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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外117 フォレスタニアの休息

 転移港完成祝いの会合も終わって各国の王達も一先ず帰っていき――王の来訪で盛り上がっていたタームウィルズとフォレスタニアにもいつも通りの落ち着きが戻ってきた、という印象だ。

 もっとも、タームウィルズにしてもフォレスタニアにしても普段から割合賑やかなので、落ち着いているというのは少し違うかも知れないが。

 俺はと言えば、フォレスタニアの居城――中庭に机を出し、そこで茶を飲みながらのんびりと仕事である。
 執務室での仕事ものんびりできて良いのだが、今日は少し気分を変えてというところだ。

 フォレスタニアの居城内に中庭は幾つかあり、迎賓館近くの中庭は来客に楽しんで貰う場所となっている。
 今いるこの奥まった場所にある中庭は、領主のプライベートな空間ということもあってか、カーバンクル達も気兼ねなくのんびりとできる場所だったりする。芝生の上で追いかけっこして木々に登っていったりと、中々楽しそうにしている。

 居城の中庭は日当たりがよく、水路を流れる水の音が心地良いので仕事をするにも良い環境である。目を通して確認し、印鑑を押して次々書類を処理していく。

 少し離れた場所では――ヴィンクルが空中でカボチャの庭師達と射撃の模擬訓練に付き合っていたりして、そちらも中々に見物だ。カーバンクル達も訓練が始まると木の幹の上から並んでその様子を食い入るように見ていたりする。

 注目を集めているヴィンクルはと言えば――回転しながら猛烈な勢いで飛んで行き、庭師達の放つ光弾の中を複雑な軌道を描いて掻い潜っていく。

 庭師達が放つ光球は、訓練用に組み上げた術式である。弾速も相当で偏差射撃等も容易だが、命中しても光が弾けるだけで威力はないという代物だ。ペイント弾のようなものだと考えてくれればいいだろう。
 指揮を執るのは庭師頭ジェイクである。その様子を見ていたジェイクが手を振るえば庭師達が弾幕のパターンを変えて、ヴィンクルも飛び方を変えることを余儀なくされる。シールドを蹴って右左に反射。それを追う弾幕。かと思えば翼をはためかせてシールドを蹴った方向とは逆方向へと飛ぶ。飛んで錐揉み、急降下したかと思うとシールドを蹴って力技で舞い上がる。

 曲芸じみた機動の飛行。それを追う光弾。片やラストガーディアンの幼体。片や迷宮深層の防衛部隊。射撃と指揮、回避の訓練とは言え、相当ハイレベルな光景であるのは間違いない。

 庭師達が放つ弾幕の弾速を変え、ヴィンクルの手札を1つ1つ引き出し、それに対応できるようパターンを変える。
 際どい場面も増えてくるが、ヴィンクルはくるくると独楽のように空中を回転しながらも、弾幕を掻い潜って楽しそうに笑っていた。

 そうして所定の時間を過ぎて訓練が終わるとヴィンクルとジェイク達は中庭に降りてくる。

「思いっきり飛び回れて、ヴィンクルも楽しかったみたいだな」

 そう言うとヴィンクルは喉を鳴らして肯定するように答える。
 中々濃い訓練内容だったように思う。ヴィンクルは今回被弾を許さなかったが、ジェイクも様々な回避の仕方を学習している。次からは今回の訓練内容を踏まえて更に指揮能力が向上すると予測される。

 今回は指揮能力と庭師達に射撃試験を兼ねていたが、ここにジェイク自身も射撃に加われば……まあ、流石にヴィンクルと言えど、飛行能力だけで回避するのは難しくなってくるのではないだろうか。

 ともあれ、どちらも成長するのであればこちらとしては頼もしい限りである。

 と、そこにグレイスが焼き菓子を器に盛って運んできた。香ばしい匂いが広がる。

「お菓子が焼き上がりましたよ」
「んー。それじゃ仕事の方も一区切りして、休憩しようかな。アシュレイは?」

 机に置かれた水晶板の向こう――シルン伯爵領で仕事をしていたアシュレイであるが、俺の言葉に顔を上げ、そしてにっこりと笑う。

「こちらも順調に進んでいますよ。すぐに区切りがつきますのでクラウディア様やマリー様とそちらへ戻りますね」
「ん。それじゃあ、戻ってきたら、みんなで中庭でお茶にしようか」



 というわけで、アシュレイ達が戻って来たところで中庭の芝生の上に敷布を広げ、そこでグレイスの焼いてくれたお菓子を食べながらみんなで寛ぐ。
 程良い甘さとバターの香ばしさにお茶の風味が相まって、何とも美味だ。
 穏やかな日差しも頬を撫でていく心地良い風も、気分の良さを後押ししてくれる。迷宮が作っているものではあるのだが、体感では天然との違いが分からない程の再現度である。

 ラヴィーネやコルリス達、使い魔組も日向の芝生に寝そべったり座ったりして、心地良さそうにしている様子だ。
 コルリスがステファニアに鉱石を食べさせてもらっているのと同様に、ヴィンクルもマルレーンやシーラに焼き菓子を貰って嬉しそうにもぐもぐとやっていた。

 イルムヒルトがのんびりとした曲を奏でて、時間がゆっくりと過ぎていく。

「こう陽射しが暖かくて空気が穏やかだと、少し眠くなってくるな」
「あまりに快適というのも、そこだけは困りものねぇ」

 と、軽く欠伸をしながら言うと、ローズマリーが苦笑して妙にしみじみと同意してくれる。こういうのはローズマリーも心当たりがあるというところか。魔道具作りやら研究やら、細々とした仕事があって昨晩は少し遅めに床についたからな。

「ふふ、時間はありますし、みんなでそこの木陰でお昼寝でもなさいますか?」

 と、グレイスが微笑んで言う。

「それは良いわね。ここのところ、少し忙しかったもの」
「他の場所じゃこんなに気を抜けないですものね」

 クラウディアが言うと、ステファニアも笑みを浮かべて頷いた。まあ、確かに。城奥の中庭だから出来る事とも言える。そう考えると皆で屋外で昼寝というのは魅力的な提案だ。

「それじゃ、少しだけ」

 というわけで敷布を木陰まで移動し、そこにみんなで寝そべって昼寝をすることにした。
 暖かい陽射しを身体に受けながらも、顔のあたりは日陰になるように調整して、そこにみんなで寝転がる。

「野外で昼寝というのはほとんど経験がないから新鮮ね」
「ん。私はこういうの好き」

 と、ローズマリーとシーラは対照的な反応だ。
 ローズマリーはピンと来ない様子であったが、実際に横になってみると静かに頷いていて、何となくまんざらでもなさそうに見えた。

 俺も寝転がり、軽く背伸びをする。隣を見ればグレイス達がいて。視線が合うと楽しそうに微笑みを向けられる。俺も笑みを返して目を閉じる。
 暫くそうして暖かい陽射しと穏やかな空気に身を任せているとやがて心地良い眠気がやって来て、みんなと共に微睡みの中に落ちていくのであった。



 ――オーレリア女王から地図が出来上がったと通信機に連絡が入ったのは、その日の夕方頃であった。エスティータが地図を届けてくれるということなので転移港に迎えに行く。
 たっぷり昼寝をさせてもらったからか、体調も気分もすこぶる良い。
 光の柱が立ち昇り、その中からエスティータが現れる。

「こんばんは、エスティータ殿」

 挨拶をすると、エスティータは笑みを浮かべる。

「これはテオドール様。いや、本当に月との行き来が楽になりましたね、これは」
「それは何よりです」

 といった言葉を交わしながら、立ち話も何なので迎賓館へ向かう。談話室で茶を飲みながら出来上がった地図を見せてもらうことにした。

「これはまた、随分精密ですね」
「ふふ。オーレリア陛下も地図の製作にはかなり乗り気な様子でしたからね」

 と、エスティータ。月の民が作ってくれた地図ということで……これがまた、かなり正確な印象だ。海岸線の形まできっちり描かれていて、獣魔の森以東の地形やそれらしき島国もしっかりと見て取れる。

「これだけ正確なら、旅もしやすそうです。陛下には改めてお礼を申し上げなければなりませんね」
「そのお言葉、陛下に伝えておきます。きっと喜んでくれるかと」

 後は、どうやって東の島国に向かうか、だろうな。シリウス号でそのまま空から向かっては警戒させてしまう可能性もあるから……海岸沿いに進んで、目的の場所が近付いたら普通の船のように海を航行して上陸する、というのが無難だろうか。まあ、そのへんはみんなと相談して決めることにしよう。
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