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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外133 追跡者

 土魔法で形成された鳥の核となって、バロールは地下を通り、人目につかない海岸線から飛び出す。一体化したシーカー達をシリウス号の甲板へと送り届けるためだ。
 翼をはためかせて甲板に到着したところで、シーカー達がバロールから分離。ちょこちょことした足取りで走っていき、艦橋に続くハッチが招き入れるように開かれる。最後の1人までシーカー達が扉の中に入ると、内側からハッチを開けたコルリスは甲板に残るバロールを見やる。

 バロールは目蓋を閉じて首を横に振るように身体ごと左右に振ると、甲板から飛び立つ。
 シーカー達を送り届けた後はそのまま戻って来て、高空から俺とアカネの周囲の情報を探る役割を担うのだ。それを見届けたコルリスは、シリウス号内部に続くハッチを閉じた。

 俺とアカネはと言えば……ヒタカノクニに関する情報を聞いたり、アカネの聞きたい質問に答えたりと、情報交換をしながら都へと通じる街道を移動中だ。
 都の近くには大きな湖があるとの事で。シリウス号を都の近くに停泊させておくのも難しくはないだろう。

「南西の海は巨大な化け物が泳ぐ魔の海……。遥か西に広がる深い森は入った者を帰さない……等と、色々噂話というか、おとぎ話みたいな内容だけなら聞いたことがあります」
「そうですね。南西の海もそうですが、西の……獣魔の森も、魔力溜まりと言って環境魔力が濃い地帯に当たります。強力な魔物が巣食うので、そのあたり一帯は旅をするのに適していません。北から南に至るまで、魔力溜まりの帯が伸びているわけですね。僕達はヒタカから見れば南西の海を、更に南側から迂回して、この国に来たわけです」
「そう、だったのですか。何というか……とんでもないお話を普通にされているような気がするのですが……」
「いやまあ……。高位の精霊の助けを借りて安全な海域も把握した上でのものだったので、命懸けの冒険をしてここまで来たと言うわけではないんですよ」
「高位精霊……。いや、それはそれで大変な内容なのですが」

 といった会話を交わしながら街道を進む。そうしている内にバロールも戻って来て、高空を移動中だ。追跡者と思われる者は、地上から見える範囲ではいないが……。

「あー。少しばかり気になる連中がいますね。帯刀している男が3名。それを従えているらしき男が1名。宿場町から出て、同じ方向へ移動中です。4人組ではありますが、全員体術を修めているのではないでしょうか?」

 バロールから見たものを伝えると、アカネの表情に緊張が走る。

「……刺客の追跡、でしょうか?」
「現時点では何とも言えませんが……帯刀している内の1人が地面を調べていたので、もしかすると足跡を追跡できるような技術や能力を持っているかも知れません」

 俺達の中でも、シーラならば地面の痕跡と臭いから、それぐらいの事は簡単にやってのけるからな。敵の中にもそういう技術を所有している者がいる、と見ておくべきだ。

「都に戻るのなら、普通はこの道を進むだけですからね。私は襲撃を受けていますし、追跡を警戒して、敢えて山間の道に迂回して撒くという選択もありますが……」
「目の届かない距離から追ってきても何時でも捕捉できる、と考えているのでしょうね。お互い徒歩で移動しているわけですし」

 少し急げば追いつけるし、足跡を追えるのなら尚更だ。暗くなってきた頃合いを見て、仕掛けてくる可能性は高い。

「僕としては連中が確実に追跡者であるというところを押さえて、言い訳のできない状態にしてから攻撃を仕掛け、捕縛して色々事情を聞きたいところではあるのですがね。攻撃されるのを待つのは性に合わないので……少し罠を仕掛けてみますか」
「罠、ですか?」
「いやまあ、比較的穏当な手段ですよ? 相手の動きを見るだけで、こちらは連中が追跡してきているという確信を得られますから」

 にやっと笑って言う。俺の言葉に、アカネは目を瞬かせる。

「まずは――そうですね。都に続く迂回の為の道があると仰っていましたが……そこまでは近いのですか?」
「そうですね。もう少し進めば、峠に向かう道に差し掛かると思います」

 峠道か。人通りが少なくなるのなら余計な者を戦いに巻き込む可能性も減るし、そちらの方が良いだろう。

「では、そこまではこのまま進んでいきましょうか。連中を引っ掛ける方法は、途中で説明します」



「そんな方法が……」

 街道を歩きながら方法を説明すると、アカネは驚いたような表情を浮かべていた。

「こういう状況で追跡を撒くのには便利かなと思いますよ。まあ……相手に獣人がいると臭いを辿られる可能性がありますので、その場合は川を利用して臭いを消すという工程も必要になりますが……今回は術を使うのでわざわざ川の中を遡ったりする必要はありません」
「なるほど……。勉強になります。野外でのこういう実戦的な駆け引きは、経験が足りていませんので」

 アカネは生真面目に頷いている。そういう風に思って貰えるのなら後々の参考になれば幸いだ。
 彼女に関して言うなら真っ当に実力のある武人、という印象だ。緊張感は持っていても戦意は充分なように見えるし、実戦への心構えも問題無い。後はそこに冒険者的な発想と対応力が備われば理想的だと思う。前衛で剣を振るう戦士であっても、斥候や魔術師の考え方や発想を理解しておくというのは重要だからな。

 そして、敵がどんな手段で追跡しているのかを推測なり理解なりをしたなら、後はそれを逆手に取れば良い。アカネと共に街道を進み、分岐点を曲がって峠道へと進む。暫く進んだところで手で合図を出し、一歩踏み出したような姿勢で2人して足を止める。

「杖――ウロボロスの端を握っていて下さい」

 レビテーションと風魔法のフィールドを用いてそのままの体勢で2人して空に浮かぶ。臭いによる追跡が難しくなるように周囲の空気を遮断。浮かんだまま少し戻って道の端まで飛んで行き、茂みに身を潜める。

「一部の野生動物もやる手ですね。足跡ぴったりに後退して、適当なところで後ろに跳ぶなどして、足跡による追跡を攪乱する、というわけです」
「川や海岸などが近いなら、水辺に飛び込んで移動すれば臭いも消せる、と」
「そうなります」

 バックトラックと言われる手法ではあるが、今回の場合は追跡を撒くのを目的としているわけではない。監視に適したポイントで待機し、いきなり足跡と臭いが途切れた場合の連中の反応を観察する事で、追跡者や刺客である確証を得る、というわけだ。
 レビテーションで移動しているのでバックトラックによる足跡は二重になることも無く、一切の違和感も残らない。臭いでは動いた方向を分からないように風魔法で遮断している。

 木魔法で周囲の茂みを動かして、監視に都合の良いように枝葉の密度を調整してやる。
 高空から見ているバロールの視点では――連中は分岐点から峠道の方に曲がってきた。ここまでなら……偶然で同じ道を使った、で済ませてやってもいい。

 息を潜めて待つこと暫し。件の4人組の男達が峠へと続く道を進んできた。そして――俺達の見ている前で、先頭の男が足を止める。上空からでは笠を被っているので分からなかったが、1人は獣人だ。こいつは恐らく斥候役だろう。
 1人だけ帯刀していない奴がいるが――連中のリーダーであると共に、片眼鏡で見る限りでは最も警戒すべき相手だ。かなりの魔力を持っているようである。
 であれば何かしらの術を使う手合い。連中の中にアカネに不意打ちを仕掛けた奴がいるとするなら、こいつだ。

「これは――!」
「どうした?」
「と、突然足跡と臭いが途切れています! まさか……追跡に気付いた!? 足跡を後ろに戻って……!?」

 と、斥候の獣人が周囲を見回し、連中が警戒するように腰の武器に手を伸ばす。

「……決まりですね。連中は間違いなく僕達を標的として追跡してきた。しかも刀に手を伸ばすあたり、敵対している自覚がある」
「どう、なさいますか?」
「死なない程度に叩き潰します。誤解だと言うなら、こちらが安全を確信できる状況にしてからゆっくり話を聞かせて貰えば良いだけですから」

 アカネが尋ねてきたので端的に答える。やり過ごす等という選択肢はない。
 刺客に襲われたばかり。武装集団が追跡してきて、しかも戦う意思を見せた。それだけで先制攻撃を仕掛けるには充分に過ぎる。
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