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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外128 都の巫女の目的

 沢山の野菜を細かく切って煮込み、薄めで上品な味付けの野菜スープを作ったりして……と。身体が弱っている時でも食べやすい料理を、というコンセプトでグレイスとヘルヴォルテは料理を用意してくれたようだ。
 野菜スープはみんなの夕食も兼ねている。他にもおにぎり、サンドイッチや唐揚げなど、情報収集作業をしながらでも食べやすい食事も用意してくれたりと、色々気を回して夕食を作ってくれたようである。

 多めの水で米を炊くと粥も作れるという話を俺が以前したからか、実際に粥も試作してみたりと、怪我人がいつ目を覚ましても対応できるようにしているらしい。

「んー。グレイスとヘルヴォルテには気を回させちゃったかな」
「いいえ。テオや私達の誰かが、もし風邪を引いたり体調を崩したりしたら、その際にすぐ対応できるようになりますから。実はこれも練習だったりするのです」
「こういった食べる相手の状態を思いやった料理を作るというのは、中々に新鮮でした」

 粥を試作し、自分用として味見しているグレイスであったが、俺の言葉を受けてにっこりとした笑顔で返してくる。ヘルヴォルテも淡々とした口調だが、どこか楽しそうだ。

「何でしたらおかゆの味見をしてみますか? 健康な方だと物足りない味なのかなとは思うのですが、少しずつならみんなにも行き渡るぐらいには作ってありますので」
「それじゃ、少し貰おうかな」

 というわけで鍋から一口ずつよそってもらい、実際に粥を味見してみるが……ほんの少しだけ使われている塩で味が整えてあって……ああ。弱っている時に食べたら染み渡りそうな味だな、これは。梅干しが付いていれば完璧かも知れない。

「上品な味付けね。確かに病床でもすんなりと食べられそうだわ」
「ん。野菜スープもだけれど、普通に食べても美味しいと思う」
「ふふ、ありがとうございます」

 と、お粥も中々に好評である。
 おにぎりを食べたり、サンドイッチや唐揚げを摘まんだりと、情報収集しながらの食卓ではあったが、そんな調子で和気藹々と夕食の時間が過ぎていった。



 さて、夕食が終われば茶を飲みながら情報収集作業の続行である。
 宿場町では部屋に荷物が残されたまま巫女の遣いがいなくなったということで、宿場町の男衆が借り出され、町周辺の捜索が行われていた。だが……流石にあの場に俺達が保護したと名乗り出ていくわけにもいかない。

 仮に遣いを崖から落とした犯人がいるならば、まだ宿場町に留まっている可能性が高いからだ。事件の顛末を注視している段階だろう。狙って捕縛できればいいのだが、国内情勢も分からず宿場町で往来も多いとなればこちらとしても対応が難しいし、そもそも単独事故である可能性も否定できない。

 犯人がいるとするなら、泳がせて尻尾を出すのを待つ。始末したと思わせておいて後で不意を突く。或いは巫女の遣い自身の抱えるトラブルであったなら、それで死んだことにして後で平和に暮らす、なんてことも可能になる。本人に事情と意向を聞くまでは行方不明ということにしてもらうしかないだろう。

 捜索している者達への礼や事情説明が必要なら、後で本人にやってもらう、ということで。

 というわけで、騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬のところにシーカーをやって、その顔触れをシグリッタに記憶しておいてもらう程度しか現時点で事件に対応できることはなかった。

 代わりに、野次馬から噂話は色々と聞くことができたので情報収集に関しては割と捗っている。

 都の巫女様――というのは、どうも代々続く由緒ある家系の人物らしく……その家系の巫女は先々の大きな事件を予見できる神通力を持っているのだとか。
 過去にも災害を言い当てて未然に被害を小さくしただとか、大火を起こす放火事件を防いだだとか野次馬達の間で噂されていた。

 ……ヴァルロスの腹心であったザラディのような予知能力を持っている人間――或いは家系。もしくは魔道具を引き継いでいる、ということになるだろうか?
 ザラディはほんの少し先の可能性、特に自分に関わる危険な可能性であれば高精度で見通す能力だったのだが……件の巫女の場合はどうだろう?

「予知能力を持つ人物が遣いをこの土地に送ってきた、となると……他ならない私達の到着を予知して派遣してきた、というのも充分に考えられるわね」

 ローズマリーが羽扇を閉じたり開いたりと、手の中で弄びながら言う。

「それも有り得る、かな。向こうがこっちをどう見てるのか分からないけど、もし俺達の訪問を危険視しているのなら、1人だけ派遣する、なんてことはしないと思う」
「友好的に対応しようとしている目算の方が高い、でしょうね。多くの人員を動かせない事情もあるのかも知れないけれど……予知というのは、古今東西、曖昧なものだったりするでしょう?」
「そうだな。融通が利かない印象ではある」

 例えば大きな流れを見る事ができても細部までは分からないというような。そうでなければ遣いが大怪我をするような事態はそもそも防げていただろうし。
 噂話で聞こえてくるのも比較的大きな出来事を見通し、それに合わせて人が動いた、という話が多いように思えた。

 何ともな。巻物の情報を探る上でも、東国やその隣国の情報を収集する上でも、巫女なる人物とはできるだけ友好的にコンタクトを取りたいとは思うのだが。
 野次馬達は色々まことしやかに語っているが、結局噂は噂である。遣いの意識が戻るのを待って、話を聞くしかないような気がするな、これは。

 まあ、俺は俺で今できることを続けるしかない。
 とりあえずバロールに翻訳無しの言語を聞いてもらい、翻訳魔法を使っている俺の聴覚情報と併せて同時通訳的に言葉の意味を分析。宿場町の看板等と併せて文字の解読を行ったりといった具合で現地の言葉の翻訳作業を行っている最中だったりする。文字も読めた方がやはり情報収集において有利になるからな。

 言語体系が日本語に近いのならば、どの文字がどの文字に相当するのか、単語ごとにどう違うのかなどを当てはめていけばいいわけだが……どのぐらいでまともな形になるかは未知数だ。サンプルは多ければ多い程いいので、可能な限り集めさせてもらおう。

 そんな調子で捜索隊と野次馬が動いている間に色々と調べ物と作業を進めさせてもらったが……夜になったということもあり、捜索も今日のところは中止となったようだ。それに合わせて往来で色々と噂話をしていた野次馬も散っていった。

 宿場町の住民達や旅人達も別に夜が強いというわけでもない。それぞれが塒に戻ってしまえば後は静かなもので……俺達もそれに合わせて交代で休息という形を取るのが効率がいいだろう。

「ふむ。夜間になって情報量が少なくなるのなら、我も不寝番に加わろう」

 と、申し出てくれたのはマクスウェルだ。マクスウェルも翻訳魔法を刻んだ魔道具を装備しているので情報の聞き取りは可能である。

「んー、それじゃ交代要員の他に、マクスウェルにも頼んでも良いかな? もしシーカーの操作が必要な状況になったり、遣いを怪我させたと思われる人物が夜間に行動していると思ったら、遠慮なく起こしてもらって構わない。伝声管の使い方は?」
「うむ。問題ないぞ」

 マクスウェルが核を明滅させ、日常生活用に作った騎士型ゴーレムを操作して伝声管を開け閉めする。……ふむ。問題なさそうだな。念のため艦橋にバロールを置いておけば大丈夫だろう。
 後は……巫女の遣いの意識が早めに戻ってくれるのを祈るばかりであるが。
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