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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外103 大腐廃湖の活用法

 さて。迷宮核で色々試していて、現在食や農に力を入れる形になっているからふと思い付いたことがある。

 大腐廃湖の有効利用だ。あれはタームウィルズやフォレスタニアの下水が最終的に流れ込んでいる区画であるが……ということは大腐廃湖の泥を分解すれば、そこからリン酸や尿素を取り出すことができるはずだ。

 つまり大腐廃湖内部に魔物の立ち入らない安全な区画を作り、そこに分解用設備を建造すれば……肥料の原料が、ほとんど無限に得られる、という寸法だ。
 リン、尿素窒素はそれでいいとしてカリウムに関しては……そうだな。迷宮内の資源や余剰魔力等々を調べていくと、旧坑道あたりに新たに塩化カリウムの鉱石として産出されるように調整してやれば、安定確保ができるように思える。

 合成肥料に関しては聞きかじった知識ではあるのだが……迷宮核の力を借りてシミュレートしてみれば色々と知識を補い、はっきりしてくるところがある。
 というわけで大腐廃湖の利用という案を、迷宮核の外にいるみんなに通信機を通して知らせてみる。

「肥料の合成……。そんなことができるのですか」
「中々興味深いわね。ニホン……だったわよね? その国ではそんなこともしていたのかしら?」

 興味を示したのはアシュレイとローズマリーだ。

『そうなるね。リンは自然産出が需要に比べて少なくなってきていたから、資源が枯渇する前に合成しようっていう方向に舵を切った、とは聞いたことがある』
「あの区画は立ち入る者も少ないし、区画に集まってきたものを利用して資源が得られるというのなら、それは素晴らしいことだと思うわ」
「大腐廃湖の有効利用というのは少し考えにありませんでしたね」
「良いのではないでしょうか。迷宮の改造といっても、一区画に集まっているものを利用するわけですから、問題は起こらないと思います」

 クラウディアの言葉に、ヘルヴォルテとティエーラが賛同するように静かに頷く。

「迷宮の魔物が施設に入ってこないなら、大腐廃湖の安全地帯にもなりそうね」
「ん。確かに。休憩所にも使えれば一石二鳥」

 そうだな。イルムヒルトとシーラの案は良いと思う。合成施設を設計する際の参考にさせてもらおう。

『1つ、問題がある。合成した肥料は無計画に使えば良いって言うものでもなくてね。普通のたい肥と違って、合成した肥料は栄養分そのものだから、作物に対する即効性が高い。その分、それに頼り過ぎると土地が次第に痩せていったりとか、幾つか注意点があるんだ』

 逆に言うと使い方や、加減を間違えなければ非常に有効である。
 計画的に使うことで作物の育成を促進したりできる。土地が痩せるのを防ぐには通常のたい肥を用いて、ゆっくりと有機物を土壌に分解させることで状態を保つ、というわけだ。
 こうしたたい肥――有機肥料の使い方についてはまあ、こちらの世界でもノウハウがあったりするので問題はない。

「そのあたりは、フローリアさんやハーベスタ達に聞けば、加減も分かるかも知れませんね」

 アシュレイとしては農業に関することだけに、領主としては興味深い話なのだろう。期待感のある笑顔である。うむ。

『土地の状態だからフローリア達も分かると思う。そうでない場合は……まあ、土壌を採取して来れば迷宮核で状態の確認や予想もできるかな』
「使用上の注意と使い方をこちらでまとめて、知識として広めればいいわけね」

 ステファニアは顎に手をやり、思案しながら言う。そうだな。常にフローリアやノーブルリーフのサポートがあるわけではないし。普及させるのなら実際に使用するものが自分で判断できる状態に持っていくのが一番良い。

「ノーブルリーフ農法と合わせて農業の強い味方になりそうですね」

 グレイスが微笑みを浮かべると、マルレーンもにっこりしながら頷いた。
 そんなわけで……迷宮の改造に関しては問題ないので早速着手してしまおう。
 大腐廃湖を調整して合成用の施設を作っていく。まず入口からすぐ近くに設備を配置。それからあちこちに合成設備を点在させておく。迷宮の構造変化で位置をシャッフルさせれば、偏りなく大腐廃湖全体から資源回収ができるし、休憩所も点在させられる、という寸法だ。まあ、元々人は立ち寄らないので、シャッフルされるたびに入口近くの設備に向かうだけでもリンと尿素の回収が可能になるだろう。

 設備については新たに土魔法の術式をいくつか組み上げる形になる。施設周囲の泥濘を攪拌し、そこからリンや尿素を分離し、これを持ち運びしやすい粒状に形成し直し、常時一定量蓄積させるという手法を取る。回収した分だけ更に作り出す形になるな。
 設備の稼働には魔力が必要ではあるが、まあ迷宮の余剰魔力から考えればこれは問題になるレベルではない。

 同時に旧坑道も調整をして、塩カリ鉱石を産出するようにする。これで直接採掘も可能だし、鉱夫オークやゴブリン達も持ち歩くようにもなるはずだ。

 これで回収された資源を丁度良い具合に配合してやれば合成肥料の完成というわけである。
 後は冒険者ギルドに話を通して、販売できる形態を取るのがいいだろう。



 ――というわけで、調整を終えてその翌日。
 シルン伯爵領に出かける前に、大腐廃湖と旧坑道の調整が上手くいったかを確認に行き、その際に必要な資源回収もしてきた。
 実際に合成肥料がどんなものかの確認が必要だったからだ。
 フォレスタニアの居城に持ち帰ってアウリア達に見せたりミシェルのお土産にもできるようにと、中庭で配合していたら……それらの資源に反応した面々がいた。

 そう。フローリアとハーベスタ達だ。

「これは――何かしら……?」

 と、フローリアは器に入った肥料を見て興味津々といった様子で目を輝かせている。
 ハーベスタ達も、こう、フローリアと一緒に覗き込んで来る感じだ。

「ええと……。迷宮の改造で得られるようになった新しい資源なんだけど……。植物生育の促進に使える栄養分、かな?」

 説明するとフローリアはふんふんと首を縦に動かす。ハーベスタ達も葉っぱを動かして、試しにと言わんばかりに根元の土あたりを示してきた。
 ……農業云々に役立てる前に、フローリアやハーベスタ達にとっては何やらご馳走のように映っている気がするが。

「ん……。それじゃあ、問題もなさそうだし」

 というわけで配合が終わったものをハーベスタ達の鉢植えに投入していく。
 フローリアの分体と呼ぶべき苗木はタームウィルズの屋敷とフォレスタニアの居城どちらにも植えてあるので、苗木の根元に振りかけ、それから土魔法で軽く混ぜてやる。

「ああ……。これは良いわね」

 と、笑顔のフローリアである。ハーベスタ達も……何となく満足げに見えるな。この反応からすると合成肥料はしっかり機能しているようだ。

「無計画に使い過ぎると土地が痩せたりとか、副作用があるんだけどね。そういうのも感知できる?」
「大丈夫だと思うわ。ねっ」

 フローリアが話しかけるとハーベスタはそれを理解したのか、こくんと頷く。
 うむ……。この分なら大丈夫そうだな。と、そこに迎賓館に泊まっていたミシェルとオルトナもやってくる。ミシェル達にも色々事情を説明しておくか。

「――というわけで、本来ならたい肥で時間をかけて作る栄養を、そのまま合成したものを補給する、という代物になります。前以って土壌の準備を進めていなくても栄養を与えたい時に与えたいだけの量を投入することができる、というわけですね」

 副作用も含めて説明するとミシェルもまた目を輝かせていた。

「それはまた――素晴らしいですね」
「ノーブルリーフ達にもご馳走なようなので、持ち帰って試してみて下さい」
「ありがとうございます!」

 後はアウリアがやってきたら迷宮の新資源についての話を通して、それからミシェルと共にシルン伯爵領へ、試験用水田を作りに行くとしよう。
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