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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外136 都と子鬼

 申し訳程度にカモフラージュで作った櫂を動かしながらも、水流操作で舟を推進させて都に向かって軽快な速度で進んでいけば――やがて港が見えてくる。
 都市部の港は漁船、商用の小船が入り混じって、想像以上に賑わっている印象だ。木造の船なので大きな船があるわけではないが、その分船の数が多くなって混雑している印象であった。

「このまま港から上陸しても問題ありませんか?」
「はい。手続きは私が。皆様は巫女様のお招きになった御客人に相違ありません。お招きする際に失礼のないよう、書簡を預かったりと、前もって準備は進めてきているのです」

 アカネが静かに言う。
 なるほどな。正面から上陸できるというのは手間が無くて助かる。身元がしっかりしているから、巫女やアカネの信頼があるから、という部分はあるだろう。船を港に進ませ、桟橋にロープで括りつけてからみんなで上陸する。
 予め木魔法で笠を編んであるので、皆もそれを被ってしまえば顔をまじまじと見られるようなことも無くなり、然程顔立ちの違いに関しては目立たなくなる、というわけだ。

「では、少々お待ちを」
「よろしくお願いします」

 アカネは頷くと役人の詰め所へと進んでいった。巫女から預かったという書簡を開帳し、役人と話をしていたがやがてこちらに戻って来て、笑みを見せる。

「問題ありません。では、参りましょうか」

 このあたりは都の西に位置する港町ということで、ここから都に向かって少し移動する必要があるそうな。

「馬車等は無いのですか?」

 港から出たところで、グレイスが街並みに並んでいる人力車を見て首を傾げる。

「そうですね。お上が雇用を守っておりますので人の行き来に際して馬車は規制されています。ですので、徒歩でなければ力車を使う……ということになるでしょうか。私が小さい頃は力車はまだなくて駕籠だったのですが……駕籠かきは峠道などを除いてほとんどが廃業し、今は皆、車夫になっておりますね」

 ふむ。駕籠ではなく人力車が使われているわけだ。

「それじゃあ、あれは何かしら?」

 イルムヒルトが往来を行く力車に目をやって言った。イルムヒルトの言いたい事はすぐにわかった。車夫が……何というか子鬼のような姿をしているのだ。
 身長と頭身が小さくて、ゴブリンにも似ているが顔つきには愛嬌がある。頭に角が生えていたり、下の牙が長かったりと、妙にコミカルな印象だ。

「あれは式神の一種ですね。あの力車には陰陽寮の方が乗っているのではないでしょうか」

 ……シルヴァトリアとは別の方向での魔法国家だな、これは。国を治めている帝からして、術者の総元締め的な立ち位置だし。

「なるほど……。では、車夫役をああいった姿にすれば、僕達がそれに乗っていても問題はないと?」
「大丈夫だと思います。都では術者の方はああして式神を用いている方もおりますし、商用でない個人の車に関しては、規制とは無関係なので問題ないはずです」
「では、少し往来を行って、街道まで行ったら目立たないところで力車を作るというのはどうでしょう? 車夫が一緒だと、道中で話せない内容等も出てきますし……通常は一台で2人ぐらいしか運べないようですからね。それに、自由にできる乗物があれば、都に到着してからもあちこち移動するのに手間が省けますから」

 これもアカネからは問題無い、との返答があった。作ってしまうというところにやや驚いていた様子ではあるが。

「分かりました。路銀は充分に預かってきていますので、必要な素材等がありましたらここで調達していきましょう」
「ああ。それは助かります。お代は後で何らかの形で」

 というわけで賑わっている港町の様子を横目に見ながら往来を行く。大分賑やかで活気のある印象で、どこからか食欲をくすぐる香りも漂ってくる。
 動物の扱いは比較的緩いところもあるそうだが、ラヴィーネに関しては体格が大きく威圧感もあるので、一応言い訳が効くように装身具と綱を装備させている。

 身体が大きくても獰猛などとという事はないと示す意味も込めて、猫の姿を取らせたカドケウスを背中に乗せてもらう。多少注目は集めてしまうが、往来を行き交う人々は微笑ましそうにラヴィーネとカドケウスを見ているので問題はなさそうだ。ラヴィーネ達が受け入れられているからか、アシュレイもにこにこと上機嫌そうだ。

 途中で鉄の塊と油を購入。これで力車を作る分にはとりあえず問題はあるまい。
 そんな調子で港町を抜け、都に続く大きな街道を歩いていけば、人目を避けるのに丁度良さそうな木立ちがあった。

「では、このへんで力車を作りましょうか」
「分かりました」

 というわけでみんなには木陰で一休みしているという体を装ってもらい、その横で力車を組み立てる、というわけだ。後は作業中、目立たないようにマルレーンの幻影で隠してもらえば良い。

 横に3人乗れる座席を縦に3列。9人乗りの大型力車をまず作っていく。
 牽引用の梶棒とがっしりとした木製の車輪、鉄製の車軸を作り、構造強化でしっかりとした作りにする。素材から小さなアイアンゴーレムを生成、車軸を作る他、螺旋状に変形させて固定。サスペンションを作って組み込み、油を差しておく。
 車軸とサスペンションを除けば木作りではあるが……座席は座っていて楽なものにしたい。木魔法で干し草状の塊を形成。表面を編み込んだ繊維で覆ってクッション性と保持性の高いシートを作り出し、人数分備え付けていく。

 全員が車で移動できるようにするには、もう一台必要だな。今度はもう少し小型のものがいいだろう。そうして作業を進め、全員が乗れるように力車が2台完成させる。

「マリー。ゴーレム制御用のメダルがまだあったよね?」
「ええ」

 というわけで魔法の鞄からゴーレム制御のメダルを取り出してもらい制御術式を刻み込み、車体自体に組み込むと同時に、式神――先程の子鬼を意識したデザインのゴーレムも作っていく。
 子鬼型ゴーレムは車体に対してレビテーションが使える仕様で、車体を浮かせてスムーズ且つ高速な牽引が出来る。砂利道等の悪路や急勾配であれば浮遊させれば、乗っている方も牽引する方も楽、というわけだ。
 仮に交通事故が起きてもレビテーションが掛かっていれば通行人も深刻な怪我を負わずに済むしな。加えて言うならゴーレムの車夫は周囲の目を意識してのものなので、牽引されずとも自走可能だったりする。結構な速度での移動を可能としているので、いざという時は役に立ってくれるだろう。

「あっという間なのですね……」
「テオは建物も短時間で作りますからね」

 やや呆然としたようなアカネの言葉にグレイスが苦笑して答える。

「後は幌でも付けたいところだけど……。まあそれは追々かな」

 というわけでみんなで2台の力車に分乗し、人の往来が途切れたタイミングを見計らって木立ちから街道へ戻る。
 レビテーションを調節して保持しているので、ぎりぎりで車輪は接地している。ゴーレムの牽引で街道を進むが――地面から伝わってくる反動も実に緩いものだ。

「ん、これは乗り心地が良い」

 シーラが言うとマルレーンがこくこくと頷く。

「こうして、乗り物の上からだと眺めも良いし、長閑で素敵ね」

 ステファニアがにっこりと笑う。

「あれは――水田ですか。ああ。稲作が行われているのですね」

 アシュレイが道から見える風景に思わず腰を浮かせる。都の近隣にも農村等が点在し、水田が作られている、というわけだ。
 そんな景色を眺めつつ、軽く風を感じる程度の速度で都に向けて力車が進んでいく。
 自走の維持に魔力補給はしてやる必要こそあるが、中々悪くない出来だ。レビテーションの具合も丁度良い感じだろう。

 そうして街道を走っていくと、やがて大きな門が見えてくる。平城京や平安京のように、都城と言われる都市部の外周部に位置する門だ。 瓦ぶきの屋根と、朱塗の柱が並ぶ、歴史と風格を感じさせる立派なものだった。

「あれが都の西の門です」

 と、アカネが教えてくれる。

「……都市部の外門に相当するというわけね。異国情緒というか、すごい建物ね」

 門を見て、クラウディアが言った。
 景久の記憶では、奈良で朱雀門の復元を見たことがあるが……印象や建築様式としてはそれに近い。当然ながら復元ではなく、実際に使われているものであるからして、俺としても目を見張ってしまうところがある。
 門から左右に城郭が伸びていて――そこを境に何かしら魔法的な結界が形成されているのが片眼鏡で見える。邪な存在が通れないように、というところか。

 となると、城郭の内側は碁盤の目のような街並みが作られているわけだな。うん。都の中を見るのが楽しみになってきた。
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