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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外119 迂回航路開拓

『境界公に同行したいという旨、氏族長達共々承知した。国元を空け、旅に同行する程の時間は作るのは難しい故に、儂からもそなたを見込んで頼みたいと思う。どうかテオドール公と奥方様達の身の安全を頼む。そなたの義から来る行動に感謝する』

 通信機で連絡を入れたところ、イグナード王や氏族長達からはイングウェイに伝えて欲しい言葉として、そういった内容が返ってきた。イングウェイの人となりをイグナード王や氏族長達も信頼しているからこそのこの返答、ということになるだろう。エインフェウス国内でのイングウェイの評判も分かろうというものだ。

 さて。みんなとの話し合いの内容とその結果。ルーンガルドの模型を魔道具化して分かった事等をメルヴィン王達に伝えに行く必要がある。
 そんなわけで俺の姿は王城のサロンにあった。机の上にはティエーラの加護を与えられた魔道具――ルーンガルドの球儀が鎮座している。
 ティエーラの魔力を与えられた小さな魔石が組み込まれ、現在位置を知る他にも旅に必要な機能がある。
 現在位置となるタームウィルズに光点。それとは別に、ぼんやりとした赤い光があちこちに輝いている。

 獣魔の森から南北へと。血管のように魔力溜まりが伸びて人の往来を妨げているような形。ルーンガルド全景が分かるようになり、ティエーラとの魔道具作りで付随された機能は魔力溜まりの範囲を表示する、というものであった。それにより、海岸沿いに進む、という当初の計画はやや変更をすることになった。

 赤い光は獣魔の森から南に下り、山間部を越えて妖精の森へ至りそのまま南東の方向へ。
 途切れ途切れに魔力溜まりが形成されており、最後には南の海から東への進出を塞ぐような形で大きな魔力溜まりが広がっている。

「――ふうむ。南東の魔の海については噂で耳にした事があったが、裏付けができたというわけか。これでは海路を使って、まともに東に向かうのは難しいな」

 ルーンガルド全景を見たメルヴィン王が眉を顰める。

「そうですね。僕も魔力溜まりの分布を見てそう思いました。魔力溜まりが形成されているのは海底。空路ならば海の魔物も無視できるのでしょうが――」
「海路はそうもいかない、か。冒険にしても開拓にしても、陸地沿いに行くと、どうしてもこの海の難所にぶつかってしまうわけだね」

 ジョサイア王子が困ったような表情を浮かべた。
 仮に魔力溜まりの主を討伐しても新たな主が棲みつくだけでいたちごっこだからな。例えば魔力送信塔を作るにしても魔物が寄り付かなくなる程に魔力をきっちり使い切るというのも難しい。

「逆に陸地が見えないぐらいの位置を、魔力溜まりを避けて進んだ場合、今度は大きな島がないので補給をする拠点が無い、というわけですね。そこで考えたのですが――」

 球儀の上を指でなぞりながらメルヴィン王とジョサイア王子に説明する。
 魔力溜まりから充分な距離を取りつつ、南西の海にある比較的大きな島へと。そこから更に魔力溜まりを迂回するようにして東国を目指して進む、というわけだ。

「普通の航海では、まず有り得ない進み方でしょうね。魔力溜まりの範囲と僅かな陸地を充分に把握した上で進めば取れる航路、ということになりますから」
「当ても無しに新たな航路を確立させようと思えば、相当な労力と人員を費やすことになろうな」

 メルヴィン王が目を閉じて頷く。

「この島に立ち寄るのは、海路で東に向かう場合の中継拠点とするため、かな?」
「そうなります。正確には中継拠点にできるかどうかを確認してくる、ということになりますが。魔力溜まりを回避しつつ、東と行き来するための海路を開拓する基礎まで作ってしまおうかという話になりまして。この島が拠点として向いているようなら後々整備して開発を進めようというわけです」

 ルーンガルド全景が明らかになっても、それを一般的な情報として簡単に解禁するわけにはいかない。そのあたりの隠蔽しなければならない理由を、みんなと話した結果だ。
 新大陸だ何だと盛り上がるのは良いが、その時に起こり得る弊害は潰しておきたいからな。

 少し旅の手間は増えるが、東国と最速で行き来するつもりならばそれこそ北極圏近くを突っ切って戻って来ればいいわけだし、転移魔法で東国から直接離脱することも可能だ。ティエーラの加護が及ぶ面々ならば、はぐれても合流可能……と安全と余力については充分に考えた上でのことである。

「シリウス号とティエーラ様やクラウディア様の加護があれば、可能というわけだね」
「そうなります。それに上役の目や法の支配が届かない分、こういった開拓には指揮官や人員の人格が問われるように思います。これを有象無象の山師に任せるようなことをすると、貴重な動植物や友好的な魔物を傷付けたり、住民との衝突を起こしたりといった事態が充分に考えられますから」

 というわけでそういった事態を防ぐために最初に公的な人員が動いて、住民と正式に友好関係を結んでしまえば良いというわけだ。同盟各国はその方針に同調してくれるだろうし、そうなれば同盟国以外も歩調を合わさざるを得ないという寸法である。

「確かに、な。東国の情勢が分かればその後の事も見据える必要があろうし。そもそも陸と海の行き来が難しくとも、飛行船が普及してくれば交流を持つようになるのも時間の問題か」
「その前に公的な関係を築いておけば無用な衝突も回避できるというわけだね」

 メルヴィン王の言葉にジョサイア王子も同意する。

「向こうがそもそも友好的ではなかったり、政治的な機微から神経質になって過激な行動に出る可能性もありますが……まあ、最初に斥候を出して探りを入れてから行動すれば、滅多な事も起こらないかな、と。その上で接触可能と判断出来れば、自衛や離脱といった対処も可能かなと思いますし」

 シーカーやハイダーがいるし、初手の情報収集に関しては問題あるまい。

「そうさな。余としてはそなたが後れを取るようなことがあるとは想像できぬ部分もあるのだが……。未知の部分もある故、慎重になるというのは良い事ではあろう。お陰で安心して見ていられる」

 メルヴィン王がそう行ってにやっと笑う。こちらも笑みを返すと、ジョサイア王子はその様子に苦笑するのであった。



 そうして計画も纏まり、旅支度も順調に進められた。シリウス号には多めに食料と水等の物資が積み込まれ、各種魔道具や装備品も出揃って準備万端である。
 今回同行するのはいつものパーティーメンバーとフォルセト、シオン達。それからイングウェイも予定通りに参加だ。更に遠隔から情報を得られるジェイクも連れて行く。

 ジェイクに関して言うなら人目を引いてしまうところはあるが、基本的に船の防衛や警護をさせておけば、それに関しても問題ないというわけだ。庭師の召喚で頭数を即席で増やせるというのも長所であるし、ヴィンクルとの訓練風景を見ている限りでは戦力として頼りになるのも充分に分かっている。

「物資の確認も終わりました」
「ん。ありがとう」

 船倉から報告に来てくれたグレイスの言葉に頷く。シリウス号内部には氷室も付いているし、旅の間も様々な食材の鮮度が確保できるという状態だ。とりあえず旅の間の食事情に関しては問題ないし、水も魔道具で生成できるので風呂も入れると、衛生面に関しては万全である。

「そろそろ出発か。重々気を付けるのだぞ」
「はい。行ってきます。定期的に通信機で連絡を入れますので」
「うむ」

 造船所にはメルヴィン王やジョサイア王子を初め、知り合いが来てくれている。みんなに見送られる形で俺達は船に乗り込み――そうして東への迂回航路開拓の為、最初の目標となる島を目指して飛ぶことになったのであった。
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