も拍手をする。

「どうだったでしょうか?」

 と、やや気恥ずかしそうではあるものの、ユラは笑みを向けて尋ねてきた。
 神楽はそれほど長くはなかったが、それなりに魔力を放出したようだ。
 本来は然るべき時期と場所を選んで行うものなので、これはあくまでも練習扱いではあるらしいのだが、それでしっかりとした効果が出ているのは本職であるからこそなのだろう。雨乞いであるとか、他にも色々神楽はあるらしいが、種類や効果を聞いてみると環境魔力に働きかけるものが多いようだ。

「神聖な印象がありましたね。厳かな気持ちになると言いますか」
「ユラ様もお綺麗でした」

 アシュレイの言葉にマルレーンもこくこくと楽しそうに頷く。

「ありがとうございます」

 嬉しそうにはにかむユラと、それを見て微笑ましそうに相好を崩すアカネという構図。主従ではあるのだろうが、姉妹的な関係にも見えるな。
 そうこうしている内に湯殿の準備が整った、と女官達から連絡があった。

「客用の湯殿ですので、のんびり使ってもらっても大丈夫ですよ」
「そうですね。私達もそろそろ正殿の棟に戻って明日に備えるとします」

 と、アカネとユラが言う。自由に使わせてもらえる風呂、というのは有り難いな。では、こちらも湯殿の広さなどを見つつ、順々に入浴させてもらうとするか。



 因みに……ヒタカでも魔道具に相当するものは存在している。室内の照明であるとか、浴槽に湯を張ったりといった魔道具は、どこにでもあるということか。
 案内された湯殿の浴槽は檜であった。風呂に関しては追い焚きしたり足し湯したりも簡単だ。鼻孔をくすぐる檜の香りを堪能しながら風呂に入って、そうして戻ってくるとしっかりと床の用意もされていた。

「良い香りがする」
「檜で作った浴槽だからね」
「ん。順番が楽しみ」

 と、シーラが頷く。畳が敷かれたところに寝具が並べられて、そこでみんなが楽しそうにカードに興じていた。……何となく修学旅行的な雰囲気があるな。

「それじゃあ一旦抜けて……先に入浴させてもらうわね。ええと……そうね。カードの続きはテオドールに引き継いでもらおうかしら」

 続いてはローズマリーの番、ということで立ち上がる。

「了解。魔道具の使い方は……まあ、何となくで分かると思う。魔石の置く場所で操作が変わる感じかな」
「了解したわ」

 と、頷いて湯殿へ向かう。

 そうして……順番に風呂へ向かい、皆が入浴し終わったところで、行灯の明かりを消して眠りにつく、ということになった。
 アカネが狙われたこともあって、夜間も警備の見回りが強化されているという話だが……まあ、こちらでも念のために、カドケウスやバロール達に交代で侵入者等が無いか見張ってもらうことにするか。ユラとアカネにはラヴィーネが護衛としてついているし、リンドブルムやコルリスも近くに控えている。まあ、曲者が近付けばすぐに感知はできるだろう。



 明けて一日――。どうやら、昨晩の敵の動きは無かったようだ。
 まあ、俺達がシリウス号や力車で高速移動をした事を考えれば、情報が黒幕に伝わるのも、それを受けての判断もその分遅くなる、というのは容易に想像がつく。焦って動いてくれれば、こちらとしては対応もしやすかったのだが……。

 まあ、暗躍している連中はともかくとして、本来の目的に関しては順調そのものだ。帝とユラの協力で聞き込み等をせずとも情報を得られるということもあり、少し事情というか、状況が最初に想定していたものとは変わってきている。
 帝が保有している資料が纏まるのを待つと同時に、ユラとアカネの護衛を兼ねつつ逗留。そして魔法審問の結果待ちといったところだ。

 普通に出歩くのは人目につくので目立ってしまうが、こうして巫女寮に逗留している分にはシリウス号側を預かっているフォルセト達と一時的に交代したりしても良いのかも知れない。シリウス号に缶詰になっているというのも、些か退屈だろうしな。
 んー。逆に考えれば……ユラにシリウス号を見せたり、というのもありだろうか? 朝食の席で聞いてみよう。

 通信機であちこち状況報告やら連絡やらを入れ、人員交代とシリウス号見学等の段取りをつけていく。

 そうして朝食を頂き、それが終わった所で話を切り出してみる。

「ただずっと待っているというのも些か退屈でしょうし、シリウス号に乗ってみますか?」
「いいのですか? 空飛ぶ船、なんですよね?」

 ユラは興味がある様子だ。笑顔で目を輝かせている。

「まあ、人目につかないようにしなければならないので、目立たない時間に沖合を飛ぶ、ぐらいになりそうではありますが」
「是非、乗せてもらえると嬉しいです」
「では、決まりですね。後で船に乗るとしましょう」

 と、そんな話をしていると、内裏から帝の使者がやってきたと、女官が教えてくれた。使者から書簡と巻物を預かっている、とのことだ。
 まだこちらの文字は分からないので、読んで聞かせてもらう必要があるだろう。
 帝からの書簡に目を通したユラは、頷いてからその内容を教えてくれた。

「取り急ぎ、鬼達の居場所や逸話、それに国内で把握できている仙術の使い手の名前や所在について纏めて巻物に記した、とのことです。巻物についてはテオドール様に預けるので活用して欲しいと」

 鬼だけでなく、仙術に絡む者達も、か。仕事が早い上に親切で有り難い話である。

「地名では場所が分からないでしょうから、私やアカネから補足してあげて欲しいとも」

 と、ユラが笑みを浮かべると、アカネも静かに頷く。

「ああ。それは助かります。出来る範囲でこちらの言葉に置き換えて、覚え書きとして写し取っておこうかと」
「はい。けれど、もしお邪魔でなければ、鬼の頭領の所へ向かう際は、私も同行させて下さい。案内にしても、妖魔との戦いや鬼との交渉にしても、少しはお役に立てると思いますし、陛下にも昨晩、許可を貰っておりますので」

 それは少しどころではないと思うが……助かるのは事実だ。シリウス号に乗っていれば安全は確保できると思うが、それでも気が引き締まるところはあるな。

「それは……ありがとうございます。協力頂けると僕としても助かります。いずれにしても魔法審問の結果を待っていなければなりませんので、覚え書きに関しては、時間の有効活用と言いますか、文字や地理等の勉強を兼ねてのものではありますが」
「はい。それはお任せください」

 俺の返答に、ユラがにっこりと明るい笑顔を見せる。
 というわけで、地図や紙が用意されて、巫女寮の一角にて色々とユラやアカネから人名、地名等の情報を教えてもらうということになったのであった。
 実際に質問しながら文字や地理についての情報を得られる、というのは効率が段違いになるだろうしな。そのあたり、かなり有り難い話である。
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