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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外125 東国の精霊達

 中継ポイントの候補を何点か絞りながらもシリウス号は北上。そうして東の島国と思われる土地が段々と近付いてくる。それに従って、段々とある変化が生じていた。様子を見るために少し甲板に出て、そして艦橋へ戻ってくる。

「どうでしたか?」
「予想はしていたけど……精霊の姿形に見慣れないものが増えてきてるね」

 戻ってきたところでグレイスに尋ねられたので、そう答える。

「精霊の性質が変わる、とは言っていたものね。どうなっているのかしら」

 ステファニアが首を傾げた。

「精霊や一部の妖精は、人の意識の影響を受けやすいからね。セラフィナの時もそうだったけど……」
「うん。テオドールが私の形を強く思い描いて、助けてくれた」

 と、セラフィナが嬉しそうに言って、空中で踊るように両手を広げてくるりと回る。
 セラフィナは家妖精だ。バンシーにキキーモラ、ブラウニーやシルキーであったりと、周囲の環境――特に家の状態によって影響を受けてしまうところがある。
 今は力が強くなった上に、彼女がついている家の主である俺の名付けによって性質を固定しているので姿も性質も安定しているが……本来はもっと曖昧で姿と性質が不安定なのが家妖精なのである。

「文化的に断絶した土地の精霊達……ね。どんな風になっているのか、想像できないところがあるのだけれど」

 ローズマリーは興味深そうに呟く。
 そうだな。顕現していないような精霊達はと言えば、もっと曖昧だ。自然の力を宿す小さな精霊達は、その土地に住まう住人の影響が顕著に出る。文化的背景、神話や宗教や魔術、死生観といったものに影響を受けやすいからだ。

 ヴェルドガル王国やその近隣の国々の間では、四大元素の精霊や精霊王といったイメージを共有しているにも関わらず、それぞれの国で同じ種類の精霊でも性格的なところが若干違ったりする。

 つまり沢山の者達の意識や無意識的な部分が、精霊達に影響を与える。
 例えば砂漠や乾燥地帯の多いバハルザード王国などでは四大精霊の性格の違いが顕著で、水の精霊はより柔和で慈愛に満ちた性格に。他の精霊達は他の土地よりやや荒々しく、力は強いが少し扱いにくい性格だったりするそうだ。

 特定の強い力を持つ精霊が信仰を集めたり名を付けられたりすると性質が固定されていくことから、精霊は人の意識に影響を受ける、と言われているが……本来的なところでは主体は精霊達にあって、気候などの土地から受ける自然の印象に人の意識の方が左右されていると唱える者もいる。
 結局のところ……人も動物で自然の一部と考えれば、お互いに影響を与えあっていると見るのが良いのだろう。

 そこで話は甲板に出て見てきたものに戻る。

「――まあ、口で説明するよりも、みんなにも見てもらった方が早いのかな。マルレーン。ランタンを借りても良いかな?」

 と言うと、マルレーンはこくんと頷いてランタンを手渡してくれた。それによって先程外に出て見てきたものを皆にも幻影で見てもらおうというわけである。
 ランタンに火を灯し、幻影を映し出す。

「これは一体……何でしょうか?」
「こんなに変わるものなのね……」

 アシュレイとイルムヒルトは怪訝そうな面持ちで、若干困惑したように言う。みんなも反応に困っているのが窺えた。イングウェイや動物組も目を瞬かせている。マクスウェルの核も普段とは違う明滅の仕方をしていた。

 東国の精霊達の姿は……はっきり言えば混沌としていて、何が何やらという感じだ。
 姿形から何となく性質に想像がつくものもいるが……空を泳ぐ魚や海老のようなものや、丸い物体に綿毛が生えていて、風に流されてきて何かに触れては弾んで転がっていくような、よく分からないものもいた。海面から盛り上がって、遠巻きにこちらを窺っていた丸い影は――海坊主という奴かも知れない。

 賑やかではあるが、俺としては八百万(やおよろず)……なんて単語が頭を過ぎる光景である。
 片眼鏡は意識して見ないようにと心がければ、顕現していない精霊ぐらいの存在なら意図的な情報遮断もできる。正直、見ないようにできるのは助かる。四六時中これを見ていたら落ち着かない。ティエーラや精霊王の加護があるからか、こちらに対して友好的ではあるようなのだが、こうまで混沌としているとな……。

「四大精霊みたいに体系化してないのかもね。何にでもどこにでも精霊が宿っている、みたいな見方をしているのかも知れない」

 八百万の概念が上手く伝わるかは分からないが、そういった説明をしてみる。

「ん。姿は面白い」
「千差万別で、住民である彼らにも性質が分からない、ということかしらね」
「……精霊達とどうやって関わっているのか、興味が湧くところではあるけれど」

 シーラが首を傾げて幻影を覗き込みクラウディアとローズマリーが思案しながら言う。

「性質が姿形から分からなくても、しっかり敬っておけば害をなさないし、向こうも時々お礼をしてくれる、みたいな感じかも知れないな」

 まあ、詳しいところは実際の住民の様子を見て、話を聞いてみなければ分からないところではあるだろう。

「こうして精霊の姿が変わってきたという事は……もうこのあたりの海も、東国の一部と考えても良いのでしょうか?」

 グレイスが首を傾げる。

「そうだね。もう少し近くまで行っても大丈夫かなと思ってたけど……こんなにはっきり影響が出てくるとな……。そろそろ姿を隠して、シーカーを送り込む方法を考えないといけないかな」

 陸地までまだ距離があるし、水平線の向こうまで他の船等の姿も見えないが……ここは慎重になっておくべきだろう。まずは幻影を消して、マルレーンにランタンを返す。
 それからアルファに視線を向けると、アルファはこくんと首を縦に動かす。シリウス号がゆっくりとその動きを止め、普通の船のように海に着水した。
 それから光魔法の偽装でシリウス号の姿を隠す。偵察が終わって、ある程度方針が定まるまでは船を見せないように立ち回るのがいいだろう。

 このまま警戒しながら陸地との距離を詰め、ある程度近付いたところでシリウス号を停泊させる。それからリンドブルムと共にシーカー達を連れていき、陸地に近付いて送り込む、という段取りだ。
 俺なら光魔法でリンドブルムの姿を見せないようにしながら移動できるし、結界の類があれば魔力反応で分かる。高空からライフディテクションを使えば、生命反応の輝きで集落も見つけられる。

 まずは偵察。接触が可能なようなら東国の内情とその隣国の情勢の情報を集め、巻物に繋がる手がかりを探す、というわけだ。

 シリウス号を進めていき、ある程度陸地までの距離が詰まって来たところで停泊させる。
 シーカー達を連れて、リンドブルムやみんなと共に甲板に出る。仮に戦闘や逃亡するような事態になっても、シーカー達を落とさないようにしなければならない。袋に入って貰って、それを抱えていく形だ。少し窮屈だが、少しの間の事なので我慢してもらおう。

「それじゃ少し行ってくる」
「はい。お気を付けて」
「ん、シーカー達を送り込んだ後の操作は、みんなに任せるよ」

 そう言うとみんなも頷く。リンドブルムに跨って空中に舞い上がる。光魔法で姿を消し、風魔法で臭いと温度、音を遮断。

「それじゃ、行こうか」

 声をかけるとリンドブルムは肩越しに振り返って一声上げた。そうして甲板を蹴って翼をはためかせ、シリウス号から飛び立つ。
 みんなの様子を見るようにシリウス号の上空を一周回ってから、リンドブルムは陸地目指して飛翔を始めた。広い範囲の生命反応を見なければならないので、高く飛んでもらう必要がある。速度と高度を上げて、リンドブルムが力強く飛ぶ。

 さて。いよいよ東国か。偵察で何か掴めると良いんだがな。
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