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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外113 南瓜庭師の再起動

「何とも……臨場感が素晴らしいものですな。こう思わず、血沸き肉躍ると言いますか」

 幻影劇の2部、3部と上映し、劇場から出てきたところでイングウェイが上機嫌そうに言う。

「ドラフデニア王国の命運を賭けてだとか民を守るための戦いというのが2部、3部では多くなりましたからね」
「確かに、士気高揚の場面等はその場にいるような気分になってしまうと言いますか」

 そんな会話を交わすと居並ぶ面々がしみじみと頷いていた。王達や武官にしてみると共感を呼びやすい内容なのかも知れない。

 さて。各国の賓客達を連れて滑走場に行って遊んだり、植物園を見学に行って各地の植物を見て回り、ノーブルリーフ農法について説明したり……それに迷宮商会に行って買い物をしたりもしたか。
 タームウィルズとフォレスタニアのあちこちに行き、色々と遊びつくした、という印象がある。メルヴィン王とジョサイア王子も、来客が各国の賓客ということもあり、必ずどちらかが視察や観光に同伴できるように予定を組んでくれていた。
 集まって交流と相互理解を深め、同盟各国での互助の方針を確かめ合う、と。目的から言うとこれ以上はあるまいとメルヴィン王は笑っていたが。

 そんなこんなで滞在日数等の予定はそれぞれの国で異なるが……まあ、目的も観光も一通り終わって、そろそろ国元に戻る面々も出てくる。

 それに伴って、俺も段々と通常通りの仕事にシフトしていく感じにはなるか。領主の仕事をこなす他にも、色々と細々とした仕事があったりするのだが……みんな魔道具や魔法生物作成の仕事も見学したいという事なので、歓待と共に俺自身の仕事を進めるのを兼ねてブライトウェルト工房の見学等を予定していたりするのだ。



「これはまた……面妖と言いますか何と言いますか」

 というわけで賓客のみんなを引き連れ、工房見学となった。工房の中庭には、顔の形になるよう目や口をくり抜かれた巨大カボチャが置かれている。
 それを覗き込むようにしてエインフェウスのエルフの氏族長、ウラシールが首を傾げた。

 迷宮深奥――星球庭園の庭師頭である巨大カボチャの魔物を回収し、改造中の代物である。
 制御用の術式が割と複雑で、解析と改造に時間がかかっていたところに大量のティアーズの改造やら楽士隊への魔法楽器供給等が重なって、庭師頭については再利用が後回しになってしまったところがあるのだ。回収した当初からベリウスの器作りが優先されたし、普通の庭師カボチャ達のメダルを使ってシーカーやハイダー等も数を作っていたからな。

「これは迷宮のかなり奥から回収してきた魔法生物ですね。改造して決戦の際に再利用しようと考えていたのですが、制御術式が複雑だったこともあって、他の魔道具や魔法生物作成が優先されてしまったところがあるのです」
「ほほう。しかし、今こうして色々準備を進めているということは、再利用の目途が立ったということですか?」
「そうなります。制御術式の解析もほとんど完了していますからね。というわけで、自律型の魔法生物とは違うのですが、複雑な術式を使っている分、対応力が高い物になると思います。再利用法としては……迷宮のあちこちを巡って資源回収をしてもらうとか、雑事をやってもらうとか、色々考えられますね」

 例えば比較的浅い階層を巡って魔物を倒し、魔石を抽出してきてもらうだとかならリスクも抑えられる。俺が留守の時は迷宮絡みで仕事ができないからな。
 境界公家の家紋を刺繍したマントも用意してあるので、ギルドに周知してもらい、マントを装備させておけば冒険者達からも敵として認識されることもない、というわけだ。
 或いは、ハイダーやシーカーのように遠隔操作で情報収集をしつつ直接戦闘も可能、といった運用も有りだろうか。

「今日は庭師頭の胴体部分を仕上げて……回収以後、機能停止していた制御術式を組み直して再起動させる、という予定になっています」

 と、アルフレッドが説明する。工房の中庭に魔法陣も描かれ、胴体用の素材も積まれている。庭師頭の再構成を行うことになったのも、準備が進んでいた所に賓客の見学に合わせて、というところはあるのだが。
 公爵家の司書を再起動させるという仕事もある。そこに技術を流用できるし、制御術式を色々弄って先行して実験をしておくというのも無駄にはなるまい。

「では、始めます」

 そう言ってウロボロスを構え、地面の魔法陣に石突きを突き立てる。そこから描かれた魔法陣に輝きが宿っていく。俺自身もマジックサークルを展開。光球を浮かべて用意された素材類を溶かし、混ぜて庭師頭の胴体部分を再構成していく。

「おお――」

 という歓声が漏れた。
 宙に浮かぶ巨大カボチャの首から下に――金属の骨格が形勢されていく。金属骨格の周囲にミスリルの銀線が神経のように張り巡らされ、その上から幾つもの素材を溶かして錬成した、魔法筋肉とも言うべき黒い弾力繊維が覆う。シルヴァトリアの黒ゴーレムが元となった技術で、ベリウスに使われているものと同じものだ。

 巨大カボチャの頭に触れ、内部の核となるメダルに触れて、術式を直接操作。手足、腰。指先に至るまで身体の各部を動かしてきちんと可動するかを確かめる。

 筋肉部分まで作ったら次は表皮だ。庭師頭はデザインがカボチャ頭なので、身体の外見は木魔法を用いて植物風に仕上げる。カボチャの茎のような質感で黒い筋肉部分を覆い、要所要所でカボチャの葉っぱや花に似た装飾をくっつけてやる。

 衣服やマント、帽子を装備させる予定なので、植物風に見せかけた身体はあまり露出はしないのだが……そういった装備無しに見ると、丁度カボチャの怪人といった雰囲気である。

「では、続けて制御術式を組んでいきます」

 実際のところ、胴体の形成よりも制御術式の構築の方が大仕事且つ、重要な位置付けだったりする。
 ウロボロスを構えながら庭師頭の核に、色々と制御術式を書き込んでいく。
 とりあえず、命令を受けない限りは周囲への攻撃は厳禁である。日常にも戦闘にも使えるよう安全策を講じつつ術式を書き連ねていく。

 身体の動かし方。命令に対する対応能力。一時的な記憶領域。敵味方の判断の仕方。水晶板とのリンクによる視覚や聴覚情報の共有等々。核の容量を見ながら、必要になりそうな技能や魔法術式等を組み込めるだけ組み込む。

 それに応じて、身体の周囲に浮かぶマジックサークルの紋様も目まぐるしく変化していく。

「……相変わらずの魔法制御能力ね。これほど複雑な制御術式を書き込んでいくというのは」

 オーレリア女王がそれを見て笑みを浮かべる。
 そうして必要な術式を全て組み上げ、核にしっかりと刻み終わったところで術式を閉じていく。

「……これで、後は術式起動させれば動く状態にまではなりました」

 さてさて。ここまで来たらみんなも見学したい、という雰囲気ではあるな。持続型ゴーレムの起動試験だとか、安全を考えると賓客の前で行うような仕事ではないのだが。
 んー、だが、そうだな。みんなして出来上がりに期待しているようだし、ここはとりあえず、迷宮に移動してから動かすか。
 ハイダーかシーカーに手伝ってもらって、水晶板で中継することでみんなに見てもらうというのが安全性も確保できて良いだろう。

 どうせだし、そのまま迷宮で軽く実地試験といくか。三角帽子を被せ、魔術師風のローブを着せて、手袋と靴を装着。更に刺繍入りマントを羽織らせる。武器は庭師時代と同じ、双剣にもなる巨大鋏だ。それに合わせた白兵戦戦闘技能を術式で教え込んであるので、色々と試してみるとしよう。
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