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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外126 偵察と救助と

 情報のない見知らぬ土地の偵察とはいえ、上空からの捜索である。道であるならば、探し当てるのにそれほど時間はかからないはずだ。要は直進して、どこかで交差しさえすればいいのだから。

 大きな道であればあるほど見つけやすいし、海岸沿いはどこの国でも港や漁村として発展しやすく、道も整備されやすい傾向がある。ましてや、島国なら交通に海を利用しないはずがない。
 海沿いの漁村や道が見つかれば、後はそこを辿ったり船を追跡して大きな拠点に至れる可能性が高いのだが。

 後は高空から道を辿り……ライフディテクションによってできるだけ遠距離から人里を見つけ出してシーカーを送り込む、と。そこまでは良い。

 どちらかというと問題はその後で、情報収集のための潜入や住民との接触をどうするかに焦点が移ってくる。関所みたいな場所があると自由な行き来も難しいだろうが、戦国真っ只中などという大変な情勢であるよりはマシ、だとは思う。

 リンドブルム、シーカー達と共に海原を行けば、やがて海の向こうにぽつりぽつりと小島や陸地が見えてくる。沖合に小舟ぐらいは見えるかと思ったが既に夕暮れ時。船の類は見えなかった。更に海岸線も浜辺ではなく、少し切り立った岩場が多い。

「――海岸沿いの道か。見つけたぞ」

 ある程度予想はしていたが、あっさりと道を引き当てることができた。

「この距離を保ったまま、西の方向へ道なりに飛んで集落を探そう」

 リンドブルムは俺の言葉に頷いて、翼をはためかせて進行方向を変える。
 そもそもが西の海を挟んだ大陸の情報収集に来たのだから、東に向かうよりは西。南側よりは北に近い場所で行うのが良い、ということになる。

 右手側に道を見下ろしながら海沿いを飛んでくと、程無くして道を進む東国の住民の姿を目撃することができた。

 旅装束の者もいれば比較的軽装の者もいる。旅装束ではない者は、近隣住民なのだろうか?
 少人数での旅ができるということは、治安も比較的良好ということを意味している。道も整備されている様子ではあるし、近辺には魔力溜まりもないから危険な魔物や妖怪のような類も出没しないだろう。

 目を引いたのは……何やら普通に獣人も歩いていたことだ。当然獣人も着物を纏っている。
 これなら……イングウェイが潜入するのも難しくはないか? 獣人の扱いや位置付けがどうなっているのかが不明だから断言はできないけれど。

 道を行く者の服装や所持品等、色々と興味深く見せてもらいながら進んでいたが、やがて進行方向に沢山の生命反応の光が見えてくる。海沿いに……町らしき集落が見える。
 光魔法で拡大してやると木造の家屋が目に飛び込んできた。茅葺屋根の家々、瓦屋根の屋敷。……俺としても情緒のある光景ではあるな。
 町に見える生命反応の数は結構多い。宿場街のような旅の拠点だろうか? そうだとすれば情報収集には適していると言えるのだが。

 道行くものは皆あの宿場町を目指しているところなのだろう。時間が夕暮れ時だったこともあり、今から宿場町から他の土地へと向かおうという者は皆無なようだ。
 完全に日が暮れる前に宿場町に入ろうとしているのだろう。急ぎ足になっている者が多かった。

「リンドブルム。あの岩場に」

 ――海岸沿い。生命反応の少ない岩場に近付いて、そこからシーカーを送り込もうというわけだ。光魔法と風魔法で姿を隠すことに細心の注意を払いながら、リンドブルムと共に岩場に降りる。

 シーカー達を袋から出して進むべき方向を向かせて岩場に配置してやる。
 カドケウスの通信機でシリウス号の艦橋にいるみんなとも細かく進捗状況のやり取りを行っている。シーカー達はみんなからの指示を受け、すぐに岩場と同化して集落のある方向へと進んでいった。

 ……よし。これで後は、シリウス号に戻って、暫くは情報収集に専念する形になるかな?
 再びリンドブルムに跨って空へ舞い上がる。……もう少しだけ情報収集をしたいところだが、シーカーを送り込んでしまえば長居は無用かも知れない。

 リンドブルムに乗って舞い上がり、周囲を見回して――。近くにある切り立った海岸沿いの岩場に、妙な生命反応を見かけた。

 ……何だ? あの反応は……弱っている、のか? 生命反応は人間のものであるのだが、随分と微弱に感じられる。

「――リンドブルム。あの岩場へ」

 リンドブルムに魔力循環で感覚的に指示を出し、生命反応が見えた岩場へと急行する。岩場の波打ち際。波が打ち寄せられる岩に、何かが引っかかっているのが見えた。
 ――人間。人間だ。微弱な生命反応。
 情勢が分からない内の接触は避けたかったが――非常事態なら話は別だ。リンドブルムを急降下させ、岩場に降りる。

 それは、身形の良い、若い女性だった。旅装束ではあると思うが……一人旅か?
 周囲に人影はない。それとも供の者がいたのか。
 夕暮れ時だったし遠目からでは分からなかったが、どうやらどこからか出血しているようだ。海に赤い血が広がっているのが見えた。

 どこを怪我しているのか分からない。レビテーションで身体に負担をかけないように空中に浮かせて、循環錬気を行って怪我の場所を特定する。
 怪我が酷いのは脇腹か。分析より先に脇腹の傷からこれ以上の出血が起こらないよう、水魔法で血の流出を防ぐ。裂傷だが、傷口が歪で刀傷ではない。転落して、岩場で切ったとか?
 転落したとするなら、納得もいく。頭を庇おうとしたのか、腕も怪我していた。骨も折れているようだ。

「う――」

 呻き声と共に、一瞬視線が合ったが、意識も朦朧としているのか、すぐに目を閉じてしまう。……俺の治癒魔法では焼け石に水だな。これはアシュレイでないと対処し切れない。

「怪我人はこっちで負担をかけないようにするから、目いっぱい飛ばしてくれ」

 レビテーションを用いて怪我人を抱え、迷彩を維持しながらも再びリンドブルムに跨る。リンドブルムは一声上げると、勢いよく地面から飛び立ち、シリウス号の停泊している方向へと猛烈な勢いで飛翔を始めた。

『怪我人を発見した。転落事故かも知れない。死なないように応急処置をしているから、戻ったらすぐに対処できるように頼む。シリウス号もこっちに近付けて欲しい』

 カドケウスの通信機でみんなに連絡を入れる。

「分かりました! 甲板で待機します!」

 すぐさまアシュレイが反応して真剣な面持ちで立ち上がり、アルファもカドケウスの指し示す方向にシリウス号を進ませる。双方向から向かっているので、猛烈な速度で両者の相対的な距離が縮まっていく。

『脇腹と腕に裂傷と骨折複数。重いのは脇腹の傷。最優先で頼む』

 到着より先に怪我の状態を伝える。

 シリウス号が近付いてくる。よし。何とかなりそうだ。リンドブルムと共に急降下して甲板に降り立ち、怪我人を急ぎながらも静かに横たえる。

「アシュレイ、頼む!」
「はいっ!」

 アシュレイが駆け寄って来て、すぐさま魔力ソナーで傷の状態を診ると、複数のマジックサークルを展開した。

「始めます!」

 アシュレイは目を閉じて、術式の展開に極度の集中を見せる。止血、傷口の浄化、組織の回復と体力回復。複数の術式を多重に展開している。
 荒い呼吸が落ち着いたものになり、土気色だった頬に赤みが差してくる。これなら……何とかなりそうだ。

 俺が甲板に降り立ったところでシリウス号も向きを変えた。元通り、沖合で距離を取って停泊するというのに変わりはないからな。

「大丈夫なの? 手助けできることは?」

 甲板にみんなが顔を出す。状況が状況なのでシーカー達はとりあえず地面に潜伏させて、目立たない状態にしているらしい。

「身体が冷えないように着替えを用意しておいてほしい。急場は凌げたと思う。治療の方は、どうにか間に合いそうだ」

 そう答えると、みんなは少し安堵したような表情を浮かべて頷くのであった。
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