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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外139 巻物の行方は

 さて。帝がどういう人物かはともかくとして、俺達の来訪の予言を知っているのなら、早めに到着の連絡を取る必要があるというのは間違いない。到着しながら黙っていたとなっては、俺達やユラへの印象が悪くなるからだ。
 というわけで品評会の途中で、ユラの指示を受けた遣いの者が帝のところへ向かい……程無くして帝側から会って話をしたい、との連絡があった。

 ヒタカノクニにやってきた事情はまだ帝には伝わっていない。現時点では互いに内々に、という方針は変わらずで、互いの見解も一致している。
 なので、まずは客としての歓待の形は取らず、執務に見せかけて時間を作るとのことである。差し当たっては――今日の晩、俺と宮城である内裏にて面会したいとの事だ。まあ、みんなには巫女寮で待っていてもらう、ということで問題ないだろう。

「とりあえず髪の毛を黒く戻しておくのと……後は手土産の用意もしておかないといけないかな」
「そうね。準備しておくわ」

 と、ローズマリーが魔法の鞄から物品を取り出す。

「他にも何かあるのですか?」

 その光景にアカネが目を丸くする。品評会で広げた品々はまあ……最初から換金用として持ってきたものだからな。

「執務用に役立つ道具であるとか、治癒や破邪の為の魔道具……でしょうかね。為政者に面会するのなら、ヴェルドガル王国の代表として友好関係を結ぶための下地を作るのも視野に入れていますし」
「なるほど……」

 と、アカネは生真面目に頷いていた。



 そうして日が暮れてから、巫女寮にやって来た迎えの牛車に乗って、俺とユラ、アカネという面々で内裏へと向かう。
 ユラとの話の端々やヒタカにおける帝の立ち位置等から推測を立てるに、それほど心配は必要なさそうではあるが……さて。帝との面会か。どうなることやら。

 のんびりとしたペースで進む牛車であったが、やがて内裏の正門前に到着する。さすがに帝の宮城なだけあって、朱塗りの門に広大な敷地と、巫女寮と比べても豪華であることが窺える。

「お待ちしておりました。ささ、こちらへ」

 と、女官が建物内を案内してくれる。手土産については女官に預けた方が良いのだろう。危険が無いか確認してもらってから後で持って来てくれるということで、話が纏まった。

 内裏は広大な敷地内部に幾つも建物があって、それを渡り廊下で繋いでいる、という作りは、巫女寮などと同じであるらしい。そもそも寝殿造りが帝の住居である御所を模倣し、簡素にしたものであるからだ。
 だが本物の内裏はと言えば……敷地が広い分、圧倒的に棟の数が多かったり、内部の装飾が朱塗りや箔押しで豪華だったりする。どこの棟が何の建物なのかという予備知識や案内が無い状態なら、普通に迷いそうな構造だな、これは。

 正殿のこじんまりとした一室に通される。出る時に染めた髪を再び術式で金色に戻し、待つこと暫し。そこに女官を伴い、1人の人物が現れる。

「天子様であらせられます」

 年齢はジョサイア王子と同じぐらいだろうか。想像していたよりも若い印象ではある。
 しかし、片眼鏡を通さなくとも静謐で清浄な魔力を身に纏っているのが感じられた。……なるほど。ヒタカの術者の頂点に立つ、というのは名実共にという事らしい。

 在位中の帝に関して名を呼ぶという事はほとんどないそうで。国内では陛下や天子様で通用してしまうからではあるのだろう。

「お初にお目にかかります、陛下。西方のヴェルドガル王国より参りました。名をテオドール。姓をウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

 ユラとアカネに聞いていた作法通りに一礼してから自己紹介をすると、帝は少し驚いたような表情を浮かべた。

「テオドール殿……か。まだここに来て日が浅いだろうに、丁寧な挨拶痛み入る。しかし、なるほど……。大地の破壊を押し留めた英雄殿とは聞かされていたが……一目見て納得した。これほど猛々しくも研ぎ澄まされた魔力を持つ傑物とは――」

 そう言って、頷いてから相好を崩す。

「私の名は――まあ、幼名でもあるのだが、親しい者にはヨウキと呼ばれている。天子様などと呼ばれるのは、未だにくすぐったいものがあってね。国元に戻れば私の事を話することになるのだろうし、その時はヨウキ帝とでも紹介してもらいたいものだ」

 ヨウキ帝か。相当する意味の漢字が分からないので何とも言えないが……陽輝帝などと考えればしっくりくるのかな?

「国王陛下に報告する折にはそのように伝えましょう」

 答えると、帝は静かに頷く。そうして部屋の中に入ってくると腰を下ろした。何というか、御簾のようなものを挟んで会話をすることになるのかなと思っていたが。もう少し砕けた席であるようだ。
 護衛は部屋の外に控えているようではあるが、護衛等より本人の方が相当に術者として腕が立ちそうだしな。

「まずは……私からも礼を言わねばね。書状にもあったが、家臣の命を助けてもらったようだ。それに、民の間で無用な騒ぎや混乱が起こらないよう、我が国の訪問に当たっても色々気を遣ってくれたようだね」
「いえ。ご無事で何よりです。こういった形での来訪とご挨拶になってしまったのは、国交が全くなかったという部分はあります」

 そう答えると帝は静かに頷く。
 そうして最初の挨拶と交わすべき言葉を交わした、というところで、帝が真剣な表情になり、本題に移っていく。

「さて。ユラ殿の書状で触れられていたが……。仙人の齎した巻物の片割れを探し、隣国を避けて我が国に方法を求めた、という事だったかな」
「はい。差し支えなければ隣国の情報や、心当たりがおありでしたらそれをお聞かせ願えればと、思っております」
「隣国は今や戦乱の地。我が国に話を聞きに来た、という判断は慧眼ではあるな。最新の情報は改めて調べねば分からぬが、こちらで把握している情報ならば語れる。巫女頭が信用するに足ると判断したのであるならば、私も君を信用し、友誼には友誼で返さねばなるまい」

 帝はそう前置きして隣国の大まかな地図を持って来て状況について話をし出す。隣国は軍閥、豪族がそれぞれが支配する地域に応じて国名が変わるそうで。
 今は前の代の統一王朝の末裔を帝と掲げる国と、反旗を翻した暴君が支配する地域に大きく分かれているそうだ。それ以外にも野心を抱く者が小国の王を名乗っていて、色々大変な状況らしい。

「仮に仙人が暴君の台頭に危機感を感じて巻物を弟子や友人に託したというのであれば……この暴君の支配する版図の何処か、ということになるだろうな」

 と、帝が地図を指でなぞって範囲内を指し示す。

「大分広い……ですね。隣国に渡って探すというのは、些か大変そうです」

 特にそれが暴君の支配域となれば治安も悪いであろうし……。真っ当に探すなら、ヒタカノクニのどこかにいる仙人の友人を探した方が良いのかも知れない。

「そうさな。件の人物の友人から辿る、という手の方が確実で安全だろう。藪をつついて蛇を出してしまう結果にもなりかねない」

 帝は目を閉じて、それから言葉を続ける。

「しかし、彼の国の仙術、か。過去の報告書や大書庫の或る文献で、仙術を用いる者についての話を目にした事があるのだが……」
「友人についての心当たりがおありなのですか?」
「心当たり等と呼べるものではないな。もしその報告書や文献の人物が仙人の友人であるのなら、私はあまり力になれそうにない」
「どういうことでしょうか?」
「その者が彼の国の仙人と親交を持つかは分からぬが、仙術は用いるのは確実。しかし人ではないのだよ。テオドール殿の国にもいるかどうかは分からぬが――鬼、という存在を知っているかな?」
「鬼――ですか? まさか、その者が仙術を使うと?」

 仙術を使う鬼とは。例えば、酒呑童子のような?

「そう。徳を備えた仙人の友人であるというなら、あの鬼どもの首魁というのにも納得はいくところではあるが。義侠心を備えた一角の傑物であるというのは間違いない」

 なるほど……。帝や武家の威光は及ばない相手ではあるが、その人格は認めているというわけだ。仙術を使う上に、仙人が巻物を預けても不思議ではない、と。
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